
HIZAKIが描き出す“幻想の美”。4人の共鳴者と響かせる技巧と美旋律で、ギターインストゥルメンタルの新境地を拓く――
Versailles、Jupiterの技巧派ギタリストとして名を馳せるHIZAKIが、ソロプロジェクトでの新たなEP『Eidolon』を完成させた。昨年発表のアルバム『The Zodiac Sign』以降、彼はMayto.(G)、Jill(Vn)、Tsunehito(B/D)、MAKI(Dr)を迎えた5人編成で活動し、テクニカルかつ華やかなステージを繰り広げている。実に約8年5ヵ月ぶりの登場となる今回のインタビューでは、音楽と出会った幼少期のこと、現メンバーが集った背景、そして美しいメロディが響き合う5曲のインストゥルメンタルが収められた最新作について、たっぷり語ってもらった。
初めてギターを触った時から作曲していた

HIZAKIさんのVifインタビュー登場は、Jupiterのミニアルバム『TEARS OF THE SUN』リリース時(2017年5月)以来、実に約8年5ヵ月ぶりとなります。
HIZAKI:(笑)。そんなに続けていて素晴らしいですね。
お久しぶりです。なおかつソロとしては初インタビューになるので、今まで聞く機会のなかったパーソナルなことも少し伺いたいなと。HIZAKIさんは子供の頃からクラシックが好きだったそうで、それが現在にも繋がる音楽の世界への入口だったかと思いますが、そもそも好きになったきっかけは何だったのでしょう?
HIZAKI:何でしょうね。全く音楽一家とかじゃないし、家庭がそういう環境だったわけじゃなく、よくテレビCMとかでクラシックが流れるじゃないですか。そういうものにすごく惹かれていて。特にヴァイオリンの音が、もう幼稚園ぐらいの時から心地よくて、やりたいなと思っていましたね。なんせ綺麗なメロディが好きでした。
ネット情報によると、ピアノは希望しても習わせてもらえなかったそうで。
HIZAKI:ピアノもできなかったですけど、ヴァイオリンがどうしても欲しかったんですよね。でも、すごく田舎に育ったので、ヴァイオリンをやっている人も周りにいなかったし、ダメと言われて。ちょっと言い方が悪いですけど、自分がやりたいと言ったことを、結構ダメと言う親だったので、自分の希望が叶わないことが多かったんです。そのおかげで、ロックをやる反骨精神が育てられたと思うんですけど(笑)。その後、時代的にバンドブームというのもあって、兄がギターとかをやりだして、自分も好きなヴァイオリンの代わりにギターを触りだしたみたいな感じ。同時期に、LOUDNESSとか浜田麻里さんを聴いて、すごい!と思って、X JAPANを聴いて、自分が求めていたのはこういうクラシカルで激しい音楽だというところから、ギターにハマっていきましたね。
ギターを弾き始めたのは、小学6年生の頃という情報を目にしました。なかなか周りにはいないですよね。
HIZAKI:そうですね。小6か中1かみたいな感じですけど、兄が5歳離れているので、その影響で自分としては割と自然な流れでした。
少年時代から、自分で曲を作りたいという思いが強かったそうですね。
HIZAKI:もう初めてギターを触った時から作曲していましたね。
何と…! それはどのような方法で…?
HIZAKI:わからない(笑)。でも、それより前で言うと、学校の授業でリコーダーやエレクトーンを触るじゃないですか。その時から自分で曲を作っていましたね。人が作った曲を演奏するのがすごく嫌だったんですよ。その頃って、学校の授業だと結構明るい曲をやるので、何かそれが嫌で(笑)。闇を抱えていたのかわからないですけど(笑)。なので、最初からダークな曲を作ることが多かったですね。
ちなみに当時、作った曲をどなたかに聴かせたことはあるのでしょうか?
HIZAKI:家族は聴いてないですけど、友だちに聴かせたりはしましたね。
それはお友だちの中でヒーローになったのでは?
HIZAKI:中学1〜2年の時はすっごく練習していて。野球部に入っていたんですけど、野球も毎日の練習に行って、そこから中学生のくせに夜中の2〜3時までギターを練習するという生活をしていたんですよ。10時間以上弾いたりしていました。それで多分、中2にしてはスーパーギタリスト的だったとは思います。
そうなりますよね。それで高校生の時にバンドを組んで、その辺りから本格的にギタリスト人生が始まり、紆余曲折あって今に至るわけですね。
HIZAKI:大分飛びましたね(笑)。
各楽器を単体で聴いても成り立つようなメンバーを揃えたかった

昨年6月に8年ぶりのソロアルバム『The Zodiac Sign』がリリースされましたが、この作品から固定のツアーメンバーが音源にも参加していますよね。現在のメンバーになった経緯を教えてください。
HIZAKI:まずMayto.さんはライブに来てくれた時が初対面だったんですけど、そこでもう、この子を売り出したいみたいな気持ちが芽生えて。それですぐに、お互いアドリブでギターソロを弾くYouTubeを撮ったんですけど、この子を出したいなっていう思いがずっとあって、それに合うメンバーを考えたんですよね。Jillさんは元々バンドの付き合いはあって、誕生日が偶然一緒で、向こうがバンドで誕生日イベントがない時はこちらにゲストで出てもらったりしていたんですけど、ヴァイオリンを入れたら面白いだろうなと思って頼みました。で、MAKI君はやっぱり若手の中で飛び抜けてテクニックがあって、海外基準でやっていきたいというのもあったので、このメンバーならMAKI君がいいかなと。
なるほど。
HIZAKI:ベースが最後まで決まらなかったんですよね。そんな時に「Japanese Visual Metal Tour」(2023年開催のMoi dix Mois、Versailles、D、摩天楼オペラによる共同ツアー)があって。そのプロジェクトでの音源『協奏曲 ~耽美なる血統~』をTsunehitoが弾いたレコーディングデータを聴いた時に、元々上手いのは知っていたんですけど、こんなに上手いとはと驚いたんです。それでぜひ一緒にやりたいと思って声を掛けたんですけど、その時はまだDの活動の状況がハッキリしていなくて、その後OKが出てすぐにツアーを決めたという流れですね。
この4人に参加してもらうことは、ツアーと音源のどちらを先に決めていたのでしょうか?
HIZAKI:同時かな。ただ、音源に関しては今までギターだけじゃなくベースも弾いたり、シンセの打ち込みも全部自分でやっていたんですけど、ドラムだけは生で録るというのは結構こだわっていて。なので曲を作りつつ、どれをシンセで、どれをヴァイオリンでっていうのは後で考えた感じです。
今回の新作『Eidolon』も綺麗なメロディの楽曲揃いです。作曲に入る段階で、このメンバーで演奏することを想定した曲作りだったのでしょうか?
HIZAKI:今回はもう完全にそうですね。前作『The Zodiac Sign』の時は、あくまで自分の作品という感じだったんですけど、今回は音源でどの曲をメンバーがプレイするかを考えて作りました。ちょうどツアーもあったので、それを想定して作った曲は多いですね。
それにしても、やはりHIZAKIさんの楽曲にはヴァイオリンが欠かせないなと感じました。そもそも生のヴァイオリンを音源に入れられるというのは、本来は贅沢なことなので、それ自体が現HIZAKIソロの大きな強みですよね。
HIZAKI:そうですね。ただ、Jillが出している周波数というか音の使い方、間の取り方とかも含めて、自分のギターと結構似ているところがあって、その棲み分けがライブではちょっと難しいんですよ。ライブ中にイヤモニを聴いていて、自分のギターだと思っていたら、Jillが弾いている音だったなんてこともあって(笑)。そっちを聴きすぎると、「あれ? ギターなんやったっけ?」となってしまったり(笑)。でも、一体感じゃないけど、同時に二つのメロディが鳴っているような感じで全曲作っているかもしれないです。
ちなみに、以前Tsunehitoさんにインタビューした際、「深くHIZAKIさんに聞いたことはないけど、メタルに特化したものを求めているのであれば、メタルベーシストのすごい方たちにお願いすると思うので、自分はその部分を求められているわけではないだろうなと思っていて」と話していました。
HIZAKI:まさにそうですね。やっぱりTsunehitoに関してもメロディがすごく動くプレイヤーなので。だから、なんかもう全員が主役のバンドを作りたいというか。各楽器を単体で聴いても成り立つようなメンバーを揃えたかったのはありますね。
本当に聴きどころがたくさんあります。
HIZAKI:あと、メジャーレーベルから女形のバンドを作ってくれみたいなオファーが昔から何回かありつつ、話が進んではなくなってというのが続いていて。いつかやりたいなと思ったんですけど、やっぱりそうそうメンバーがいないなと。それで、女の子を入れればいいんだと思って。MAKI君は全くそういうことをやったことのない人ですけど、見た目が中性的なので、全員そういう感じで性別とかどっちなのかわからないバンドを作りたいなという思いがありました。結果、MAKI君が一番わからない(笑)。
確かに。ところで、8月8日に「アルバムタイトル、曲名が決まった! ざっくり言うと今回は幻の美がテーマ」とXに投稿していましたが、いつもタイトルはレコーディングが終わってから決めるのでしょうか?
HIZAKI:そうですね。先に出ることはあまりないかも。
今回はどのようなところから生まれたタイトルなのでしょう?
HIZAKI:今回はChatGPT(笑)。最近使うんです。特にJupiterの時は作詞をしているので、とりあえず使いたい単語をバッとChatGPTに入れると、意外と作ってくれるっていう。もちろんそれをそのまま使うわけじゃなくて、その中で使うのは1%もないんですけど。ヒントをくれるみたいな感じですかね。1%も使わないなら意味があるのかわからないけど、1回形になることで、じゃあ自分で頑張ろうって思わせてくれる(笑)。
(笑)。
HIZAKI:ソロはギターインストで歌詞がないので、何とでも付けられるというか。そこまでガッツリ、曲のイメージをタイトルで表現しなくてもいいかなと。幻想的な曲やメロディが多いので、ハッピーなタイトルなのか、ダークなタイトルなのか、どちらでもいけるなとは思っていて。それでヒントをAIにもらおうと、「HIZAKIのタイトル考えて」って(笑)。今回は結構採用した気がしますね。具体的にどれを採用して、どれを自分で考えたか、もう覚えてないですけど。
各楽曲に関してですが、1曲目に収録されている表題曲「Eidolon」は、HIZAKIさんの王道メロスピだなという印象を受けました。最初からリードを狙って作ったものなのでしょうか?
HIZAKI:狙ったというか、1曲は絶対こういうのが必要だなと。今までVersaillesはもちろん、Jupiterでも自分で作詞をする中で、美について書くことが多かったんですよね。でも、それって結構哲学的で、「美とはなんだ」というのは答えのないことなので、それを音で表現したみたいな感じですかね。
それこそこの曲は、Tsunehitoさんらしいベースフレーズがたっぷり入っていますよね。
HIZAKI:よくこれでこんなに動くなって(笑)。そこも一つの違和感じゃないですけど、セオリーを無視したところで引っ掛かりがあるから面白いなと思います。
各パートのフレーズに関しても、基本はHIZAKIさんが考えるのでしょうか?
HIZAKI:ガッツリ動くところとかオーケストラの兼ね合いは、自分が作っています。でも「Eidolon」に関しては、ベースは何も作ってないですね。ドラムもある程度の余裕を持たせたというか。MAKI君のセンスも良いので、そこを出せるように作り込まないようにして渡しました。ヴァイオリンは全部自分で作りましたね。
なるほど。ちなみに、1コーラス後の間奏の立ち位置のようなセクションで、ヴァイオリンがメロを弾いて、ドラムがタム回しをしているアンサンブルが素敵だなと思って。
HIZAKI:僕はヴァイオリンを弾けないので、このフレーズが合っているかどうかは疑問なんですけどね(笑)。それを弾くJillは全部「大丈夫です」と言うけど、ホンマに大丈夫なんかな?っていうのは、ちょっと気にはなっています。すごく難しかったりするのかもしれない。
「HIZAKI史上1番速い曲のギター録り終わりました」とXに書いていたのは、どの曲でしょう?
HIZAKI:それは4曲目の「Form is emptiness」ですね。
「Eidolon」と「Form is emptiness」どちらかな?と思っていました。でも、HIZAKIさんに弾けないものはあるのでしょうか?
HIZAKI:いやいや、全然ありますよ。何なら、あまりギターを弾きたくない(笑)。
どういうことですか(笑)?
HIZAKI:そこまでギターが好きかと言われると、そうでもないなと思うんですよ(笑)。いや、もうとんでもなく高いレベルの話ですけどね。とんでもない人って、ギターのみに集中している人が多いので、自分はそのレベルにはいけないなと。どっちかと言ったら、ギタリストより作曲のほうが好きですね。自分を表現するためとか、ライブでミスってファンががっかりしないように、最低限の練習は絶対しますけど。
ところで、「Eidolon」の後半にコーラスが入っているのは、やはりライブを見据えてのものでしょうか?
HIZAKI:そうですね。前作収録の「Holy Ground」でMayto.が歌うパートがあるんですけど、それを今回も入れたかった感じです。