◆中途半端になりたくなくて、作詞も作曲も振り切った曲(IKUO)
――それにしても、今作にも圧倒されました。10曲集まると…
IKUO:濃いですよね。
――特濃でド派手です。
sebastian:毒が多いし疲れちゃいますよね(笑)。
IKUO:バラードないからね。
sebastian:休みがない!
――収録曲はどれも名曲揃いですが、曲の並びはシングルがリリース順に並んで、それを新曲で挟み、さらに新曲で始まり新曲で終わるんですね。
淳士:わざとそうしました。飽きないでね、という意味も込めて。
――新曲で挟むと、シングルの曲の聴こえ方が変わりますね。今回曲出しをする上で、メジャーを意識した部分はあったんですか?
栄二郎:全くないです。そもそもメジャーで出すための曲がどんなものっていうのがわからなくて。
sebastian:なので、まず意識せずに曲を書こうと。ただ、曲のストックがなかったし、時間もめちゃくちゃタイトで。発売日が思ったよりも早くて正月返上でした。あと1ヵ月遅かったらそんなことはなかったんですけど…なんてそんな失礼なことは言えないので(笑)。
淳士:まぁこれまで自分たちのペースで、のらりくらりやってきたからね(笑)。
sebastian:そんな中でもきちんとしたクオリティを出さないといけないので、そこは頑張りました。最初にIKUOさんが、2曲持ってきてくれて。
IKUO:今回の原曲は、「とりあえず生」(作詞:淳士、作曲:IKUO)、「kowashite」(作詞:sebastian、作曲:IKUO)、「オルターエゴ」(作詞作曲:栄二郎)、「One Step As You Are」(作詞作曲:sebastian)なんですけど、「とりあえず生」は実を言うと既に存在していた曲で、元はメタルアイドルのために書いていた曲だったんです。でも、これまでBULL ZEICHEN 88のために書いた曲じゃないものをやったことがなかったから、逆に面白いんじゃないかと思って。元はキメがシンプルだし、ものすごくポップでBULL ZEICHEN 88っぽくない曲だったんですよ。それで、Aメロをスクリームに変えたり、リアレンジをしたりして、ラウドにして。そこに淳士君の詞が乗ってさらに面白いものになって、まさに新境地だと僕は思います。
――この曲、いろんな意味ですごく振り切っていますよね。
IKUO:よく言ってくれました! その通り、中途半端になりたくなくて、詞も曲も振り切ったんです。しかも淳士君が、「詞ができたよ~」って持ってきたものを見せてもらったら「とりあえず生」って書いてあるんですよ(笑)。「えー! 振り切ってるな」というのが第一印象でしたね(笑)。
――レコーディングも楽しかったのでは?
栄二郎:リード曲の歌入れをするときは、二人が付きっきりなので基本的に楽しいですよ。
淳士:爆笑しながらやっていますからね。最初に流れとして、歌詞や譜割り、ニュアンスを僕が仮歌で録っておいて、こんな歌い回しだよというのを栄二郎が聴きながら練習するんです。例えば間奏が終わって落ちたところの〈疲れた もう一人で歩けないよ〉のニュアンスとか、せっかく運動したのにビールを飲んじゃう〈ああ… ビールが美味い〉の辺りは美空ひばりさん風に、とか。
栄二郎:あと、ガヤを録ると個々の個性がものすごく出るので面白いですね。本当に笑い死にしそうです(笑)。
淳士:「とりあえず生」のコーラス録りの日に一人ずつやったんです。〈生ください!〉の部分はIKUO君なんですけど、ライブではIKUO君と一緒にお客さんもやってくれるという画が見えたから、コーラス録りの時に、「ここはハイテンションで、仕事終わりのサラリーマンの人たちが言う「とりあえず生!」みたいな感じで、ハッピーにいきましょう!」と言ったら、その日IKUO君が絶不調で(笑)。
全員:(笑)
淳士:寝ていないわ、風邪をひいているわ、テンションダダ下がりで(笑)。〈生ください!〉がすっげ重いんです。「IKUO君、もうちょっとテンションアゲアゲでいきましょう」と言ったら暗い声で「…やってみます」みたいな(笑)。そうこうしているうちにIKUO君が、「テンションが上がってきたぞ!」って言い出したので、「来た! 今だ!」とすかさず録りました(笑)。
IKUO:結果オーライバンドなんです(笑)。
淳士:sebastianは、「おはようございまーす」って入って来た瞬間にそのままブースに入れて、何が何だかわからないまま〈キターーー!〉って叫ばせたし(笑)。
sebastian:途中から、「ああ、あの人(織田裕二)の感じかな」って察したので、キャラに寄せて。
淳士:じゃあちょっと湾岸署行ってきます!みたいな感じでね(笑)。
――〈ムリじゃね?〉〈ムリじゃねえ!〉はどなたが?
淳士:結果的に僕がやったんですけど、本当は栄二郎にやってほしかったんです。でも、いくら言っても「無理じゃな~い?」って波田陽区になっちゃって(笑)。「そういうニュアンスじゃないんだよ!」って何回もやっていたら、「淳兄がやりなよ」って言い出して(笑)。
栄二郎:一番ニュアンスを聴かせないといけないところだったので、淳兄がやったほうがいいよということで。
淳士:ここ、ライブではお客さんが〈ムリじゃね?〉を言って、栄二郎が〈ムリじゃねえよ!〉と返す掛け合いにしたいんです。
――盛り上がりそうです。それにしても、かなり細かくライブの画が見えているんですね。いつもライブのことを考えて曲を作っているんですか?
IKUO:実は考えていないことが多くて、いつも無茶なフレーズを弾いて後悔するんですよ。でも今回の4曲はライブで盛り上がってもらえたらということで、かなり考えました。
淳士:ライブでせっかく盛り上がる曲なのに、プレイが難しすぎてメンバーが一歩も動けないって、バンドあるあるだよね(笑)。
IKUO:制作のときって没頭してやり切っちゃうんですよね。あとで、「これはライブで難しいな」ということになって一生懸命練習するんですけど、結果的に「別に再現しなくてもいいや!」ということで端折るという(笑)。今回も弾きながら叫べるんだろうかとか色々心配ですけど、頑張って練習しようと思います。
――作曲者によって、楽曲の難易度に違いはあるんでしょうか?
淳士:ドラム的な意見なんですけど、IKUO君の曲は、IKUO君が家で完成させてデモを持ってきてくれるから叩くことがほぼ決まっているんです。最初から完成しているから、自分にない動きのパターンを強要されるという意味では難しいです。栄二郎の曲は、メロディーも構成もしっかりしていて、そこにIKUO君のアレンジが入るとスピード的に無茶なラインを超えて来るので、これはちょっと速すぎないか!?という大変さがあります。俺の中で栄二郎の曲は全部速い印象(笑)。
栄二郎:本当は違うのに!
淳士:sebastianの曲は、メロディーとギターで、仮歌がラララで入っているような状態で持ってきてくれるので、ザ・バンドアレンジができます。ただ、いつもはIKUO君がアレンジしてくれるんですけど、今回「One Step As You Are」はみんなでアレンジしたんです。それで僕が、原曲では最後壮大に終わるんですけど、一度バスっと終わってクラップだけにして、復活すると見せかけそのままフェードアウト…という面白いアレンジを思い付いたんです。それをsebastianに提案したら、「いいね!」って言ってくれて。なのに、録りが進んだあたりで、僕の案と、IKUO君が僕の案に色付けをしたIKUO君案の二択になったら、sebastianが真逆のことを言い出して(笑)。
sebastian:淳ちゃんのアイデアでは歌とクラップを入れるということだったんですけど、IKUOさんは壮大なオーケストレーションを入れようと言っていて。どちらもドラマチックな終わり方をするんですけど、解釈の仕方が違うんです。最初に淳ちゃんの話を聞いた段階では、なるほど面白いと思っていたんですけど、ある程度の完成形を聴いたときに、「寂しくなったな」と思ってしまって。それでIKUO君のキーボードアレンジを聴いたら寂しさがなくなっていたので…ごめんなさい(笑)。
淳士:でも結果オーライでした。シンセオーケストラアレンジになって、本当にグッとくる良い曲になったし、アルバムの最後にふさわしい曲になったと思います。こうやってBULL ZEICHEN 88は結果絶対に良いほうに転ぶんですよ。
――結果オーライで良かったです。ところで今回、IKUOさんは録音したデータが消えてしまったそうですが。
IKUO:そうなんですよ! 「One Step As You Are」を宅録でやっていたんですけど、バックアップを取っていなかったんです。そうしたらデータがいなくなっちゃって…。ああいうことは人生の中であまりなかったので凹みました。
sebastian:バックアップがなかったときは衝撃の絶望感だよね。
IKUO:締め切り間近だからきつかったし、精神的ショックが大きかったです。自分の中で、スケジューリングした通りに進んでいたのがなくなっちゃうと、あーあーってなっちゃうじゃないですか。
――さすがA型。
IKUO:そういうところだけA型なんです。でも、小学校のときは夏休みの宿題を最終日にギリギリでやるタイプだったし、全然計画性はないんですけどね(笑)。
淳士:僕も最後の1日まで絶対にやらないですよ。それで間に合わなくて、結果やらないという…
栄二郎:そこは皆と違うところだからね!
淳士:「だって1日じゃ無理だからさぁ!」って逆切れする(笑)。
全員:(笑)
◆一回そういうことを全部取っ払って「とりあえず生ください!」みたいなね(淳士)
――sebastianさんは、今回の楽曲制作はいかがでしたか?
sebastian:とにかくタイトすぎました。今回、「kowashite」の作詞は誰がやるんだろうと思っていたんです。ただ、その時点で俺はまだギターを録っていなかったし、「One Step」の作詞もあったから淳ちゃんがやるんだと思っていて。そうしたら淳ちゃんからメールが来て…
淳士:「「kowashite」の歌詞、sebastianが抜擢されました! IKUOさんたってのご指名です!」って。
IKUO:僕、そんなこと一言も言ってないんですけど(笑)!
淳士:実はそのメールの直前にIKUO君から、「この曲の歌詞は淳士君が書くでいいのかな?」って言われたんですよ。でも僕は「とりあえず生」の歌詞を書いた直後だったので、「kowashite」は曲調的に真逆な印象だし、これは台無しにしてしまうか、何も出てこないでダメだなと思って。それでIKUO君に、「これはセバスが書くって言ってたよ」って嘘ついたんです。で、セバスにすぐ、「IKUO君がセバスに書いてほしいって言ってる」と嘘を伝えて(笑)。
――策士ですねぇ。
淳士:人って頼られると嬉しいじゃないですか。
sebastian:もー! バカじゃないの(笑)!?
――sebastianさんは今回、言葉がハマらず久々に難ダンジョンな感じだったようですが。
sebastian:「One Step」の作詞のときに、仮歌のラララにどうしても言葉がハマらなくて。言いたいことが何なのかということすら忘れちゃうぐらい言葉が出てこなかったんですよ。どうしようと思っていたときに「kowashite」の作詞を振られたんです。それで、そっちにシフトチェンジして二日ぐらい徹夜してやりました。でもこの曲は仮歌の段階でIKUOさんの〈kowashite〉というワードが聴こえていたので、そこからヒントをもらえたんです。でも「One Step」のほうは、俺は何をやりたいんだろうって思い悩んでしまって。そこから派生して、お前は何をやりたいの?という悶々としたことをそのままパッケージしました。それがあの歌詞です。色々なことがありすぎて、自分自身に嫌気がさしてつまらなくなって、前向きな気持ちにもなれなくて。でも皆に、「お前らしくていいんじゃないの」って言ってもらえた時に、ふと浮かんだのが「One Step As You Are」という言葉だったんです。
淳士:え、「とりあえず生」じゃなくて?
全員:(笑)
sebastian:まぁそこで一緒に居酒屋に行っていたら、とりあえず生かなと思うんだけどね(笑)。でも、淳ちゃんの「とりあえず生」の歌詞のスピード感は本当にすごいと思うんですよ。俺にはない世界観なので素晴らしいなと。
淳士:でも今sebastianの話を聞いていて、色々しっくりこないっていう、言わんとしていることは意外と遠くないのかなと思いました。でも一回そういうことを全部取っ払って「とりあえず生ください!」みたいなね(笑)。
sebastian:やっぱりそれなの!?
淳士:言い方が哲学的なのか、日常的なのかの違いで、言っていることはそんなに遠くないのかなって。
sebastian:時間軸は違うけど、同じことを言っているのが面白いね(笑)。
――「epilogue」からのこの曲は、素敵な流れだと思いました。ところで、栄二郎さん作詞作曲の「オルターエゴ」、このタイトルは哲学的というか暗示的ですよね。
栄二郎:「分身」という意味で、調べると難しいことが書いてあるんですよね(オルター・エゴとは:別人格の事。哲学においては他者の持つ自我の意味で使われる。日本語でオルター・エゴと呼ぶ場合は芸術・芸能(特に音楽)などの分野でその人物が意図的に異なる人格として作られ演じているものを指す事が多い)。本当の表記は「オルター・エゴ」らしいんですけど、それも難しいなと思って。僕の中では“分身のオルターエゴさん”、のイメージなんです。オルターエゴさんが僕を俯瞰で見て、現状の僕の立ち位置や空気感を言ってくれているという歌詞です。だからそんなに難しい感じではないんですよ。
――歌詞はスムーズに書けましたか?
栄二郎:いつもは最後のフレーズから考えて逆算していくんですけど、今回は変な書き方でした。いきなりサビの一節が出てきて、そこで詰まってBメロに戻って。
sebastian:皆、歌詞はどこから書くの?
淳士:曲によってだな。「傘」は一番歌い終わりの、〈この音の尽きるまで〉の〈まで〉から。ここを〈まで〉で終わるためにはどうしていこうかという物語を考えて、例えば死ぬまでとか、感動する最後でメッセージを言い切るみたいなものにしようとか。
栄二郎:俺も全く同じ! 今回は変なところから書き始めたけど、サビの1行でグッとくる言葉にしたかったんです。わかりやすくて、言われたら嬉しいような。でも、言っていることは今までとあまり変わらないんですよ。自分のケツを劣等感で叩くような曲なので(笑)。
――実にストレートで潔い歌詞です。
栄二郎:誰にでも当てはまることしか言っていないですからね。
淳士:そう考えると、「とりあえず生」と一緒だよね。
栄二郎:入れてくるねぇ(笑)!
sebastian:これから暖かくなってくるし、「とりあえず生」でビールのタイアップが取れたらいいよね(笑)。
――CMで「とりあえず生」がバンバン流れる日を楽しみにしています。さて、4月5日からいよいよ8ヵ所9公演の全国ツアー「僕たちがブルゼッケンハチハチですTOUR 2018」が始まります。
淳士:タイトルはいつも僕が決めるんですけど、今回は最終的にIKUO君が決めたんだよね。BULL ZEICHEN 88って、なかなか読めないじゃないですか。初期の頃、BREAKERZのシンピー(ギターのSHINPEI)と話していたときに、「ブルゼッチンさんって~」って言われて(笑)。
全員:(笑)
淳士:あとでDAIGOにチクっておきました(笑)。でも確かに、「ZEICHENってゼッケンって読むんだね!」という感じですよね。
IKUO:普通に読んだらゼイチェンだよね。ということで初心に帰って名前から覚えてもらおうということで、タイトルもカタカナにしました。デビューですし、新人バンドですからね。
淳士:扱いにくい大御所新人バンドです(笑)!
IKUO:超面倒くさいやつです!
栄二郎:あ、大御所は二人だけなんで(笑)。
――では最後に、期待の超大型新人・ブルゼッケンハチハチの今後の野望を教えていただけますか?
栄二郎:12年やってきてメジャーという見たことのない世界に行くんですけど、結局俺たちのやることは変わらないんです。ファンの子たちにハッピーラウドを届けたいし、ハッピーラウドという言葉がもっともっと広がるように、熱いライブをやるしかない。まだテレビにバンバン出られるような人気があるわけではないから、そこまで行けるようにハッピーラウドをいっぱい繋げていけたらな…という気持ちでツアーにも挑みたいと思います!
(文・後藤るつ子/写真・コザイリサ)
BULL ZEICHEN 88
<プロフィール>
栄二郎(Vo)、sebastian(G)、IKUO(B)、淳士(Dr)の4人からなるロックバンド。2006年に結成。テクニカルなプレイとへヴィかつキャッチーなメロディーに定評があり、更にスクリーモを混在させた唯一無二のサウンド“ビジュリーモ”を確立。これまで13枚のシングルと2枚のアルバムをリリースし、チケット代88円という破格のライブを行うなど数々の話題を振りまいてきた。2018年3月28日、徳間ジャパンより『アルバム2』でメジャーデビュー。4月5日に高田馬場CLUB PHASEで行われる“公開ゲネプロ”を皮切りに全国8ヵ所9公演のツアー「僕たちがブルゼッケンハチハチですTOUR 2018」がスタートする。
■レーベルサイト
http://www.tkma.co.jp/jpop_top/bz88.html
■モバイルサイト
http://sp.arena.emtg.jp/bullzeichen88/
【リリース情報】
『アルバム2』
2018年3月28日(水)発売
(徳間ジャパン)
【収録曲】
[CD]
01.とりあえず生
02.Lovely
03.HIMANCHU
04.kowashite
05.WENDY
06.WINK
07.オルターエゴ
08.傘
09.epilogue
10.One Step As You Are
【ライブ情報】
●「僕たちがブルゼッケンハチハチですTOUR 2018」
4月5日(木)高田馬場CLUB PHASE“公開ゲネプロ”
4月17日(火)仙台MACANA
4月19日(木)札幌cube garden
4月25日(水)恵比寿 LIQUIDROOM
4月30日(月・祝)名古屋ell.FITSALL
5月2日(水)岡山IMAGE
5月4日(金・祝)福岡BEAT STATION
5月10日(木)大阪MUSE