浅葱

浅葱

14編の物語で紡ぐ、ソロ名義メジャー1stフルアルバム『斑』。魅惑の歌声、日本の伝統文化と多様性溢れるロックサウンドの融合に酔いしれる。

2016年、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たしたDのヴォーカリスト浅葱(ASAGI)が、遂にソロ名義メジャー1stフルアルバム『斑』をリリースする。自身初の和をコンセプトにしたフルアルバムである今作は、全て書き下ろしの14曲というフルボリュームでありながら、14編の物語が絵巻物のごとく美しく紡がれ、気がつけば最終曲「アサギマダラ」に至っているという不思議な魅力を持つ。また、全40名という超豪華ゲストミュージシャンを迎えて制作され、古語や和楽器といった日本古来の文化と現代の技術、多様性溢れるロックサウンドが融合した唯一無二の作品だ。「一つの悔いも残さずやり切った」と言う渾身の作品について、浅葱にじっくりと話を聞いた。

◆約16年以上ぶりに物語がもう一度繋がった

――中秋の名月だった昨年10月4日に今作『斑』のリリース情報が発表されましたが、Dとしては10月27日にミニアルバム『愚かしい竜の夢』をリリースし、11月1日~12月4日はツアーがありましたよね。いつ頃から今作の制作に取り掛かっていたのでしょうか。

浅葱:もう1年くらい前からですかね。じっくりやっていたんですけど、結局最後はバタバタでした(笑)。やはり、作業的にリリース日が早いDのスケジュールを優先してきたので。

――一番バタバタしていたのはどの辺りだったんですか?

浅葱:やっぱりミックスかな。ゲストの方々も大人数ですし、例えば同じバンドメンバーでアルバムを作る時のように、大体同じ音が揃うわけでなないので、最後の仕上げが大変でした。でも、様々な個性の融合が今回の楽しみでもありましたし、一つの悔いも残さずに本当にやり切りましたね。

――これまでDで和装や和をコンセプトにした作品もありましたが、このタイミングでソロで和のコンセプトアルバムを作りたいと思ったきっかけとは?

浅葱:元々は、前作のトリプルA面シングル『Seventh Sense/屍の王者/アンプサイ』の時に、次はこの3曲を含めたアルバムにしようと思っていて。僕、民族音楽とかが好きなので、各国の音楽の要素を取り入れた、アルバムで世界一周できるような作品を作ろうと思ったんです。まずは日本=和からいこうと「月界の御子」に取り掛かったんですけど、そこから繋がる世界観がどんどん思い浮かんできて。「月界の御子」はかぐや姫の血を引く御子が地球にやって来て、地球の女性に恋をし、月には戻らないというストーリーなんですよね。御子を連れ戻そうと月から迎えがやってくるわけですが、天の羽衣を刀で断ち切って、自分の道を切り拓くみたいな。じゃあ地球に残って、御子は何をする?と考えた時に、物の怪を退治しようと。そこから「物の怪草子」という曲ができて、それに繋がる刀にフィーチャーした曲を作ろうと「妖刀玉兎」の世界観が見えてきて…。

――どんどん広がっていったんですね。

浅葱:「月界の御子」を主軸にしたシングルにしようとも思ったんですよ。そこから自分の中で完全な和モードに入ったんでしょうね。色々な曲がどんどん溢れてきて、シングルじゃ収まらない、こんなに溢れてくるんだったらフルアルバムにしようと思って、最終的にこの形になりました。だから、最初は和のフルアルバムを作ろうと思って取り掛かったわけではなかったんです。

――「月界の御子」で「竹取物語」の世界をモチーフにしたのは、どのようなところから浮かんだのでしょうか。

浅葱:満月を眺めながら曲の世界観が思い浮かびましたね。さらに遡ると、以前、胡蝶というユニットをやっていた時に「輝夜」という曲の歌詞を書いたんですよ。その時に、もっと物語が広がりそうだなという思いがあったりもしたので、約16年以上ぶりに物語がもう一度繋がったという感じですね。

――ちなみに「月界の御子」の最後の1フレーズは音程を取るのが難しそうですね。

浅葱:その辺りからアウトロの入口はリズムも難しいですね(笑)。

――「螢火」では義経と弁慶の生涯が描かれています。「竹取物語」もそうですが、浅葱さんとしては元になる物語から展開させていくのと、ゼロから新しい物語を作るのはどちらが得意ですか?

浅葱:今回も両方のパターンがありますし、どちらもですかね。古来から伝承されているような物語も好きですし、描く時は自分なりのストーリーで新しさや、自分なりの考え、主人公に対して自分の思いを投影させます。そういうものでどんどん自分なりの物語になっていくという感覚ですね。

――「花雲の乱」はDの「桜花咲きそめにけり」の前日譚ということですが、この楽曲は2007年7月リリースでD初の和コンセプトシングルだったんですよね。

浅葱:そっかぁ、もうそんなに前なんだ(笑)。和の世界は元々好きで、胡蝶、Dでも表現してみて、もっと描けるなというのがあったんですよね。今作を作るにあたって、自分がそれまで思い描いていたものを解放しようと思いました。

――バンドとソロでは、制作方法に違いはありますか?

浅葱:Dだと演奏全体のイメージというか、メンバーが演奏することを前提に考えることが多いんですけど、今回はソロということで、ほぼ全曲とにかく声、歌、メロディーを最重要視して、肉付けは後からという感じですね。もちろん作り方はとても近いんですけど、Dの曲を作る以上はバンドの一員なわけで、生み出そうとするものはソロと違い、完全なる自分一人のものじゃない。そこが大きな差なのかな。それと、Dの場合は他のメンバーが書いた曲は作曲者のイメージを大切にしようと思うので、テンポやキーはなるべく変えないようにするんですよ。自分がそれを最大限に表現する努力をギリギリまでやってから、変える場合はその後で相談する。それが今回は全て自分の曲ということで、ひたすら悩みましたね。とにかく自分の声を重点的にこだわりました。

――こだわれるからこそ、悩む部分も多かったですか?

浅葱:本当に悩みました(笑)。テンポ1の上げ下げだけで半日潰しちゃって、歌い始めるのが夜になったり(笑)。でも、悩みながらやっている時と「これだ!」と決めてから歌う時って、全然違って、歌い始めてから迷いがないというか。全然伝わり方が違うようなものが出来上がるので、悩んだ甲斐もあったなと。そういう感覚が今回は何度もありました。

――悩んだからこそ納得のいく作品が完成したんですね。ちなみに普段、浅葱さんの歌録りはどの時間帯が多いんですか?

浅葱:大体夕方ですね。クワイア(多重コーラス)がたくさんあるような時は、ちょっと早めから始めますけど。「物の怪草子」はまた100人分くらいコーラスを重ねたんじゃないですかね(笑)。

◆僕の宝物になりました

――今作は豪華アーティストの方々が参加されていることでも話題です。皆さん以前から交友のある方々なのでしょうか?

浅葱:交友のある方もいますし、知人を通じて繋いでいただいた方もいますね。

――各曲でまさに奇跡のコラボレーションが生まれていますよね。見たことのない組み合わせばかりです。

浅葱:本当に全部が豪華なコラボですよね。楽曲を作ってから各アーティストさんにお願いするというのが、自分で言うのも何ですけど、すごく上手くいったなと思っているんですよ。

――まさに適材適所というものをとても感じました。

浅葱:ですよね! すごくハマっている感じがあって。参加していただいている方々の音楽に普段から僕が触れてきているからこそ、上手くいったのかなと。ミュージシャンの選出は全然悩まなかったです。今回、リスペクトしているミュージシャンにお願いしようという思いもあったので、やっていてすごく楽しかったですね。感謝しかないです。

――各曲、音に皆さんのカラーが出ていますよね。音で誰かわかるというのはすごいことだなと。

浅葱:改めてそう思いました。皆さん本当に素晴らしくて。自分のソロアルバムでありながら、ゲストの皆さんの演奏も楽しめるということで、僕の宝物になりましたね。

――「畏き海へ帰りゃんせ」の世界観について教えてください。

浅葱:最初は人魚をモチーフに妖艶な雰囲気で考えていたんですけど、最終的には人魚本来の恐ろしさを前面に押し出すことができました。男が沖に出て、釣った魚を逃したところ、その魚の正体は海の都の美しき姫君だったんです。人魚は男に自らの不老不死の肉を与えて、すぐに二人は愛し合うようになります。やがて人魚は子を宿して、人魚はお産のために海に帰りますが、その間に男は許されない罪を犯してしまうんです。裏切られた人魚は怒り、男との間に生まれた子達、奇怪な稚魚は男を食らいます。歌詞にある、〈今宵の海は赤かろう〉とは、美しい海が男の血で赤く染まっている場面。自らの子らに食べられることで血肉として畏き海に還る。だから〈帰りゃんせ〉と歌っているんです。

――なるほど。恐ろしいですね…。そして演奏は、お三方(SUGIZO(Violin/LUNA SEA、X JAPAN)、中村佳嗣(G/Eins:Vier、alcana、青天の霹靂、yohiaco)、岡野ハジメ(B))ならではの、空間を彩る美しい音だなと。

浅葱:皆さん本当に素晴らしくて…。SUGIZOさんのヴァイオリンは最高でしたね。まさに芸術。一つひとつがもう完璧なんですよね。フレーズ、タイミング、打ち込みの完全なリズムに対しての揺らぎをあえて作っているところとか、感動しました。実は僕、高校生の時に「エクスタシー・サミット」のビデオを見て、ヴィジュアル系を始めたんです。その頃にLUNA SEAの秋田でのライブを観に行って、SUGIZOさんのギターはもちろん、ヴァイオリンを弾いている姿に見惚れていたんですよ。すごく鮮明に覚えているのが、腕を楽器の位置に構えただけで、会場全体が息を飲んで、どよめいたんです。浅葱少年はその時「腕を上げただけで会場の空気を変えた。すごい…」と思って。その時の衝撃を忘れられないんです。「畏き海へ帰りゃんせ」は夜の海や月が背景にある世界観の曲だったので、今回どうしてもお願いしたくて。引き受けてくださって本当に嬉しかったです。

――素敵なお話です。高校時代の浅葱少年はビックリですね。

浅葱:教えてあげたいですね(笑)。本当に夢のような作品です。

――「隠桜」についても教えてください。

浅葱:Dの「桜花咲きそめにけり」や「夢想花」と深い繋がりがある曲です。先ほどお話しした通り「花雲の乱」はそれらの前日譚を描いているのですが、「隠桜」ではなぜ男が戦で鬼となったのかを描いています。「桜花咲きそめにけり」の主人公の女性は桜の妖になるのですが、妖となってようやく二人は結ばれるんです。

――この楽曲のK-A-Zさん(Sads、DETROX、STEALTH、カイキゲッショク)のイントロのギターフレーズは、もう最強ですね。

浅葱:K-A-Zさんのギターはまさに鬼です(笑)。GCR所属の奏-kanade-のドラムも炸裂していますよ。

――「螢火」も千聖さん(PENICILLIN、Crack6)らしいギターですし、「大豺嶽~月夜に吠ゆ~」のHIROKIさん(D)のドラムはやはりしっくり来ますね。

浅葱:HIROKIくんへの選曲も悩みませんでしたね。もう思いっきりやってくれと。千聖さんも昔からの大先輩ですし、さすがのかっこいいプレイですよね。「螢火」は沙我くん(A9)の安定感のあるベースも、Shinyaくん(DIR EN GREY)の繊細かつセンスのあるドラムもすごく良いんですよ。

――和楽器もふんだんに使われていますが、そのようなフレーズも浅葱さんが考えたのでしょうか?

浅葱:そうですね。和楽器のアレンジを完全にお任せしたのは「妖刀玉兎」くらいです。もちろん、随所に和楽器奏者ならではの素晴らしいアレンジはしてもらっていますけど、和楽器も含め、曲の肝となるギターリフや「アサギマダラ」のテーマストリングスなども自分で考えました。和楽器は初めて生を入れたんですけど、とても感動しましたね。抑揚や強弱、情緒とか、やっぱりすごく良かったです。岡野さんも同意見でした。

――実は今作を聴いて、やはり岡野さんって本当にすごい方なんだなと実感しました。

浅葱:岡野さんのベース、ヤバイですよね! ちなみに今回、岡野さんは曲毎に全部違うベースを用意してくれたんですよ。僕の曲のために新たに購入したりもしたみたいなんです。

――すごい! 愛がありますね。

浅葱:本当に。愛ですね。

――「大豺嶽~月夜に吠ゆ~」「鬼眼羅」「物の怪草子」の3曲で東北三兄弟(※東北出身のヴォーカリスト(長男:浅葱、次男:樹威(GOTCHAROCKA)、三男:yo-ka(DIAURA))として交流があり、2016年にスリーマンライブを開催、コラボCD&写真集をリリースした)の共演が実現したのもファンの皆さんには嬉しいトピックスの一つだと思います。

浅葱:絆ですね。レコーディングは兄弟仲良く同じマイクに向かってやってもらいました。元々自分の声も入れていたので、そこは東北三兄弟のコーラスが重なっているという形です。前もって曲を渡していたので、あっという間に終わりましたね。二人ともヴォーカリストなので、もうバッチリでした。

◆日本古来のものを取り入れつつ、和太鼓と謡の新しい表現

――全てのレコーディングには立ち会えなかったそうですが、その中でも印象的な出来事は?

浅葱:印象的なことばかりでしたけど、改めて、こういうストイックなスタンスだからこそ、こういう音が生まれるんだなと、勉強になることがすごく多かったです。

――あえて挙げるなら?

浅葱:真矢さん(LUNA SEA)ですね。鼓の最初の一発の気合いがすごくて。集合時間よりかなり前に来ていたんですよ。僕も早く行ったんですけど「もう来てるよ」と言われて、「え! なんで!?」と。

――焦りますね(笑)。

浅葱:その日は湿気のある日だったから、良い音を鳴らすために、早く来てドライヤーでずっと鼓を乾かしていたんですよ。レコーディングに向かうための意識というのが、やっぱり超一流なんだなと勉強になりました。こちらとしては当然感謝なんですけど、僕云々ではなくて、真矢さん自身が自分の出す音へのこだわりが半端ないんでしょうね。

――通常盤のみ収録の「妖刀玉兎」は能のような楽曲ですが、楽曲の一部としてではなく、全編を通してこういうものは、なかなか新しい試みですね。ヴォーカル録りはスムーズにいきましたか?

浅葱:声で世界や景色を表現するのは得意分野なので、スムーズでしたね。月に代々伝わる宝である妖刀玉兎という刀を手にするという曲なんですけど、最初はまだ飾られているだけで、膝もついている状態で歌っているイメージだったんですよ。そこから刀を手にして能のように動きを付けながら声を出すというんですかね、そこのメロディーから能のセクションに行く時の気持ちの切り替え、静から動へというものは狙い通り表現できたかなと思います。それと、この曲が特殊なのは、言葉じゃない言葉みたいなものをメロディーで表現しているというか。〈い~い~い~い~〉というように〈い〉だけでメロディーを引っ張ったりするのは、この曲ならではの独特なところで、そういう意味では、日本の伝統的な一番古い表現方法の歌なのかなと。

――そう言われると確かにそうですね。

浅葱:でも能っておそらく、和太鼓と声ではなくて、鼓と声で表現していると思うんですよね。鼓は和太鼓に比べて音が小さいので、和太鼓と声で能をやっちゃうと、和太鼓の音が大き過ぎてあまり声が響かないんです。だから、その組み合わせもあるのかもしれませんが、基本的には鼓なんですよね。そういった意味では、日本古来のものを取り入れつつ、和太鼓と能の謡的な、割と新しい表現なのかなと思います。マイクを使うからならではの表現であって、古くもあり新しくもあるという。

――歌詞は全曲古語で書かれていますが、浅葱さんは普段と変わらずに古語も難なく書けてしまうのでしょうか?

浅葱:最初は結構時間がかかりましたね。色々と資料を見て勉強しながら書いていったんですけど、後半は割と自由に思い描く通りに当てはめていけました。だんだん、はめていくのが楽しくなってきて。こんな表現あるんだとか、この言葉だけでこんなに深い意味合いがあるんだというのが、自分が表現したいことにはまった時にすごく楽しくて。なので、時間がかかったのは最初だけで、後半はペース的に割といつも通りでした。

――古語の歌詞は、通常と発声方法に違いはありますか?

浅葱:今回特に意識したのは、芯でしたね。ノリももちろん大事ですし、意識もしていますが、今回は特にノリながら歌っているものとはまた違うところの表現というのかな…日本の文化って、動かない美学というものがあるじゃないですか。日本は、腰を据えてしっかりやるという文化があると思うので、そこを意識して歌った時に、いくらテンポのある曲だとしてもいつもとは違う、しっかりと重心は保ったままリズムに乗せているというか。Dの曲とは違う、ソロならではの発声、ニュアンスが出せたのかなというのはありますね。

――なるほど。

浅葱:古語って響きがすごく美しいですよね。それが今の時代、薄れつつあると思うので、改めて触れるきっかけになればいいなとも思うし、より深いところの表現というのは、古語だからこそやりやすかったです。あまりストレート過ぎると残酷過ぎてしまう表現も、古語を用いることによってすんなり聴けるものになりました。

――既に公開されている全曲試聴動画では、歌詞と意訳も同時に表示されていて、この歌詞の中にこれだけの意味が含まれているんだなという驚きがありました。

浅葱:意訳が長いからパッと流れていっちゃって読みきれないなとHIDE-ZOUくんと話していました(笑)。まぁでも仕方ないかと(笑)。

――確かに、止めながら見ました(笑)。あの意訳が全編に渡って存在するということなんですよね。

浅葱:ワガママを言って、CDのブックレットに意訳を入れてもらいました。

――これが入っているのと入っていないのでは、大分違いますよね。

浅葱:例えばコアなファンの方々は、古語の意味を一つひとつ調べて聴いてくれるでしょうけど、もっと気軽に古語の意味や曲のストーリー、世界観を知ってもらいたいなというのがあったので、今回は意訳を入れたかったんです。すごくわかりやすいし、これを読みながら聴くだけで、見えてくる景色がかなり鮮明になってくると思います。日本のアーティストなのに意訳を付けるという、新たな試みです(笑)。

――確かに(笑)! ちなみに、歌詞の随所に動物が出てくるところは浅葱さんらしいですね。

浅葱:相変わらずです(笑)。人以外の存在になって人とのストーリーを表現するというのが、すごくやりやすいというか、一番自分らしい表現ができるんですよね。今回ならではなのは、妖の表現ですよね。例えば狐の表現も九尾の狐だし、ニホンオオカミの妖や、雪の妖だったり。あとは蝶も。

――「アサギマダラ」はとても綺麗な楽曲です。この楽曲を最後に収録するというのは決め打ちだったのでしょうか?

浅葱:今回はソロだし、自分の名前が入っている「アサギマダラ」という曲をどうしてもやりたいなと思っていて。だからアルバムも『斑』というタイトルに決めたんです。この蝶の存在はもちろん以前から知っていて、いつか表現したいと思っていたんですけど、ここしかないでしょというタイミングで、ラストという重要な位置に配置できたので、本当に良かったなと思います。

――アルバムを締め括る楽曲として、どのような情景を描きたかったのでしょうか?

浅葱:全曲そうなんですけど、死生観、生と死を表現したかったし、音楽というものは語り継がれていく、人の心に残るイメージがあったので、空に消えていくかもしれないけど、思いはずっと受け継がれていくという遺伝子的な意味合いを最後に描きたいなと思いました。思い入れはとても強くて、生まれてから死ぬまでをリアルに感じることができた曲です。この蝶が生まれた季節も自分の生まれた季節にリンクさせたり、〈浅葱の風〉とか自分の名前を入れたりもしたから余計にリアリティーがあって、表現にも力が入りましたね。作詞やレコーディングの時も入り込みすぎて、自分はこれが完成したら、もう本当に消えてしまうんじゃないかと本気で怖くなったぐらい自分らしい曲ですね。

――最後が〈羽〉というワードで終わるのが、1曲目「月界の御子」の〈羽衣〉とリンクする感じもあります。

浅葱:その繰り返しも考えました。ループした時にも景色が繋がりやすいイメージはあったので、「アサギマダラ」の昼から夜になっていく意味合いも考えながら、曲間もすごくこだわって、ループした時に一番気持ちいい空け方にしました。なので、「アサギマダラ」の終わりは結構空けているんですよね。すぐに頭に戻っちゃうと余韻がないし、頭で想像の景色を巡らせる時間としても、そんなにすぐ昼から夜にならないでしょっていうのもあって。昼と夜のループ、色々な景色のループが楽しめる配置になっていると思います。

◆深く知れば知るほど楽しめる世界

――今作を引っさげたツアーが2月10日からスタートします。サポートミュージシャンはHIDE-ZOUさん(G/D)、MiAさん(G/MEJIBRAY)、亜季さん(B/Sadie、AXESSORY)、HIROKIさん(Dr/D)ですが、HIDE-ZOUさんから「俺じゃダメですか?」という発言があったとか(笑)。

浅葱:そうそう(笑)。2回目の発言です。Dに加入する時と今回(笑)。実はHIDE-ZOUくんは今回僕のソロプロジェクトで裏方も買って出てくれたんです。責任のある仕事も多かったからプレッシャーもかなりあったと思いますけど、とても頑張ってくれましたね。僕の曲が徐々に完成していく様も間近で見ていた人間だし、世界観にとても共感してくれるんです。

――MiAさん、亜季さんはどのような巡り合わせだったのでしょうか。

浅葱:もちろん前から交流はありましたけど、「ソロをやる時があったら、いつでも手伝います」と言ってくれていた二人だったんですよね。嬉しかったし、心強かったんです。やっぱりその気持ちを大事にしたくて。誰にしようかなと思った時に、その彼らの言葉が頭に残っていてお願いしようと思いました。

――伝えることって大切ですね。

浅葱:そうなんですよね。改めてそう思いました。僕も実は引っ込み思案な面もあるので。逆の立場で考えても自分の思いは伝えるべきだし、その時は叶わなかったとしても、何か伝えたいことがあるなら、どんどん伝えていったほうがいいんだなと勉強にもなりました。

――今回はどんなツアーになりそうですか?

浅葱:僕の最大の強みは世界観なので、主人公の気持ちの切り替えや表現、和的な意味でも背筋がピンと伸びる感じがありますね。『斑』を聴いてくれたら、きっとライブに来たくなりますよ。世界観はもちろん絶対的なものとしてあるんだけど、逆に、頭を空っぽにしても楽しめるというか。人それぞれ自由に楽しんでくれればいいなと思っています。僕自身初のソロワンマンだし、ソロツアーなので、ファンと一緒に創り上げていければなと。なかなかない機会ですよね、ここに来てファンと1からって。だから少しでも気になる人はぜひ会いに来てほしいです。温故知新、まだ見ぬ新たな世界を知れると思います。

――とてもコンセプチュアルな作品なので、この曲順以外はあり得るのかなと…。

浅葱:本当にそうですよね(笑)。変えるのもありだとは思うんですけど、曲の並びはこれが絶対にベストなんですよね(笑)。

――でも、曲数的に『斑』以外の曲も入ってきますよね?

浅葱:まだわかりません。衣装も今回は着物だし、最初の作品『Corvinus』はロックな感じでエナメルだったし、『Seventh Sense/屍の王者/アンプサイ』はドレッシーな感じで…全然違うんですよね。ソロは特に自己表現としてのこだわりは当然強いし、『斑』ツアーとして自分的にベストだという形を提示しますので、ついてきてほしいです。

――結果どうなるのか楽しみです。では最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

浅葱:自分の世界観というのはかなり構築されていて、難しいと思われがちでもあるんですけど、音楽って本当に自由なものだと思うので、感じたまま楽しんでもらえたらいいなと思います。絶対に聴いて損はないし、ライブに来て損はさせません。深く知りたいと思う人にはどこまでも知ってもらいたいし、深く知れば知るほど楽しめる世界です。割と長いこと活動していますけど、僕のことを知らない人もまだたくさんいると思うんですよね。知っている人にとっては、絶対に期待を裏切らない作品になっていますし、知らない人も、1曲でも、1フレーズでも何か引っかかるものがあるといいなと。きっとこれを読んでいる人は何かしら興味を持ってくれているんだろうし、その意味と答えがきっと『斑』には詰まっていると思うんです。ぜひ触れてほしいですね。様々な物語、色彩があって『斑』というタイトルにしたので、一つの作品の中で楽曲それぞれが違う色で輝いているように、アルバムを聴いてくれた人が自分の個性をより輝かせられるような作品であってほしいし、新たな自分の可能性に気づいてくれたらいいなと思います。

(文・金多賀歩美)

ARTIST PROFILE

浅葱

<プロフィール>

2003年4月に結成したバンド、Dのヴォーカリストであり、リーダー。2005年より現メンバーASAGI、Ruiza(G)、HIDE-ZOU(G)、Tsunehito(B)、HIROKI(Dr)で活動。Dでは全楽曲の作詞、メインコンポーザーを担い、作品のシナリオとトータルアートをプロデュースしている。2008年5月、シングル『BIRTH』でエイベックスからメジャーデビュー。これまでに世界10ヵ国のワールドツアーや47都道府県ツアーなど、ライブ活動も精力的に展開。2017年にはZepp TokyoにてD史上初のフリーライブを行った。Dとして結成15周年を迎える2018年、1月31日にソロ名義メジャー1stフルアルバム『斑』をリリースし、2月より全国ツアーを開催する。

■オフィシャルサイト
ASAGI solo works http://www.god-child-records.com/asagi/
D http://www.d-gcr.com/

【リリース情報】


2018年1月31日(水)発売
(エイベックス・エンタテインメント)

斑
[CD+DVD]
YICQ-10401/B
¥4,000+税
amazon.co.jpで買う
斑
[CD]
YICQ-10402
¥3,000+税
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

【CD+DVD】
[CD]
01. 天地行き来る小船
02. 月界の御子
03. 畏き海へ帰りゃんせ
04. 花雲の乱
05. 隠桜
06. 螢火
07. 大豺嶽~月夜に吠ゆ~
08. 冬椿 ~白妙の化人~
09. 白面金毛九尾の狐火玉
10. 鬼眼羅
11. 雲の通ひ路
12. 物の怪草子
13. アサギマダラ
[DVD]
01. 月界の御子 (Music Video)
02. 月界の御子 (Music Video with lyrics)
03. 月界の御子 (Music Video Making)

【CD】
01. 天地行き来る小船
02. 月界の御子
03. 畏き海へ帰りゃんせ
04. 花雲の乱
05. 隠桜
06. 螢火
07. 大豺嶽~月夜に吠ゆ~
08. 冬椿 ~白妙の化人~
09. 白面金毛九尾の狐火玉
10. 鬼眼羅
11. 雲の通ひ路
12. 妖刀玉兎(※通常盤のみ収録)
13. 物の怪草子
14. アサギマダラ

★初回特典:トレーディングカード封入
(全3種類よりランダム1枚)

【ライブ情報】

●“浅葱”全国単独公演 二〇十八 「斑(まだら)」
2月10日(土)新横浜NEW SIDE BEACH!!
2月17日(土)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
2月18日(日)金沢AZ
2月22日(木)岡山IMAGE
2月23日(金)広島SECOND CRUTCH
2月25日(日)福岡DRUM SON
3月3日(土)HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
3月8日(木)仙台MACANA
3月11日(日)札幌colony
3月17日(土)OSAKA MUSE
3月18日(日)名古屋ell.FITS ALL
<千秋楽>
3月24日(土)新宿BLAZE