音楽メディアで日本酒をテーマに対談を行うという前代未聞の連載企画「cali≠gari桜井青の化粧酒」。第2回目のお相手は、日本酒パーティー「酒未来」を桜井青と共同開催しているyoseeeno氏(以下、吉野)。「異文化とくっ付けなければ発展はしない」(吉野)、それは、この連載を行う上での目的の一つでもあります。「酒未来」開催の経緯、日本酒業界の今、二丁目のお酒事情、今後の展望…多岐に渡る対談内容から、二人の日本酒への熱い思いがビシバシ伝わってきます!

◆そこに感動がなければ、また次も飲んでみたいと思ってもらえない(吉野)

桜井:いつ出会ったかあんまり覚えていない友人です。

吉野:私たち、下賎の民なんです(笑)。

桜井:新宿二丁目の最下層で出会いました。

Vif:前回出てきた某D店ですか?

桜井:はい、その某D店のオーナーなんですけど。違う場所で出会って、男の子のパーツについてすごく波長があってしまい(笑)。

吉野:この人、変態なんですよ(笑)。そこにシンパシーがあったんですよね。青さんがミュージシャンをやっていてどういう位置にいる人なのかとか全部知っていたんですけど、あえて尊敬したくないので、青さんのプロの部分に極力触れないようにしているんです。ライブも止む無くたった1回だけ去年のツアーに行ったくらいで、ずっと避けていました。この手の類いの人間を尊敬したくないんですよ(笑)。

桜井:(笑)。お互い、変態のシンパシーで繋がっているだけなんです。僕も二丁目で飲んでいる時って、自分の素性は基本何も言わないので。

吉野:そこがあの街の良いところだしね。

桜井:気が付いたら隣にすごい人がいたりするんですけど、別にホモやるのにそういう肩書きは必要ないので。出会ったきっかけはいかがわしい感じなんですけど、お互い気が付いたら日本酒が好きで、二丁目にある最下層の淀みきっているお店に伺いまして、そこで初めてタクシードライバーを飲むというディスティニー。

吉野:実はもともと僕は、自分の店ではあえて日本酒を置かなかったんですよ。好きなので、やり始めると突っ走っちゃうから。今、自分の店をやって13年になるんですけど、10年目くらいの時に日本酒をやり始めちゃったんです。きっかけは、友だちの店に獺祭が置いてあったので「他の日本酒も置かないの?」って聞いたら、「他の日本酒なんて誰も知らないし、獺祭だから売れるし、獺祭だけ置けばいい」って言われて、その発言が頭にきて、全然違うだろ!と。全国には獺祭以外にも美味くて銘酒と言われる酒がいっぱいあるんだから、俺が持ってきてやる!みたいな怒りで勢いに任せて自分の店に置き始めました(笑)。今の日本酒って、昔のいわゆる淡麗辛口で水みたいだよねって言われる時代のものと全然変わっていて、濃醇旨口のものが主流になってきているんですね。獺祭もそうで、蜂蜜系と称されるようなどっしりとした甘みのある日本酒なわけです。確かに美味しい。だけど、他にも美味しいものはたくさんあるのに、これだけあればいいと言われたことに腹が立って。そして幸か不幸か、好きだとやっぱり突っ走っちゃったという(笑)。

桜井:突き詰めていったら「酒未来」というパーティーが始まってしまったというね。でも、始まるまで2~3年かかりましたよね。

吉野:最初のうちは、酒屋さんとの関係作りというか。ポッと出の「おまえ誰?」なスタート地点から、だんだん覚えてもらって、最初は商品棚に並んでいるものを一般のお客さんに混ざって買っていたけれど、仕入れの回数を重ねるうちに酒屋さんの社長の目にとまり、「君、二丁目で店やってるんだって? じゃあ、こういう酒も持って行きなよ」みたいな感じで、目をかけてもらえるようになるまでやっぱり時間がかかったんですよね。

桜井:目をかけてもらえるようになると、酒屋さんの地下から何物かが発掘されてくるんですよ(笑)。僕がその頃から今も飲めていないお酒で十四代の「龍月」って言うのがあるんですけど、いつか飲みたいという話を吉野としていたんです。

吉野:酒屋さんと懇意になって、いよいよ十四代が手に入るようになったわけですよ。龍月はまだなんですけど、初めて十四代を買えた時に二人で大喜びしてね。

桜井:あの時は本丸だったっけ?

吉野:確かそうかな。その次に純米系になり、そこからだんだん上のグレードのものも出してもらえるように。

桜井:十四代の本丸を初めて飲んだ時に、「これはー!!」ってなっちゃいましたね。

吉野:美味しい日本酒の中でも、十四代は間違いなく一つの頂点だよね。

桜井:獺祭、十四代、新政、そこにさらに寫楽(しゃらく)や花陽浴(はなあび)とかが猛烈な追い打ちをかけているので、今はいつ首位がひっくり返ってもおかしくないくらいの状況ですよね。

吉野:寫楽、花陽浴、羽根屋、もちろん我らがタクシードライバー。地酒業界の中を突っ走っているトップランナーたちが造る宝石のような一滴に魅せられてしまって。やっぱり酒屋さんも、付き合いがなければ出してくれないお酒たちというのもあるんですよね。俗に言うレア酒。幻三姉妹と言われている田酒、飛露喜(ひろき)、十四代とかは、継続した取引がある飲食店にしか出さないんです。別に意地悪やもったいつけという意味では全くないんです。レア酒はオークションなどで転売するだけで利ざやを稼げるので、ブローカーめいた人が買い漁り、過去から取引のある飲食店に回らなくなってしまうといったことや、酒蔵が出荷した時点の品質をきちんと保てているか不透明になってしまうということがあるので、表にあまり出せないんですよね。でも、酒屋さんと関係性ができて、そういうレア酒も手に入るようになったんだから、そのメリットを皆に共有してあげたい。自分が得たチャンスを皆に分けてあげたい。それが「酒未来」を始めた一つの動機ですね。

桜井:でも、もう一つ動機はあったじゃない?

吉野:青さんがやっているミュージシャンという仕事も、僕らがやっている「酒未来」というイベントも、来てくれた人に何を与えているかというと、ひとえに感動だと思うんですよ。日本酒ってオヤジが居酒屋でくだ巻いて飲むもんだとか、臭くて甘くて翌日は頭痛くなるとか、新歓コンパの時に一気飲みをさせられてめちゃめちゃになってしまったとか、そういうネガティブイメージを植え付けられてしまった可哀想な人たちが多いんですよね。その人たちに、美味しい日本酒がこれだけあるんですよっていうのを知ってもらいたいというのと、僕、常々「生ウニと同じ」と言っているんですが、最初に食べたもので一生の口=好みが決まっちゃうことってあるじゃないですか。妙にミョウバン臭い質の悪いウニを食べちゃって、もう生涯食べない、嫌い!ってなっちゃう。日本酒も全く同じで、最初の残念な経験が日本酒というものの価値観をその人に植え付けてしまう。そうなった人にまた飲んでみたいと思わせるのは容易なことではなく、レア酒というブランドも使うし、低価格にもしてあげるし、かつ美味いものを厳選して提供するという環境も作る。そうしたあらゆる力を持ってこないと、一度苦手と思ってしまった人を引き戻すことはできないと思うんです。実は「酒未来」で日本酒を飲むのが初めてですという人がたくさんいたんですけど、そこに感動がなければ、また次も飲んでみたいと思ってもらえないと思うんです。最初に味わったものが一生を左右するというのは、良いほうでも然りですから。

桜井:今、日本酒ブームってよく言うよね?

吉野:そうですね。今、日本酒ブームと言われていますけど、僕はちっともブームなんかではないと思っていて。ブームというのはいつか廃れますよね。その廃れた時に、ブームの時に飲んでいた人たちのことを「ダサい」という風になるわけですよ。焼酎が辿ってしまった道でもありますよね。数年前に焼酎ブームとか言って。

桜井:霧島が手に入らないってすごかったもんね。

吉野:ブームの実態って、メディアの人たちにとって都合がいいというだけですよね。なんでブームじゃないと思うかというと、僕が生まれた昭和48年当時、日本に約3,300の酒蔵があったそうなんですけど、それが今では半数以下になってしまっているんです。一体それのどこを見たら、ブームだと言えるのかって思うんですよね。減った分、生き残るために切磋琢磨、試行錯誤が生まれて、蔵元たちの代替わりで若返ったということも手伝って、今のような優れた地酒が生まれているんだと思います。流通がよくなったというのもあるんですけど。皆、しのぎを削っているんですよね。「ブーム」という廃れてしまう言葉で括るんじゃなくて、自分のスタイルで日本酒を選択できるようになってほしいし、好きな酒という選択肢の中に当たり前に日本酒があり、かつ飲める環境を作っていくのが、私たちイベントをやる側の責任でもあるのかなと思うんですよね。

桜井:日本酒を飲むきっかけが「酒未来」だったという人も多くて、最初に選ぶお酒がビールではなくて日本酒になったという人も多くなってきたみたいなんですよ。そういうのを聞くと嬉しいですよね。

◆お酒の街なんだから、お酒に対して提案力を持っていたい(吉野)

吉野:前回の記事で訂正したいことがあるんですよ。青さんが酒未来を「率先して手伝い」と書いてあったんですけど、共同開催者ですから(笑)!

桜井:(笑)

Vif:実は、青さんから「率先して手伝い」に修正されたんですよ(笑)。

吉野:一緒にやってもらうことで始まったんですから、共同開催者です!

桜井:率先して手伝っているはずなんですけどね(笑)。

吉野:そんな責任逃れは許さんぞっ(笑)。

桜井:いいじゃん、別に(笑)。

吉野:ダメだよ! 青さんにお願いしたのには意味があって、もともと僕は男性を性的に盛り上げるイベント(笑)しかやったことがないんですよ。要はエロイベントの専門家なわけです。

桜井:2丁目とエロは切っても切り離せない関係性で、そこでメインストリームをこの10年突っ走っているわけですよね。でも最近、吉野から出てくるアイディアが自分の想像の斜め上をいくことが少なくなってきたから、あんまり驚かなくなってきたかな(笑)。

吉野:え、ディスってるの!?

桜井:ディスってないよ(笑)。

吉野:そういうイベントはこれまでに散々やってきて、1,000人規模のイベントをやったこともありましたし、オーガナイザーとしてのスキルはそれなりにあると思っているんですけど、つまりゲイ相手にしかやったことがなくて。「酒未来」に関しては、ゲイだけでなく広く一般の人たちにも来てほしい。二丁目の魅力、日本酒の魅力を知ってほしいからやろうと思ったわけですが、僕は美味い酒を見つけてくることや、ゲイの人たちに向けたアプローチはできるけど、一般の人たちにアプローチすることはできない。パーティーの中身の部分で青さんの力がないとダメだなと直感的に思ったんです。それで一緒にやってもらえないだろうかと相談しました。良い酒を持っている酒屋さんの力、イベントをやりたいという動機、色々な人にアプローチをかけられる手法であったり、要はマンパワーの足し算なんですよ、イベントって。僕には僕の、青さんには青さんのできることの足し算。そういう思いを受けてくれたので、栄えある第1回目ができたと思っています。

桜井:良いこと言いますね(笑)。ところで「酒未来」の名前の由来も教えてあげてください(笑)。

吉野:十四代を造っている山形の高木酒造という酒蔵が、美味い酒を造ろうという時に何を始めたかというと、米まで作っちゃったんですよ。その酒米の新品種の名前が「酒未来」というんです。造りの技術を磨くということもなさっているんでしょうけど、美味い酒を造るためには米までも作っちゃうっていう、その恐るべき向上心、探究心がすごいなと思ったんですよね。そこまでしないと、酒の未来には繋がらないのだという気迫というか。その精神にリスペクトの意を込めて、自分たちのイベントにもそれだけの志を持ちたいというところから、「酒の未来」というメッセージ性も含めて命名しました。

桜井:良い由来ですよね。早いもので既に次で6回目、始めてから1年経つんですよね。最近「酒未来」で麻痺しちゃっていて、もっと日本酒に対して有り難みを感じようよと思っていますね。

吉野:舌が肥えてきたっていう表現のほうがいいんじゃない(笑)?

桜井:「今日は十四代はいいや」って言ってしまえる自分に、ちょっと待てみたいな(笑)。

吉野:「また十四代か」みたいなね(笑)。怒られますよ!?

桜井:僕の身の回りに、いつでも普通に十四代が飲めるお店がここともう1軒あるんですよ。十四代どころかさらに貴重なものも飲めて、この間なんてまさかの射美(いび)が飲めてね。

吉野:「酒未来」の開催によって、二丁目に日本酒のムーブメントが起きたと酒屋さんが見てくれたんですよね。そういう約束もしましたし。「イベントを通じて二丁目にムーブメントを起こしますから!」って。今思えば大ボラもいいところ(笑)。でも回数を重ねると、有り難いことに「確かにそうなった」と見てくれましたし、二丁目の他のお店でも日本酒を置くところが増えてきたり、そういう良い循環が生まれてきました。

桜井:先ほど「ブーム」に反対だという話が出ましたけど、二丁目で皆が日本酒に興味を持ったり好きになってくれるのはとても嬉しいことです。

吉野:二丁目って、今は焼酎+割モノが主流の街なんですよね。でも、お酒の街なんだから、お酒に対して提案力を持っていたい。焼酎お茶割りを飲んで、皆でカラオケしてバカ話して、ママとギャーッと騒ぐのも楽しい。そういうお店がたくさんあるのが二丁目の魅力だと思いますが、お酒の街の中でもっと選択肢があっても良いじゃないか!と。色々なものを選べる幸せがリッチさだと思うから。

桜井:僕が二丁目に出てきた頃というのは、1990年くらい、都庁ができあがるちょっと前くらいだったんですよね。その頃は焼酎っていうイメージじゃなかったんですよ。初めて行ったお店では、おじさまからウイスキーをいただいていたので。そこからものの数年で、JINROがものすごく広まって、2000年前後くらいから鏡月になって。鏡月のほうが角瓶だったから並べやすいというので、こぞって鏡月に切り替わり、そこから今度は焼酎ブームになって黒霧島とか鍛高譚やらダバダ火振やら、割モノに頼らない焼酎を置き始めて。そういう風にウイスキーの文化から焼酎中心の文化に変化していった。だから二丁目における日本酒の文化というのは、ほとんどなかったんですよ。日本酒メインでやっているお店も片手くらいじゃないかな。

吉野:おまけ的に置いてあるところはあるけど、日本酒がメインというバーは少なくて。でも今の日本酒って、バーで出しやすくなったんですよ。今までの日本酒は、料理が主で日本酒は添えだったんです。料理を邪魔しないお酒ということで、淡麗辛口が珍重されていたんですよね。けど今は、酒自体が旨口で甘みを伴う、主張があるようなお酒が多く出ていて、要は酒が主、料理が添えというように昔と入れ替わったと思うんですよ。ということは、お酒そのものを味わうということで、バーで出しやすくなったんですよね。もちろん料理があったほうがさらに良いんですけど、濃醇旨口の日本酒って、仮にお酒だけだったとしても飲んでいられるんですよね。

桜井:悪い意味ではなく、実際、フルーティな純米大吟醸とかってこれは料理には合わないなというのが最近本当に増えてきたんですよ。なぜなら、お酒自体が一品料理になっているんですよね。塩とチェイサーがあれば、それだけでいけちゃう、みたいな。

吉野:料理屋では出しづらい酒が今は多いということですよね。もちろん合わせようはあるんだけれど、どの料理にも合うという感じではなくて、唐揚げだったら合うかなとか、白身の刺身だったら合うけど、牡蠣だと生臭くなっちゃうよねっていう風に、より合わせ方のマッチング度合いが重要になってきたんだと思うんです。

Vif:普段日本酒を飲まない方って、日本酒も料理に合わせた選び方があるということを知らないと思うんです。

桜井:飲まないんだから知らないのも当然だよね。さらに言うと、昔の日本酒の中には三増酒っていう、アル添(※アルコール添加:酒質の安定、香りや味を調整するため、原材料に醸造アルコールを使用すること)して水飴やら酸味料やらでのばしまくったお酒も多くあったよね。

吉野:そうですね。物のない戦後にはいたしかたなかったという側面もありますけど、何よりもったいないのは淡麗辛口のお酒を造るために、できあがった日本酒を濾過しちゃうんですよ。濾過することで雑味を取り払いスッキリした味に調える。その過程で本来「味わい」であった部分までも取っ払ってしまう。そうすると、大体どれもこれも同じような味わいになってしまう。

桜井:昔の人は、よくそんなお酒を飲んでいたなと思いますよ(笑)。

◆Arty Fartyでやるというのは、我々にとってすごく意味があること(桜井青)

吉野:酒蔵が減った理由は単純に売れなくなったから。ではなぜ売れなくなったかというと、戦後、ビール、ウイスキーとか日本酒以外の選択肢が増えたんですよ。流通がよくなって、我々日本人が飲むお酒の種類が飛躍的に増えた。そしたら当然しわ寄せは日本酒に来るわけですよね。料理も今は世界中のものがあるわけじゃないですか。それに合うお酒というのだってある。日本酒以外の選択肢ができたということは、僕ら消費者には良い話だけど、酒蔵にとってはシビアというか。この連載の第1回で、喜久盛酒造が先々代の時に4,500石あったのが、今は1/10くらいに減ってしまったというのは、まさにそういうことだと思うんですよね。

桜井:喜久盛が、昔の一番量を造っていた時代がタクシードライバーだったら、ちょっとおかしい日本になっていただろうね(笑)。

吉野:そうね(笑)。今の日本酒業界で、なんかイケイケの蔵が増えてきたのは、絶対あの人のせいだよね。「あ、こういうことをしてもいいんだ」って思わせたよね。

桜井:藤村社長には、その辺の責任を感じていただきたいですよね(笑)。日本酒の世界が若干おかしくなったぞっていう(笑)。

吉野:変なんですよ、あの人。東京に出てくる時はいつも小汚い恰好をしているんですけど、蔵にいる時はスーツを着ているっていう。

全員:(爆笑)

吉野:それ逆じゃない!?って(笑)。一昨年、岩手にある藤村さんの蔵を見学に行ったんです。いつも東京に来る時はズタ袋ガラガラ引きずって、サイケな柄のTシャツとか着ている人だから、自分の蔵なんて言ったらさぞやもっとすごい恰好をしているのかなと思って到着してみたら、雪の中、ネズミ色のほんっっとうに普通のスーツを着て立っているんですよ。一瞬誰だかわからないっつーの(笑)! 「ようこそお越しくださいました」って深々とお辞儀までして。一瞬双子のご兄弟でもいるのかと思いましたよ(笑)。

桜井:(爆笑)。まぁネズミ色のスーツで某D店に来られても困るけどね(笑)。

吉野:困るけど、外面ってあるじゃん! 地元では酒蔵の当主と言ったら名士ですからね、世間体というのがあるんだろうけど、むしろ“世間”って、こっちに来ている時じゃないの!?って(笑)。

桜井:そんな藤村社長だからこそ、本人は日本酒業界を変えたいという感じではないと思うんですよ。だけど、気が付いたら変わっちゃっていたから。それが面白い方向に進んでいるし。日本酒を文化で言うなら、ちょうど今が文化の切り替え時期なんじゃないかな。

吉野:蔵が若返って、若い人たちの斬新なアイディアが盛り込まれるようになったという点はね。一方で、感覚は古いままなんですよ。日本酒のイベントに行くと、蔵元たちは若いけど、やっているのは会議机を置いて、蔵元が「今年の新酒です」って酒を注いでいて、昔ながらのスタイルと何ら変わらない。そこに来る人って、そもそも日本酒が好きだったり興味があったり、日本酒のイベントに行こうと思って来ている人たちなので、元々日本酒にアンテナが立っている人たちなわけです。それではあまり広がっていかないし、ムーブメントって起きないと思うんですよね。「酒未来」を始めたもう一つの理由に、異文化とくっ付けなければ発展はしないんじゃないかっていうのもあります。だから、二丁目という場所であったりクラブシーンという、日本酒とは違う世界同士をくっ付けてみる。「酒未来」というクラブイベントで、そこに今をときめく日本酒たちが当たり前にあって、それ目的で来た人に飲んでいただきたいのはもちろん、普通にショータイムとかを楽しみに来た人に「あ、日本酒もあるんだ。カクテルもいいけど、こっちもいいよね」っていう風に思ってくれて初めて、日本酒っていいかも!と思う人が一人増えるわけじゃないですか。たまたま来た人がクラブで飲んだ酒が日本酒だったというので、初めて広がりというものが出てくるんだと思うんですよね。そういう意味では、「酒未来」で初めて日本酒を飲んだという人が多いのは嬉しいよね。

桜井:今やっているArty Fartyという箱は、「SPARTACUS」(※世界最大のゲイガイドブック)にも紹介されていているので、比較的、外人さんがいらっしゃる箱なんですね。「酒未来」とは知らずに入ってきて、「皆が飲んでいるあれはなんだ? あ、Japanese Sake。飲んでみたい。どうすればいいんだ?」みたいな感じで、英語を喋れるスタッフもいるんですけど、特攻してくる方もいるので、そういう方には僕は内緒で1杯サービスしちゃったりするんですよ。カタコト英語で説明するよりも飲ませた方が早いので(笑)。そうすると「Oh~!!」って言って、もう1杯飲みたいから日本酒を飲むためのリストバンドを付けてくるんですよ。

吉野:色々なものを持ち寄って実現したパーティーだという中には、Arty Fartyという箱もそうなんですよ。「酒未来」は入場無料で飲んだ分だけを支払うシステムなんですけど、それが実現したのは「二丁目に日本酒イベントがない。それを作りたい」とArty Fartyの店長、松田さんに相談しに行ったら「つまり吉野たちが美味い日本酒を持ってきてココ(Arty Farty)で売るっていうことだよね? そしたら私たちは、ただ待っていれば美味い日本酒が飲めるってことね(笑)! いいよ、やりましょう!」って快く会場を提供してくださって。その言葉を聞いたときに「あぁ、これは良いイベントになるな」って確信が持てたんですよ(笑)。

桜井:松田さんが本当に太っ腹な方で、しかも可愛い。Arty Fartyでやるというのは、我々にとってすごく意味があることなんですよ。Arty FartyとZIP(現THE ANNEX)は、二丁目のクラブ文化の源流となっているんです。90年代の半ばくらいとか、Arty Fartyに飲みに行くのが若者のステータスという感じだった。

吉野:長い年月に渡って、今もものすごく流行っているバーですからね。前例のないイベントで人が来ない可能性だってあるわけですから、普通だったらしっかり箱代取って、リスクを回避しようという風になるわけですけど、松田さんは「二丁目にないものがうちで生み出されるというのは面白いし、酒未来目的で来てくれるお客さんも増えるだろうし、元々のお客さんにも、うちにはこういうイベントもあるんだって新しい価値を提供できるわけだから、それでいいんじゃない?」と言って、Arty Fartyの通常営業にうちが乗っかる形でのやり方を逆提案してくれたんです。

桜井:不思議なことに、人が集まっている場所には人が集まってくるんですよね。

吉野:青さんと一緒にやることでできたのが、まずはスタッフTシャツなんですよ。僕はそういうものは全く頭になかったんです。スタッフTシャツって、パーティーそのもののクオリティじゃないですか。仮に一人でやっていたとしたら、全然規模も違っただろうし、そういうものは演出できなかったと思うんですよ。1回目なんてまだどうなるかわからないのに、真っ先にTシャツを作ると言われて。

桜井:それはね、ヴィジュアル系の形から入るというのと一緒ですよね。バンドを組んだら、まずロゴとステッカーから作るみたいな(笑)。

吉野:それこそが二人でやる意味だなと、最初に感動したことです。すごく嬉しかったですね。実は1回目だけの幻のバージョンがあるんですよ。

桜井:ありましたね(笑)。インディゴブルーを頼んだはずが、なぜかサムライブルーになっちゃって(笑)。その次に今度は大丈夫と思っていたものが、大失敗なものが来てしまって(笑)。この誰も知らない幻のバージョンを読者にプレゼントしてもいいですよ(笑)。

Vif:しましょう(笑)!

桜井:僕の人生初のTシャツ大失敗。金箔使いすぎたら、文字が読めなくなっちゃったっていう(笑)。

◆一部で反感というか、キレられているんじゃないかという(桜井青)

吉野:成功するためには、存在しないキーワードを作りたいですよね。日本酒に合うラーメンとか。まだないでしょ? 日本酒に合うラーメンを独自開発しちゃえ!みたいな(笑)。

桜井:新し過ぎでしょ。

吉野:まぁそれは第3ステップくらいの、先の話ですけどね。

桜井:「酒未来」の今後の展望は?

吉野:今、美味しい日本酒を飲んだ人が「すごーい! まるでワインのよう!」って言うんですよ。それをひっくり返してやりたいんですよね。美味しいワインを飲んだ時に「わ! まるで日本酒のよう!」って。イベントの先には、そういう時代を作ってみたいというのが究極の夢ですね。

桜井:まぁ確かに「ワインのよう」っていうのは、ちょっと癪に障るよね。それより、日本酒を飲んで「わー! 水みたい!」って言う人、水飲んでろって。僕たち、他のお酒を否定はしていないですよ。ウイスキーも好きだし。

吉野:選べるということがリッチなわけじゃないですか。その一つをちゃんと作ろうということで。そのためには他のものもなければね。僕もビールも飲むし。だってね、いい男が一人だけになったら困るじゃない?

桜井:そういうことですよねぇ。

吉野:あれも食べたい、これも食べたい♥

桜井:今日はちょっと傷んでいるものが食べたいとかね♥ ちょっとくらい傷んでいるほうが健康になれそう、みたいな(笑)。

吉野:ね? 言ってることクソでしょ(笑)? だから尊敬したくなかったのー(笑)。

全員:(笑)

桜井:男はね、ちょっとくらい傷んでいるほうが食い甲斐があるんですよ。完璧じゃダメなんです。

吉野:まぁそうね、酸味、苦味。無味無臭じゃ、何の味わいもない。

桜井:そう、個性がない。

吉野:そうね。…ん!? 何の話!?

桜井:お酒も同じ♥

吉野:あら、綺麗。

Vif:個性が大切ということで。

桜井:日本酒を普段飲まない方もね、このどうしようもない文章を読み終わった後に、ぜひ飲んでいただきたいですね(笑)。

吉野:「酒未来」にたくさん良い日本酒を用意しますから!

桜井:5月29日には6回目の「酒未来」が新宿二丁目のArty Fartyでありますので。「酒未来」のTwitterをフォローしていただければ、最新情報が見られます。毎度、全て1杯500円ですので。これは、一部で反感というか、キレられているんじゃないかという(笑)。

吉野:十四代の大吟醸を1杯500円で出すと言ったら、酒屋さんでもミーティングが起きました(笑)。

桜井:利益よりも美味しいお酒を飲んでもらいたいんです。

吉野:まず美味しい日本酒を味わうことで感動し経験し、自らの意志で選べるような状況に至ってほしい。だから…500円でいいんです。

桜井:某オークションサイトとかに載せると、1杯3,000円とか4,000円くらいになってしまうものがね。

吉野:普通の料理屋さんでも、そのくらいで出しているところもあるしね。

桜井:そういういわゆる高級なお酒が、どこぞの居酒屋に行ったら「●●あります」って書いてあったので飲んでみたら、これ違くね?っていうことまであったりして、本当に不愉快(笑)。

吉野:それ、ダメだよね。しかし、青さんの舌もすっかり肥えたね(笑)。

桜井:本当に最近そういうのが増えているので、気を付けてくださいね。それを防ぐためにも、「酒未来」に来ていただいて。いつも20種類以上のすごいお酒を揃えているので。

吉野:良いイベントを作るためのスタート地点は、良いお酒を買うための現金を用意する。

Vif:どこかで聞いたような(笑)。

桜井:また金ですね(笑)。

吉野:だって酒屋さん先払いですからね。買ってくるわけですから。

桜井:いつも良いお酒をいただいて、本当に感謝ですよね。

吉野:応援してくれて、有り難いですね。

桜井:最初はちょっとわからないかもしれないですけど、色で言うと原色のようなお酒ってあるんですよ。あからさまに、個性が主張してクセがあるんだけど、でも飲んでみるととても美味い!っていう日本酒が毎回あるので、それを楽しんでいただきたいですね。

吉野:「オススメのお酒どれですか?」って聞く人がいるんですけど、オススメだけを集めてきているのでぜひ色々な種類を飲んでみてほしい。そのための1杯500円ですから。

桜井:僕は激辛口が好きなのですぐに神亀って答えちゃうんですけど、「酒未来」には本当に面白い日本酒が多いので、なんでもチャレンジしてほしい(笑)。十四代の七垂二十貫、龍の落とし子とか、そういうのもあったりするので、ぜひね。

吉野:これからもよろしくお願いします。

桜井:率先して手伝っていきたいと思います(笑)。

吉野:いやいや、共に開催していくので、今後もご期待ください!

(文・金多賀歩美)

本日の日本酒

十四代 大吟醸 酒未来十四代 大吟醸 酒未来(高木酒造)

アルコール度数:16度
精米歩合:40%
使用米:酒未来


花陽浴 純米吟醸 雄町 瓶囲無濾過生原酒花陽浴 純米吟醸 雄町 瓶囲無濾過生原酒(南陽醸造)

アルコール度数:16度
精米歩合:55%
使用米:雄町

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yoseeeno

<プロフィール>

新宿二丁目にてバーを経営し、今年で13年目を迎える。現在は某D店の三代目オーナーを務める傍ら、新宿二丁目に日本酒ムーブメントを起こすべく、日本酒パーティー「酒未来」を桜井青と共同開催している。
※日本酒パーティー「酒未来」は、新宿二丁目Arty Fartyにて奇数月の最終日曜日に開催。

■日本酒パーティー「酒未来」オフィシャルTwitter
https://twitter.com/info_sakemirai

ARTIST PROFILE

桜井青

<プロフィール>

石井秀仁(Vo)、桜井青(G/Vo)、村井研次郎(B)からなるロックバンドcali≠gariのギタリスト。LAB. THE BASEMENTやソロでライブ活動をするかたわら、デザイナーとしても活動。cali≠gariは2015年1月、現メンバー3人での第8期始動を発表。3月、ニューアルバム『12』をリリース。2016年4月13日にニューミニアルバム『憧憬、睡蓮と向日葵』をリリースし、4月23日の横浜BAY HALLを皮切りに全15公演の全国ツアーを開催。

■cali≠gari オフィシャルサイト
http://www.missitsu.com/

【cali≠gari リリース情報】

New Mini Album『憧憬、睡蓮と向日葵
2016年4月13日(水)発売(良心盤)
2016年6月24日(金)発売(狂信盤)

憧憬、睡蓮と向日葵
狂信盤
(会場限定盤)
MSNB-098
¥6,000+税
憧憬、睡蓮と向日葵
良心盤(通常盤)
MSNA-098
¥2,500+税
amazon.co.jpで買う

【良心盤(通常盤)収録曲】

01. 薫風、都会、行き行きて
02. ギラギラ
03. 陽だまり炎
04. 蜃気楼とデジャヴ
05. アレガ☆パラダイス
06. 憧憬、睡蓮と向日葵

【cali≠gari ライブ情報】

cali≠gari 全国ツアー 2016
4月23日(土)横浜BAY HALL
5月1日(日)青森Quarter
5月3日(火・祝)仙台MACANA
5月7日(土)梅田AKASO
5月14日(土)HEAVEN’S ROCK 宇都宮
5月15日(日)高崎club FLEEZ
5月20日(金)岡山IMAGE
5月22日(日)福岡DRUM Be-1
5月27日(金)甲府CONVICTION
5月29日(日)静岡Sunash
6月4日(土)名古屋BOTTOM LINE
6月5日(日)金沢AZ
6月10日(金)札幌mole
6月11日(土)札幌PENNY LANE24
6月24日(金)EX THEATER ROPPONGI