連載企画

cali≠gari桜井青の化粧酒

cali≠gari ニューミニアルバム『憧憬、睡蓮と向日葵』2016年4月13日(水)発売

【第1回】お相手:岩手県・喜久盛酒造五代目蔵元、藤村卓也さん

【第1回】お相手:岩手県・喜久盛酒造五代目蔵元、藤村卓也さん

大の日本酒好きで、自らも隔月開催の日本酒パーティー「酒未来」@新宿二丁目Arty Fartyを率先して手伝い、幅広い日本酒人脈を持つcali≠gariのギタリスト桜井青が、日本酒をテーマに対談連載企画をスタート! キーワードは「笑えて、下世話で、アカデミック」。初回のお相手は、「日本酒界の異端児」と呼ばれる岩手県・喜久盛酒造五代目蔵元、藤村卓也氏。まさに記念すべき第1回目に相応しい、濃厚で赤裸々な内容です! 二丁目の“酒縁”は果てしない…!

◆まず米を買うための現金を用意する(藤村卓也)

桜井:ここ2~3年、日本酒の世界にゆるーく入り込んでいったら、ずっぽり入ってしまいまして。そして新宿二丁目の最下層に位置する某D店で、この方に出会うことになりました。第1回目のゲストは、喜久盛酒造の藤村卓也社長です。

藤村:よろしくお願いします。

桜井:不思議な縁でしたよね(笑)。すごくオーラが出ている、三島由紀夫に似ているこの人は何者なんだろうと思ったら、「喜久盛酒造の蔵元の藤村さんですよ」と店主に紹介されて。その前から、僕は喜久盛酒造というのは、日本のお酒の歴史の中で一番頭がおかしいと思っていたんです(笑)。でも、飲んでビックリ、本当に美味しいんですよ。またラベルがすごいんですよね。映画『タクシードライバー』のロバート・デニーロが使われていて、「一体こんなものを、どこのどいつが作っているんだろうね」とお店のママと笑っていたら、ご本人がまさかそのお店に来ることになるとは(笑)。Vifは比較的ヴィジュアル系の媒体なんですけど、かなり特殊な企画をやっていたりするので、僕が何をやってもいいだろうと。ただ、今回せっかく記念すべき第1回目ということで、色々と教えていただきたいなと思います。そもそも日本酒はどうやってできているのかとか、その辺を。

藤村:そこからいきますか? もちろん米からなんですけど、もっと根本的なことを言うと…まず米を買うための現金を用意する。

桜井:(爆笑)

藤村:業界的に、お米を買う時はまず先に一括で支払わなければいけないんです。今年造る分のお米を先に全て買い取る。それから酒造りが始まって、酒が出来て、現金を回収するまで、ものすごく長いという。

桜井:それ、先物取引じゃないですか(笑)?

藤村:それに近いものがありますね(笑)。美味い酒を造らなければ、売れなくて倒産ということにもなります。なので、酒造業というのは元々米に関連した事業をしていたか、余程お金持ちじゃないと参入できない業界だったんじゃないかなと思いますね。

桜井:じゃあ、新たに参入するためには、それはそれは莫大なお金が…。

藤村:そもそも、もう新規参入が出来ないんですよ。日本酒の製造免許というものが、もう国から新規で下りないんです。

桜井:ということは、新しく創るためには会社を乗っ取るしかないと。

藤村:簡単に言えば企業買収するか、潰れた酒造会社が持っていた免許を買い取るか。実は最近、そういった酒造業の企業買収がものすごく増えているんです。日本の伝統と言っても商売ですから、うまくいかなければ潰れる。それでお金に困っている酒造メーカーもたくさんあり、乗っ取りなのか共同経営なのか、それは各社違うと思うんですけど、他業種で一儲けして、でも日本酒が好きだから自分が酒蔵を経営したい、酒を造ってみたいというお金持ちが続々と参入している業界でもあります。

桜井:そうすると、ろくでもない日本酒がいっぱいできあがるということですか(笑)?

藤村:結局プロデューサーのセンスに寄りますし、そうとも限らないんですよね。

桜井:第1回目から、なかなか黒いですね(笑)。もっとライトにポップにお酒ってこうなんだよっていう話にするつもりが、いきなり買収の話っていう(笑)。

藤村:喜久盛酒造を対談相手に招くと、こうなるという。

桜井:いいですね、むしろ聞きたかったことが最初から聞ける。

藤村:話を戻すと、買収によってろくでもない酒ができるかというと、実はそうでもなく。●●酒造という数年前に新しくできた会社は、元々よその蔵で杜氏をやっていて高齢で引退した方をもう一度起用して、新しく会社を立ち上げて酒造りをしたんです。一期目のお酒がものすごくクオリティが高くて、それは成功例かなと思っていたんですけど、その杜氏も一度高齢で引退されているので、二度目の引退をされてしまったんです。今後どうなるかわからないですけど、いずれ腕利きな杜氏を起用して、良い設備でやると。つまり買収や新しく会社を立ち上げるほどの財力があれば、杜氏にも万全の体制で造ってもらうことができるので、よその業界から入ってきても美味い酒が造れるわけです。逆に、何百年と代々一つの家系でやっていても、商売が下手だと資金もろくになく、新たな設備投資もできないので、なかなかクオリティが高い酒も造れず廃業というパターンもありますので。金があるというのは一つの重要なポイントです。

桜井:自分が子供の頃に見ていた一升瓶のラベルって、いかにも日本酒というものだったんです。それが喜久盛酒造は、タクドラ以降恐ろしいことになっている(笑)。でも、他の会社も急激に斬新になってきましたよね。お金はまず大事だけど、その次に売り方というか。最近、日本酒が目に付くようになったのは、ラベルが斬新になったからなのかなと感じるんですよね。

藤村:ラベルと、それに伴ったクオリティですよね。ラベルが派手でも、中身の酒がショボければバカにされて終わりですし、逆にどんなに美味しい酒でも、手に取って飲んでもらう要素がなければ、埋もれて終わりですから。あとは、日本酒ブームってここ2~3年続いていると思うんですけど、飲む側、提供する側がだいぶ成熟して、裾野が広がってきた。ちょっと前だったら、年配の方が変わったラベルのものを見た目だけで判断して、敬遠したりということも無きにしも非ずで。でも今は飲み屋を経営する方や飲み手の方が若返って、見た目が何でも美味しければいいじゃんっていう。そういうものが認められる世の中になってきたので、蔵元側もそういう遊びができるようになった。もう一つ、蔵元の代替わりが始まってきて、30代、40代の社長も出てきているので、より改革はしやすいんじゃないかなと思います。

桜井:最近特になんですけど、新政さんとかも、ラベルがものすごく秀逸なんですよね。僕は印刷とか好きなので、デザインがすごいなと思うんですよ。それを筆頭に、色々なところが斬新なものを出しているんですけど、ラベル負けしているものも最近増えてきているなと。

藤村:それはありますね。

桜井:こないだ、渋谷で若手たちが集まる某会合にD店のママと行ってきたんですけど、美味しいものもたくさんある中、完全にラベル負けしているものもあってビックリしちゃって。

藤村:酒の営業の仕方も色々ありまして、クオリティがちょっと伴っていなくても、社長なり番頭さんが頑張っているのでご祝儀的な形で仕入れてあげているというパターンもないわけではないです。あとは酒の流通も今までは問屋が酒屋に卸すというスタイルだったんですけど、最近のいわゆる地酒業界は問屋流通をやめて特約店制度にするという、メーカーから酒屋に直送するスタイルなんです。今話題の地酒蔵というのは、元々小規模な蔵が多いので、流通に乗せようにも問屋としてはやはり大量生産や安定供給しているものが優先になるわけで。

桜井:では、喜久盛も特約店に直接出荷しているということですか。

藤村:そうですね。問屋をほぼ通さず、酒販店に直接出荷しています。いわゆる地酒専門店で力を持っているところに一度置かれると、そこの酒屋に置いてあるんだったら間違いないだろうと信用されますしね。

桜井:僕が新宿近辺で日本酒を買いに行くというと、四ッ谷にある老舗の鈴傳さんですけど、タクドラは人気があり過ぎて買えないわけですよ。鈴傳さんに置いてあるというのは、完全なる信用の一つですよね。渋谷のエチゼンヤさんもそうですし。

藤村:お陰様で、鈴傳さんに関してはこちらからは一切営業せずに、社長さんから直々に電話をいただきまして。ちょうどその時、もう売り切れていて「すみません、今年はもう在庫がないので来期の造りからでもいいですか?」と聞いたら「それからでもいいので、お願いします」と。生産量が少ないので安定供給できないということもお伝えしたんですけど、「それでもいいから置かせてください」と言われて。有名銘柄をたくさん置いている老舗のお店でも、まだ無名だったうちのお酒を探し求めてくれた。そこに買いに来るお客さんも、鈴傳に入ったなら間違いないだろうと。

桜井:音楽における、とりあえずメジャーで、しかも某メーカーから出たんだから、絶対に良い音楽でしょみたいな感じですよね(笑)。音楽なんて、絶対に良いなんてことは有り得ませんけど、お酒は間違いないですよね。

藤村:一度置かれてもお客さんがリピートしなければ、それで切られちゃうわけなので。

桜井:先日もタクドラを買いに行ったんですけど、全く購入できませんでした(笑)。

藤村:申し訳ないことに、生産量が増えていないのに取扱店が増えてしまって、結果一店あたりの割当が少なくなってしまいまして。本当に入荷即完売という形になっちゃうんですよね…。

桜井:入荷即完売どころか、店頭に並ばないんですよ。

藤村:入荷前から予約のお客様でいっぱいになっちゃうっていう(苦笑)。有り難いことなんですけどね。

桜井:シャムロックとかは比較的、安定なんですか?

藤村:あれは昨年立ち上げたばかりの銘柄なので、まだそこまで販売店はないんですけど、あれも生産量が少ないので、他の酒飯店さんに発掘されてしまったら、またすぐなくなってしまいますよね。

桜井:いずれは、喜久盛だからっていうことで買われてしまう気がします。

藤村:そうなれば理想的なんですけどね。

桜井:そのためには全体の生産量の底上げをしなければいけないわけで、そのためにはまず金ということで。

藤村:とどのつまりは、そこに行き着いてしまうんですよね。

◆突然変異が起こるところが面白い(桜井青)

桜井:ところで、喜久盛酒造は3.11の地震で蔵が半壊してしまったんですよね。元々、その前まではもっと生産量があったんですか?

藤村:自分が継いだ時は500石、一升瓶換算5万本くらいで、祖父の代は4,500石造っていたんです。先代の時にじわじわ減っていって、500石の時に引き継いだと。ただ、その時に造っていたお酒がタクドラのような高品質な純米ではなく、一升瓶2,000円未満の低価格なお酒が主力商品だったんです。それは全て製造を止めまして、今は岩手県で唯一、純米酒だけを造る蔵としてやっています。地元に普及するお酒って、特に岩手は安いお酒しか売れないんです。2,000円を超えると高いと言われちゃって、どんなに美味い酒を造っても売れない。

桜井:日本酒が、地域の食文化に根強く入っちゃっているということですよね?

藤村:それが大半だとは思うんですけど、その地域に酒蔵がありながら、地域に馴染んでいないという場合もあって。蔵がたくさんあり過ぎて、価格競争に入り込んで、値引きができないところはその地元から相手にされなくなったり。その一番有名な例が、今をときめく獺祭なんですよね。今はすごく有名になって全世界に輸出しているような蔵ですけど、元々は地元で他社とのシェア争いに敗れて地元で売り先がなくなったので、高品質な酒を造り、東京で勝負しようと。それがうまくいって、今のブレイクに繋がっていると。なので、黙っていても地元の人が買ってくれるという状況であれば、蔵側としてもクオリティの底上げに繋がらない場合もあるんです。

桜井:タクドラもそういうことだったりするんですか?

藤村:うちは、発端はまた別なんですけど。まず高橋ヨシキさんという雑誌『映画秘宝』のアートディレクターの方とたまたまプライベートで知り合って、ヨシキさんからタクシードライバーという銘柄の提案があって、「ヨシキさんがデザインしてくれるなら、うちで酒造りますよ」という軽口を叩いたら、実際にラベルができたと。これは普通の酒屋に卸しても相手にされないだろうというのは、何となくわかっていましたし、その頃11年前だったんですけど、日本酒って飲む人よりも飲まない人のほうが多いわけで、であれば飲まない人にアピールしたほうが今後伸びるんじゃないかなと思って、レコードで言うジャケ買いを狙ったんです。日本酒を普段飲まなくてもジャケで何かを感じてくれる層に、まず売ろうと。ただタクドラの前に電氣菩薩というお酒を出しまして…

桜井:電氣菩薩はタクドラの前なんですね!? ラベルも変わらずですか?

藤村:そうですね。

桜井:あれを11年以上前に出したんですか!?

藤村:自分が継いだ後に初めて出したお酒が電氣菩薩だったんです。

桜井:それは周りの方が心配しませんでしたか(笑)?

藤村:結局、父が亡くなって自分が継いだので、全権が自分にあるわけですよ。いくらベテランの社員がいようが、商品化するのは自分に権利がありますし、ジャケ買いで普段日本酒を飲まない層を取り込みたいというのがあって、漫画家の根本敬先生に銘柄を決めていただいて、根本先生の代表作の一つである『電氣菩薩』を使っていいよと。そしてデザインを、昔から好きだったデザイナーの植地毅さんに依頼して、あのラベルが出来たんです。

桜井:めでたく電氣菩薩がまた販売が開始されましたが、ストップしていたのは何か理由があるんですか?

藤村:東日本大震災があり、蔵のダメージ以上に取引先が廃業したり休業したりで、地元の出荷量が文字通り半減しちゃって、前みたいに色々な商品をボンボン出す余裕がなくなり、とりあえず売れ筋商品に絞るということで、その時はまだ電氣菩薩はそこまで売れていなくて在庫もあったのでやめようと。しばらくは会社の規模を縮小して主力銘柄だった喜久盛と鬼剣舞、タクシードライバーを細々と売っていたんです。

桜井:半壊した蔵の中で酒を造ったんですね。すごいです。

藤村:細々と営業しているうちにタクドラが都内でブレイクしたんですが、生産量を増やそうにも被災した蔵では難しいところがあって。そうしたら隣町の酒蔵が、社長が亡くなって廃業されてしまって、元々ご縁のある蔵だったので貸していただくことになったんです。それでタクドラを量産するに伴って、造るお酒も全量純米化したと。なので、それまでの主力商品だった低価格の喜久盛は生産終了したんです。幸い、タクドラの増産化もうまくいきつつ、他の商品を復活させる余力もできたので、電氣菩薩の製造を再開しました。

桜井:そういう流れだったんですね。現在、何品目なんでしょうか?

藤村:タクシードライバー、タクシードライバーおりがらみ、シャムロック、シャムロックおりがらみ、電氣菩薩もおりがらみと2種類あって、鬼剣舞の特別純米と純米吟醸、計8種類です。もう少し絞りたいです。タクシードライバーを安定供給させたいので。

桜井:タクシードライバーって、毎回味が違うんですよね。僕の中で一番ヒットしたのが、2015年の仕込み4号というもので。非常に酸っぱくて、とても美味しかったんですよ。

藤村:タクシードライバーは岩手県産のかけはしという米を使って、精米歩合55%まで削るというコンセプトで造っているんですけど、たくさん造るのであれば、同じ曲のリミックスみたいなものでバージョン違いを出したいなと。例えば今年は、仕込み1号~3号は岩手県のオリジナル酵母を使ったんです。4号は協会酵母という、日本醸造協会が色々なお酒の酵母を培養して各メーカーに販売しているんですけど、それを取り寄せて酵母違いのバージョンを造ったり。昨年の仕込み4号が協会7号酵母というものを使ったんですけど、それが予想以上の突然変異というか。タクドラの酸度は大体1.7~2くらいなんですけど、それは4.8とかで。当然酸っぱいわけですよ(笑)。

桜井:賛否両論でしたよね(笑)。

藤村:でも、同じ米で造っているからタクシードライバーとして売らざるを得ない。酒屋さんにも「これは普段とは違う特殊なバージョンなので」と言いました。

桜井:タクシードライバーおりがらみのことを、濁っているのでダクドラって呼んでいるんですけど、その頃紹介された飲み屋で、ダクドラとタクドラをハーフ&ハーフにすると美味しいと教わって。毎回違う楽しみ方ができるんですよ。

藤村:ワインも同じ銘柄でも当たり年はずれ年っていう見方もできますし、日本酒が好きな人たちは色々な銘柄を飲みたいと思うんですけど、タクシードライバーは仕込み順にナンバリングすることによって、同じ銘柄ながら別商品になるんです。そうなると、1号を飲んだから2号も飲もう、今年は10号まで出るらしいからコンプリートしないと気が済まないっていう、コレクター欲を煽る手法をとったんですよね。

桜井:どれも美味しいんですけど、突然変異って起こるものですね。そこが面白いところですよね。

藤村:仕込みもみんな同時進行でやるわけではなく、うちの場合は2週間に1本のペースで造っていくんですが、その時々の気候の変化や、同じ品種の米でもロットの差があると思うんですよね。そうなると、同じ条件で仕込んでもできあがった時の誤差は出ますし、酵母を変えることで新たなバリエーションができるということです。

桜井:7号酵母で造ったというのを、ぜひまたお願いしたいです!

藤村:でも杜氏的には、あれは懲り懲りだと。

桜井:えっ、そうなんですか!?

藤村:杜氏があの形を望んだわけではなかったんです。実は今月出荷予定の今期のタクシードライバー仕込み6号が、その7号酵母で仕込んでいますので、それがどう仕上がるか。

桜井:すごく楽しみですねぇ。

藤村:今年のバージョンが今までのと似通った味であれば、昨年度のものは実は失敗作だったんじゃないかと言えなくもない。

桜井:難しいですね。皆さんが失敗と思っているものを、僕は成功と思っているので。

藤村:結局良いか悪いか決めるのは、お客さんですからね。

◆好きなことをやると、どこかしらで繋がる(藤村卓也)

桜井:4号デッドストックが東京に何本かあるという噂を聞いたんですけど(笑)。

藤村:都内某酒販店が昨年の4号のひやおろしを30~40ケースまとめ買いしてくれて、そこがもしかしたらビンテージ的な感じで持っているのかもしれないです。

桜井:それは渋谷ですか、三ノ輪ですか?

藤村:んー、三ノ輪です。

桜井:攻めたいですねぇ。

藤村:あそこは気合いを入れてタクドラを売ってくれるので、毎年発注ロットがどんどん上がっていて。タクドラ全部コンプリートしたいのであれば、三ノ輪もしくは渋谷ですね。

桜井:あとは「酒未来」に来ていただければ(笑)。

Vif:「酒未来」のTwitterで「タクシードライバー誕生には新宿二丁目が大きく関わっていた」というものがあって気になっていたのですが。

桜井:そうなんですか!? 僕も知らない話ですね。

藤村:高橋ヨシキさんに初めてお会いしたのが新宿駅前の普通の焼き鳥屋だったんですけど、お互いモンド映画が好きだということで、グァルティエロ・ヤコペッティ監督の話で盛り上がって、意気投合して二丁目に流れていって。それで何軒か飲み歩く中で、新しい酒の銘柄を考えようという話になったんです。あとでヨシキさんに聞いたんですけど、あのラベルは映画の1シーンをスキャンして、それを水彩でトレースしたものらしいんですよ。なので、あくまでヨシキさんが描いた水彩画なんです。ということで、タクドラが生まれたのが二丁目だったということです。

桜井:どちらの店かは覚えていないですよね?

藤村:店の名前は覚えていないんですけど、ヨシキさんとお会いしたのがタクドラ誕生秘話のエピソード1だとすれば、その前にエピソード0があるんです。ヨシキさんを紹介してくれた共通の知人が、タクシードライバーの題字を書かれた書家の女性なんですけど、元々はその方と知り合って飲みに連れて行かれたのが、二丁目の一夢庵だったんですよ。

桜井:(失笑)…なるほど! さぞかし濃かったことでしょう!

藤村:そのお店のトイレに入ったら、格闘技のポスターが貼ってあって、その興業を打っている道場が自分が昔所属していた道場で、お店の方になんで貼っているのか聞いたら「そこの道場の子がうちでバイトしてんのよ」って言われて。そんな不思議なご縁もありつつ。タクシードライバーのラベルに関わった書家とデザイナー、それぞれ二丁目で飲んだという。

桜井:二丁目で完成したお酒ですね。そして二丁目で恐ろしい勢いで広がっています。

藤村:D店に入ったのも、Twitterでエゴサーチをしていたらたまたま見つけてしまって。

桜井:ノンケの方がD店に入るということは、有り得ないお話なのでビックリしてしまいました(笑)。

藤村:さすがに最初は勇気がいりましたよ。

桜井:僕は今年で二丁目25年になりますけど、あの店に最初に入る時はガチホモでも勇気がいりましたよ(笑)。

藤村:自分は岩手の蘇民祭に毎年出ているんですけど、たまたまTwitterで「蘇民祭」を検索していたら、とある知らない方が、蘇民祭に出たいんだけど全く予備知識がなくてどうしていいかわからないとツイートしていて、ちょっと老婆心が出て「毎年出ているから一緒に出ませんか?」って誘ったら、それがD店のバイトの子だったんですよ(笑)。で、その子が蘇民祭に来たんですけど、ゲイバレしていないと思い込んでいたんですよ。こっちはお見通しなのに。

桜井:あの風体でノンケで通す(笑)!?

藤村:大学に通いつつ飲食店でバイトをしていると聞いて、こっちもいきなりストレートに聞いたわけですよ。「その店はノンケが行っても大丈夫なの?」って(笑)。そしたらビックリした顔をしていて(笑)。

桜井:(爆笑)

藤村:日曜と月曜に関してはノンケでも大丈夫ですよと。それから数ヶ月経って、日曜日に東京にいる機会があったので勇気を出して、一応「喜久盛の者ですが、今から行っても大丈夫ですか?」と電話してから行きました。ママによくしていただいて、それから東京に来る度に普通に飲みに行くようなところまで来ました。

桜井:通常営業に関してはここではお話できない恐ろしいお店ではあるんですけど、藤村社長がいらっしゃった以降、日曜と月曜は日本酒愛好家が集って、穏やかに日本酒談議をするお店になりつつあります。

藤村:何度か通っているうちに、そこで青さんと知り合ったんです。

Vif:それが最初の出会いの話に繋がるわけですね。

藤村:そもそも、知り合う前からcali≠gariのツアーグッズを持っていましたしね。

桜井:そうなんですよね。一昨年アーバンギャルドさんと日比谷野音でツーマンをやらせていただいた時に、ネタでベビー服を作ったんです。刀を持ったキューピーがいたりする、すごいデザインのベビー服で、こんなの誰が買うんだろうと思ったら、この人が買ってました(笑)。

藤村:息子が普通に着ています(笑)。

桜井:写真が送られてきて、驚愕しました(笑)。

藤村:実はそのベビー服をデザインしたハードコアチョコレートが元々知り合いで、しかもアーバンギャルドもメジャーデビューする前から十年来の知り合いだったんです。知り合い同士がコラボして、cali≠gariと対バンしてコラボグッズを作ったと。これは1枚押さえておきたいということで。

桜井:(笑)

藤村:そしたら青さんとも知り合って、この一着に関係している2バンドとデザイナー全部知り合いになったという。

桜井:本当に縁ってすごいですよね。

藤村:うちも趣味でTシャツとかスウェットパンツも作っているんですけど、ハードコアチョコレートにもうちのTシャツを作ってもらったことがあって。お互いコアチョコのファンなんですよね。

桜井:はい、僕も大好きなので。喜久盛酒造さんのTシャツやパーカーが、全く酒造に関係ないデザインなんですよ(笑)。素晴らしい。

藤村:酒造メーカーって前掛けとかは定番ですけど、たまに頑張ってTシャツとかを作っちゃうと残念なものになることが多くて、普段着られない、しょうもないデザインのものが多いんですよ。これはTシャツブランドの人にちゃんと作ってもらえば、販促グッズとして売れるなと。毎年、色々なブランドと手を組んで、グッズ展開もしているんです。Tシャツから酒に入る人もいますし。広島県のとある方が、毎回Tシャツを出す度に通販で買ってくれていて、「実はうち、店もやっていて、タクシードライバーを置きたいんだけど」って、急遽取引が決まったこともあったので、やっぱり何でも好きなことをやると、どこかしらで繋がるんだなと思いました。

桜井:お酒を飲むきっかけというインプットが、必ずしも酒屋だけではないということですよね。でも本当に手広いというか、やり手というか…(笑)。

Vif:「日本酒界の異端児」と言われていますが、お話を聞いてものすごく納得しました。

桜井:そういうことだと思います。

藤村:どうなんですかね(笑)。

Vif:藤村さんはcali≠gariのライブをご覧になったことはあるんですか?

藤村:まだないです。初めてお会いした時にCDをいただいて、そこから始まったので。結構ライブハウスは行っていたんですけど、ものすごくアングラなほうにばかり行っちゃって、cali≠gariを聴くところまでは到達できていなかったです(笑)。

桜井:聴いているものは近いんですよ。いかんせん僕は、そういう音楽を聴くのは好きだけど自分ではやらないっていうところがあるので。

Vif:ちなみに、初対面は何年くらい前なんですか?

藤村:去年の頭くらいじゃないですかね。初めてお会いした時にLINEを交換して、その翌週に向島の居酒屋かどやさんに。2回目でサシ飲みしているんですよね(笑)。

桜井:楽しかったなぁ。その数週間後に、三ノ輪で角打ちに行くという。

藤村:結構色々な酒場をご一緒させていただいています。

桜井:喜久盛酒造の今後の展望は?

藤村:今は仕込み蔵を間借りしているわけなので、本社の敷地内に新しく蔵を建てたいというのが長期的な目標です。あとは少しずつ生産量を増やして安定供給しつつ、何か面白い仕掛けが出来ればなと思います。

桜井:蔵を再建する際には、一緒にライブハウスも造っていただきたいですね。敷地内に(笑)。岩手はライブハウスが少ないので大変なんですよ。岩手にはどんどん濃くなっていってほしいです。

藤村:岩手のアングラシーンを後方支援しつつ(笑)。

Vif:最後に、今回は第1回目なので、普段日本酒を飲まない方々にメッセージをお願いします。

桜井:とりあえず飲んでみなさいよっていう感じですよね。人の舌というのはバラバラなので、自分が不味いと思っても他の人は美味しいと思うかもしれない。カレーやラーメンみたいなものですよ。各自の趣味によるので。日本酒もいっぱい飲んでみれば、どれが美味しいかわかってくると思います。

藤村:日本酒って、一昔前まではネガティブなイメージがあって、飲み放題の安酒や罰ゲームで一気させられてトラウマになっている人が多いんですけど、今はそういう飲み方は廃れていって、逆にクオリティの高いお酒が色々なところに普及しているので、マイナスのイメージを持っている人もそうでない人も、食わず嫌いせずに試しに飲んでみてほしい。何を飲んでいいいかわからない時は、ラベルで見た目の先入観で入ってもらってもいいですし、それで運良く自分の好みに合うものが見つかれば、そこから世界が広がっていくので、まずは近所の飲み屋で日本酒を飲んでもらいたいなと思いますね。

(文・金多賀歩美)

本日の日本酒

タクシードライバータクシードライバー(喜久盛酒造)

日本酒度:+10
酸度:1.7
アルコール度数:17度
甘辛:辛口
精米歩合:55%
使用米:かけはし


電氣菩薩電氣菩薩(喜久盛酒造)

日本酒度:+5
酸度:1.5
アルコール度数:16度
甘辛:辛口
精米歩合:45%
使用米:ぎんおとめ

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藤村卓也

<プロフィール>

1972年4月27日、岩手県北上市生まれ。2003年2月、30歳の時に先代の急逝を機に喜久盛酒造五代目蔵元に就任。日本酒ファンや著名人の間で話題の「タクシードライバー」などを生み出し、独創的なアプローチでその裾野を広げ続けている。日本酒界の異端児と呼ばれる、業界屈指の若手蔵元。

■喜久盛酒造 オフィシャルサイト
http://kikuzakari.jp/

ARTIST PROFILE

桜井青

<プロフィール>

石井秀仁(Vo)、桜井青(G/Vo)、村井研次郎(B)からなるロックバンドcali≠gariのギタリスト。LAB. THE BASEMENTやソロでライブ活動をするかたわら、デザイナーとしても活動。cali≠gariは2015年1月、現メンバー3人での第8期始動を発表。3月、ニューアルバム『12』をリリース。2016年4月13日にニューミニアルバム『憧憬、睡蓮と向日葵』をリリースし、4月23日の横浜BAY HALLを皮切りに全15公演の全国ツアーを開催する。

■cali≠gari オフィシャルサイト
http://www.missitsu.com/

【cali≠gari リリース情報】

New Mini Album『憧憬、睡蓮と向日葵
2016年4月13日(水)発売(良心盤)
2016年6月24日(金)発売(狂信盤)

憧憬、睡蓮と向日葵
狂信盤
(会場限定盤)
MSNB-098
¥6,000+税
憧憬、睡蓮と向日葵
良心盤(通常盤)
MSNA-098
¥2,500+税
amazon.co.jpで買う

【良心盤(通常盤)収録曲】

01. 薫風、都会、行き行きて
02. ギラギラ
03. 陽だまり炎
04. 蜃気楼とデジャヴ
05. アレガ☆パラダイス
06. 憧憬、睡蓮と向日葵

【cali≠gari ライブ情報】

cali≠gari 全国ツアー 2016
4月23日(土)横浜BAY HALL
5月1日(日)青森Quarter
5月3日(火・祝)仙台MACANA
5月7日(土)梅田AKASO
5月14日(土)HEAVEN’S ROCK 宇都宮
5月15日(日)高崎club FLEEZ
5月20日(金)岡山IMAGE
5月22日(日)福岡DRUM Be-1
5月27日(金)甲府CONVICTION
5月29日(日)静岡Sunash
6月4日(土)名古屋BOTTOM LINE
6月5日(日)金沢AZ
6月10日(金)札幌mole
6月11日(土)札幌PENNY LANE24
6月24日(金)EX THEATER ROPPONGI

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