2015.5.3
石月努/MERRY@東京キネマ倶楽部
「vVS1.2015〜キネマ倶楽部の変〜」
石月努プロデュースによる「vVS1.2015〜キネマ倶楽部の変〜」と題されたイベントが5月3日、東京キネマ倶楽部で行われた。この“vVS1”とは“ヴィ・ベース・セッション・ワン”の意味。石月努が自ら声を掛けたゲストを迎えて行われる本イベント。第1回目のゲストはMERRY。早速このイベントをレポートすることとしよう。
【MERRYレポート】
石月努とMERRY。一聴すると意外なブッキングと思われるだろうが、じつは石月とMERRYのテツとは20年来のつき合いだという。そして、そこに端を発して現在石月努のギターを結生がサポートしている。そんな縁もあり、石月とMERRYの2マンイベント「vVS1」は実現した。
定刻の17時。3拍子の緩やかなSEに導かれMERRYのメンバーがステージに姿を現す。SEがカットアウトし、ほんの短い静寂があった後、ネロの激しいスネアヒットをキッカケに結生、健一が最初のコードをかき乱す。ハイハットの速い4つのカウントから始まったのは「千代田線デモクラシー」。2014年12月24日にリリースされたアルバム『NOnsenSe MARkeT』からのメインチューンとも言えるこの曲は健一のオフビートを強調した切れ味鋭いギターカッティングが印象的なMERRYの真骨頂ともいえる曲。ステージ後方からの激しいフラッシュライトの演出にガラのパフォーマンスが、細切れに映し出される。
続く「不均衡キネマ」では「千代田線デモクラシー」でのビートを引き継ぐような、健一のカッティングに、結生のアンニュイなパッセージが重なる。ネロは上半身を激しく左右に揺らし、独特のシャッフルリズムを生成する。“さあさあお立ち会い!! これからお目にかけまするのは不思議な倒錯キネマ”と、今日のこのシチュエーションとリンクするような台詞を吐き捨てるように歌うガラ。オーディエンスもこの激しくも心地よいグルーヴに身を任せている。
〈絶望、絶望、絶望〉ガラのシャウトが縦方向に奥行きのあるこのホールにこだまする。MERRYとオーディエンスの絆を確認するチューン「絶望」の始まりだ。早くもトランス状態となったオーディエンスとガラとのコールアンドレスポンスが続く。
「Zombie Paradise 〜地獄からの舞踏曲〜」と「Hide-and-seek」とアルバム『NOnsenSe MARkeT』からのチューンが続く。アルバム発売から約6ヵ月。この日のライブも『NOnsenSe MARkeT』の収録曲を中心にセットリストが組まれ、それは既にMERRYの新しいスタンダートとして昇華されている。
「Hide-and-seek」、「R-246」と聴かせるチューンが続いた後、歓声が止まないオーディエンスに向けて、ネロがマイクを握る。「石月努さんのライブに呼んでいただいて光栄です。ありがとうございます。」ドラムスローンに乗ったまま煽りのMCかと思いきや、律儀にも主催者への御礼のMCをするネロ。この滑稽さもネロの持ち味なのか。会場が一気に和む。
後半は再びアルバム『NOnsenSe MARkeT』からのチューン「東京」。〈追い続けた夢はまだ 何処にある… 東京よ〉と高く挙げた左手で天をつかむような仕草で歌うガラ。サビではオーディエンスが高くジャンプする。結生のコーラスがガラのメロをサポートする。ステージと会場が一体となり一つの大きな波を形成する。
ガラの「暴れちゃいますか」の言葉をキッカケに「オリエンタルBLサーカス」がスタート。結生のオリエンタルなギターリフに続くネロのスネア連打がキネマ倶楽部の高い天井までの広い空間を埋め尽くす。“踊りだせ手を繋ぎ”とミドルのハーフテンポに落ちるパートでは真紅のライトに包まれてガラがゆっくり言葉を噛みしめるように歌う。そして「さあ踊れ」という言葉を合図にまた、激しい道化師の世界へ逆戻り。このジェットコースターに乗っているような展開がスリリングで心地よい。
ケミカルを用意することなくグルグルの世界にイクことが出来る脳内トリップナンバー「Carnival」のサビでは、オーディエンスとの力強いユニゾンで、演者とオーディエンスが同化する。
間髪入れずにエンディングの「梟」に突入。アウトロに重ねてガラが吐き捨てる。“本当にこの世に神様がいるとしたらそりゃあんた不公平すぎる”。ガラの至極パーソナルな内への叫びが、皮肉にも混沌とした世界への普遍的なメッセージとして聴くもの一人一人の心に深く突き刺さる。全10曲、時間にて1時間弱。贅肉を削ぎ落とした、タイトなMERRYのステージは幕を閉じた。
本日のホストである石月を目当てに来場したファンにもその圧倒的なパフォーマンスは強力な印象を与えたに違いない。
【石月努レポート】
MERRYのパフォーマンスにつづいて本日のオーガナイザーである石月努の登場だ。ちょうど去年の同じ時期に「白ノ夜」、「黒ノ夜」と題してこの東京キネマ倶楽部のステージで2daysワンマンライブを行った石月。その時に、キネマ倶楽部のこの独特の古の空間を大いに気に入り“またこの場所で、今までにないおもしろい企画ができないか”と漠然と思ったらしい。それから1年。石月の漠然としたアイディアはMERRYというゲストを迎えて現実のものとなった。
1曲目は希望の曲「オーロラ」。イントロでは新しく石月のプロジェクトに加わったギターの結生(MERRY)と夢時(HOLLOWGRAM、eStrial)の二人が掻きむしるように奏でるコードとそれと相対するようなシュアーなSatoのベース、そして、LEVINの荒々しいドラムと、4人が生成するサウンドが新しい化学反応をもたらす。
ステージ下手から登場した石月は、たっぷり時間をかけてマイク前の位置にスタンバイ。そしてゆっくり歌い出す。〈僕には見えているかい? 本当の君の姿が〉。登場時の熱い歓声が歌い出しのパートになるとオーディエンスは一呼吸おいて、石月が発するコトバに集中する。
つづく「I BELIEVE」は疾走感のあるジャンプナンバー。イントロの結生がオクターブで奏でるフレーズが楽曲に彩りを添える。サビではSatoと結生がコーラスで石月をサポート。それを確認すると、微笑みながらドラミングするLEVIN。こんな何気ない自然なやりとりが、このメンバーで2度目のステージとは思えない、先天的なコンビネーションの良さを表している。
Satoの重々しいベースフレーズにLEVINの少しハネたリズムが重なる。「ENEMY」のスタートだ。両手の拳を突き上げオーディエンスを煽る石月。ミドルのギターソロでは、前半を結生、そして後半は夢時がハモリを付けるという、ツインギターの特性を活かした、アレンジとなっている。
そして4曲目に演奏されたのは新曲「自由への亡命」。じっくり石月の歌を聴かせるメロウなヴォカール・チューンであるが、ギター夢時の畳み掛けるようなギターソロがシンプルなアンサンブルのフックになっている。
「RUSTY EMOTION」、「ADDICT」と石月でのライブでのレギュラーチューンが続く。すでにいく度となく、石月のライブではプレイされている定番曲ではあるが、結生と夢時という新しいメンバーを迎えたことにより、それまでとはまた、違ったグルーヴとなっている。アレンジ自体に大幅な変更はないのだが、プレイヤーによってこれほどまでに楽曲全体の印象が変わるとは音楽とはじつに奥が深いものだ。
「踊るぜ!」という石月の言葉に導かれて「DANCE DANCE DANCE」に突入。会場の温度は開演時に比べて確実に数度は上昇している。すでに石月の額から眉間にかけて汗が滲む。が、石月の声はウォーミングアップ完了とばかりに、シャウトを連発する。
「chang! ring! shang!」というSatoの掛け声で始まる「Shang-Hi-Baby」。決してMERRYでは聴くことのできないであろう、結生がイントロで奏でるチャイナ風フレーズが耳に残こる。
とっくにピークまで到達したであろうと思われる会場のテンションではあるが、石月は容赦しない。つづく「LOVELESS」でさらにオーディエンスを煽る。ミドルでベースとギターがユニゾンでリフを奏でるパートでは、フロントの4人が大きくヘッドバンギング。
「DANCE DANCE DANCE」、「Shang-Hi-Baby」そして「LOVELESS」と、怒涛のハイテンションのナンバー3曲をたて続けに披露した石月に、オーディエンスからは惜しみない大きな拍手が贈られる。「夏も近づいて来たのでこの曲を送ります」「広い空に君を想った」と石月が静かに「向日葵」の最初のバースを歌いだす。このチューンは“君”と“僕”とのある夏の出来事を綴った私的な歌であると同時に、誰もが感じたことがあるであろう、過ぎ去ってしまったあのやさしい時を懐かしむ、切ないけれど、どこか暖かい気持ちになれる愛の歌。石月のシンプルな言葉とコントロールされた歌声が会場の空気を支配する。
そして最後に披露されたのが「365の奇跡」。イントロで大きく両手を左右にふる石月。結生は楽曲にあえてアジャストするのではなく、MERRYでみせるあの、ザクザクしたストロークでこの曲をサポートする。
【セッション】
鳴り止まない歓声に応えるかたちで、ステージに姿を表した石月。そしてここでサプライズとして、ガラが再び登場。ここからは「vVS1」、石月企画の妙であるセッションのパートだ。石月努とガラ。一体この二人でなにをプレイするのか、想像もつかないところだが、この日のセッションの選曲はガラのリクエストをヒントに2曲選曲。まず一曲目に用意されたのはFANATIC◇CRISISが1997年10月にリリースしたシングル「SLEEPER」。結生が“あのリフ”を弾く。オーディエンスからは悲鳴にもにた歓声があがる。ここ最近の石月のライブでFANATIC◇CRISIS のナンバーがセットリストに用意されることはなかったので、これはレアだ。Aメロ、Bメロとガラがソロ歌う。まるで自身が書いた作品のように、歌いこなすガラ。そんなガラをみながら、彼がまだキッズだった頃を勝手に想像してしまい、レポートをしながら思わず微笑んでしまった。
そして最後に用意されたのは、FANATIC◇CRISISのアイコンともいえる名曲「火の鳥」。石月とガラがステージ中央でパートを分けあって歌う。このサプライズにオーディエンスからは、この日一番の歓声があがる。〈誰も皆、失った愛しいものさがす為に 幾千のトキを超え めぐり逢う〉この大サビで、ステージとオーディエンスは完全に一つになった。
すべてのセットリストを演奏し終え、MERRYのメンバーも呼び込んで、出演者全員でカーテンコール。総勢8名の出演者は笑顔のままステージを後にした。
今回イベントでは石月との朋友であったベースのテツがリハビリ休養の為不参加であったのが唯一残念ではあったが、石月とMERRYともに、対バン仕様の代表曲、煽り曲を中心にラインナップしたセットリストではなく、今のバンドのライヴパフォーマンスをそのまま魅せるというステージであった。誤解を恐れずに言うならば、ビジネス的にはまるで戦略的でないミュージシャンシップにのっとった、愛のあるイベントであった。
「vVS」の今後の予定は現状未定だそうだが、そう遠くないうちに第2回の開催を強く望む。
◆セットリスト◆
【MERRY】
01. 千代田線デモクラシー
02. 不均衡キネマ
03. 絶望
04. Zombie Paradise 〜地獄の舞踏曲〜
05. Hide-and-seek
06. R-246
07. 「東京」
08. オリエンタルBLサーカス
09. Carnival
10. 梟
【石月努】
01. オーロラ
02. I BELIEVE
03. ENEMY
04. 自由への亡命
05. RUSTY EMOTION
06. ADDICT
07. DANCE DANCE DANCE
08. Shang-Hi-Baby
09. LOVELESS
10. 向日葵
11. 365の奇跡
【セッション】
E1. SLEEPER(FANATIC◇CRISISカバー)
E2. 火の鳥(FANATIC◇CRISISカバー)
(文・ぽっくん)