lynch.の次なる作品は“脱却”を意味する『EXODUS-EP』。彼らの大いなる変化と、これまで以上の強さを感じさせる新作の魅力に迫る!
新たな作品『EXODUS-EP』を世に放つ、lynch.。リリースごとに、新たな驚きを与えてくれる彼らだが、今回の作品では、メジャーデビュー以降大きく変化したlynch.が、ある種の原点回帰とも言うべき変化を遂げたことが見て取れる。ヴォーカルの葉月曰く「本来持っている自分の得意な要素を、武器に」。攻めの姿勢を崩すことなく自らの理想像へと突き進むlynch.について、葉月に語ってもらった。
◆生まれ変わりたいという意識
――3月に行われたZepp DiverCity Tokyoのライブ後のコメント動画で、明徳さんが「次のCDはデラヤバいっす」と言っていたこともあって、今回の音源の完成を心待ちにしていたんです。あの段階で、今回の音源にはどの程度着手していたんですか?
葉月:曲はほとんど出揃っていたと思います。選曲の段階か、まだ量産し続けていたか、というところですね。今年の上半期はほとんどこの作品にかかっていましたから。
――今回、選曲時にはどのくらいの曲数が揃いましたか?
葉月: 23曲くらいですね。そこから6曲に絞り込みました。
――6曲に対して23曲というのは…
葉月:あり得ないです。多すぎます(笑)。まぁ、これまでは僕が曲を作っていたんですけど、今回、他のメンバーも曲を作ることにしたから、そのせいもあるんですけどね。みんなで作った方が良い曲ができる可能性は高くなるし、そこに賭けて一度やってみようかということになって。そうしたら23曲上がってきました。
――タイトルは曲出しの段階から決まっていたんですか?
葉月:タイトルは決まっていなかったんですけど「EXODUS」っていう言葉は僕の中にテーマとしてあがっていました。
――「EXODUS」には“脱却”という意味がありますが、何から脱却を図りたかったんでしょう?
葉月:色々あるんですけど、世間が僕らに対して持っている固定概念ですね。僕らにとって2012年は模索の年で、なかなか突き抜けきれなくて、もどかしかったりもしたんです。そこから生まれ変わりたいという意識がすごく強くて。そこで、どんな言葉が合うか考えた時に「REBORN」ではなく「EXODUS」という言葉に辿りついたんです。考えていた楽曲の雰囲気にも合っていたし、字面もすごく良かったので。
――「REBORN」という言葉はよく耳にしますが「EXODUS」という言葉のセレクトがlynch.らしい気もします。今回、全員で曲を作るという試みも“脱却”の一環だったんでしょうか?
葉月:そうですね。全員で曲を作るというのは実験的な試みではありましたから。
――『LIGHTNING』『BALLAD』の2枚のシングルも実験的な試みだったと言っていましたよね。「EXODUS」というテーマはその頃から考えていたものなんでしょうか?
葉月:その時は考えていないです。去年の年末に『BALLAD』のレコーディングが終わった頃からのテーマですね。今回の作品では、全員で曲を作る以外は実験的な要素を入れずに、僕らが感じるlynch.というバンドが向かうべき場所や、あるべき姿を自らが狙って表現してみようと。
――みなさんが作ってきた曲を聴いていかがでしたか?
葉月:照れくさかったです(笑)。「あぁこんなの作るんだ」って思ったり。
――曲は人となりが出るものですか?
葉月:出ますね。「きっちりやってきてんな」とか「雑だな…」というのもありますし(笑)。
――きっちりは玲央さんあたりでしょうか?
葉月:うーん、僕と晁直君はきっちりですね。晁直君は楽器が弾けないから全部打ち込みで作ってきたりして面白かったです。「これ何の音?」って聞いたら、「ギターのつもりなんだけど…」って言われたりして(笑)。ちなみに、雑なのは明徳です。信じられないくらいテイクが雑で、打ち込みがズレて聴こえるっていう不思議な現象が…。「もっとちゃんとやってくれよ!」って怒られてましたけどね(笑)。
――皆さんで曲を持ち寄るこの方法、今回やってみた感触としては?
葉月:やって良かったと思いますね。やらないと自分の作曲スキルも上げられないだろうし。これからもやっていくべきだとは思いますね。
――選曲はどのように行われたんですか?
葉月:作曲者は関係なく全曲並べて決めました。ちなみに、「BE STRONG」は悠介君で、それ以外は僕の曲です。
――推しはどの曲でしょう?
葉月:今回は1枚で1曲って感じで、全部パーツみたいなイメージなんです。しいて言うなら「NIGHT」がリード曲なので、それだけの力を持っている曲だとは思うんですけど。
――1曲目がアルバムタイトルと同じ「EXODUS」ですがこの楽曲がアルバムを象徴していたりはするんでしょうか?
葉月:そうですね。この曲はリード曲にはできませんけど、結構最初の方にできたので、今回のアルバムのヒントになっています。ハードでダークなメインテーマがここで初めて形になった感じですね。リード曲として世に出てしまうには、ちょっと聴きづらすぎるのと短すぎるので却下にはなりましたが(笑)。
◆クオリティ至上主義
――葉月さんは、ずっとメインコンポーザーとして楽曲に関わってきましたが、曲への向き合い方に変化はありますか?
葉月:ずっと変わらないですね。みんなで曲を作る時にも話したんですけど、「今回の作品に、もしあなたの曲だけ入っていなくても、無理に入れることはしない。例えば明徳が最高の曲をいっぱい持ってきたら今回の作品は全部明徳の曲にする」と。「クオリティだけで選ぶから凹まないでください」ってことは伝えました。明徳の曲と自分の曲があって、明徳の曲の方がいいと思ったら迷わず僕は自分の曲は捨てるし、それは昔からで、自分の曲だから残したい!みたいなのは一切ないんです。クオリティ至上主義というか、そこが一番大事なんで。
――とてもシンプルですが、難しいことですよね。ところで、今回の作品は、皆さんの目指すlynch.像を曲にしたということでしたが、葉月さんの目指すlynch.というのはどんなものでしょう?
葉月:実は最近までわかっていなくて模索が続いていたんですけど、今現在打ち立てているコンセプトは「ダーク」であり「ハード」です。今回、今までずっと封印していたメイクとか、真黒な格好を重要視して取り入れているんです。すごく難しいけどこうあるべきだと思う。自分が生まれ育ったヴィジュアル系というシーンの、ダークな闇の香りというか、そういう表現の世界観は得意だし、やれば自分に似合うことがわかっているので。でもメジャーに行ってからはヴィジュアル系から抜け出したいと思うようになったんですよね。
――それはなぜだったんでしょう。
葉月:やっぱり凄くせまいシーンなので。もっと広い世界に行くために、より普通にならなきゃと思ったんです。メイクを落として、Tシャツジーパンで、ひげを生やして…でも、果たしてそれがlynch.にとってベストなのかを考えると、違うんじゃないかと。そのヴィジュアル系というところから抜け出したい、普通のバンドとして見られたいって頑張っている自分よりも、本来持っている自分の得意な要素を、武器にしたら誰にも負けないんじゃないかという結論に至りまして。弱点だと思っているからそうしているわけだし、いわゆる僕らが勝負しているラウドなロック、ヘヴィなロックをやっている人の中でこういった世界観を打ち出せる人を今のところ僕は知らないので、やっぱり他の人がやっていないこと、自分の力を最大限に引き出せることをやらないと、と。
――ある意味、とても素直な着地点を見つけたんですね。
葉月:はい。例えば、Slipknotのコリィ・テイラーにはマスクをかぶっていてほしいし、The Birthdayのチバさんにはスーツを着て歌っていてほしい。それを自分に当てはめて考えてた時に、黒い格好でダークなことをやっていてほしいとみんな思うんじゃないか、その需要に正直に向き合ってやったらすごいものが作れるんじゃないかと思って。初心に立ち返ったようなところもあるけど、全然嫌じゃないし、今すごく新鮮ですね。
――今ツアー真っ最中ですが、オーディエンスの反応はいかがですか?
葉月:メイクもして、頭もオールバックでガッチガチに固めて、革ジャン黒パンでやってますけど、やっぱり違いますね。それを負い目としてやっていたときと自信も違うし、不思議なものでそれを纏っているだけで負ける気がしない。
――オーディエンスにとっては、lynch.が、自分たちの求めている姿に戻ってくれたというのは、この上ない喜びだと思います。
葉月:そうですね。でもこれ、色んなバンドを見ていると、よくある流れなんですよね。メジャーに行って、メイクが薄くなって、受けなくってまたメイクをしだすっていう。パッと見は同じなんですけど、僕たちはそれにはなりたくなくて(笑)。
――lynch.はそのパターンではないということは、オーディエンスもわかっていると思いますよ(笑)。
葉月:「しがみつきだしたな」っていうのにはなりたくないんです(笑)。そういう人たちにとってメイクは鎧だと思うけど、僕らは武器にしないといけないと思うし、実際武器にできていると思う。今回の作品を聴いてもらえれば、そのあたりが伝わるんじゃないかと。
――今回の作品も含め、今のlynch.は武器を手にしている感があります。インディーズ時代のメイクは武器でしたか?
葉月:あの頃は特に何も考えていなかったんですよ。そのシーンで生まれているので「ライブ=化粧」っていうのが自然でしたし。でも、今は完全に武器ですね。
――今のメイクはどんな感じでしょう? 個人的には『ADORE』の頃のlynch.の印象が強くて、メイクしたlynch.といえばあの頃が浮かぶのですが。
葉月:今はあれよりちょっと怖い感じになってます。あの頃はまだちょっとモテようとしてたからな…。髪型も、ちょっと茶髪だったりして(笑)。
◆普通っぽくあろうと全然思っていない
――先ほどもお話に出た現在行われているツアーですが、『EXODUS-EP』の収録曲たちはもう披露しているんですか?
葉月:「EXODUS」以外は。これだけはどうしてもCDを出す前にやる自信はなくて(笑)。出ていない状態でやるとわけがわからなくなるだろうなと思うので、封印しています。発売になったら解禁ですね。
――今回の楽曲たちは本当にライブ向けの楽曲ぞろいですよね。
葉月:そうですね。まだCDも出ていない真新しい曲たちだから、最初はオーディエンスにポカーンとされたけど、ノリやすい曲たちですからね。家で聴いていてもしょうがないですよ(笑)。
――3月に行われたZepp DiverCityと何か変化はありますか?
葉月:僕自身がふっきれたかもしれませんね。普通っぽくあろうって全然思っていないんで。表現者として変な動きが合うと思えば変な動きもしますし、白目も剥きますし(笑)。
――何となく「melt」が浮かびました(笑)。
葉月:(笑)。昔の感じには近づきつつありますね。遠慮なくやってます。
――今回、ツアー先で、会場限定のCD『ANATHEMA』(「i’m sick b’cuz luv u」「HIDDEN.」の2曲入り)を販売しているんですよね。
葉月:「I’m sick b’cuz luv u」はもう6年くらい前の曲なんですけど、曲調的に今でも全然通用するし、ライブでも毎回セットリストに入っているんです。でも、当時の録音した音が音質的に納得いかなくて、録り直したいと思っていたんですよね。録り直してみると、これは『EXODUS-EP』ではないし、会場限定で出そうと。「HIDDEN」は『EXODUS-EP』の曲として作ったんですけど、並びとか繋ぎの問題で合わなくて、こっちに入れたんです。
――「I’m sick b’cuz luv u」は原曲とほぼ同じフレーズで録り直していますよね。
葉月:そうですね。フレーズは、ある程度は今ならこうするって感じに変えていますけど、構成も同じです。これはこれで楽しんでもらえたらと思います。
――ツアーで忙しい今夏ですが、8月15日にはBORNとの対バンイベント(「BORN BATTLE in SUMMER 2013!!【DIE or DIE】。Vifでは特設バナーを設置中)にも参加されるわけですが。
葉月:頑張ります。彼らは「ファンです」って言ってくれるんですけど、最近あんまり話してないんですよね。僕が冷たかったのかな…。僕、知らない人が苦手なんですよ。特に後輩だと逆に恐縮しちゃって。「ファンです!」って言われると「あぁ、はい…」ってなっちゃうんで。感じ悪かったのかな…。
――気にしてますね(笑)。
葉月:最近よく対バンするんですけど、あんまり話しかけてこないからちょっと気にしてます(笑)。
――ツアー、BORNとの対バンイベント、Angelo主催のイベント、ツアーファイナルのSHIBUYA-AX 2Daysと、この夏は楽しみですね。
葉月:はい。特にSHIBUYA-AX は2日間ですけど、会場がギュウギュウになるよう頑張ります!
(文・後藤るつ子)
lynch.
8月24日、TOUR’13「THE NITE BEFORE EXODUS」ファイナル@SHIBUYA-AXを
終えたばかりのlynch.からコメントが到着!
<プロフィール>
メンバーは、葉月(Vo)、玲央(G)、悠介(G)、明徳(B)、晁直(Dr)。激しくもメロディアスな楽曲とストレートなライブパフォーマンスが高い支持を得ている実力派ロックバンド。2011年6月、前作から約2年ぶりとなるアルバム『I BELIEVE IN ME』でメジャーデビュー。2013年2月、ニューシングル『BALLAD』を発表した。3月2日にはlynch.初のZepp DiverCity Tokyoにて、2012年に行った全国ツアーの集大成となる「THE FATAL EXPERIENCE #3」-FINAL HOUR HAS COME-を敢行し大成功に終え、8月 NEW EP『EXODUS-EP』をリリース予定。
■オフィシャルサイト
http://lynch.jp/
『EXODUS-EP』
2013年8月14日発売
(発売元:KING RECORDS)
実力派ロックバンドが放つ、渾身のミニアルバム。初回盤のDVDには「THE FATAL EXPERIENCE #3」@東京・Zepp DiverCity TOKYO公演からのセレクト映像を収録。
【収録曲】
[CD]
1. EXODUS
2. ASHES
3. VANISH
4. BE STRONG
5. INVINCIBLE
6. NIGHT
[DVD]※初回盤のみ
1. Zepp DiverCity Tokyo 2013.3.2 including 11 songs