2023.11.28
怪人二十面奏@高田馬場CLUB PHASE
単独公演巡業二〇二三「人間ノ証明」

怪人二十面奏には、燃えるように赤く照らし出されたステージが似合う。11月28日、高田馬場CLUB PHASEで行われたライブを観て、改めてそう思った。

江戸川乱歩の小説『怪人二十面相』に由来するバンド名が表すとおり、エログロナンセンスのテイストを歌詞やヴィジュアルに盛り込み、独自の個性を貫いている彼ら。

その一方、ライブではあくまでロックバンドとして熱いステージを繰り広げる。そんな夜をまたひとつ重ねた、単独公演巡業二〇二三『人間ノ証明』千穐楽の模様をお届けしたい。

ライブの始まりを飾ったのは、「眩惑のオルフィスム」。このツアーで会場限定CDとして販売された、彼らにとって最も新しい曲だ。そんな曲を一曲目に据える大胆なセットリストに挑戦したのも千穐楽ゆえ。

ステージからもフロアからも若干の緊張が感じられるオープニングとなったが、果敢に攻め続ける姿勢は天晴れだ。さらに4月のツアーで、同様に会場限定で販売した「太陽デモクラシー」と続け、この夜への意気込みを見せつけた。

11月28日はヴォーカル・マコトの誕生日。この日に、毎年ワンマンライブを行うのが恒例となっている。今年もこの日を迎えることができた喜びを口にしたマコトから、「とっても久しぶりの曲をせっかくファイナルなのでお贈りしたい」と紹介されたのが「デカダンス ゴーゴー16」。軽快なリズムに気持ちよく体を揺らし、「ゴーゴー!」の掛け声も勇ましく、熱気は急上昇。

マコト(唄)
KEN(G)

マコトか浮かべていた笑顔を一変させ、「跳べ―!」と険しい形相で煽る。「無理ゲー論」が始まり、ギターのKENも激しく跳ね回る。昨年の11月28日はVeats Shibuyaでライブを行った彼らだが、そのときはコロナ禍における制限の真っただ中、観客の声はなく、その状況にどこか慣れてしまった感さえあった。けれども、今日は堂々と声が出せる。サポートのShinsaku、IORI、龍も含め、メンバーの名前を精一杯叫ぶ観客の声を耳にすると、この大切な空間が戻ってきた実感がわいた。

自らの名前を呼ばれた後、KENは興奮を抑えられないようにマコトの名を繰り返し叫び、マコトも「ハッピーバースデー、俺!」とおおいにはしゃぐ。「ナショナリズム・アイデンティティ」から「悲劇喜劇」と、フロアのノリはヘドバンを交えさらに荒々しくなり、激しさを増す。

禍々しいほどの赤い照明にサイレンの音が鳴り響く。ものものしい空気の中、始まるのは「一銭五厘ノ命ノ価値ハ」。太平洋戦争中、郵便料金であるわずか一銭五厘にすぎないと、その命の価値をたとえられた兵士の思いを歌い上げ、さらに「ヰ書」では戦地に赴く兵士の悲痛な叫びを具現化した。

物語を描き出し、聴く者のイメージを広げ、曲の世界に入り込ませるのも、怪人二十面奏の魅力のひとつ。オーディエンスはそのとき、時間も空間も超えて、いつの間にかそれぞれが思い描くイメージの中に没入していた。

拍手が静まり返った空間の緊張をほぐす。マコトとKENも一転リラックスムードで、MCがスタート。ツアーがあっという間だったのも、ファイナルの今日を緊張して始めていたのも、二人仲良く同意見だったようだ。

「ここからは思いっきり遊んで帰ります!」という力強い宣言から、「狼」。体を深く折りたたむオーディエンスを睥睨するマコトは、もっと貪欲に求めるかのように焚きつけていく。手拍子が賑やかに鳴り響いた「アヴストラクト シニシズム」でさらにエンジンがかかったのか、「ブラックアウト ヒステリーアワー」へと続き、心地いいノリが、会場の空気を、オーディエンスの体を揺らす。

上着を脱いで白シャツ一枚になったマコトを赤い照明が彩ったところで、「幻創大東亞狂榮圏」が始まる。勇ましく讃えられるその世界こそ、歴史が物語るようにまさに幻想。壮大な夢を見ているかのような不思議な感覚に陥ったところで、包丁ライトが現実感を取り戻させてくれた。

さまざまな色に光るグッズは、ジャンルを問わずライブの定番となっているが、それが包丁の形をしているというのは、おそらく怪人二十面奏だけではないだろうか。

手に手に掲げられた包丁ライトが赤くまたたくさまは、物騒でありつつも美しい。そこで始まる「G,Jクローバー連続殺人事件」。殺人事件のニュース速報を告げるアナウンサーの語りが何ともぴったりだ。

そして、本編最後を飾ったのは「愛憎悪」。小気味いいランニングベースとともにスピードをあげて突っ走るような感覚が心地いい。そんなフィジカルな感覚と、感情過多とも言えるほどのマコトの歌が絶妙にマッチする。

このバランス感覚もまた怪人二十面奏ならでは。演奏を終え、笑みを浮かべた満足げなマコトとKENがステージを去る後ろ姿に向けて、熱狂的な男性ファンの声が投げかけられたのは新鮮だった。

間髪入れず起こったアンコールを求める声に応え、ツアーTシャツ姿に着替えた二人が登場。さらにサポートメンバーの3人がケーキを持って現れ、ステージにはマコトの誕生日を祝うケーキが3つも。KENの合図に合わせてみんなで「ハッピーバースデー」を歌い、マコトの満面の笑みを見ることができた。

毎年恒例になっている誕生日のライブではあるが、来年、再来年と続けられるかどうかは、誰にもわからない。残念なことに、そんなことを改めて感じる悲しいニュースが続いた2023年だっただけに、この日を迎えられたことは単純に嬉しく感じられた。

アンコールは、「信仰アンチミステリー」から。勢い任せに突っ走って、会場にいる全員で最後の力を振り絞ると、赤い照明の下、「然らば、人生」が始まり、クライマックスへと突き進む。

泣くように、むせぶように、心の叫びを全身全霊で歌声に託すマコト。“素晴らしきかな、人生”という歌詞は、マコトの本心そのもの。この日に迎えた新たな年齢になってもまだステージで歌っていられるという現実は、おそらく彼自身も想像していなかっただろう。そんな奇跡のような喜びをかみしめ、彼は歌い続けた。

御礼の言葉を口にするマコトとKENの表情には、満足感と達成感がありありと浮かぶ。それは、自分たちの音楽に対し、誇りと自信があってこそ。流行りや時代の流れに迎合するのではなく、自分たちのスタイルを貫いている彼らだけに、ファンを前にするステージでの感動はひとしおのはずだ。

レーベルメイトの仲間もステージに登場し、アットホームな雰囲気で幕を下ろしたが、アンコールを求める声は続く。バンド名にちなみ、ワンマンの演奏曲は二十曲と決めている彼らだが、特別に再び登場。

ダブルアンコールに応え、二十一曲目に演奏されたのは、「其の証」。単独公演巡業二〇二三『人間ノ証明』の最後の最後に、自分たちが今ここに居る証を刻みつけた。そして怪人二十面奏は、これからも歩み続けていく。

◆セットリスト◆
01.眩惑のオルフィスム
02.太陽デモクラシー
03.FAUST
04.デカダンス ゴーゴー16
05.無理ゲー論
06.ナショナリズム・アイデンティティ
07.悲劇喜劇
08.一銭五厘ノ命ノ価値ハ
09.ヰ書
10.狼
11.新宿
12.アヴストラクト シニシズム
13.ブラックアウト ヒステリーアワー
14.幻創大東亞狂榮圏
15.G,Jクローバー連続殺人事件
16.愛憎悪

EN1
17.信仰アンチミステリー
18.ダムド
19.可不可
20.然らば、人生

EN2
21.其の証

(文・村山 幸/写真・Lestat C&M Project)


【ライブ情報】
●怪人二十面奏 単独公演二〇二四「亂歩の心臓」
2024年2月20日(火)
青山RizM
開場 18:30/開演 19:00
※開演開場時間の変更に関するチケットの払い戻しはございませんので予めご了承ください
料金:前売り¥4,300/当日¥4,800*1DRINK別途

●先行チケット(BadeggBox Club先行)
[受付期間]2023年12月1日(金)正午12:00~12月10日(日)23:59
[抽選期間]12月11日(月)~12月12日(火)
[当落発表、入金期間]12月13日(金)12:00~12月18日(月)23:59
スマートフォンサイト「BadeggBox Club」専用ページより申し込み。
※会員登録が必要です。
※クレジット決済可能。
※郵便書留での発送。
※2024年1月中旬に発送予定。
※1申し込みにつき発送手数料が別途¥600かかります。

●一般チケット
1.ライブ会場手売り
一般発売日:2023年12月26日(火)より
特製ピクチャーチケット
チケットNo.B001-
2.TICKET PAY
一般発売日:2023年12月26日(火)10:00-
入場券:TICKET PAY
チケットNo.C001-
購入ページ

入場順:番号順:A→BC並列入場→当日券

主催/企画/制作:BadeggBox
問い合わせ:青山RiZM 03-6804-5925

怪人二十面奏 オフィシャルサイト