2023.11.23
アルルカン@TOKYO DOME CITY HALL
「アルルカン 10th Anniversary Special Live「10→11」」
10周年を迎えたΛrlequiΩ(アルルカン)は、感謝を胸にあらたな夜明けを手に入れた。
禍福はあざなえる縄のごとし。今年で10周年を迎えたアルルカンがここまでにたどってきた道程は、まさに良くも悪くも禍福がよりあわさったような日々の連続であったと言えるだろう。そして、彼らはそんな熾烈な日々の中で成長し続けて来てもいる。特に、2023年に入ってからの紆余曲折はアルルカンにとって試練そのものであり、3月には最新アルバム『δυσ-τόπος ~Dystopia~』の発表直前にドラマーがいなくなる、というアクシデントが発生。だが、それでも彼らは急遽サポートドラマーを迎えての全国ツアー「10th Anniversary Tour[escape from dystopia]」を4月から7月にかけて敢行し、ライヴバンドとしての底力をあらためて発揮することになったのだった。
しかし、次いで9月より始まった“各地でゲストバンドとの対戦を繰り広げていく”という主旨のツアー「10th Anniversary Tour「Heaven’s Place」」では、ヴォーカリスト・暁が声帯ポリープの加療を必要とする事態に見舞われ、なんと一部公演は延期に。幸い、11月23日のTOKYO DOME CITY HALL公演「10th Anniversary Special Live「10→11」」については早い段階で開催可能との判断がインフォメーションされていたとはいえ、実際にこのライヴ当日を迎えるまでは観客側も演者側も、決して安心していられる状態ではなかったに違いない。
でも、だからこそ。このところは禍福というよりも禍事が続いていたアルルカンにとって、今宵の10周年という節目をしめくくる晴れ舞台は、ある種の甦生を果たすのにうってつけの場と言えたのではなかろうか。幕開けの1 曲として選ばれていた「白死蝶」の歌詞に〈再生の軌跡 辿っていく〉という1節があったことや、その次に演奏された「手放して掴む零」で〈未知への先頭に立とう〉と暁が歌いあげたことをとってみても、アルルカンが「10th Anniversary Special Live「10→11」」のステージで何を表現しようとしていたのかは瞭然。何より、この冒頭の2曲を聴いただけでも暁の歌が明らかに伸びやかさと繊細さを取り戻していた事実は喜ばしい限りで、その点でもこのライヴをもってアルルカンは甦生したと解釈することが出来たのである。
「今日、アルルカンは10歳になりました。そして、この10年はほとんどを5人で歩いてきてたから、4人での10年をどういう気持ちで迎えれば良いのかわかんない時もありました。ただ、アイツがいたから俺は今ここに立ってるし、あれからも歩みを止めずにいたから新しい何かがあって、新しい出会いがあって、新しい今日があります。ここまでの10年に対する想いと同じくらい、これから先の11年目に対する想いをここで届けたい。だから今日、絶対やっておかないといけない曲があるんだ。やってもいいかな?」(暁)
こうした暁からの言葉を受けて奏でられたのは、かつて“アイツ”の叩くドラムセット前にメンバー全員が集うのが恒例となっていた楽曲「DROPLET」。複雑な過去をやすやすと黒歴史の類にしてしまうことなく、いかなる過去も受容したうえで前に進み続けているアルルカンの姿勢には、真摯という言葉がとても似つかわしい。
「今日はみんなに伝えたいことがふたつあります。ひとつは「ありがとう」。もうひとつは「この先の未来への期待」です。前に言ったじゃない?「武道館に行く!」って。だけど、今年はいろんなものが壊れちゃってさ。でも、そうなった時に俺は大事なことに気付いたんだよ。(中略)もちろん、高い目標は大事です。だけど、その目標にはこいつらメンバー、それに君たちと一緒に近付いていかないことには虚しくてしょうがない! そんな超大事なことに気付きました。だから、ここからの俺たちはメチャクチャ強いです。見てろよ、おまえら!!欠ける時も満ちる時も一緒に!!!」
強いメッセージを添えた「Eclipse」で、観客たちのシンガロングが場内に響いたシーンの劇的さ。アルルカンの最強代表曲と言える「ダメ人間」での、今も変わらぬ苛烈な尖り具合。さらには、本編ラストの「世界の終わりと夜明け前」で暁が〈君は 何処へ行く〉という部分を〈君を 連れて行こう〉、〈目が眩む程の光に 僕は気付くだろう〉を〈目が眩むほどの光の中へ 僕ら進むだろう〉と歌いきった時の頼もしさ…。アルルカンは10年の時を経たうえでここに甦生し、あらたな夜明けを手に入れてみせたのだ。
くわえて、アンコールでの「新曲」と、何時もリアルタイムな心情を反映させたポエトリーリーディングを聴かせることで知られる「PICTURES」でも、明確に「この先の未来への期待」を我々に与えてくれたアルルカン。そんな彼らが、この夜のラストに選んでいたのが再びの「手放して掴む零」であったことは必然でしかなかった。それも、単純にリプレイするだけではなく、先ほどは〈答えと呼べるものは ないよ ないよ どこにもない〉と歌っていたところを、暁が〈答えと呼べるものは ここにしかない〉と力強く歌った意味は、あまりにも大きい。
ちなみに、アルルカンはこのライヴの成功をもってこれからはバンド表記をΛrlequiΩとするそうなのだが、ともすれば彼ら4人がここからの未来へと進んでいくのにあたっても、場合によっては禍福の混在を避けられない時もあるだろう。もっとも、センスフルにして音楽的知能指数の高い奈緒、ワイルドなパフォーマンスと情感豊かなプレイを両立する來堵、フィンガリング奏法とピック奏法を駆使しながらバンドの音を躍動させる祥平、ヴォーカル力と同時にメッセージを発信する者としての高い熱量を持っている暁の4人が、どんな時にも志をひとつにしてさえいれば。また、ΛrlequiΩがΛrlequiΩであり続ける限り、禍福のどれもが未来への糧となっていくはずだ。
(文・杉江由紀/写真・川島彩水)