2023.03.26
キズ@NHKホール
単独公演「残党」

雨が降ろうと、槍が降ろうと、あるいは世界のどこかで鉛の粒が降りやまずとも。残党たちが全身全霊を賭して臨む聖戦は、今宵その熾烈さを増していったと言える。

2017年春に始動してからというもの、今春で6周年を迎えるキズがこのたび初のNHKホールにて行った単独公演のタイトルは[残党]。

ちなみに、昨年末に行ったとあるインタビューの場において、フロントマン・来夢はこのホール単独公演に[残党]と冠した理由を以下のように語ってくれていた。

「今一度キズっていうバンドのことを考えたうえで、今の僕らに最も似合う言葉ってなんだろうな?って考えた時、出て来たのが残党っていう言葉だったんです。つまり、僕らもファンもVISUAL ROCKの残党、っていうことですね。そして、いまは残党だとしても、いつまでも残党でいると思うなよ!っていうところを見せつけていきたいんですよ」

自らがシーンの新時代を担っていく存在なのだ、という強い自覚と気概を持つキズは今まさに右肩上がりで注目度と動員数を上げて来ているバンドであり、なんでも今回のチケットは昨年10月に日比谷野外大音楽堂で開催された[そらのないひと]の時を上回る勢いで、SS VIP席、2階VIP席、A席が続々とソールドアウトしたのだそう。

なお、昨年末に日本武道館で行われた大規模イベント[V系って知ってる?]でキズの圧倒的なステージングを初めて体験し、今回のライヴに足を運ぶことを決めたという人々も少なくなかったようで、今回のNHKホール公演はキズにとってあらたに残党仲間を増やし、勢力を拡大化していく場としてもかなり重要なものだったと思われる。

では、その大切な節目においてキズがまずどのような初手を選んだのかと言えば。1曲目に奏でられたのは昨夏に発表され鮮烈なサウンドと切れ味の鋭い歌詞が話題となったシングル曲「リトルガールは病んでいる。」で、ここではホールならではのステージ構造を活かしながら、各メンバーが“せりあがり”から登場するという仕掛けが場内のオーディエンスを一気に沸かせることとなった。

特に、来夢が“残党”と黒地に白で染め抜いた旗を肩にかけている姿はなんとも象徴的で、誰しもの眼に灼きついたのではなかろうか。

来夢(Vo)

曲の律動に合わせ、観客たちが派手に飛び跳ねることでホール全体までもが振動することになった「傷痕」。ビビッドなライティングの中でダイナミックなパフォーマンスされていく様がやたらと美しかった、キズにとって代表曲のひとつ「ストロベリー・ブルー」。

冒頭から、いきなりメインディッシュ級の逸品を矢継ぎ早にサーブするキズのスタンスは実にいさぎよく明解だ。

「さぁ、やろうか!NHKホール!!」(来夢)

来夢がそう咆哮したのを合図に、残党たちの発する熱量がここからますます増していったのは言うまでもない。reikiのいななかせるギターフレーズがホール中いっぱいに響きわたった「ヒューマンエラー」や、ユエがヘヴィな音像の狭間でドライヴするベースラインを聴かせてくれた「0」、きょうのすけがフロアタムを効果的に使いながら曲に込められた物語の重みを醸し出してくれていた「夢」も、それぞれに曲のトーンこそ違えど胸に伝わってくるバイブスは一様にして高密度なものになっていた。

来夢(Vo)

しかも、本編中盤に入って来夢がアコギを弾きながら春の歌「十九」を歌いあげだしたあたりからは、いよいよキズの真髄と本領が発揮されていくことになり、差し迫った死生観が交錯するような楽曲となっている「平成」、炎を使った舞台演出が曲の描く世界とまさに重なった「地獄」へとかけた流れは、キズというライヴバンドの持つ表現力の高さを存分に味わうことが出来る秀逸な場面となっていたはず。

来夢(Vo)

そのうえ、本編ラストでは本公演を前にMVが公開された新曲「雨男」が聴けることになり、ここでは既存曲「黒い雨」「ミルク」との関連性や、当日の東京を濡らしていた現実の雨模様にも想いを馳せながら、ドラマティックにして赤裸々な言霊と説得力ある音楽的メッセージを我々はキズから受け取ることになったのである。

中でも、曲後半での〈ボクノイノチカネニカエロ〉なる詞の1節と「俺に売るものはもう何もない だから次は俺の命を買ってくれ」という、正真正銘の筋金入り雨男・来夢の絶叫は強烈かつ衝撃的でさえあった。

reiki(G)
ユエ(B)
きょうのすけ(Dr)

「ピアスにフード」をはじめとして、アンコールでは計4曲を聴かせてくれたキズがこの夜のラストソングとして提示してくれたのは「My Bitch」と名付けられた初公開にしてリリース予定未定のバラード。

思うに、この「My Bitch」というタイトルについては意図して露悪的な言葉を使ったと推測出来るフシがあり、この場で聴いた感覚では生々しさの滲む真摯なラヴソングだと捉えることが出来る一方で、そこにはキズらしい暗喩も含まれているように感じられた。

〈雨が降るなら 僕がきっとそばに 死ぬ時も 君がきっとそばに〉というくだりからはどこか「雨男」とのつながりも浮かび上がるせいか、これはむしろキズが現在地点で歌うひとつの声明になっていると受け止めた方がしっくり来るというか…ともあれ、ここはいずれこの曲が正式発表される際に詳細が解明されることを待ちたい。

かくして、全曲をパフォーマンスし終わったあとのメンバーたちは全員が確かな手応えを感じていたようで、reikiがはしゃぎながらきょうのすけに抱きついたり、ユエは柔和な表情で場内を見わたしたり、来夢は半ばへたりこむようにステージに座っていたのだが、そんな彼らの姿からうかがえたのは良い意味でのやりきった感。

「ステージで死んでもかまわない、ステージに全てを賭ける、っていう姿勢。それが僕にとってはVISUAL ROCKの本質なんです」

以前に来夢はインタビューでこのような発言もしていたことがあり、キズは今回のNHKホール公演[残党]で、その精神をこれまで以上の次元で実践することになったのだろう。来たる6月16日にはSpotify O-EASTでの[キズ BLOG MAGAZINE 限定GIG 「ELISE」-Members only-]、梅雨が明けるかどうかのタイミングとなる7月17日 には日本青年館ホール単独公演[君の涙で遊んでいたい]、また8月26日には豊洲PITでのライヴも決定したという今、ここで彼らが得た経験値は相当に大きい。

雨が降ろうと、槍が降ろうと、あるいは世界のどこかで鉛の粒が降りやまずとも。残党たちが全身全霊を賭して臨む聖戦が、もしここからいっそう熾烈さを増していくことになったとて、キズの4人はあの大きな旗を翻しながらこれからもVISUAL ROCKの本質を貫き、その志を全うしていくことになると確信する。何故なら、あの「My Bitch」で歌われていたように。彼らは〈もう今更 後戻りはできない〉のだから。

(文・杉江由紀/写真・尾形隆夫、小林弘輔)


【ライブ情報】
●キズ BLOG MAGAZINE 限定GIG「ELISE」
6月16日(金)Spotify O-EAST
開場17:00/開演18:00

[チケット料金]
スタンディング
前売 ¥6,000 (諸経費込 / D別)
【ブログマガジン会員一次申込】
受付期間:2023年3月26日(日)21:00~2023年4月2日(日)23:59
入金期間:2023年4月6日(木)12:00~2023年4月9日(日)23:59
TicketTown

●キズ単独公演「君の涙で遊んでいたい」
7月17日(月・祝)日本青年館
※詳細後日解禁

●2023年8月26日(土)豊洲PIT

●キズ 主催TOUR「友喰イ 2023」
4月22日(土)愛知・Nagoya ReNY limited
5月5日(金・祝)大阪・BIGCAT
5月21日(日)東京・Spotify O-EAST

[チケット料金 (スタンディング)]
前売 ¥5,800 (税込、D別)、当日 ¥6,800 (税込、D別)
【一般発売】(イープラス/ローソンチケット/チケットぴあ)
2023年4月8日(土)

各LIVE詳細

【リリース情報】
LIVE DVD『キズ 単独公演「そらのないひと」2022.10.9 日比谷野外大音楽堂』
2023年3月22日(水)発売

【初回限定盤】DMGD-026/027 (DVD+CD)¥12,100(tax in)
*50Pフォトブックレット封入
*動画配信視聴コード封入(全5日間の配信からいずれか1日セレクト視聴可能)
【通常盤】DMGD-028/029 (DVD+CD)¥7,700(tax in)

キズ オフィシャルサイト