2022.07.18
怪人二十面奏@渋谷DESEO
七周年記念単独公演巡業二〇二二「狂導幻創論」ファイナル

怪人二十面奏というバンド名、白塗りに軍服のヴィジュアル、最新音源のタイトルは『幻創大東亞狂榮圏』とくれば、ある意味、非常に偏ったイメージが思い浮かびそうだ。彼らはその名にたがわないアーティストである一方、コロナ禍においてもひたすらツアーを続け、ファンの前に姿を現し続けた熱いロックバンドでもある。そんな彼らが、7月18日に渋谷DESEOで迎えたツアーファイナルの模様をお届けしよう。

開演時間ちょうどに暗転、重々しいSEが鳴り響き、ステージの幕が開く。そこに登場したのは、軍服に身を包んだマコトとKEN。マコトの手にはサーベル。令和の渋谷のライヴハウスとは思えない空気感に、教科書やテレビで聞きかじった戦時中のイメージが頭をよぎり、不安感を掻き立てる。

そこに始まった一曲目は、「ナショナリズム・アイデンティティ」。緊張感が会場中を支配しする。張り詰めた緊張をマコトの雄叫びが破り、次の「ダムド」で一気に会場の空気が動き出した。さらに狂気じみた笑い声をあげたマコトは、完全にこの異世界に入り込んでいる。かと思えば、オーディエンスを目にして満足げに笑みを浮かべ、とにもかくにもこの空間を満喫しているようだった。

マコト(唄)

ツアーファイナルのお礼を口にするマコトは本当に嬉しそうだ。7周年のお祝いでもあるこの日を迎えた喜びが伝わってくる。そして最新曲「幻創大東亞狂榮圏」を披露。スピード感あるサウンドに、朗々と、滔々と、勇ましい主張をぶつけていく。その後は、「G.G.P.G」「人間失却」と、勢いをつけて転がるようにライヴは展開する。笑みも含め、豊かな表情を見せるマコトとは裏腹に、KENは表情ひとつ変えることなく荒々しい声をあげている。

空襲警報のようなサイレンが鳴り響き、真っ赤に染め上げられたステージに、「一銭五厘ノ命ノ価値ハ」が流れ出す。頭に思い浮かぶのは空襲、爆撃、戦争…。最後に軍服姿のマコトが敬礼をすれば、それはもう出征する兵士にほかならず、ロックバンドのライヴを観ているという事実を忘れそうになる。楽曲やセットリスト、衣装などのヴィジュアル、すみずみまで徹底したこだわりを見せ、江戸川乱歩のエログロナンセンスの世界や猟奇的な事件、歴史に刻まれた闇などを表現する彼らの美意識やセンスにぜひ一度触れてみてほしい。決して誰もが好きになるとは言わないが、刺さる人には間違いなく刺さるはずだ。

マコトの母親の死をきっかけに書いた「命日」のように、永遠の別れといった普遍的なテーマを哀切に満ちた歌で届けるシーンも。マコト節とも呼びたい彼ならではのメロディにKENのギターが絡む。人間であるからこそ感じる、どこまでも人間臭い感情あふれる音楽、歌そのものだった。実際の命日に近い、毎年この時期に年に一回だけ演奏するというところにも、マコトらしいこだわりを感じる。

KEN(G)

MCを挟んでも息つく暇もなく、「Pied Piper of Hamelin」へ。瞬く間に世界はハーメルンのおとぎ話の世界へと色を変え、マコトのホイッスルがオーディエンスを煽る。「狼」では、手を掲げたオーディエンスが全力でジャンプ、フロアは一気にライヴハウスらしい様相を呈す。マコトは「もっともっと!」と声を投げ掛け、「癈人録」ではマコトに応えるように激しいヘドバンが繰り広げられた。

タイトルどおり新宿を舞台にした、悲しい女の泥臭い物語が紡がれたのは「新宿」。女の感情に浸っていたオーディエンスは、「アヴストラクトシニシズム」で手拍子を打ち、体を揺らし、こぶしをふりかざす。ぎゅうぎゅうのフロアで、みんな一緒に同じ動きをする行為は、独特の陶酔感があるだろう。そこにどこか全体主義的なものを想像してしまうのは、彼らの生み出す世界観ゆえだろう。

そんな様子を目に、「素晴らしい景色です!」とマコトは嬉しそう。「死せるCecileセルシン摂氏0度」で、フロアが激しく荒々しい手と頭の動きでいっぱいになったところで、最後は「可不可」。カラフルに光るタンバリンがフロアを彩り、ライヴのクライマックスを盛り上げた。そんな光景を目にして、「最高だ!」と喜ぶマコトに対し、鋭い目つきでニコリともしないKEN。その対照的な佇まいがまた彼ららしく、ライヴの最初から最後までそれぞれの個性が際立っていた。

アンコールでは、本編からは想像もつかないような軽口も飛び出し、笑いをさそってリラックスムード。11月2日にアルバム『人生』をリリースし、全国ツアーを敢行することを発表。コロナ禍でも全く立ち止まらなかった彼らの歩みは、まだまだ続いていく。

この夜を締めくくったのは「生命力」。彼らが表現するのは、ハッピーな明るい光に満ちたものではないかもしれない。けれども、マコトもKENの二人が自分たちの生命やすべてを賭して表現に向かっていることに、あなたも励まされるはずだ。ぜひ彼らの音楽に耳を傾けて、あなたの心にどんな風に響くか確かめてみてほしい。それは、当たり前だと思っていること、たとえば自分自身や既存の価値観や社会に対し、改めて見つめ直してみるきっかけになるかもしれない。

(文・村山 幸/写真・Lestat C&M Project)


【リリース情報】
●シングル『幻創大東亞狂榮圏』
BDBX-0089 2曲入り¥1,818(+税)
発売中

[収録曲]
01.幻創大東亞狂榮圏
02.ナショナリズム・アイデンティティ

●フルアルバム『人生』
2022年11月2日(水)
BDBX-0091 ¥3,500(税込)

【ライブ情報】
●Music Lab.濱書房 五周年記念 怪人二十面奏特別単独公演「”人生”の裏側で」
9月25(日)Music Lab.濱書房
開場17:00/開演17:30
前売¥3,800/当日¥4,000*1DRINK別途(¥500)
チケット
TIGETにて8月7日(日)正午12:00より発売
[問]Music Lab.濱書房 045-212-4486

11月3日(木・祝)新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
開場 17:00/開演 17:30

11月12日(土)仙台enn 3rd
開場 18:00/開演 18:30

11月13日(日)浦和Narciss
開場 17:00/開演 17:30

11月19日(土)名古屋ell.SIZE
開場 18:00/開演 18:30

11月20日(日)大阪RUIDO
開場 17:00/開演 17:30

11月23日(水・祝)横浜BAYSIS
開場 17:00/開演 17:30

11月28日(月)Veats SHIBUYA
開場 18:30/開演 19:00

※開演開場時間の変更に関するチケットの払い戻しはございませんので予めご了承ください。
料金(各公演):前売¥3,800/当日¥4,300(*1DRINK別途)

怪人二十面奏 オフィシャルサイト