今、数多くのバンドマンたちが、自分たちが育ってきた大切な場所である目黒鹿鳴館の40周年を笑顔で迎えるためにと、同店の存続を願い「目黒鹿鳴館40周年&救済プロジェクト」に続々と参加している。今回、46バンドを収録。4枚組という長大なオニムバス盤『鹿鳴館伝説』を総合プロデューサーとして作り上げたKISAKIも、目黒鹿鳴館を語るうえで欠かせない人物であり、今回のプロジェクトを積極的に推し進めている一人だ。
振り返れば、La:Sadie’sとして目黒鹿鳴館の舞台に足を踏み入れて以降、KISAKIは、MIRAGE、Syndrome、Phantasmagoria、凛-the end of corruption world-と、すべてのバンドで目黒鹿鳴館の舞台に立ち続け、この地を大勢の人たちで埋めつくしてきた。

KISAKIは目黒鹿鳴館が30周年として2010年にJCB HALLを舞台に、2日間に渡り開催した30周年イベント「鹿鳴館伝説」にも、44MAGNUM、DEAD END、D’ERLANGER、ムック、メリー、Versaillesという錚々たる面子と共にPhantasmagoriaで出演していた。目黒鹿鳴館にはとても縁の深い男だけに、目黒鹿鳴館の40周年に一花添え、恩を返したいという想いを抱くのも、彼にとっては当然のこと。
このたびKISAKIが目黒鹿鳴館の40周年を記念し、目黒鹿鳴館の歴史はもちろん、90年代のヴィジュアル系の歴史を語るうえで欠かせないバンドたちの音源を集約した最強のオムニバス盤をプロデュースした。それが、全50バンドを収録した4枚組のCD『鹿鳴館伝説』になる。これも、KISAKIなりの目黒鹿鳴館への愛情と恩返しの形と言えようか。

目黒鹿鳴館の歩みを語るうえで、90年代のヴィジュアルシーンとの親和な関係性は欠かすことができない。
1990年代も後期に差しかかっていた頃は、それまでヴィジュアルシーンの中核を担っていたEXTASY RECORDS、FREE-WILL RECORDS、DANGER CRUE RECORDS、Tears Musicの大レーベル以外にも、新しいレーベルが続々と誕生していた時代で、noir、Anarchist Record、KEY PARTY、Soleil、Kreis、LOOP ASHなど、様々なレーベルが誕生した。
同じ時期、本作のプロデューサーでもあるKISAKIが関西を代表するレーベルとしてMatinaを設立。自身が率いたMIRAGE、Syndromeを筆頭に、Madeth gray’ll、DAS:VASSER、vellaDonna、ヴィドールなどなど関西ヴィジュアル系シーンを彩ったバンドたちを続々輩出。

細かく見ていけば、関西では心斎橋BAHAMAというライブハウスがレーベルを担いGARGOYLEやEins:Vierなどの音源を、名古屋では名古屋MUSIC FARMが黒夢やSILVER ROSEの音源を、関東でも埼玉県にある浦和NARSISが、PierrotやNALSISTの音源をリリースするなど、ライブハウスを軸としたレーベルから、個人で立ち上げたレーベルまで存在していたように、様々なバンドやレーベルが群雄割拠していた時代でもあった。
そんな中でも、常に目黒鹿鳴館は「バンドが目標とする場所」「制覇すべき聖地」としての立場を変えることなく、孤高の存在で在り続けてきた。
オムニバス盤『鹿鳴館伝説』に収録したバンドたちは、すべて目黒鹿鳴館の舞台を彩り、目黒鹿鳴館でワンマン公演を行い、この会場を埋めつくすことを夢見てきたバンドたちだ。むしろ、「目黒鹿鳴館の歩みに名前を刻んできたバンドたち」と言うべきか。
もちろん、目黒鹿鳴館を舞台にワンマン公演を行い、会場を満杯にしながら、より高いステージへ活動の歩みを進めたバンドたちも数多い。
収録全てのバンドも、レーベルも、目黒鹿鳴館で実績を作り、そこからさらに大きく飛躍することを目標に活動を続けてきた。
その「伝統」というべきスタイルは、現在もヴィジュアル系バンドたちの間には浸透している。今でも目黒鹿鳴館は、レギュラーでライブを行えることがバンドとして自信となる場であり、実力を持ったバンドという勲章を授けられる場所である。そして、この地でワンマン公演を行えることが実力と人気を認められたことの証であり、その公演を成功させたときに、ようやく実力と動員面を証明し、一人前のバンドとして活動していくための証明書を手に出来る場所であることに変わりはない。

オムニバス盤『鹿鳴館伝説』に収録した50組のバンドは、目黒鹿鳴館が最も活気づいていた90年代に、同地を彩ったバンドたちばかりである。あの頃は、連日のように様々なヴィジュアル系のイベントが行われ、リリース記念やツアーファイナルの会場としてワンマン公演なども多く行われていた。楽屋へ続く階段を降りていくと、決して広くはない二つの楽屋や廊下で、多くのバンドマンたちがヘアメイクを施しながら、出演の時を待ちながら、そこで言葉を交わした人同志が繋がり、共にシーンを活気付けようと思いを重ねあっていた。

レーベルやバンドの垣根を越えた作品を作りあげられたのも、自らの活動の歩みが、そのままヴィジュアル系の歴史を担う形に繋がり続けているKISAKIだからこそ出来た功績だ。彼の幅広い人脈と人望に賛同する人たち。同じく、目黒鹿鳴館を愛するレーベルのオーナーやバンドたちが支持の声を上げたことで、今回の作品は誕生した。同時に、1990年代のヴィジュアルシーンを活気づけてきた人たちが当時を懐古するだけではない。あの時代の輝きを追体験したい人たちが多くいるからこそ、その時代の息吹を詰め込んだ。いや、一つの時代を生々しく切り取ったこの作品が誕生した。

今もヴィジュアルシーンを活性化させようという空気はあるだろう。でも、やはり90年代時期に目黒鹿鳴館の中にあった言いようのない熱気が、ヴィジュアル系というシーンを活性化させ、後に世界的に認められるジャンルにまで押し広げた要因になっていたことを、今更ながら思い返してしまう。
あの当時の空気を、つねにムンムンとした熱気の中で過ごし続け、身体中に染み込んでいる人たちは、「懐かしさ」を胸にこの作品を聴いて欲しい。当時のバンドやシーンのことを体感していない、歴史の中にある風景として捉えている人たちは、「憧憬」としてこの音源に触れながら、あの「活気」を感じてもらいたい。

最後に。この作品も、収益は全額目黒鹿鳴館に寄付になる。失くしてはならない聖地を守るのはもちろん。これからも伝説を更新し続ける場所であるためにも、手を差し伸べていただけたら幸いだ。

(文・長澤智典)


【リリース情報】
●目黒鹿鳴館40周年&救済プロジェクト。1990年代V系シーンを賑わせたバンドが集結!
SPECIAL COMPILATION ALBUM『鹿鳴館伝説』
2020年7月20日発売
¥6,500(+税) 全50バンド収録 4枚組
PRODUCED by KISAKI(Matina~UNDER CODE PRODUCTION)

[収録バンド]
MIRAGE
Kneuklid Romance
WITH SEXY
BILLY AND THE SLUTS
merry go round
覇叉羅
La’Mule
Deshabillz
黒蝪蝶
GRIMM THE CAPSULE
堕天使
Little Vampire
S
AFTER IMAGE
DIE-QUÄR
NéiL
Ang’e∞graie
D’elsquel
[zo:diaek]
ANTIQUE DOLL
雀羅
NALSIST
Ravecraft
L’yse:nore
Madeth gray’ll
babysitter
emmurée
GRASS
Tinker Bell
ZeeD
Phobia
ZEDEKIAH
DEJAV
vellaDonna
ROSE SMELL MODE
Delasine
RONDE
7seven
CANARY
SUTH:VICIOUS
PLÈ,SÚRE
ギルト
DEFLOWER
Eye for you
賛美歌
DAS:VASSER
Cynthia
LA VALLIÉRE
SMOKY FLAVOR
MARY RUE
(順不同)

目黒鹿鳴館オフィシャルサイト http://www.rockmaykan.com
目黒鹿鳴館オフィシャルTwitter @rockmaykan