2012.11.7

TOURバロック現象 第4現象@NHKホール

 

 

今年1月にTOKYO DOME CITY HALLでのワンマンで完全復活を果たし、その後に発表した5枚のシングル全てをオリコンTOP10内に送り込んで衰えぬ人気を証明したバロックが、11月7日にNHKホールで久々のワンマン・ライヴを決行。それは“何があろうと前に進む”という強い決意のもと贈られた、バロックの新たなスタートでもあった。

 

この日のライヴは3月の“第1現象 楽しいライブハウスツアー”、4月の“第2現象 baroque初のホールツアー”、6~7月の“第3現象 激しいライブハウスツアー”に続く“第4現象”という位置づけ。2004年の解散から7年のブランクを越え、現象が進むたびに本来の“自由なバロック”を取り戻していった彼らだが、第3現象直前にはベースの万作が行方不明になるというアクシデントにも見舞われ、以降はベース不在のままライヴ活動を続けていた。NHKホールでもベース・アンプにベースは立て掛けてあれど万作の姿はなく、しかも現段階で発表されている予定はこの日のライヴ一本のみ。当然、客席にはそこはかとない不安感と緊張感が流れていたが、それは開演するや一掃された。

 

幻想的に奏でられる「style」での何かの始まりを予感させるような厳かな幕開けから、一気に「ガリロン」で弾ける3人の出で立ちは今日が初披露となる新衣装! 全員がツノを頭に(晃は帽子に)装着し、3曲目には早くも新曲「溢れるは純情」をプレイして、音と戯れるかのようなジャンルレスなサウンドがバロックの独自性を刻みつける。さらにMCでは背面からプールに飛び込んだ撮影時のエピソードでオーディエンスの心をほぐし、「Cherry King」の手拍子から「メロウホロウ」の拳へと力強い一体感を場内に生み出していくと、さらなる新曲「湿度」もお目見え。強固なダンス・ビートに圭のギターが絡む凛としたアッパー・チューンに客席は揺れ、怜に「最高!」と言わしめる。

 

「(2003年の)インディーズ・ラスト・ツアーのとき、この場所でライヴをして。復活してから、そのときのビデオを観て、またココでやりたいねって話したんだよね。意地っ張りになることもあるけど、生きてるうちにとにかくみんなと面白いことがしたいから、これからもよろしくな。ガキでいようぜ!」

そんな怜のMCに続く「我伐道」と「独楽」で沸き起こった大合唱、哀愁味あふれる「ザザ降り雨」でのドラマ性、器用にテンポ・チェンジしながら煽り続ける「tight」のタフネス、“歌おう! 笑おう!”という怜の合図で一斉にタオルが振られる「凛然アイデンンティティ」で現れた光景の美しさ――。畳み掛けられた後半ブロックで感じたのは、彼らが実に緻密で多彩な音楽センスを持ち併せ、それを聴き手に“幸福感”を与えることに用い、ゆえにファンから真に愛されているということ。だから電子音の多いエレクトロな楽曲であっても、彼らの曲は常に人肌の熱を感じさせてオーディエンスを心から揺り動かすのだ。

 

そしてアンコールの3曲目、自然とセンターに3人が集まり、銀テープと共に幸せな温かさを振り撒いた「teeny-tiny star」を歌い終えると、怜がゆっくり口を開いた。

「俺らからみんなに伝えなきゃいけないことがあるんだけど、聞いてもらえますか? バロックは一旦終わって、4人で集まって、もう二度とバロックをやめることはないって約束したから……だから“バロック現象”も止めずに続けて、万ちゃんを待って……今だってそうだよ。でも、このままじゃいけないって、3人で死ぬほど話して……正直、もうやめてしまおうかと思ったときもあった。でも、走り続けるっていうのは4人で決めたことだし、別に万ちゃんは俺らのことが嫌いになっていなくなったわけじゃない。みんな死ぬほどバロックを愛してるんだよ。そしてお前らのこと大好きだから、俺らはバロックを続けようと思ってます。3人だけど、だからって万ちゃんは脱退だとか、今後話に出さないなんてするつもりはないよ。誰よりも愛してるから、どこかで万ちゃんに会ったら“バロックに帰っておいで”って言ってやって」

 

あふれる涙を抑えながら「泣かねーよ」と強がる彼に、場内から「ありがとう!」の声が飛ぶ。それは進むことを選んだ彼らへの感謝に他ならなかったろう。そして、さらに怜は続ける。

「この3人で超面白いバロックやってやろうと思います。男ってケジメをつけたがるものだから、この曲は今日を最後に、万ちゃんが帰ってくるまで演るのをやめます。その曲が万ちゃんの場所になったらいいなと思うから……良かったら一緒に歌って」

 

そう言って演奏されたのは、バロック屈指の名曲「ila.」。スクリーンに発売当時のPVを映し出して4人の姿を見せたのは、筆者には“4人のバロック”を切り捨てずに守り抜くという彼らの意思表示のように感じられた。そのために“3人”で走ることを選んだのだと。そんな決意の滲む真摯なプレイと歌を胸に焼き付けようと、客席はジッと耳を澄ませ、目を凝らし、身体中で曲の波動を受け止める。そして「愛してるよ。ありがとう」と言い残し、ステージを去る彼らには、場内から割れんばかりの拍手が贈られた。

 

終演後は、スクリーン上にて12月12日にニュー・シングル「キズナ」がワーナーミュージックジャパンよりリリースされることが発表。そのバックに流れていた当該曲はタイトル通りの祈りにも似たひたむきな想いを謳い上げた、実に心打つナンバーだった。さらに翌月にも新たなシングルが発表されるとのことなので、続報を心待ちにしたい。

 

復活を選んだ彼らに降りかかった苦難。それは他人には想像のできないほど大きなものであったに違いないが、そこで切り捨てることも目を背けることもせず、丸ごと受け止めた彼らの不器用なほどの真っ直ぐさこそ、多くの人々から愛される由縁なのだと思う。そもそも、神は人間に乗り越えられない試練は与えないという。つまり、大きな苦難にさらされる彼らには、それ相応の強さと器量の大きさがあるということだ。苦悩と決意の果てにしか現れない、バロックが描く美しい未来――それを見逃してはならない。

 

◆セットリスト◆

01. style
02. ガリロン
03. 溢れるは純情 ※新曲
04. Nutty a hermit.
05. 曖昧ドラスチックナンバー
06. しゃがれブギー
07. Cherry King
08. メロウホロウ
09. 歪
10. exit
11. 湿度 ※新曲
12. モノドラマ
13. 我伐道
14. ザザ降り雨
15. tight
16. 独楽
17. 凛然アイデンティティ

 

ENCORE
EN01. 唄
EN02. グラフィックノイズ
EN03. teeny-tiny star
EN04. ila

 

(文・清水素子/写真・河井彩美)