デビュー30周年記念ライブを収録したBlu-rayを4タイトル同時リリースする橘高文彦と、彼をリスペクトするCazqui(NOCTURNAL BLOODLUST)、二人のギタリストの対談が実現!
2015年に行われた橘高文彦デビュー30周年記念ライブ「AROUGE」「Fumihiko Kitsutaka’s Euphoria」「X.Y.Z.→A」「筋肉少女帯」。この記念すべき4公演の圧巻のライブを余すところなく収録したBlu-rayが4レーベルより同時発売される。これを記念し、Vifでは唯一無二の音楽センスでシーンに衝撃を与え続ける橘高文彦と、彼をリスペクトし、その音楽観を継承しながらシーンに新たな旋風を巻き起こすNOCTURNAL BLOODLUSTのCazquiによる対談を実施。この日初めて顔を合わせた二人のギタリストが熱く語り合った、自らの音楽とシーンの今、そして未来に託す思いをお読みいただきたい。
◆すごく血の繋がりを感じる(橘高文彦)
――Cazquiさんは橘高さんの大ファンということで、今回の対談が実現しました。
橘高文彦(以下、橘高):本当に嬉しいです。でもね、俺は今年でデビュー32年目なんですけど、このぐらいになるといろんな方が、「橘高さん好きだったんです!」って言ってくださるんですよ。でも、どこまで本当かわからない(笑)! だから今日は、Cazqui君の本気度を確かめるために会いに来ました。
――ではCazquiさん、思いの丈をお願いします。
Cazqui:はい、自分はそもそも、過去のインタビューなどでも橘高さんのお名前を出させていただいたり、名言を引用させていただいたりしているんです。橘高さんの言葉には、NOCTURNAL BLOODLUSTというバンドや、自分というギタリストを代弁してくれているかのような名言がすごく多いんです。そして何よりも筋肉少女帯というバンドの独自性と、その中での橘高文彦というキャラクターが、どことも被らないというところが素晴らしいなと。
橘高:なるほど。俺、ちょっと変だもんね(笑)。
Cazqui:僕も変だって褒められたり、貶されたりしますね(笑)。
橘高:今回、事前にいただいたNOCTURNAL BLOODLUSTの赤坂BLITZのDVD(『銃創 AT ’15 AKASAKA BLITZ』)と、最新アルバム(『ZēTēS』)を聴いてきたけど…Cazqui君、変だよね(笑)。
Cazqui:嬉しいです、ありがとうございます。その言葉の意味は…
橘高:褒め言葉だよ。もちろん(笑)。
――変、というのは見てわかるものなんでしょうか。
橘高:わかるよ。変な者同士はお互いすぐわかる。引き合っちゃうんだよね。周りが俺たちを会わせないようにしたり、引き離そうとしても、俺たちは必ず出会う運命なの。
Cazqui:なるほど…運命だったんですね!
橘高:そう。それが今日なんだよ。あと俺、Cazqui君のプレイを聴いて、人となりは大体わかってるからね。楽器は絶対に嘘をつけないから弾く人の性格が大体わかるんだよ。俺は昔から、友達がバンドのメンバーを選ぶときに「この人とこの人、どっちがいいと思う?」って言われたら、音を聴いて「こいつはこういう性格だからこっちの人のほうがいいよ」って選んであげていたぐらいだから(笑)。ところでCazqui君は、筋肉少女帯とは何がきっかけで出会ったの?
Cazqui:中学のときに初めてエレキギターを触ったんです。その時、どうしてもギターの派手なジャンルに耳がいって、自分はへヴィメタルやハードロックが好きなんだな、と自覚したわけです。そこから国内外のバンドを一通り聴いて、日本で代表格とされるバンドを色々調べたら、そこには必ず筋肉少女帯の名前があって。そこから聴くようになりました。僕の中で筋肉少女帯というのは、れっきとした日本のメタルバンドなんです。バック陣のサウンドが完全にメタリックな技巧派で、その上に大槻さんの独特の歌い回しや歌詞が乗ることにすごく新鮮味があって。
橘高:俺もNOCTURNAL BLOODLUSTは、とっても素晴らしいバンドだなと思ったんだけど、特に親近感を覚えるのが、ヴォーカルの尋君みたいなスクリームをしたり、ちょっとデスっぽくやるところ。筋肉少女帯は語る曲が多くて、それが日本でもちょっと変な感じで扱われていたんだけど、俺は自分たちのことを元祖デスメタルって言っていたんだよ(笑)。もしくは元祖ラップメタルとかね。リズムはラップじゃないけど、AメロBメロでずっと語って、サビでガッと歌う。そういうことを俺たちは自覚なくやっていて、後になってデスメタルを聴いた時に、筋少とやっていることは変わらないなと思ったんだ。一つの時代と共にずっと研ぎ澄まされて発展してきた今のノクブラの音楽は、完成されたとこからしたら、まだまだ色んな発展の余地もいっぱい見えるんだけど、実はすごく血の繋がりを感じるんだよね。
Cazqui:そんなふうに言っていただけて嬉しいです。筋肉少女帯の独特なスタイルは当初、人からは色モノとして認知されたこともあったと思うのですが、実際のところ、ハードロックとしてある種のクラシック/スタンダードでありながらも、そこを守った上でのアバンギャルドなのではないかと思うんです。
橘高:その解釈を聞いて日本のロックは成熟してきたんだなと思った。日本人は初めて見るものを今まで見た何かに当てはめて理解しようとするんだよね。これはパンクなんだろうか、メタルなんだろうか、プログレなんだろうかって。これは僕から君たちへのエールにもなるんだけど「そんなこと知ったこっちゃねえ!」ってことなんだよね。やっているほうは初めて聴く音楽を作りたいんだよ。今のCazqui君たちは、「カテゴリーは何なんですか?」ってみんなから聞かれる時期だと思うけど、お兄ちゃんからすれば(笑)、それは褒め言葉だと思う。俺が32年やっている中で残った人たちって、結局はカテゴライズしにくかった人たちなんだよ。ジャンルがあるやつは代わりがきくし、そのジャンルの次の人がいるわけだからね。
◆誰もやっていないからギターソロを弾いてやろうというスタンスは橘高さんエッセンス(Cazqui)
――橘高さんは音楽をやる上で葛藤はありましたか?
橘高:あったよ。俺はヘヴィメタル、ハードロックの畑で、そのフォームの中を極めたいタイプの人間なんだよね。だから自分のクローンを集めてバンドを組みたくなかったの。だって、表現できるものが自分と同じ大きさになっちゃうでしょ。そこに違うものを混ぜてケミストリーを感じるものをやりたいと思ったから、バンドを組むようにしたの。でも、これはとても勇気のいることで。言うても俺たち日本人だから、やっぱり真ん中を歩いている人を見ていると眩しいわけ。横からずっと見続けていると心が折れそうになるの(笑)。こういうカウンターカルチャーやサブカルチャーがエクストリームなものになっていくんだろうけど、これにはすごく鉄のハートが必要なんだよね。これはCazqui君も同じだと思うんだ。だから、お兄ちゃんは応援するよ!
Cazqui:ありがとうございます…ここまで代弁していただけるとは、本当に感動です。我々のバンドをご存知の方へ。全て橘高さんの仰った通りなんです。実際に第一線でご活躍されている大先輩のお言葉です、受け取ってください…!
橘高:あはは! ノクブラの音楽はとても混沌としていて、でもちゃんとその混沌のトータルを見てやっていると思う。できない子が混沌になっちゃっているんじゃなくて、すごくプロデュースされた混沌なんだよ。彼らのことを知らない人がパッと見たら、「ヴィジュアル系とエクストリーム、どっちに行きてーんだよ」というツッコミがあると思うけど、Cazqui君はこれをわかった上でやっている。だから今後はもっと混沌とした作品がワールドワイドな力を持っていくんだろうと思ってとても楽しみなんだ。
――ギタリストとしてのお互いをどのように見ていますか?
橘高:実はギタリストが一番型にはまったことをやりたがるんだよね。この型のこういうプレイが上手くできますねって褒められたがるの。そういう人のプレイは押しつけがましい(笑)。でもCazqui君はそうじゃなくて、衝動的なギターを弾いていて、はみ出る感じが俺と一緒だなと思った。俺たちは五線譜じゃない感じなんだよね。五線譜きっちりのプレイも得意なんだけど、それじゃつまらなくて、抑えられない衝動にこそ魅力を感じるから、他のメンバーにもそういうのを求めてみたりする。でも、俺も未だに上手いとは言われたいけどね(笑)。
Cazqui:ステージパフォーマンス、自己演出を含めて、自分というアーティストのパッションを表現出来るギタリストなのかどうか。それが「上手い」の定義のひとつでもあると思うんです。つまりトータリティ。そういう意味でも僕は昔から橘高さんをすごくリスペクトしているんです。
橘高:ステージパフォーマンスはCazqui君も俺もクルクル回ったりするけど、回らないほうが上手く弾けるんだよね(笑)。でもライブは演奏が多少悪かろうが、やっぱりパフォーマンスでお客さんをノックアウトしたいんだよ。
Cazqui:両立は心がけていますが、ライブがCDに比べて粗いという評価があったとして、それは否定できません(笑)。
橘高:むしろ、この粗さはライブでしか出せないからね(笑)。パフォーマンスも含めてCazqui君は次世代ギターヒーローだと思うよ。今はギターソロがダサいと言われる時代で、俺もその気持ちはわかる。でも、俺は楽器をやっていない子に「ギターを弾きたい」と思わせるギタリストがギターヒーローだと思うのね。ギターヒーローとロックスターは違うという人が多いけど、俺はそうは思わない。だからCazqui君を見て、俺の思うギターヒーローが出てきたと思ったんだ。
Cazqui:自分ではそのワードを口にしないようにしてきたので、まさか僕がギターヒーロー像そのものだと考えている橘高さんに言っていただける日が来るとは思いませんでした。感動してます。僕が青春を送った2000年代というのはメタルがモダン化して、ギターソロが影をひそめた時代でした。自分がバンドで作る音楽やギターリフはその延長線にあって、メタルというよりラウドやハードコアの要素が強いんです。だからこそ、敢えてメタルなギターソロを弾いてやろうという思いがあったんですよね。きっと橘高さんも誰もやっていないからこうしよう、という思いが強くて、右へ倣えをして来なかった方だと思うんですよ。なので、このスタンスは橘高さんエッセンスだと思っています。
橘高:それが一番嬉しいな。その部分で背中を押せたとしたら、俺は本当に良かったと思うよ。