2014.9.7
己龍@TOKYO DOME CITY HALL
己龍単独巡業「暁歌水月」
「一生己龍を続ける」――そう宣言して作りあげたアルバム『暁歌水月』を引っ提げ、春から長い長い単独巡業を行っていた己龍。
その終着点であるTOKYO DOME CITY HALLで、彼らはこの日、一つの終止符を打った。
ステージを覆う幕がゆっくりと開かれると、目の前に現れたのはスクリーンに映し出された祭壇。囲むように配置された数え切れないほどの白い菊の花と、白黒の鯨幕が凛とした空気を漂わせる。
鳴り響くSEと共に喪服に身を包んだ酒井参輝(G)、九条武政(G)、一色日和(B)、遠海准司(Dr)が勢いよくステージに登場。続いて黒崎眞弥(Vo)がゆっくりとステージに姿を現すと、そこはもう彼らの独壇場だ。
千秋楽公演の幕開けはヘヴィなサウンドとファルセットが印象的な「井底乃蛙」。眞弥が強烈な言葉で客席を煽り倒し、「俺たちが己龍だ!」と高らかに宣言すると、不穏な旋律と四拍子が織りなす「靂霹ノ天青」へ。「残月」では、参輝の咆哮が響き渡る中、開始早々に会場を掌握した眞弥が思うさまフロアを操り、前に後ろに、見事なモッシュを作り出した。
熱気渦巻くTOKYO DOME CITY HALL。約3,000人のキャパを誇る会場を一つにまとめ上げる5人の手腕と、それに負けじと食らいつくオーディエンスには恐れ入る。そんな会場を誇らしげに見渡した眞弥から、
「TOKYO DOME(CILY HALL)、皆々様の血のにじむような執念もありまして、己龍は危機を脱しました。TOKYOスカスカHALLなどと言わせません!」
と勝利宣言!
ここからの勢いは凄まじく、白いスモークが噴き出す中、狂乱のモッシュを巻き起こした「鎮具破具」、扇子の華が艶やかな光景を作り出した「悦ト鬱」「朔宵」、美しいイントロから打って変って、会場が一丸となって激しい折り畳みで挑みかかる「影絵ノ鴉」。そして、そんな激しさの中でも「転倒者は起こしてやれ」という気遣いを忘れないのはさすが。
後半も目が離せないアクトが続く。「蹲」で参輝が情熱的に、そしてむせび泣くようにかき鳴らしたアコギが緊張感を呼び起こし、重く深い日和のベースが会場の空気を黒く染め上げる。
千秋楽らしくセットリストに織り込まれたドラムソロでは、准司の力強いドラムに、尺八、琴の音が美しく絡み合い、不思議な調和を生み出した。最後はマイクレスでの「うりゃー!」という渾身の雄叫びと共に火花の特攻が噴き出し、大歓声が沸き起こった。
その勢いそのままになだれこんだ「見世物鬼譚」はまさにお祭り騒ぎ! 武政の手拍子、〈わっしょい!〉の掛け声が響き渡る。
目まぐるしい展開ながら、1曲1曲、凄まじい力で繰り広げられていくステージは圧巻だ。
本編ラストを飾るのは、この単独巡業にふさわしく「暁歌水月」。
「俺たちが何故に、生涯己龍という決意表明に至ったか――お前たちと共にあり続けるためだ!」という絶叫は、彼らがこの長い長い単独巡業を通して伝えたかった思い。
銀テープが降り注ぐ中、参輝はオーディエンスに合わせて力いっぱい手を振り、笛の音が、眞弥の美しい歌声が、高く高く響き渡る。この絶景をメンバーと共に描き出して見せたオーディエンスには、彼らの思いがしっかりと伝わっていたに違いない。
この日のアンコールで、メンバーひとりひとりから伝えられたのは、心からの感謝の言葉。そして、この単独巡業を通じて、彼らがいかに前に進み、いかに多くを得、そしてさらなる高みへと進みたいという強い思いが語られた。
そんな言葉を体現するかのように、アンコールもいきなりのトップスピードでスタート。不穏なピアノがその幕開けを告げる「十三夜」、「鬼祭」、そしてラストは煌々と照らす光の下「叫声」を投下。視界を埋め尽くす一糸乱れぬ拳、響き渡るシンガロングで、この単独巡業を、有終の美で締めくくった。
美しく、雅に、混沌として深淵。己龍の世界観を存分に見せつけたステージだったが、眞弥は悔しさをにじませ、涙を浮かべるシーンも。次の千秋楽・中野サンプラザで、必ずや思いを遂げてくれるに違いない。
この日、ニューシングル『天照』のリリースを発表した己龍。「参輝節が冴えている」という作品を引っ提げ、11月からは己龍単独ホール巡業「雅神天照」で新たな一歩を踏み出す。
この日打った一つの終止符。その先には彼らの新たな物語が始まっている。
◆セットリスト◆
01.井底乃蛙
02.靂霹ノ天晴
03.残月
04.イナイイナイ
05.鎮具破具
06.悦ト鬱
07.朔宵
08.影絵ノ鴉
09.蹲
10.アカイミハジケタ
11.灯
12.見世物鬼譚
13.我眉ノ蛹ハ羽化ヲ知ラズ
14.邪一輪
15.化猫
16.愛怨忌焔
17.暁歌水月
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18.十三夜
19.鬼祭
20.叫声
(文・後藤るつ子)