sukekiyo

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sukekiyoが描き出す、より深く、より強く歪んだ異世界。強烈な個性を持った5人が放つ1stミニアルバム『VITIUM』を紐解く。

ラテン語で「不死」を意味する1stアルバム『IMMORTALIS』から11か月、sukekiyoが新たな作品をリリースする。「異常な」「欠点」「過ち」を意味する『VITIUM』と名付けられた今回のミニアルバムは、「何をするかわからないのが面白味」だという京(Vo)の言葉通り、楽曲、アートワーク、コラボレーションの顔ぶれと、あらゆる面で前作以上の驚きを与えてくれる。さらに深みと歪みを増した今回の作品について、京とYUCHI(B)にたっぷりと語ってもらった。

◆何が異常なのかはわからない、というところから広げていった(京)

――sukekiyoの2作目となる今回のミニアルバム、どんな1枚にしようと思っていましたか?

京:作風については特に話をしていないんです。話したことといえば「もっとクオリティを上げたいね」というくらいかな。

YUCHI:前作に入れなかった曲も残っていて、ゼロからのスタートではなかったからかもしれませんね。今回は、前作リリース後のワンマンライブを経て各々が掴んだ感覚とか、sukekiyoとしての未来とか、新たにアウトプットしたいものを作ろうというものが自然に出てきて、こうなったと思います。

――昨年9月には海外公演(sukekiyo 二〇一四年公演「雨上がりの優詩」(EUROPE))もありましたね。

YUCHI:海外公演をやったことは個人的にも大きかったですね。空気感やお客さんの雰囲気に刺激を受けた部分もあったし、その時にメンバーと「こういうのがカッコいいよね」「こういう要素を入れよう」という話ができて。今回の収録曲はライブをやってできた曲ばかりなので、ちょっと前作と違う雰囲気にはなっています。

――今回のタイトル『VITIUM』は、「異常な」「欠点」「過ち」と、前回の「不死」に比べるとネガティブとも取れそうなタイトルですが。

京:ネガティブな意味で付けたつもりはないんですよ。人によって持っている常識は違うから、何が異常なのかはわからない、というところから広げていったので。例えば、うちのメンバーはこの作品を「聴きやすい」「かっこいい」と思うんですけど、違う人が聴いたら難解だったり、「何じゃこりゃ」となったりすると思う。そこが面白いなと思って。

――アルバムはタイトルありきで制作されましたか?

京:いや、タイトルは最後です。歌詩の内容とか、曲の雰囲気、バンドの世界観を、トータルで聴いて付けました。完成してみたら、すごく濃厚な作品だなと。でも、本当はもう1~2曲足してアルバムにしたかったんです。残念ながら時間が1週間くらい足りなくてミニアルバムになりましたけどね。

YUCHI:曲もまだまだ残っていましたからね。

――アルバムになる可能性もあったとは、また驚異的な速さで制作されたんですね。

YUCHI:ちなみに、曲作りより、歌詩が仕上がるペースの方が早いです。アレンジとメロディが決まった次の日には本チャンの歌録りをしていたり。

京:半分以上の曲は、本チャンの歌を録りながら歌詩を書いています。「〈~を〉より〈~に〉の方が合うなー。でも意味的には〈~を〉の方がいいなー」とか考えながらじっくりできます。歌詩を先に書いてしまうと、直すのに時間がかかったりするので、その時にダイレクトにできるほうが僕はやりやすいし、自分でも新鮮なんです。歌詩を書きながら歌うから、録り終わって「こんな歌詩、書いてたんだ!」って驚いたりして。ちなみに大体朝6時半~7時くらいに録ってます。

――朝早い!

YUCHI:そうなんです。朝起きると9時くらいにデータが上がっていたりしますから。

京:「録ったからよろしくー」って送っちゃう。sukekiyoは全員バラバラの時間に動いているんですけど、僕は規則正しい生活が好きなので早朝に。歌が最初に上がっていると、みんな制作しやすいだろうなと思って。

YUCHI:それはありますね。普通はドラムを録って、ベースを録って…最後に歌、という順番ですけど、歌が先にあるとゴールが見えている感じなんですよ。

京:普通はレコーディングが全部終わってから歌を録るって言いますけど、僕、最後って嫌なんですよ。デパートとかスーパーで閉店の音楽が流れるとすっごく嫌で。まだほしいものがあっても外に出たくてたまらなくなるんです。

YUCHI:(笑)。俺たち楽器陣は、映画で言えば先にラストを観て、ラストはこうなるから、そこがより良くなるように作っている、という感じですね。

京:そういう作り方をしている人もあんまりいないので、それもsukekiyoの音が面白く転がっている一つの要因かなと。

YUCHI:デモのチューニングを間違っていないか、それだけが不安ですけどね…。

京:過去にあったな! 間違ったチューニングで歌を録っちゃって「どうしよ!」って。

YUCHI:そこだけ気を付けないといけないですね。でも、今回はそんなこともなく制作できました。

――今回はどのくらいの期間で録りましたか?

YUCHI:2か月くらいです。既に手を付けている曲があったので、アレンジ作業の方が時間がかかったかもしれませんね。

京:曲数だけで言えば15曲くらい同時にいじってましたね。曲は、前のアルバムに入れなかったものと、新しいものがあったんですけど、蓋を開けてみたら今回収録したのは新しく書き下ろした曲ばかりでした。これは偶然なんですけど、バランスを見ながら入れる曲を決めていったらこうなったというのが面白いなと。

◆爆弾を落とされ慣れてきた感じ(YUCHI)

――楽曲の制作は、いつ、どのように行われるんでしょう?

YUCHI:sukekiyoの時間軸は、ここからここまで、というより、絶え間なく続いている感じですね。

京:「みんな、空いている時間があったら作ってねー」という感じなので。で、曲が貯まったら出そうか、と。

YUCHI:それぞれ忙しい時期も違うし、きっちり決めるほうが難しいですからね。そうやっていたら、このスパンでは出せなかったかもしれません。

京:締め切りを決めて作るのが大変だとわかっているので、「ツアーが終わってゆっくりしたいのはわかるけど、空いている時間に作って。いつからいつまでっていうのはないから、自分の時間が空いている時に自由な感じで作ってくれたらいいよ」と。僕が逆だったらそのほうが絶対嬉しいから、なるべく自由にしているんですよね。

――優しい…!

京:でも「あと1週間で1曲仕上げようか!」って言っている時に、新曲を送ってくるメンバーがいたりして…。

YUCHI:(笑)

京:「え、今、新曲!? 1曲煮詰めようって言っている時に!?」とはなりましたけど、「よし。歌入れよ」と。使う、使わないはともかく、その意気込みが良いじゃないですか。その曲は残念ながら採用されなかったんですけど、かなり面白かったですよ。

――ちなみに新曲を送ってきたのは…

京:UTAです(即答)。

――やはり(笑)。

京:でも、みんなこんな感じですよ。うちは何でもありですからね。時間がない時に作りたい曲って、よっぽど作りたいんだなと思ったし、めっちゃいい曲かもしれない。1週間の間に、化学反応でもっと良いものができるかもしれない。なので僕は「全然いいよ」って言います。会社みたいに、何時から何時までとか、面白くもない部屋にこもってPCいじってくれ、じゃなくて、「周りにおもちゃでもお菓子でも好きな物を置いて、好きなように仕事していいよ! だから良いもの作ろう!」と。わかりやすく言うとそんな感じです。

――まさに部下を伸ばすリーダー像ですね。

YUCHI:そうですね。集中して作れます。何でもありですし。

京:若干の微調整はしますけど、「ちょっと違うなー」とか、「もうちょっとこっちに近寄ろう?」って言うくらいですね。本当に何でもありだったら逆に難しかったりするじゃないですか。そこを優しく「こっちだよー」って呼び寄せると。

――なんて優しい(笑)。ちなみに前回のインタビューで皆さんは「選ばれし変態」だという話が出ましたが、匠さんは“カチカチ”、UTAさんは“宇宙”で、爆弾を投下するということでした。今回の作品でもその印象は変わりませんか。

京:変わらないですね。

YUCHI:爆弾を落とされ慣れてきた感じかな。普通じゃないことに慣れたというか。でもUTAさんを始め、メンバー全員から出てくるものが濃くなっているので、それを楽しめるようになってきたのかもしれませんね。

――こう言っては何ですが、今回のミニアルバムを聴いて、変態に磨きがかかってきたのかなと思いました。

京:そうなんです。他のメンバーはみんな、今回の曲を聴きやすいって言うんですよ…。僕は、良い作品だけど前より聴きにくくなったかなと思っていたんです。そうしたら別のインタビューでみんなが「前回より聴きやすいですね」って。僕は「え!? あ、そう…なの?」と。

YUCHI:確かにそうですね。『IMMORTALIS』を作っている時は、マニアックな作品を作っているつもりだったんですけど、完成してみたら聴きやすくなったなと思ったんです。今回はもっとマニアックな感じになったかなと思っていたんですけど、できあがってみたら「…あれ? 聴きやすくなっちゃったかも」と(笑)。

京:(笑)

YUCHI:次回もがんばります。別に聴きづらいものを目指しているわけではないんですけど、もっとマニアックなものを作ったと思っていたんです。麻痺してきたのかな(笑)。

――(笑)。ちなみに未架さんは「寡黙な変態」とのことでしたが、今回はいかがでしたか?

京:ドラムのプレイ的には前よりキテるよね。

YUCHI:後半時間がなかったこともあって、未架さんが忙しい時は、僕もドラムを少しいじったんです。大抵のドラマーは、そこから自分が叩きやすいように変えるんですけど、未架さんはそれをさらにグニャッとさせて。チャレンジングだったと思いますね。実際レコーディングも大変だったみたいなんですけど。…これが普通の人から見ると変態に見えるんですかね…?

――チャレンジする方角が、やや変態寄りのような気もします(笑)。

YUCHI:僕からすると努力家というか、飛び込んでいく人に見えるんですけどね。僕自身は、前回よりもグイグイいっていると思います。個人的には曲に寄り添うように自然に取り組んでいるつもりなんですけど、ただそれだけじゃなく、少しはみ出した部分とか、こうした方が曲がもっと歪むという部分を意識して弾きました。特に「foster mother」は曲自体が結構渋いので、できるだけ今っぽくないようにしたいなと。この曲を作った時にインスピレーションで80年代くらいとか90年代初頭の空気感が浮かんだので、ちょっと古臭くしたいなと思ったんです。「celeste」は核が縦横無尽に行き来しているので負けないようにしました。普通、この色とこの色は混ぜないよね、というのを平気でやれちゃう曲だったので、じゃあ自分も変な色を持って行っちゃおうかなと。

――「celeste」はそうやって生まれたんですね。ところで、前作から現在までの間に見えてきた新たな一面はありましたか?

YUCHI:sukekiyoとしてはライブをやって見えてきた部分が大きいです。人間としてはやっぱり匠さんが…

京:カチカチ君が面白いです。

YUCHI:いろんなことに対して貪欲なんですよ。音楽以外のことに対する吸収力というか、行動力というか…半端ない。

京:生命力を感じたな。「生きる!」「俺、生きる!」みたいな。

――!?

YUCHI:黒澤明監督じゃないですけど、まさにそんな感じです(笑)。

京:すごく行動力があるんですよ。普通、何かしたいなと思っても、その前に何個か潜り抜けないといけない門があるじゃないですか。それをグワァァァッと突き抜けるというか(笑)。こいつ生きることにめちゃくちゃ貪欲だなと。それでも他がおろそかになることなく、完璧にこなした上で「俺、やりますよ」ですからね。

――かっこいい!

京:そう! 食べ物から、観光から、何から何まで「生きる!」みたいな。僕も時間を無駄にしたらあかんなと思っていましたけど、こいつはかなり手ごわいなと。

YUCHI:普通、10の内、3は諦めようとか思うじゃないですか。匠さんは10全部やりますからね。

京:何ならやる前から「10やりますよ俺!」と。グイグイ来るから「お、おぉ…やってやって…」って(笑)。それを自分のパワーに変えてくるので、見ていて面白いですね。「またやってきたの!? すごいなぁ」ってなりますから。見習わなあかんなと。

YUCHI:海外に行く飛行機で曲作り始めると思いませんでしたよね。ノートパソコンを広げて曲作りして、ご飯食べて、また曲作りして、最終的にギターの教則DVDを見始めましたからね。すごいです。

京:UTAと真逆な印象ですね。UTAは実際には違うけどイメージ的に「やろうかなー、でもちょっとー、まぁいいすかねー」みたいな感じですから(笑)。