咆哮をあげ、攻めの姿勢で駆け抜けることを誓ったThe Benjamin。バンドとしてのリスタートにふさわしい彼らの革新的作品に迫る
The Benjaminが約2年ぶりに完成させた待望のCD音源『Bark in the Garden』。前作アルバムで展開したハッピーでオシャレなサウンドから大きく舵を切り、今作には彼らの攻めの姿勢が、随所に散りばめられている。コロナ禍の2年間、The Benjaminはワンマンライブの開催を自粛し、リアレンジした過去の楽曲たちの配信を毎週行うという活動に徹してきた。この作品には、過去を見つめ直す中で見つけた自分たちの新たな方向性と音楽の可能性が惜しみなく詰め込まれている。「バンドとして2周目をスタートする」という言葉にふさわしい作品を武器に、彼らは全国ツアー、そして7周年ライブへと挑む。
これまで避けていたことから一歩踏み出した(Miney)
Vif初登場ということで、隣のメンバーの紹介をお願いします。
ミネムラ“Miney”アキノリ(以下、Miny):Mashoeを紹介しますね。彼は一番年下なんですけど、性格も演奏も歌もすごくしっかりしていて…一番口が悪いです(笑)。
ツブク“Mashoe”マサトシ(以下、Mashoe):言ってはいけないこと言っちゃいそうなので、あまり喋らないようにしています(笑)。Tackyは生真面目ですね。これをやるとなったらひたすらやり続けるタイプです。逆に言うと、それ以外は目に入らなくなる。職人みたいな人です。
ウスイ“Tacky”タクマ(以下Tacky):生真面目なんですかねぇ。
Miney:生真面目というか愚直というか…この言葉もどうなんだろうね(笑)。
Tacky:“愚”って字が入っていますからね(笑)。Mineyさんはいろんなことを手広く、しかも職人レベルでできるので羨ましいです。でも、大事な場面ではすごくしっかりしているのに、それ以外の適当さがすごいんですよ。車の鍵を刺しっぱなしにしたり、灰皿が燃えていたり(笑)。完璧すぎなくて良かったなと思います。
意外なドジっ子エピソードが(笑)。それにしても、The Benjaminはこのジャンルでは珍しい3ピースバンド、さらに全員が歌えるということで、とても革新的なバンドという印象です。
Miney:でも、元々歌えたわけではないんですよ。
Mashoe:やるしかなかったんですよね。最初、本当は5人でやりたかったんです。サポートメンバーじゃなく、正規メンバーが揃った状態でのスタートが望ましかった。
Miney:身近に、この人だ!と思える人がいて、その人が一緒にやってもいいよと言ってくれればよかったんですけどね。でも、新しい人と一から関係を築いていくのって大変だなとも思うんですよ。何しろこの3人は15~16年一緒にいるわけですからね。
これまで159曲を共に作り上げてきた3人の中に、新たに入るのはなかなか大変そうですよね。その流れで「じゃあ3人で歌うか」となったんですか?
Mashoe:そうです。とは言え、最初の頃は歌うという感じではなかったんですよ。とりあえず口から音を出すという感じでしたから(笑)。
Tacky:もう楽器だけガンガン鳴らす感じのバンドで良いじゃんと思ったりもしたんですけどね(笑)。
The Benjaminは3人の歌声が良いバランスで違うので、一つのバンドの音楽でありながら曲ごとに異なる表情が見られて、予想がつかないワクワク感があります。さて、今回約2年ぶりのCD音源リリースとなりましたが、このタイミングでのリリースを決めた理由を教えてください。
Miney:コロナ禍はまだ続いているじゃないですか。そんな中、俺たちはこのまま世の中が元に戻るまで、積極的に動いているふりをしないといけないんだろうかと思ったんです。そしてそれは、ファンの子たちにとって嬉しくないことなんじゃないかと。自分たちも含めて、心からときめくとか、ライブでたぎるとか、そういう感覚が惰性になっていく気がしたんですよ。だから俺たちが一歩先に光を作って、この状況から新しいやり方で進んでいかないといけない。そう考えたときに、CDのリリースを思いついたんです。強気の姿勢を示していかないと皆の居場所がなくなる、そう思ってこれまで避けていたことから一歩踏み出した感じですね。
The Benjaminは、2020年2月以降年内のワンマンライブを中止し、翌21年もワンマンライブは1度きりの開催と、2年間徹底して自粛していました。その状況を打破するのが今回のCD音源リリースなんですね。
Miney:そうです。最初の頃は人命や安全を最優先に取捨選択していたんですけど、この2年でみんな知恵をつけて、逞しくなったと思うんです。そこを信じて、俺らが居場所を作っておきたいなと思ったんですよ。もちろん無理をしてライブやインストアイベントに来てくれとは言いません。でも、彼女たちがいざ動き出したときに、こんなつまらない場所だったっけとは思われたくなかったんです。
ファンの方々への信頼無くしてはできないことですね。この2年は、皆さんにとってどんな期間でしたか?
Mashoe:毎週配信をやるようになって、それまでよりも練習したり、楽器を触ったりしている時間が確実に増えました。配信で過去の曲を改めてやってみて、僕たちが歌っていなかったところを歌ったり、それによってアレンジを変えたり、楽器と楽曲へのアプローチの意識が変わったなと思います。新たな発見もあったし、週1で3人が顔を合わせているので、こうやろうあれやろうというやり取りもある。そういう意味では良かったなと思います。
そういう時間は、コロナ禍以前は忙しくてなかなか確保できなかったかもしれませんね。
Mashoe:今思うと若干疎かになっていたかなと思う部分はあるんですよね。特に2020年はライブを全くやらなかったので、配信によってメンバーそれぞれが得たものがあると思います。
Tacky:これまで、僕らはマイペースでしか活動しませんよと言い続けてきたんですけど、そうは言っても、動けるときはリリースもワンマンもある程度定期的にやっていたんです。でもそれが一つひとつじっくりできていたかというと、そうとも言い切れない。コロナで良くないこともたくさんありましたけど、色々じっくり考えられる2年間があってよかったと思います。バンドが熟成するためにやっていた配信も、必要な時間だったと思いますね。
ゲームや商品レビューも配信されて、皆さんの意外な一面も知ることができましたし。
Tacky:あはは! 確かにそうですね(笑)。
CDリリースもですが、取材も久しぶりだそうですね。
Mashoe:そうなんですよ。取材をしていただけると「バンドをやってる!」と思えてテンションが上がります。あと単純な話ですけど、SNSで一つずつニュースを出せるってこんなにワクワクするんだ!と思って。チケ発があるよとか、インストアイベントがあるよとか、こういうことを久々にやってみると、バンドってやっぱり楽しいなと思いますね。
では、最新シングルについて聞かせてください。前作アルバム『Because』(2020年2月リリース)はオルタナティブ、R&Rなどの要素をオシャレに取り入れたハッピーなアルバムでしたが、今回はガラリと変わって“吠える”作品です。こういう作品にした理由は?
Miney:理由は二つあるんですよ。一つは、The Benjamin以前に組んでいたバンドの曲を、この2年間The Benjamin風にアレンジして配信する中で、若い頃の激しかったりダークだったりする曲が、今の自分たちにも意外とできるなと思ったんです。そこから楽しいなと目覚めて、今俺たちの流行りになっています。
自分たちの過去の音源がきっかけになったんですね。
Miney:もう一つは、去年1回だけやったワンマン(12月に開催されたMashoe Birthday 2部制ONEMAN「Tsubuku 36 fes」@恵比寿club aim)で、コロナ禍に作った新曲だけを並べたセットリストでやってみたんです。配信前提だったのもあるんですけど、おとなしい曲が多くて。もちろんそれは、今までの俺たちのメロディーとメッセージ性に合っているんですけど、ふと「俺たちはこのまま進んで行くのかな。こういう風に進むとちょっとつまらない音楽家になっていくような気がするな」と思ったんです。ちょっと退屈さを感じ始めたんですよね。なので、今までのファンの方がどう捉えるかわからないんですけど、いっちょ振り切ってみるかと思ってこの2曲にしました。
振り切ってみたご感想は?
Miney:意外にできたなと。強気にやろうと決めていたし、自分たちを客観的に見ても「お、カッコいいじゃん」と思えましたね。
元々持っていた3人の音楽性を、今の力量で令和版に刷新したわけですね。
Miney:そうです。音楽観としては、この15~16年の中で大きく1周したのかもしれないですね。バンドとして2周目をスタートするというか、新バンド計画のような感じです。だからこの作品は、これまでThe Benjaminを知らなかった人たちに俺たちを知ってもらえるきっかけになるんじゃないかと思っているんですよ。
新たなバンドの新たなスタートにふさわしい作品です。今回は、何曲かの中からこの2曲に絞り込んだんですか?
Miney:事前にこういう方向で行こうと決めていたので、コンセプトも含めて僕に任せてもらって決め打ちで作りました。
Tacky:最初に聴いたときは「おぉ、これでいくのか!」とテンションが上がりましたね。
Mashoe:普通にカッコいいなと思ったし、これがライブでできるんだというのが嬉しかったです。いつも、これをライブでどういう風にやろうかとワクワクするんですけど、今回はイメージがどんどん膨らんでいきましたね。
2曲ともレコーディング前にライブで演奏していたこともあって、イメージしやすかったそうですね。
Tacky:そうなんです。やっぱり1~2回でもライブでやっていると、お客さんの反応の景色やインスピレーションが意識せずとも頭に入るんですよ。フレーズを考えるのにいいなと思いました。
2月18日の“激突”@東高円寺二万電圧では「Bark in the Garden」は6曲目、「ベンガルタイガー」は1曲目でしたが、お客さんの反応はいかがでしたか?
Miney:その前の名阪で披露したときのファンの子の反応で、これは武器になるなと思ったんです。1曲目に持ってきたら、対バンのお客さんもびっくりするんじゃないかなと。しかも、俺らだけでカッコつけるんじゃなくて、ファンの子も含めてのライブ感が出来上がったので、ファンの子も含めての良い武器になったなという気持ちです。
そして今回も、恒例のBから始まるタイトルです。いつもタイトルになりそうな言葉をストックしておいてその中から選ぶそうですね。
Miney:今回もストックの中の「Bark」という言葉を使いました。でも、今までのThe Benjaminだったらあんまり使わない言葉なんですよね。ストックしたときには、犬がワンワン吠えている曲を作るときにでも使うか…くらいの気持ちでいたんです(笑)。でも今回、こういうコンセプトで進むんだったら、この言葉ですごく尖った感じが出せそうだと思って使いました。
攻めていくんだという意思(Tacky)
それぞれの楽曲について詳しく教えてください。
01.Bark in the Garden(作詞・作曲:Minemura Akinori)
この歌詞を書くに至った理由は?
Miney:このコロナ禍で俺たちは踏み出そうとしているけど、どう踏み出そうとしているか、何をすればいいのかと考えていたんです。でも具体的なものは何もなくて、前に進もうという気持ちしかない。それをありのままに書き進めていったら、箱庭の隅で吠えているだけだけど、この叫び続ける情熱を絶やさなければ、きっとその先があるなと思ったんです。それで、まずは情熱を燃やすところから始めようという歌詞になりました。捉え方によっては何もしていなくて情けないと思うかもしれないけど、それは夢を持っている人たちの始まりじゃないですか。だから、まずは自分の箱庭の中だけでも叫ぶ意味があるんだよと伝えたかったんです。
いつもThe Benjaminの歌詞カードで、文字が大きくデザインされている個所がありますが、この曲で大きくするとしたらどこでしょう?
Miney:今回は残念ながらデザイン上の問題でやっていないんですけど、大きな文字にするならAメロの〈結べばキツく 解けば虚しい ただ縺れてしまった糸〉ですね。ここは我ながらよくできたと思います。
この描写がアートワークのクモに繋がるんですね。
Miney:そうなんです。この1行を書いて、「あ、これはクモの話だな」と思って。最初は犬の話かなと思っていたんですけどね(笑)。
この歌詞は、読みようによっては恋愛の曲にも見えるのですが。
Miney:あぁ確かにそうなんですよね。〈愛した証〉って言葉も出てくるし。オーディエンスに対するラブコールでもあるので、ラブソングと捉えてもらってもいいです。
何となく「バーニングブライト」(2018年2月リリースのアルバム『ブーゲンビリア』収録曲)に近い、焦がれるような熱を感じたのですが。
Miney:お~、確かに情熱的にはそんな感じがしますね。でも「バーニングブライト」のあいつのほうがもっと自信満々なんですよ。何か一つ越えているような。でも、まだこいつはそこまで振り切れていない。そんなちょっと鬱々としている主人公が愛おしいんです(笑)。
作品への愛情が伝わってきます(笑)。レコーディングはいかがでしたか?
Tacky:ライブで先にやっていたので、フレーズはライブ感も含めて考えていたんです。楽曲自体がこれまでとは全然違うので、ギターもエフェクターも、これまで使わなかったものを使うようにしました。僕はどちらかというと渋い音が好きで、これまではこういう音楽とは違う渋さを求めていたんですけど、今回は現代的な音を意識しましたね。でも珍しく苦労はしなかったです。
Miney:今回、随所にTackyのアイデアが光っていたんですよ。聴いていて、こういうのも好きなんだなと思って。
Tacky:やってみると楽しくて。何となく倦厭していた部分があったんですけど、面白かったです。
Tackyさんの新しい扉が開きましたね。今回、Mashoeさんもこれまでとは違うエフェクターを導入したそうですが。
Mashoe:20~30年前に使っていたものを引っ張り出してきました。当時はレコーディングで使っていなかったんですけど、今回は音が合いそうだなと思って。あと、この曲の吠える部分をコーラスでやったんですが、イメージ通りの風景作りができたと思います。
Mashoeさんにシャウトのイメージが全くなくて、とても新鮮でした。
Mashoe:確かにライブでたまにやるくらいでしたからね。どれくらい喉がもつか心配だったんですけど(笑)。今回、シャウトの生々しさを出したかったので、録ったものをできるだけ加工せずに使ってほしいと思っていました。
あのシャウトの有無で、全く印象が変わりますよね。
Miney:あの曲の主役って実はあのシャウトなんですよ。ツインヴォーカル的に、レベルも後ろにせずに主旋律と同じくらいに出しているんです。もうこの曲はMashoeがメインヴォーカルってことで良いんじゃないかな。
Mashoe:(笑)。あれがスパイスとして入ることで、曲を聴きながら風景が想像できたりするのかなと思ったんです。レコーディングのたびにそういうことをイメージするんですけど、今回は違うベクトルでいけたので楽しかったですね。ライブも想定しやすかったので、この感じで攻めたら面白いだろうなと。曲調が意外だと思うので、さらにもう1歩裏切るというか。面白味を出せたかなと思います。
デジタルシングル『ボートが揺れた/ブーツを脱いで』(2020年8月リリース)の時はコロナ禍という状況を鑑みて宅録だったそうですが、今回はスタジオでのレコーディングでしたね。やはり違うものですか?
三人:全然違います!
Miney:スタジオRECが大好きなんですよ。2年前のアルバムもスタジオで録ったんですけど、予算がどれだけオーバーしてもこれだけは譲れないなと思って。コロナ禍になって宅録した時は「このまま宅録でもいけちゃうんじゃない?」と思ったりもしたんですけど、今回は普段お世話になっているエンジニアさんのところに、技術を盗みに行こう!という気持ちでスタジオRECにしました。やっぱりいいです!
Tacky:宅録をしたときは、これはこれでいいじゃんと思っていたんですけど、スタジオでギターやアンプを実際鳴らしてみると全く違いました。
Miney:宅録しかしたことがないアーティストの方々には、ぜひ経験してもらいたいです。若いバンドマンの中にはやったことがない人もいると思うんですよね。
Tacky:すごくいいよー! 楽しいよー!と言いたいです。
Miney:感動が違うというか。レコーディングは空気を録るわけですから、当たり前なんですけどね。おすすめします。
Mashoe:相性のいいエンジニアさんと巡り合えたら最高ですよ。こういう曲をやりたいと伝えると、「こういう方法があるよ」「こういう風にやったらいいよ」って自分たちの知らないことを教えてくれたりするので。そうすると楽曲がやりたい方向に行ったりしますし。
Miney:でもそれが一番嫌って人もいるのかも。コミュニケーションの取り方がわからないとか、緊張するとか、何て伝えたらいいかわからないとか。でもこっちにヴィジョンがあれば話ができるんですよ。作品の明確なヴィジョンがないとエンジニアさんも、何がやりたいのかわからないなぁと思っちゃうんじゃないかな。
明確なヴィジョンをもっていれば、それをより良くしてもらえる可能性があるぞと。
Miney:そうです。ただ、スタジオレコーディングは面倒くさいですよー。機材を運んだり、車を駐車場に止めたり(笑)。
Mashoe:ヘトヘトになって帰宅しますからね。
Tacky:効率的か非効率的かと言われると非効率なのかもしれないけど、得るものはそれを上回りますよ。今、エンジニアさんたちもコロナ禍で仕事が減って大変です。廃業されたら大変なので、アーティストの皆さん、レコーディングはぜひスタジオで!