PENICILLIN

他の人のアイデアが入る自由度がないとPENICILLINの場合は面白くない(O-JIRO)

O-JIRO

コロナ禍が続く中で迎えた30周年ということが作品作りに影響を与えた部分はありますか?

千聖:2020年のコロナ禍の初期の頃は、人数制限があって集団でスタジオに入ることができないから、レコーディングも撮影も全部キャンセルさせられたりっていう物理的な影響はあったけど、曲に関しては特に何もないかな。急に俺がクリアサウンドで勝負するような人間にはならないし、ジローさんがワンバスになったりはしないし(笑)。

(笑)。例えば、今までと全く同じ形でのライブが難しい状況の中、いわゆる暴れ曲みたいなものを作るモードにならない…というようなこともなかったと。

HAKUEI:全然なかったですね。速い曲も作っていたし。

O-JIRO:いずれコロナがなくなれば、もちろんまた前のようにやりたいし、自分たちがセーブするという考えはない…というか、曲作りするうえでコロナ云々は何も考えてないですね(笑)。

千聖:「そういう雰囲気じゃねーんだよ」ではなく、関係なくやるもんね(笑)。無観客配信ライブでも激しい曲をやってたし。むしろ配信だけでも皆ノッてほしいなという気持ちのほうが強かったですね。

HAKUEI:無観客は無観客なりに、客席に降りていってカメラに向かって歌ってみたりとか、今できることをやろうと。僕らの熱量が伝わるといいなという思いで、工夫しながらやっていましたね。

歌詞の世界観という部分では、既存の4曲ありきで統一感を持たせたところもあるのかなと感じました。

HAKUEI:お、本当ですか。

「パライゾ」は『失楽園』を題材に書いた歌詞ということですが、作品全体を通して〈神話〉〈神〉〈悪魔〉といったワードが散見されますし、例えば「憂鬱と理想」と「heartbeat」は近いメッセージ性を感じたり、「パライゾ」の〈不完全変態〉と「LIVING DOLL」の〈最終変態〉というワードのリンクや、「Screaming Dead」に〈悪魔の狭間の楽園〉とあったり、他と毛色が異なる歌詞の「Social Networking Suicide」の中にも〈禁断の実〉というフレーズが入っていたり。

HAKUEI:割と全曲が同じような世の中の状況に置かれている時に書いたものだからリンクするんでしょうね。自分ではそんなに意識していないです。ただコロナ禍とか、自分が置かれている状況、情勢がやっぱり歌詞には影響しちゃいますよね。その中で生きている自分の気持ちは切り離せないので、どちらかと言うとそのジレンマやフラストレーションを吐き出すという方向になって、それを聴いている人たちに共感してもらおうみたいな。それと今回は30周年を迎えての新作なので、PENICILLINというバンドの存在と向き合ってみるような雰囲気だったり、自分はこうやってきたけど、これからはこうなっていくのかなとか、そういうリアルな気持ちが反映されていると思います。

それこそ「Time Machine」は、今のHAKUEIさんが学生時代の自分自身に歌っているという意味合いも含まれているのかなと。

HAKUEI:何となくこういう歌詞になっちゃたんですけど、すごく浮遊感のある曲で、聴いている人に物語を読み聞かせているような感じで。それが僕らのストーリーだったり、聴いている人のストーリーかもしれないけど、そういうものとリンクするような。この音楽を聴く人は少なからず僕らに興味を持ってくれて、手を差し伸べてくれている人なので、その繋がりって奇跡に近いものだと思うし、そういうところにロマンや可能性、夢を感じちゃうかなという感覚ですね。

しかも「border line」で〈あと数ミリ未来に手を伸ばそう〉と歌っていて、「Time Machine」で〈此処は少しだけ先の未来?〉〈ためらわずに手を伸ばしてみました〉と歌っている、この繋がりも実に美しいです。

HAKUEI:しっかり読んでいただいて、ありがとうございます。

ところで、『九龍頭』のインタビュー時に「砂漠のバシリスク」について「これはDTMの恐ろしさで、もしバンドでせーので合わせたら流れと雰囲気を読んじゃうから、こういう構成にはならないと思う」という話が出ましたが、今回そういうものはありましたか?

千聖:自分が原曲のものに関しては、頭の中で大体の完成図が見えているというのはよく話していると思うんですけど、HAKUEI君やジローさんが作ってくる曲は「こういう感じでどう?」というアプローチが来てからギターを弾くので、俺の中ではそれがセッションぽいんだよね。昔のように実際スタジオでせーので合わせているわけではないけど、ディスカッションして作るというのが、むしろこのバンドの良さだなと思っていて。それぞれ別々に叩いて、弾いて、歌って、終わりというのもできなくはないんだけど、それをやらないで皆で話をして合わせるという。

なるほど。

千聖:二人がいる緊張感があるからこそ出てくるアイデアもあるんですよ。自宅でやると2〜3時間かかっちゃうことも、二人がいるとなぜか30分で終わっちゃうこともあったり。例えば今作で言うと「LIVING DOLL」や「Screaming Dead」は完全にセッションぽく作っているので面白いですね。「Screaming Dead」はジローさんが「こんな感じどう?」と持ってきた曲に対して「こんなギターどう?」という話ができたり、HAKUEI君が作った「LIVING DOLL」をジローさんが色々まとめていて、俺が「こういうのやってみよう」と言ったり、そういうふうに話し合ってできるのが面白いよね。「パライゾ」や「Time Machine」「憂鬱と理想」は俺の中では作っている段階で未来が見えちゃっていて。もちろんHAKUEI君の歌とジローさんのドラムによって、さらに洗練されてカッコよくなるけど、セッション的な面白さは自分以外の人が作った曲のほうがあるよね。

O-JIRO:最近は、原曲者が持ってきたものをなるべくそのまま、より美味しく料理するという方向が多いから、例えば、本来の理論上はこっちのコードでも、このコードでいきたいということは、この解釈なんだなということをデスクトップだと目でわかるじゃないですか。人が何をやっているかわかるし。昔は自分の好きにやるから、人が何をやっているかあまりわからなかったんですよね。それができるのはDTMの良さでもあるんですけど、洗練され過ぎて勉強チックになっていっちゃうこともあるから、あまりガチガチに作るよりは、どこか他の人のアイデアが入る自由度がないとPENICILLINの場合は面白くないなと。

バンドの醍醐味ですね。

O-JIRO:ここのメロディーに対してはこういうニュアンスが欲しいという部分は大事に作りましたね。例えば、怪しい感じがいいのであれば「これはまだ変じゃないよね。もっと変なほうがいいよね」っていう変なジャッジになっちゃうんだけど(笑)、書いた人のイメージになるべく近付けるようにしているのが最近のやり方です。昔は結構直したりしていましたけど。

そうなんですね。ちなみに、個人的には「Screaming Dead」がO-JIROさんというのは少し意外でした。大人な雰囲気もありつつマニアックで個性が強い1曲ですね。

O-JIRO:ちょっと変わった曲を作ろうと思って。でも、実はこれ自分の中ではそんなに推しじゃなかったんですけど、HAKUEIさんがやろうと言ったんですよ。

千聖:それもセッションの一つだよね。やってみるとこっちのほうが面白いとか、ギターをくっ付けてみたら、さらにいいねとなったり。

HAKUEIさん原曲という「LIVING DOLL」は、逆にO-JIROさんかと思っていました。

O-JIRO:ダッダッダッていうキメのところは結構好きですね。

HAKUEI:あー、確かにキメはジローさんぽいな。

O-JIRO:自分がやりそうだなと思っていましたけど、このキメのアイデアもHAKUEIさんなんですよ。

千聖:お互い影響し合っているのかもね。

O-JIRO:歌のメロディーのラインとかは完全にHAKUEIさんですね。

HAKUEI:これは落ち着きのない曲を作りたかった(笑)。ていうか、バンドって曲の雰囲気とかも変わっていくと思うんですけど、結成したばかりの頃ってあまり考えないでやっていたと思うんですよ。PENICILLINって過激で派手で、グラマラスな感じで攻撃的なサウンド、でもメロディーはキャッチーみたいな、そういう当時の感覚を思い出して。それでも30年経っているので当時と全く同じものにはならないでしょうし、今のサウンドで、そういうワチャワチャした感じのものをやったらどうなるのか興味があったんですよね。

まだ何かやってくれるんじゃないかという期待もあって(千聖)

作曲が一番難産だったもの、アレンジでの変化が一番大きかったもの、録りで一番色々試したもの…という三つの観点で言うと、それぞれ違う楽曲でしょうか?

O-JIRO:意外と色々やってみたのは「LIVING DOLL」かもしれない。

千聖:うん、これが一番料理してるよね。

O-JIRO:Aメロを変えてみようかとか、ここはもうちょっと長くしようかとか、ブレイクを短くしたらどうだろうとか、ここに2/4拍子を挟んだらカッコいいかもとか。

HAKUEI:A、B、Cメロのベーシックなアイデアを出して、ジローさんにコードとかを手伝ってもらったものを皆に聴いてもらった瞬間に、千聖君から「ここのメロをここに持ってきて、譜割りをちょっと抜いたらいいんじゃない?」とか具体的なアイデアがどんどん出てきて。こういう作り方って最近なかったなと思いました。僕がすぐメロディーを展開しようと思っていたところに、バンドでガツガツガツと押すようなキメが入ったり、最初はそのつもりじゃなかったから「あれ?」と思ったんだけど、聴いているうちに絶対こっちのほうがいいなと。そういう感じでどんどん変化して曲になってくれたのが面白かったですね。

千聖さんは曲作りが難産だったものはないですか?

千聖:あまりないな。全部頭で描いていたものができたので嬉しいです。

O-JIRO:うちの場合は曲を提出する締切があるので、ミスター的に難産があるかもしれないけど、ある程度イメージにストックがあれば形にして、ちゃんと期日に出してくれるんですよ。

千聖:例えば、こういう曲にしようと1週間前に考え始めて、結局蓋を開けてみたらちょっと違ったということはあった。確か「heartbeat」はそれで、元々はもうちょっとテンポも遅くヘヴィーにしていたんだけど何か合わないなと思ってテンポを上げたりして、結果こっちかと自分で思ったけどこれはこれでアリだなと。「憂鬱と理想」に関してはスムーズにどんどんできちゃって、「Time Machine」が作っていて一番面白かったね。今年の頭に真冬のキーンとした寒い中で作っていて、光が見えた時の美しさを出したかったんだよね。でも、春の日差しを感じるのもアリだなと思って。曲調から考えるのではなくて、光が入ってくる感じという視覚的な雰囲気から作りたいなと。それでキーボードに当ててみて、これにどうメロディーを乗せようかなとか自分の中で色々試しながら作りました。

数年前に千聖さんは視覚的なものから曲が作れることがわかってきたと言っていましたよね。

千聖:そうそう、ダリの絵から「記憶の固執 ~融けゆく時間~」(『瑠璃色のプロヴィデンス』収録)を作ったりね。それを久々にやったかな。さらに「Time Machine」は歌詞が連動した時に希望に満ちた雰囲気、ノスタルジックな感じが上手く出せたなと思ったので、HAKUEIがそのイメージを感じ取って書いてくれたのかもしれない。だからこれもお互い影響し合っているセッション的な感じが良いですね。

ちなみに「憂鬱と理想」はPENICILLINならシングルにもなり得る曲調だなと感じました。

千聖:実はこれも推し曲になりそうだったんですよね。歌はクールでドラムはガンガン押していってギターはヘヴィーみたいな、それこそ理想の形で、でもサビは聴きやすいよねという。

まさにPENICILLIN節ではないでしょうか。そして、通常盤のみ「カルマ」がボーナストラックとして収録されています。

千聖:これは今年の頭に作っていて、実はPENICILLINの曲としてではなく楽曲提供したものなんですけど、色々あってうちが先に出ることになりました。

HAKUEI:つまりセルフカバーになる楽曲なので、ボーナストラック扱いなんです。

O-JIRO:PENICILLINバージョンが後に出る分にはいいんですけど、先に出ちゃうのは大丈夫かなと、ちょっと心配になっちゃいますよね。しかもこの曲、歌も結構難しいと思うんですよ。だからHAKUEIさんじゃない人が歌った時に、どう歌い上げるのかなと。

HAKUEI:歌詞はもちろんメッセージ性と完成度はちゃんとしたうえで、これを歌う方と作品テーマに合うような言葉の乗せ方をしたつもりなんだよね。だから自分が歌うように書いた歌詞ではないんです。

そうなんですね。さて、11月23日から全国ツアーがスタートしますが、新曲がセットリストの大半を占めることになるであろうライブも久々ですね。

HAKUEI:ぶっちゃけまだ見えてないですけど、まずは曲を聴き込むところからですね。

O-JIRO:1回やるのと10回やるのとでは曲の育ち方が違うから、ツアーという形でできるのが良いですよね。それがここ最近味わっていない楽しみの一つですね。

千聖:とにかく大阪や名古屋にライブで行けるというのが良いな。企画ライブも良いんだけど、1回でおしまいになっちゃうから、ツアーで反芻して楽しみたいんだよね。

O-JIRO:曲が自分に入っていればもっと出せるんだけど、どこか抑えちゃうというかアクセルを踏み過ぎて間違ってしまう恐れをビビるという(笑)、そういうのじゃなくて何も考えなくてもできるくらい体に染み込めたらいいなと思います。

最後に、これからのPENICILLINはどんなバンドでありたいですか?

O-JIRO:見ている方向はその都度皆で決められるバンドでありたいなと思います。何か大人の事情が絡んできたりとかで曲げたくなくて、自分たちが単純にカッコいいと思えることをやっていく、それってシンプルだけど意外とできないことなのかなと思うので、CDを作ったりライブをしたり、シンプルですけどそういう活動がちゃんとできたらいいなと。あと…膝が痛いとかならないといいな(笑)。

HAKUEI:もちろん全力でやっているし良いものを作っている自負はあるけど、まだそれぞれのポテンシャルを出し切って完成しちゃったとは全然思えないので、これが自分たちのMAXではないなと。そこはまだ見えないというか。それが僕自身の原動力にもなっていると思うので、逆に完成してしまったらつまんなくなるのかもしれないし、またちょっと違う感覚になるのかわからないですけど。そういうふうに思えているうちは、少しずつでもバンドとして進化していけるといいなと。それが感じられなくなったらヤバいなと思うので、しっかり一歩ずつ進んでいきたいと思います。

千聖:やりたくてやっているわけなので、やりたいことをあまりにもできなくなってきたら、それは何のためにやっているの?という話になる。だからなるべく原点に返って自分たちがやりたいことをと思っていますね。バンドって30年もやっていると当たり前になるんだけど、当たり前じゃなくて。最初に組んだ時のすごくウキウキしていた気持ち、バンドでライブをやるという初期衝動みたいなものはより強くなるべきだと思っていて。だらける時期もあったし、「なんでバンドをやっているんだろう?」と思う時期も人によってはあったかもしれないけど、それを乗り越えてきたからこそ楽しいなと思えるバンドにしたいんだよね。そうじゃないとやっている意味もないし。自分たちが辛い思いをして、お客さんだけを楽しませようというのじゃダメだから、皆が楽しめるような雰囲気でいきたいというのはありますね。音楽の良さってそこなんじゃないかなと思って。

関わっている全員が楽しいと思えるものに。

千聖:例えば、先ほど話した「LIVING DOLL」で俺が「こういうのどう?」と言った時のHAKUEI君の顔は忘れないし、ジローさんが「こうしてみたい」と言って俺やHAKUEI君が「そうだね!」となった時の顔も忘れない。こういうのがバンドなのかなと思う。30年以上やっているバンドって少ないから俺たちもどうなるかわからないけど、楽しみではあるよね。自分に対してもメンバーに対しても、まだ何かやってくれるんじゃないかという期待もあって。人から刺激をもらうのであれば、こっちもあげなきゃいけないから、まず自分がどうあるかというのを考えなきゃダメだとは思う。とにかくこれからが楽しみです。

(文・金多賀歩美)

PENICILLIN

HAKUEI(Vo)、千聖(G)、O-JIRO(Dr)

オフィシャルサイト

リリース情報

New Album『パライゾ』
2022年11月2日(水)発売
(発売元:Hysteria/販売元:Sony Music Solutions)

[初回生産限定盤](CD+多頁ブックレット)PHY-19003 ¥3,300(税込)

[通常盤](CD)PHY-19004 ¥3,300(税込)

収録曲
  1. 憂鬱と理想
  2. heartbeat
  3. パライゾ-30th ver-
  4. LIVING DOLL
  5. Screaming Dead
  6. 想創シンドローム
  7. border line
  8. Social Networking Suicide
  9. Time Machine
  10. カルマ(※通常盤のみボーナストラック)

ライブ情報

●PENICILLIN 30th anniversary TOUR『パライゾ・マスター』
11月23日(水・祝)HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3(※QUARTER DOLL会員限定)
11月27日(日)新横浜NSB
12月3日(土)柏PALOOZA
12月10日(土)名古屋Electric Lady Land
12月11日(日)梅田Shangri-La
12月16日(金)Spotify O-EAST【HAKUEI BIRTHDAY LIVE】