PENICILLIN

待望のフルアルバム『パライゾ』に見る結成30周年を迎えたPENICILLINの形。僕らは明日も生きてゆく――

今年30周年を迎えたPENICILLINが、満を持してフルアルバム『パライゾ』を世に送り出す。流通作品としては3年ぶり、フルアルバムとしては実に8年8ヵ月ぶりのリリースとなる今作に収められたのは、刺激的であり続けるバンドPENICILLINの最新型サウンド全10曲(初回限定盤は9曲)。Vifインタビュー3年ぶりの登場となる3人に、待望の新作の制作秘話はもちろん、30周年を記念して今年開催してきた「The Time Machine」シリーズライブ、バンドの30年と今後についてたっぷりと語ってもらった。


ある種、前よりも過激になっているような気がする(千聖)

千聖

3年ぶりのVifインタビュー登場ということで、まずは3年前に話していた2019年11月〜2020年11月に達成したいことの結果を伺いたいと思います。O-JIROさんはHAKUEIさんの携帯ストラップを作るということで、確か2019年12月時点で早くも達成していたような記憶があります。

O-JIRO:作った! 誕生日プレゼント的な感じだったような。ちゃんとHAKUEIさんと打ち合わせをしながら、良い長さ良い重さで作ったので。

HAKUEI:他の場でトークのネタにもなって優れものです(笑)。

千聖さんはチューナーがなくなったから買うと。

千聖:買ってますね。買わないとヤバいから(笑)。今もそれを使っています。

HAKUEIさんは自宅にある包丁がよく切れないので、買うか研ぐかして、タンタンタンタンッと速切りできるようになりたいということでした。

HAKUEI:買いました! でもそれがもう切れません(笑)! 結構良いやつを2本買ったんだけど、2年くらい経つと切れなくなるんですよね。

O-JIRO:やっぱり研がなきゃダメでしょ。100円の包丁でも上手い人が研げば相当切れるらしいよ。包丁を研ぐYouTubeとか結構好きで見ていたんだけど、面白いんですよ。

千聖:あー、好きそうだね。

HAKUEI:買ったばかりの時は本当に速く切れるし、トマトとかもサッサッサッと切れるんだけど、もう今はネギを切るのに潰す感じですよね(笑)。

(笑)。何はともあれ3年前に話したことは皆さん達成できましたね。

千聖:はい、良かったです(笑)。

さらに遡りますが、Vif初インタビューは20周年記念のメンバー選曲ベスト盤『PHOENIX STAR』(2012年12月)の時だったので、あれから10年経つことになります。

千聖:なるほど。もう10年のお付き合いになるんですね。

O-JIRO:おお。

長らくお世話になっています。

HAKUEI:こちらこそ。

2013年の20周年ファイナル渋谷公会堂公演のライブDVDリリース時にはHAKUEIさんの単独インタビューを行いましたが、「これからのPENICILLINはどんなバンドでありたいですか?」という質問に対して、「アーティストって長年やってるとどんどんシンプルになっていく傾向にあると思うんですけど、僕は絶対そうなりたくないなと思ってます。常に自分でも刺激を感じながら刺激を与えられるような、『落ち着いたね』って絶対言わせないような、そういうバンドであり続けたいです」と話していました。20周年から30周年の10年間の自己評価はいかがでしょう?

HAKUEI:難しいですね。劇的に何かが変わったということは正直ないと思うんですけど、こうして続けられているのは自分の中で納得して進んで来られているということだと思うので、ありがたいなと。そうやって続けられているメンバーであり、ファン、スタッフ、関わっている皆さんにすごく「ありがとう」という感じですね。

O-JIRO:落ち着いた感じになるのは嫌だなというのはもちろんありますね。自分たちがやりたいことを我慢せずにガンガンやっていける体制がしっかりあれば、それは自分たち自身にとって刺激的なことなので、絶えずそれができているということは良いことだなと。逆にそこが変わっちゃうとつまらないし、やっぱり何年やろうが自分たちが楽しく刺激的に思えることをできるのが大事だから、変わらないでできていることも大事なのかなと思いますね。今は色々なジャンルで色々なデビューの仕方をしている人がいますけど、僕らは僕らのやり方で進んで来られているから、それはありがたいことだし、支えてくれる人もいっぱいいてできていることだと思います。

千聖:個人差もあるかもしれないけど、俺的にはある種、前よりも過激になっているような気がするんだよな(笑)。昔より音楽も尖っている気がするし、メンバーがやりたいことをより追求できていると思う。若い頃はメディアに出る時にも皆、気合いが入り過ぎちゃって力んでいたような気がしたんだけど、今は普段っぽいノリの中でも刺激的なものができるというか。まぁ元々刺激的な仕事なので、続けている時点で結構な刺激だと思うんですよ。その刺激を自分たちが求めているのか、より一層濃く追求できている感じがしますね。あと、今は色々なことを自分たちでやっているから、若い時よりも一つひとつのクオリティが高くてカッコいいなと思うことが多いです。

20年と30年では重みは違うものですか?

千聖:バンドって10年やるのが結構大変で奇跡的なことなので、それを超えるとあまり変わらないところもあるよね。ただ、最近20周年を迎えるバンドを見ると「ふっ、甘い」と思うこともある(笑)。とは言え10年でも20年でも、やっているバンドはスゲーなと思いますよね。

今年は4月の関東サーキットと、9月のO-JIROさんバースデーライブ「とのさまGIG」2days、10月の千聖さんバースデーライブ「ROCK×ROCK」2daysで、過去ツアーのセットリストを再現する「The Time Machine」シリーズのライブを行ってきましたが、再現が一番大変だったのはどの回でしょう?

O-JIRO:20周年の時は全アルバムをライブでやったじゃないですか。あの時は2daysで1アルバムずつ、1ヵ月に2アルバムだったんですよね。でも今年の4月に関しては、1ヵ月に4アルバムみたいなものだったので、こっちのほうが厳しいぞと(笑)。「とのGIG」と「ROCK×ROCK」も日が近いところで4アルバムだったし。昔のセットリストだから楽勝かななんて最初は思っていたんですけど、意外とそんなこともなくて。今やってみると、普段もやっている曲でも繋ぎ方が渋い部分があったりして(笑)。こういうふうにやっていた時があったんだなと振り返ることができたのは、すごく楽しかったですね。

特定の1本がどうこうというよりも、全体としての大変さがあったんですね。

O-JIRO:とにかくライブがやりたくて勢いでやっていた頃と今ではやっぱり違って。今は流れを大事にしたいなということを考えるようになったから、どうしてもこの激しい曲の後にこのテンポの曲に入るのは忍びないなぁみたいな(笑)。そういうふうに全体で考えることが多かったですね。

HAKUEI:特に10月2日にやったアルバム『Limelight』(1997年発売)の時の「mouth to mouth」ツアーの頃の持ち曲数って、今のPENICILLINの1/10くらいだったんですよね。だから、当時この曲はこういう使い方をしていたんだなとか、そういうのは違和感がありながらも、ライブをやりながらその頃の感覚を思い出せて、過去の自分たちに遭遇したような不思議な感覚でした。大変というよりは、不思議な気持ちになれた良い企画だったなと思います。

曲が増えるに連れて、過去の曲たちの立ち位置が変わっていくわけですね。

HAKUEI:言われてみればそれが当然なんでしょうけど、こういう実感の仕方ってなかなかないので、良い振り返り方だったなと。

千聖:「The Time Machine」シリーズよりもリクエストライブ(8月7日開催の30th anniversary ファン感謝「祭」2022@Veats Shibuya)のほうが大変だったよね。

HAKUEI:あっ、それが大変だったな!

千聖:「バラードばかりリクエストしないように」とファンの人たちに言っていたら、今度はその曲が来るか!?という感じの(笑)。

HAKUEI:本当にこの並びで盛り上がるの!?って(笑)。

千聖:それにしても、「mouth to mouth」ツアーの再現の時は青春時代を思い出したというファンの人の感想がすごく多かったんですよね。やっぱりやって良かったなと思いましたね。

O-JIRO:その当時のPENICILLINを知らない人もいっぱいいたしね。

千聖:俺たちが「これで大丈夫なのかな?」と思っていても、お客さんからしたらそれがすごく良かったという感じなんでしょうね。そういう意味ではそれぞれ思い入れが違うんだなというのが面白かったですね。

30年経った今の僕らの形(HAKUEI)

HAKUEI

流通作品としては2019年11月のミニアルバム『九龍頭 -KOWLOON HEAD-』以来3年ぶり、フルアルバムとしては2014年3月の『瑠璃色のプロヴィデンス』以来8年8ヵ月ぶりのリリースとなる『パライゾ』ですが、30周年で満を持してフルアルバムの完成ですね。

O-JIRO:色々と考えた結果、30周年なのでフルアルバムという形がいいねと。今年出すことが大事だし、色々やりながらも何とか完成したので嬉しいですね。やっとできたかという感覚はすごくあります。

2020年には『pulse』『impulse』、2021年には『Utopia』『Euphoria』と、受注生産限定でのパンフレット付きCDという形態で音源をリリースしてきましたが、その4作品から1曲ずつ今作にも収録されていることも踏まえると、この3年間の活動の集大成、一つの区切りみたいな感覚もあるのでしょうか?

千聖:結果的にそうなったというのはあるよね。2020年の春は、流通に乗せて発売してもインストアイベントもツアーもできない状況だったので、色々と模索した中で受注生産をやってみたわけです。今回3年ぶりにアルバムを出そうということになって、最初はミニアルバムでもよかったんだけど、やっているうちにフルアルバムでもいいんじゃないかという意見が飛び交って、皆に「待たせたな!」という感じでカッコいいものが出せればと。この3年、関東以外でライブをやっていないので、久々にPENICILLINでツアーに出られるのが嬉しいですね。

『Utopia』収録曲でもあった「パライゾ」が今作のリード曲になり、作品タイトルにもなった経緯を教えてください。

HAKUEI:僕が結構推しました。30年経った今の僕らの形というか、過去にあまりこういう曲がなかったんですよね。これくらいのテンポで迫力があってムードもあるような、バンドを組んですぐの時代の僕らには出せなかったような重厚さというか。そういうのがイレギュラーなアルバムの中の変化球ではなく、ど真ん中にいるような雰囲気の曲だなと思って。もちろんどの曲も一生懸命作りましたけど、これが一番リード曲として前に出たほうがいいなと思って提案しました。

HAKUEIさんのヴォーカルの良い部分が最も出るタイプの曲ですよね。

千聖:自分が作った曲をHAKUEIがこれだけ推してくれるのは嬉しいことですよね。3/4拍子というのは4/4拍子とはまた違った楽しみ方があって、しかもちょっとゆっくりめで重くカッコよくいけるというのが良い。全体的に大きいノリでできたので、良い意味でのシンプル感は出ているよね。無理していないというか。結成当初や、もう少し後くらいだと、色々なことをやり過ぎてしまうかもしれないけど、そういうのが全くないストイックな曲だなと思います。PENICILLIN自体が最近そういう傾向が強いですよね。あまりゴチャゴチャ入っている印象がない。そこはすごく感じますね。

既存曲のタイトルがアルバムのタイトルになることはなかなか珍しいなと思ったのですが。

千聖:そういえば昔、「ロマンス」が入っているアルバム『Ultimate Velocity』(1998年発売)の時に、レコード会社から『ロマンス』というアルバムタイトルがいいんじゃないかと言われて、HAKUEIがすごく怒っていたのを覚えてる(笑)。

HAKUEI:そうだね(笑)。

千聖:それが今回『パライゾ』になったというのは面白いね。まぁでも、リード曲がアルバムのタイトルになるのは全然おかしくないと思います。

HAKUEI:「ロマンス」の時は、「ただ商売っ気だけ出して安易に提案してくんな、バカヤロウ」と思って(笑)。今回「パライゾ」を僕が推したようなちゃんとした理由があればいいんだけど、「この曲売れたから、これタイトルでどうすか」みたいなのは「ふざけんなバカヤロウ」っていうことですよ。

千聖、O-JIRO:(笑)

確かに(笑)。では今回、リード曲や作品タイトルは他に候補は出なかったのでしょうか?

O-JIRO:HAKUEIさんが「パライゾ」を推してきて、MVも撮って、タイトルもこれでいいんじゃないかという流れで全く違和感がなかったんですよね。今回のアルバムイメージから無理やり皆の共通項を編み出して何か言葉にするよりは、これが自然だったんじゃないかなと思いますね。「パライゾ」をアルバムの主軸に掲げてやっていこうということに対して違和感もなかったし、前の曲を入れたという意識も全然ないし、今のPENICILLINを表現するのにすごく良いんじゃないかという自然な形でした。

千聖:『パライゾ』って天国って意味だしね。

O-JIRO:MVを撮る時も、新曲じゃないから曲に入り込めるんですよね。既にライブでやっているから曲が体に染み付いているところもあって。新曲だけのアルバムではなくて、既にある曲がそこに入っていくという順番はやっぱりいいなぁと。昔なかなかCDを出せなかった頃は、ライブでずっとやってきた色々な曲たちが後にようやく形になるから、それは良いものになりますよね。そういう感覚は今もあります。

今作収録の「パライゾ」は「-30th ver-」となっていますが、以前との違いを教えてください。

千聖:トラックダウンをやり直しました。

HAKUEI:基本的なアレンジは変わってなくて、最初に出した時から少し時間も経ったし、他の新曲たちとの音質を合わせた形ですね。

O-JIRO:でも、一応オーケストラアレンジがプラスされています。アウトロの最後にウワーンっとすごくよく聴こえる部分があって、そこはわかりやすいと思いますね。あと、Aメロもよく聴くと雰囲気が違う。

千聖:曲全体の印象は変わらないけど、聴き比べると違いがわかると思いますね。

HAKUEI:よりドラマチックに、ちょっとゴージャスになっているかな。