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keinのメジャー2作品目となるEPが遂に完成。記憶に残る五つの収録曲、その魅力を紐解く――

keinの新たな作品『delusional inflammation』が完成した。“妄想による炎症”をコンセプトとした今作だが、テーマとして“メジャー感や抜け感”を掲げ、制作にあたったのだという。「各々の解釈、各々のフィルターを通した上で」とは玲央(G)の言葉だが、5人それぞれの個性を尊重し、融合して完成した五つの楽曲は、前作とはまた異なるkeinの一面を見せてくれる。いずれも美しい曲名を冠した収録曲について、そしてこの先のヴィジョンについて、眞呼(Vo)と玲央、そしてVif初登場となるaie(G)に話を聞いた。


バンドの中に存在し続けるメジャー感や抜け感を全面に

眞呼(Vo)

aieさんはVif初登場ということで、aieさんから見た眞呼さんと玲央さんの印象を教えてください。

aie:加入当時は“先輩”ですね。keinを始めたのが20歳ぐらいだったんですけど、1秒でも早く生まれたら先輩っていう縦社会を生き抜いてきた世代なので、二人は圧倒的な先輩でした。当時のメンバーが眞呼さんと玲央さん以外、同級生だったこともあって、子供チームと大人チームみたいな関係でしたね。

眞呼:カミセンとトニセンみたいな感じだよね。

aie:そうそう(笑)。でも今回、解散から22年の時を経てもう一度集まってみて、40歳を超えたら年齢は関係なくなるんだなと。なので、今は“プロのミュージシャン仲間”という感じです。もうこの年になると、10個上でもあんまり変わらないですね。

眞呼:むしろ、気づいたら私の方が子供でした(笑)。

前回のインタビューで眞呼さんが、「aieさんは自由だけど、ちゃんとしている」と話していましたね。

aie:先輩たちは、そろそろ折り返しでUターンが始まっていますからね。

眞呼:えっ、もうお年寄りってこと!? 「飯はまだかい」みたいな?

aie:「おじいさん、さっき食べましたよ」って感じですよ。先輩、もう小さい文字なんか見えてないんだから。あ、これはディスりじゃなくて、ラブだからこその発言ですので(笑)。

愛情たっぷりの夫婦漫才が(笑)。それにしても、aieさんが大人の世代の仲間入りというのは感慨深いです。

aie:そうですよね。ただ、周囲がみんな現役を続けているから、登場人物が変わらないまま20年ここにいる感じで。keinがいた少し後にムックがバーンと来て以降、仲間も含めて登場人物は変わっていないなと思うし、だから老いたなとも思わないんですよ。

そんな中、keinの復活はシーンに新風を巻き起こした感がありました。

玲央:あまり気負っている感じはないんです。単発で何本かライブをやる復活とはまた別の形での再始動なので、そのあたりもニュアンスが違うのかなと思います。

keinは様々な活動をしている5人の「各々の環境は絶対大事にする」という前提がある中での活動なので、今回も忙しい合間を縫っての制作だったのでは。

玲央:今、deadmanが25周年でツアーもロングランでやっていますし、lynch.も20周年で、活動の場が多いんです。そんな各メンバーのスケジュールを擦り合わせた結果、ここでやろうと。

眞呼:deadmanのレコーディングが終わって、「あ~、やっと落ち着いた~」と思った二日後に、aieさんからkeinの曲が送られてきて。

aie:「はーい、スイッチ切り替えてくださーい!」って(笑)。

眞呼:容赦ないですよねぇ。

aie:容赦なかったですね(笑)。でも俺も、玲央さんから今日に至るまでのスケジュールが来た時、震えながら見ていたんですよ。ここでやるしかないな…ここしか空いてないしな…って眞呼さんと擦り合わせて。スタジオを1~2日押さえて一気に作り込んで、それまでに準備も必要だから作業できる日はここですね、という感じで決めたんです。

玲央:いつも皆さんから向こう半年くらいのNG日をいただいて、それをカレンダーアプリにどんどん打ち込んでいって、ここならできるねという感じで予定を組むんです。レコーディングスタジオもそこで仮押さえしちゃいます。

なんて大変なスケジューリング。

aie:でも俺、keinの制作の時期はたまたま忙しかったんです。むしろ先週はすごく時間があって、『ONE PIECE』を1巻から読み返したくらい。それまでの忙しさを取り返すかのように(笑)。

それはなかなかのアンバランスですね(笑)。曲は期日までに順調に集まりましたか?

玲央:順調でした。曲出しに関しては、僕が一番時間がかかっているかもしれません。aieさんも攸紀君も「え、もう来た!?」っていうくらいのペースで、どんどん作ってくれるんですよ。

aie:そこはちゃんとやりますよ(笑)。

さすが2時間で「Spiral」を作る男。今回の作品のテーマも、早い段階で決まっていたんですか?

玲央:今回、スケジュールと一緒に、「自分の解釈でいいので、メジャー感や抜け感を意識した曲を持ってきていただきたいんですが、どうですか皆さん」と展開したんです。

そういう振り方なんですね。

玲央:「こういうものを作りましょう! 絶対的にこういうものにしたいです!」とはしないようにしているんです。各々の解釈やフィルターを通した上で、僕だったらこうするな、というのがバンドだと思うし、それが面白いと思うので。

keinは、メンバーの個をとても尊重している印象です。

眞呼:やっぱり、その人個人じゃないといけないと思うんですよ。

玲央:個が五つあって、それを一つにまとめているからバンドじゃないですか。バンドって、束ねる、結束していくという意味だから、個がない状態はバンドじゃないと思うんです。

一人が指令を出してそれに沿って作っていくのではなく、フワッと投げたものを各々の解釈で作ったものを束ねていくんですね。

玲央:そうそう。それをまとめる=バンドなんです。

メジャー感を意識した制作はいかがでしたか?

眞呼:そこの解釈がそれぞれ違ってねぇ…(笑)。

aie:それぞれが偏った音楽のアップデートの仕方をしている可能性があって。俺はメジャー感っていうと、近年の紅白歌合戦のような感じじゃなく、1993年のLUNA SEAが出てきちゃうんです。で、玲央さんにメジャー感って言われた時に、「わかりました! LUNA SEAの『EDEN』(1993年リリースのアルバム)ね!」って解釈したんだけど、多分、攸紀君も同じことを思っていて。玲央さんも意外と90年代だろうなと思ったし。

玲央:うん(笑)。

aie:それって、日本の音楽が一番エネルギッシュで、いろんな種類があった時代だと思うんですよ。だから玲央さんがフワッと投げたテーマだけど、結果的には偶然同じものを見ていたという感じです。

玲央:当時はまだ僕らのジャンル自体が一般化していなかった時代だったんですよね。だから、いかに世の中の人に自分たちのカッコよさをわかってもらえるか、がっついていた時代でもあると思うんです。僕はその時代が一番輝いていた気がするし、それに対する自分の憧れというのもあるんでしょうね。

aie:でも今回のテーマでも、迷って違うところに行っていたら、全く違った作品になっていたかもしれない。ただ、このバンドの暗黙のルールとして、全部人力でやるというのがあるんです。楽器以外の音が入っているアプローチも、考え方によってはあったかもしれないけど、やっぱりこの5人で集まってやるならそれは違うなとわかっていて。

玲央さんは、そこが強みだと話していましたね。

玲央:そうです。さらに言うと、メジャー感とか抜け感っていう話は、97年に活動を始めてからずっと、keinというバンドに存在しているんですよ。それをアプローチとして表に出すか出さないかというだけの話で、元々持っているものなんです。今回、それを出しちゃいましょうと伝えた感じですね。だから当時の曲を聴いても歌メロはしっかりしているし、あの曲何だっけ?って言われて、ギターのリフではなく真っ先に歌が出てくる曲がこのバンドには存在している。そこをもっと全面に出そうという話なんです。

削ぎ落とし印象的な音だけを詰めた作品

玲央(G)

今回の作品、眞呼さんは何を意識しました?

眞呼:井上陽水さんとか中森明菜さんとか、私がメロディがカッコいい、美しいと思う要素を入れました。余分なものは入れずに、シンプルにこの音がカッコいいと思うものを入れて、その後いらないものを全部外していって。そのせいで言葉がちょっと少なくなったりもしたんですけど。

削ぎ落としていったんですね。

眞呼:削ぎ落とすところは削ぎ落としました。変に○○風というか、良い歌風にするつもりはなかったので、いらないと思ったものまで詰め込む必要もないなと思って。印象的な音だけを詰めた感じです。

なるほど。今回の作品も前作と同じようにaieさんと攸紀さんが2曲ずつ、玲央さんが1曲という取り合わせですが、これは偶然なんでしょうか。

玲央:偶然です。曲出しが終わって並べていったら、結果的にこういう作曲者の割り振りになりました。今回は7曲の中から選んだんです。どれもNGではなかったんですけど、スタジオで合わせた時に、5曲だったらこの並びでこの割り振りかなと思って。

では、収録された5曲について詳しく聞かせてください。

01.「斧と初恋」(作詞:眞呼、作曲:攸紀)

この曲のAメロ以降の展開が予想外でした。

玲央:攸紀君からこの曲が来た時、ギターは途中まで入っていたんですけど、サビがない状態だったんです。3曲持って来てくれたんですけど、この曲の優先順位は一番下だって言っていました。こんなアイデアもありますよ、という感じで入っていたんですけど、これを広げていったら面白いんじゃないかということで、スタジオで仕上げていったんです。

スタジオは5人一緒に?

aie:一緒にです。不恰好だと思うけど1回合わせてみましょうか!という感じでやってみて、やりながら攸紀君がこうしたいという意見をくれるので、それをやってみて。その後、何となくこんな感じかなと合わせたら、各自で持って帰って作業をする感じです。

本当に良い作り方ですよね。昨今なかなかやる人がいないのが残念です。

玲央:僕、この間keinの曲の作り方とかレコーディングの仕方をヘアメイクさんに話していたら、隣にいた人から「え、オンラインで送らないんですか? 未だにそういう人いるんですね!」って天然記念物扱いされちゃって(笑)。でも僕はその言葉を聞いて、腹立しいという感情じゃなく、これを売りにできるじゃん!と思ったんですよ。だったら国宝になるまで頑張ろうと思って。

眞呼:じゃあその方法をずっと続けているaieさんは…

玲央:人間国宝です!

ついにkeinから人間国宝が。

aie:でも俺、晁直(lynch.)から言われるんです。レコーディングの日までに全部は決めないから、好きにやっておいてって言うと、「サイズを間違えたらどうするんすか」って。それに合わせるからいいよって言うと、「本当、勘弁してほしいんすよねっ!」って。

眞呼:可愛い(笑)。

玲央:晁直はあらかじめ、尺とか構成とか全部が出来上がっているもの聴きながら叩きたい人ですから。そもそも今、keinのような方法でやっている人はレアだと思います。昨今は打ち込みをそのまま本データで使っている人も多いですから。ドラムを録るのにお金がかかるし、期限までにドラムを覚えなきゃいけないですしね。

ぜひこのまま5人で国宝を目指していただきたいです。それにしてもAメロ以降の展開にこの歌詞、共感する部分もあったりして。

眞呼:あ、すごく嬉しい。

〈キュンってなる子宮が高鳴る〉って、なかなか男性には書けないですよね。

眞呼:お恥ずかしい(笑)。

これは話題になった『子宮恋愛』とか、そういう社会背景もありつつの言葉なんでしょうか。

眞呼:それ何ですか?

aie:そういうドラマがあるんですよ。

玲央:結構大胆なタイトルでしたよね。一時期そんな感じののものが多かったかも。

眞呼:へー! 私、テレビを観ないから知らなかったです。今、流行っているんですか?

aie:いや、子宮は人類誕生からずっと流行ってます。

人類の普遍のテーマですからね(笑)。それにしても、この曲のどんどん転調されていく感じと、この歌詞の不安定な感じがものすごくマッチしているなと。

眞呼:私がずっと不安定なものを持っていますから。

玲央:転調とかそういう部分は、スタジオで合わせている時に、何となく続きはこうなるよねって各々が考えてできていきました。この曲、イントロのリフがLRで入っているんですけど、aieさんのギターだけ1ヵ所、食っているところがあるんですよ。僕は最初aieさんが間違えているんだと思って、ベースとギターで食ってる場所が違うけど大丈夫なの?って確認したんです。そうしたら、「それはわざとやっているんですよ。玲央さんはむしろ攸紀君と合わせてください」って言われたんです。lynch.だとLRをガッチリ合わせるのが基本だったので、こんなアレンジあるんだとすごく勉強になりました。

aie:このアレンジは22年前の自分はやらなかったかも。「幻想」もそうだけど、俺だけシンコペ(シンコペーション)するのは、この10何年で得たスキルかな。Sakura先輩のジャズアプローチとか、そういう人たちと一緒にやってきたからかもしれない。

いろんな人を通じて入ってきた技術が、ここで生かされているわけですね。

aie:30年ぐらい音楽をやっていて、大丈夫かなこれと思いながらレコーディングした曲もいっぱいあるけど、1回も怒られたことがないからもういいんじゃないかなと思って。でも晁直が聴いたら「変なの!」って言うと思う(笑)。

玲央:これは晁直は嫌がるだろうなー(笑)。僕もlynch.のレコーディングの時に、「ここの悠介とのシンコペのタイミングが揃っていないのが気持ち悪いっす~」って言われましたもん。「じゃあ揃えとくよ」って言うと「お願いします~」って。

晁直さんがkeinにいたら、多分ずっと気持ち悪い感じなんでしょうね。

玲央:多分発狂しますね(笑)。「やだ~!」って。

眞呼:「やだ~!」って言うよね。可愛い。

晁直さんネタでこんなに盛り上がるとは(笑)。

玲央:愛されキャラですからね。

02.幻想(作詞:眞呼、作曲:玲央)

この曲、音を聴く前に歌詞を読んで、これは玲央さんの曲だろうなと感じたんです。

眞呼:その感覚、ちょっとわかります。私自身、玲央さんの曲だからということは全然意識していないんですけど、そうなっちゃうんですよ。玲央さんの曲には潜在的な何かがあるのかもしれないです。

この曲にだけタイトルに通じる〈炎症〉という言葉があるのも気になります。眞呼さんが、歌詞が書きやすいなと思うのは誰の曲ですか?

眞呼:誰の曲も書きやすくないです(笑)。夜に書き始めたはずなのに、また夜になっているということもありますし。

玲央:僕はこの曲は他に持ってきた曲よりもサラッとできました。他の曲は、一晩寝かせようかなって作り替えたり色々やったりして、時間がかかっちゃって。

語りの部分は、原曲の段階から入れようと思っていたんですか?

玲央:そうです。Bメロは語りにしてもらいたいですって眞呼さんに伝えて。レコーディングの時、眞呼さんはリズムにのせるような感じで考えていたみたいなんですけど、リズムとか関係なしに、ちょっと歪んだラジオみたいな演説調でやってもらいたいって伝えました。ただ、なかなか伝えるのが難しかったので、じゃあ僕が試しにお手本を見せますってやったのがこれです。

眞呼:一発録りでしたね。で、「あれ、これで良くないですか? このまま行きません?」ということで、それがそのまま収録されているんです。私は、言葉の数とかも含めてラップ調にしちゃっていたんです。とりあえずどういう風にしたいのか聴きたいと思って、実際にやってもらったら案外はまったので、このままお願いできないかなと。

まさかの展開ですね。ところで、サビの〈また何かが起きるその前に〉が、ラスサビだけ〈また何かが起きるその前〉なのはなぜなんでしょう?

眞呼:実はこれ、最後の〈に〉をつけるのを忘れちゃったんですよ。それを玲央さんがそのままやってくれたんです。でも考えてみると、〈に〉を入れない方が続くなと思って。〈その前〉がどうしたんだろう?と思ってくれたほうがいいじゃないですか。

玲央:僕、眞呼さんが意図的にそうしているんだと思っていたんですよ。歌詞をもらったときに〈その前に〉は準備段階で、〈その前〉は直前だと解釈したんです。それで喋り回しも変えていると思っていたんですけど、そんな単純な理由だったとは知らず…(笑)。

偶然の産物が楽曲に深みを加えていますね。aieさんはこの曲のギターはいかがでした?

aie:曲をもらって、「じゃあ全員で合わせようぜ」という時に自然と弾いたギターですね。玲央さんのギターを聴きながら、そこに行くなら俺はこの辺にいた方がいいかなと。で、2~3回合わせたら見えてきた感じです。

正解の導き出し方が阿吽の呼吸ですね。

aie:正解かどうかはわかんないけど、もし違っていたら謝るし、録り直しますからね。何回でも!

03.幾何学模様(作詞:眞呼、作曲:aie)

この曲、左で鳴っているクリーンなギターがとても印象的で、しみじみ聴いてしまいました。

aie:玲央さんのギターですね。眞呼さんが後から足してほしいって言ったやつだ。

玲央:クリーンは、今時のHi-Fiなやつじゃなくて、あえて80年代後半に流行ったエフェクターを用意してもらったんです。丸いというか、ちょっと濁るぐらいの感じにしたくて。モディファイしたものじゃなくて、当時の高校生が使っていたようなBOSSのコーラスを用意してほしいってオーダーしました。それじゃないと、この音が出ない、キレイすぎちゃうって伝えて。言葉にしなくてもみんなが共通認識として持っている、80年代後半~90年代前半のものをなるべく使おうと思ったんですよ。揺れ物系のエフェクターは特にそういうニュアンスが出ちゃうので、aieさんが作る上で意識したであろうイメージになっていると思います。

イメージがちゃんと具限化されているんですね。aieさんは、前回「リフレイン」の最後の16分の刻みをSallyさんを笑わせるために作ったそうですが、今回は?

aie:筋肉アプローチですね。

眞呼:筋肉アプローチなの(笑)?

aie:そう。筋肉アプローチは「斧と初恋」のサビと「波状」全部かな。

えっ、「波状」で?

aie:「波状」で、人力ディレイっていう筋肉アプローチをしました。

眞呼:この曲の中層のところにもありません? 「一応入れておこうか」って言ったら何かすごいのが入っていたんだけど。

ラスサビの前のあのギターはすごいですよね。

aie:そこ、実は自分で何を弾いたのか覚えてなくて(笑)。

玲央:でもあれは指の瞬発力なので、そこまで筋肉じゃないんですよ。一番すごいのはやっぱり「波状」じゃないかな。

aie:「波状」は筋トレだよね。