2019.3.5
ARTiCLEAR@TSTUTAYA O-WEST
ARTiCLEAR「終わりの始まり」

あらたなる“終わりの始まり”が幕を開けた、この記念すべき夜に。彼らの響かせる深い音像や、威風堂々とした立ち居振る舞いから感じられたのは…強い決意と揺るがぬ信念であり、自らに対する矜持そのものだった気がしてならない。

昨年5月に惜しまれながらも解散したTHE BLACK SWANのフロントマン・儿と、ギター隊の樹と誠。そこに元SCREWの敏腕ベーシスト・ルイ、あの伝説的バンド・AUTO-MODに在籍していたこともあるドラマー・多時が加わり、昨年末に始動を発表した新バンド・ARTiCLEAR(アーティクリア)が、このたび満を持するかたちでTSTUTAYA O-WESTにて行ったのは、[終わりの始まり]と題された初ライヴにして初主催イヴェントだった。

ちなみに、このTSUTAYA O-WESTはTHE BLACK SWANが昨年まさに解散ライヴを行ったいわくつきの場所となる。儿をはじめとする“黒鳥組”の3人は、どうしても「あの日を迎えたあの場所」に立ったうえで、ARTiCLEARとして[終わりの始まり]を体現したかったのだとか。

確かに、彼らは新バンドといえど前述の3人に限らず5人全員がそれぞれがこれまでに多くの経験をし、幾つもの紆余曲折を乗り越えてきた百戦錬磨の集まりにほかならない。おめでたいファーストライヴに敢えて[終わりの始まり]と冠したのには、それ相当の理由と由縁があったということになろう。

そして、そんなARTiCLEARの門出を祝うべく。この場にはファーストミニアルバム『Inferiority Complex & Narcissism』をリリースしてまだそう間もない蘭図(元・Avelcainのヴォーカリストである業の率いる新バンド)、今年で結成13周年を迎えた実力派のheidi.、繊細でいて深遠なるその高い音楽性に定評のあるHOLLOWGRAM、V系にしてナゴム的なカルト寄りのスタンスを持つえんそく(なんと6月には筋肉少女隊のカバー曲を2曲も収録するミニアルバム『僕の宗教へようこそ~Welcome to my religion~』を発表する)という、これまでなにかしらのかたちでARTiCLEARの面々と縁があったのであろう4組が集結し、個々のバンドカラーを明確に打ち出した素晴らしいパフォーマンスをもって、色とりどりの花をステージ上に添えてくれたのである。

とはいえ、なんといっても今宵の主宰者はARTiCLEARだ。まずは冒頭において、曲や詞だけでなくアートワーク全般を手掛ける儿が制作したと思しき意味深なティザー映像が上映されると、いよいよ名実ともに初演の幕が開き、1曲目となる「黎明の涙雨」が大きな歓声をあげる聴衆へと向けて迸るかのような勢いをたたえながら放たれるに至った。樹、誠、ルイ、多時ら楽器陣が発するエナジーとアティテュードがそのまま反映されたような圧倒的サウンドと、大きなコウモリ傘を差しながら降りしきる雨の中で歌うようにその世界を紡いでゆく儿の秀逸な表現力は、とてもこれが初ライヴだとは思えないほどの完成度だったと言っていい。

また、後半で「A.O.D」が演奏された際にはブレイクにて
「俺たちがこうやってまたこのステージに立つまで…それぞれ皆にもいろいろな思いがあったと思う。(中略)ただ盛り上がるとか、そんなのはどうでもいいから。オマエらの中に溜まっている感情を、全てここに吐き出してこい!!」
と儿が咆哮するように場内へアジテーションをする一幕もあり、ARTiCLEARにとってのこの[終わりの始まり]がいかに精神的な意味で重要なものであったのか、ということがそこからも伺い知れたように感じる。ワンマンではなくあくまでもイヴェントであった為、時間的にいえば彼らが演奏していたのは40分ほどでしかなかったが…この場で我々へと提示されたものはショーケースでもなければデモンストレーションでもない、純粋なる真剣勝負の運命的な初舞台でしかなかった。

そんな中、この夜のラストに選曲されていたのはかねてより公式サイトやYouTubeでもMVが先行公開されていた「碧落の「君」へ」(こちらのMVは儿が監督もしている)と、儿がその場から先に退場したあと供されたボーカルレスセション曲「終わりの始まり」の2曲で、全ての演奏が完遂したのちにはスクリーン上に映画のごときエンドロールが流されることにより、この圧巻の初舞台は締めくくられたのだ。と同時に、そのエンドロール中には以下の一節があったことも追記しておきたい。

「永遠」なんて無いから
今この一瞬を「君」と生きる
「終わり」を迎えるその時まで…

この世に生まれ落ちてしまった以上、生きとし生けるものには望むと望まざるとやがて最期が訪れ、おおよそ全ての事象も不変・恒久のままであるわけがないのが真実なのかもしれない。ただし、それ自体は避けようのない事実だったとして、そのことを本当の意味で認識し受容することが出来れば、我々は漫然と時を過ごすことがいかに贅沢なことであるかを悟ることが出来るのではなかろうか。日本には“有終の美”という含蓄のある言葉も存在するだけに、それこそARTiCLEARは今ここから彼らが理想として描く「終わり」へ向けた、あらたな旅路へと進み出すことになったと言えるはず。

近々では3月25日には池袋EDGEにて[千歌繚乱vol.20]に出演したり、4月5日には高田馬場CLUB PHASEにて再びの主催イヴェント[ARTiCLEAR PRESENTS 儿 BIRTHDAY EVENT「The EVE」]を行うほか、6月12日にも渋谷REXてに[FWD presents 【beauty;tricker】-SS- #36]への参加が決まっているというARTiCLEAR。

彼らの生み出していく、あらたなる“終わりの始まり”の先には果たしてどのような未来が待ち受けているのか。ここからの一瞬、一瞬をぜひとも見守っていこうではないか。ARTiCLEARが迎えたこの矜持ある幕開けに、まずは心からの乾杯を!

(文・杉江由紀)