2017.3.23
Soanプロジェクトwith手鞠@渋谷Mt.RAINIER HALL
Oneman Tour『静謐を制し征する音~東京編~』
ミニアルバム【静謐を制し征する音】をリリースし、初の東名阪ワンマンツアーを開催したSoanプロジェクトwith手鞠。そのファイナル公演が、3月23日(木)東京・渋谷Mt.RAININER HALLで行われた。
この会場は、SoanがMoranでの活動中にアコースティックワンマン、手鞠がamber grisとして初のホールワンマンと、それぞれが過去に大切な日を過ごした思い出深い場所。
そして、このプロジェクトが予てより目標のひとつとして掲げてきたシッティング形式でのホール公演という夢を叶える記念すべき日となった。
場内が暗転し、拍手に迎えられたメンバーがステージへと姿を現す。
ゲストミュージシャンは、アコースティックギターにタイゾ(from Kra)、同じくアコースティックギターとコーラスに祐弥、ヴァイオリンにSachi(from 黒色すみれ)、チェロにAkiko Yamazaki。サポート陣は黒を基調とした装い、Soanと手鞠は揃って真っ白なスーツに身を包んでいた。
Soanが鳴らしたウィンドチャイムの音色が、現実世界を遮断する魔法のように響き渡る。
静まり返った空間に手鞠の言葉が零れ出し、Soanのカウントからそっと音の波が押し寄せ始めた。
1曲目に届けられたのは【そして君は希望の光の中に消えた】。
ステージを照らし出すオレンジの光のように柔らかな感触を覚える楽曲だが、その光に満たされ自らの道を切り開いていく愛しい存在をどこか寂しげに見つめる主人公の想いが切ない。
「Soanプロジェクト。そこに織り成された“静”と“動”。
その表現が、挑戦が、試みが、また新たな『音楽を楽しむ姿』として成り立っている。
1人の作曲者と、並行し存在する2人の作詞者。
3人の思考が共存する、その世界。今、その片鱗をお見せしましょう。
【sign…】。」
タイトルコールされた【sign…】は元々、もうひとつのプロジェクトであるSoanプロジェクトwith芥で完成し披露されていた楽曲。
それを、楽器編成からして全く異なるこちらのプロジェクトでリアレンジし、芥の付けた歌詞を基に手鞠が言葉を紡ぎ直す新しい試みへの挑戦。
2本のアコースティックギターと、ヴァイオリン、チェロ。4本の弦楽器が絡み合うようにして奏でられ、ドラムが歌に沿った感情の起伏を伝えるように表情をつける。
手鞠が歌い上げたのは、荒々しく目に見えた激情ではなく、内に秘めた鋭利な熱情。
“3人の思考が共存する世界”という言葉どおり、Soanというアーティストを軸に同時進行する2つのプロジェクトが融合して新たな表現を生み出した素晴らしい瞬間であった。
「改めまして、渋谷Mt.RAINIER HALLへようこそ。Soanプロジェクトwith手鞠です。
必要以上の補足は、もはや要らないのではないかと思っています。
楽曲が、歌詞が、演奏が、我々の存在そのものが、定義であり提示する形です。
初めてのシッティング公演、最後までごゆっくりお楽しみください。」
客席に沸き起こった拍手の中へ、タイゾが鮮やかに切り込んでくる。ギターのボディを叩きながら弾き倒す迫力に満ちたスパニッシュなソロから、【感情を媒介として具象化する感傷の逝く宛】へ。
まるで音を宙に舞わせるがごとく、腕の動きでも魅せながら叩くSoan。
各楽器の音色を引き出すように、或いはその音色に自らが操られるように、手の動きも含めて表現する手鞠。
終始、情熱的な演奏を貫くタイゾと、手鞠とタイゾの双方と絶妙なバランスを取りつつギターとコーラスを響かせる祐弥。
憎しみと葛藤を艶やかに彩る、SachiとAkiko Yamazakiのストリングス。
アウトロの連続ブレイクまで、圧巻の演奏であった。
不穏なギターと怒りの籠もった語りから始まった、【正否の相違、或いは利害の不一致】。
立ち上がり全身を使って伝える手鞠の伸びやかな歌声を筆頭に、音の塊が空間を突き抜けていく。
本質的に孤独な人間という生き物、相容れない価値観の存在、“理解できる”だなんてただの自惚れ。
「僕は君のように生きられない」
美しいメロディーに乗せて投げ掛けられたそのフレーズが、心の奥深くに突き刺さる。
ドラムセットからピアノへと移動したSoanの叙情的な音の調べは、【投影された在りし日の肖像という名の亡霊】だ。
悼むようなストリングス、2人のギタリストで繋げるように奏でたアルペジオのギターソロ、透明感のあるコーラス、そして繊細さと力強さを兼ね備えたピアノ。演奏に後押しされた歌声は、より感情的に熱を帯びた。
「わかってる…わかってる…」徐々に涙声になりながら何度も繰り返し、最後に「でも、わかりたくない。」と呟くと、その嗚咽にピアノが寄り添った【林檎の花の匂いと記憶野に内在する存在。】。
林檎を残して遠くへと旅立った、大切な“彼”への鎮魂歌。
語り掛けるように演奏するSoan。音は優しく哀しく降り注ぎ、目頭が熱くなる。
「そこから見えるかい?」
そう歌い、空を見上げながら高く手を差し伸べた手鞠。
きっと、きっと、届いている。心から信じたいと思った。
短い語りを挟み、【相対する質量の交錯する熱量】のあたたかなメロディーが光のように射し込んでくる。
時折、手鞠はSoanのほうに身体を向けて歌い、その度にSoanは微笑んでアイコンタクトを交わす。
そんなステージの穏やかな空気感と、愛しい存在の癖や仕草を思い返して幸福を感じる歌詞が相まって、会場は優しい雰囲気に。
祐弥のギター、Sachiのヴァイオリン、Soanのピアノに乗せて語られたのは、抗うことはできない人間の“命”のお話。
どこかで誰かの命が尽きた時、違うどこかでは新たな産声が上がっている。
何度生まれ死のうとも、自らの意思とは無関係に輪廻を繰り返す。全ては神の天秤次第なのだろうか?
ピンスポットに照らされながら【それは呪いと同義語の魂の鎖 永遠に続く祝福という名のカルマ】を演奏するメンバー達は、実際には存在していない紗幕の向こう側の、異なる世界の住人のように映った。
暫しのインターバルの後、手鞠が口を開く。
「君たちがそうであるように、僕の命を救ってくれたのもきっと音楽だと思っています。
消費する事に慣れた社会が、消耗品を使い棄てたとしても、僕らは自らのその意志で音楽を作ってきたし、作っているし、作っていく。そして、それを僕たちは楽しむことを忘れない。
誰かに言われたからじゃない。そうしたいから、そうするんだ。
偉大な先人たちが作り出したものがそうであったように、僕たちが作り出したものも、誰かの支えとなっていることを願っています。」
このステージに立っている全てのメンバーの気持ちを表した言葉から演奏された、【それを僕は普遍と呼び、君はそれを不変と詠んだ】。
再びドラムへと移動したSoanの軽快なリズムに合わせて手鞠が手を左右に振ると、客席もそれに応えて揺れ始め、その様子を見たメンバーにも笑みが浮かぶ。
感情を歌に乗せ自由自在に表現している手鞠も、とても楽しそうに感じられた。
【焦燥の日々の帷、憔悴する白雪姫】は、澄んだメロディーが美しく印象的だ。
青い光に照らされたステージに零れ落ちる氷の粒のようなピアノフレーズと歌のメロディーはどこか郷愁を感じさせ、記憶の中の懐かしく大切な光景を蘇らせて心を打つ。
空間をどこまでも拡げていくストリングスとアコースティックギターの繊細な音色、切なく力強い歌声が、真っ白な雪の上にそっと触れるかのごとく余韻を残した。
【夕闇に鳴動する衝動と幸福の在処】で語られた物語は、ある種の決意表明のように響く。
「けれど、また途方も無い道のりを歩く事にしたのだ。
その先に何があるかはわからないけれど、きっとそこに帰るべき場所があるのだろう。そこには、自分を待つ何かがあるのだろう。
ねぇ、君の帰る場所はどこだい? 君の帰る場所は?あなたの…帰る場所は?」
ステージから手を差し、観客1人1人に問い掛ける手鞠。
夕暮れ時のオレンジ色の空、家路へと急ぐ道程が目に浮かぶ。
その光景に、タイゾのギターソロ~Sachiのヴァイオリンソロという美しい流れがとてもよく似合った。
「『ただいま』私を知る人。『おかえり』私を信じる人。『ただいま』笑顔をくれる人。『おかえり』待ち疲れた人。…私の、愛する人。」
そう、帰る場所はきっと―――。5人の奏でるハーモニーと手鞠の言葉が胸にあたたかな明かりを灯し、素晴らしい本編を締め括った。
鳴り止まない拍手に応えてのアンコール…と思いきや、叫びながら勢いよくステージに飛び込んできた祐弥に度肝を抜かれるオーディエンス(笑)
「緊張と緩和…緩和の部分を司っております、祐弥です!」と元気よく自己紹介した彼は、本編で張り詰めていた場内の空気を一気にリラックスさせると、手鞠と共にツアーの感想なども交えた軽妙なトークを展開して客席を盛り上げてくれた。
メンバーを呼び込み1人1人を紹介した手鞠が、
「ヴィジュアル系の可能性、音楽の可能性を感じられるライヴになったと思います。
それぞれのフィールドで活躍する素晴らしいアーティストが揃って音楽を生み出せる、それは偶然や必然ではなく、凄く奇跡的なものであって。
音楽が導いた、そしてSoanさんが作り上げた絆みたいなものが音に込められていて皆さんに伝わっている、そう実感できるライヴでした。今日は本当にありがとうございました。」
と挨拶すると、大きな拍手が送られた。
「また逢えることを願って。ラストに、この曲を贈ります。」
和やかな空気の中、6人はアンコールとしてもう一度【それを僕は普遍と呼び、君はそれを不変と詠んだ】を届けてくれた。
手鞠・タイゾ・祐弥も立ち上がり、心底楽しそうに演奏するメンバー達。
弾むようなそのサウンドにステージも客席もみんな笑顔で、ツアーファイナルは幸福感に満ち溢れたエンディングで幕を下ろした。
観る者の心を、時に深く抉るように、時に温かく包み込むように、そして蒼い海の底へと誘うように。ドラマティックに描き出される、Soanプロジェクトwith手鞠の世界。
シッティング形式のホール公演というひとつの夢を叶えた彼らは、次にどんな音楽を届けてくれるのだろう?今は、それが楽しみでならない。
2月・3月と2ヶ月連続で行われたSoanプロジェクトwith芥/手鞠それぞれの初の東名阪ワンマンツアーで得たものにより、2つのプロジェクトがどう成長し進化していくのか。
アーティストとして、プロジェクトのプロデューサーとして、その才能を遺憾なく発揮するSoanと、彼の音楽を圧倒的な歌唱力とストイックな精神で彩る手鞠と芥。そして、ライブやレコーディングで見事な化学反応を生み出してくれる、多彩なゲストミュージシャン達。
既に発表されているとおり、Soanのバースデーでありプロジェクト始動1周年記念日でもある6月1日には記念ワンマンも開催される。
その耳で、その目で、その感性で、ぜひ彼らの音楽に触れてみて欲しい。
◆Member◆
Piano & Drums:Soan
Vocal:手鞠
Acoustic Guitar:タイゾ(from Kra)
Acoustic Guitar & Chorus:祐弥
Violin:Sachi(from 黒色すみれ)
Cello:Akiko Yamazaki
◆セットリスト◆
01.『そして君は希望の光の中に消えた』
02.『sign…』
03.『感情を媒介として具象化する感傷の逝く宛』
04.『正否の相違、或いは利害の不一致』
05.『投影された在りし日の肖像と云う名の亡霊』
06.『林檎の花の匂いと記憶野に内在する存在。』
07.『相対する質量の交錯する熱量 』
08.『それは呪いと同義語の魂の鎖 永遠に続く祝福と云う名のカルマ』
09.『それを僕は普遍と呼び、君はそれを不変と詠んだ』
10.『焦燥の日々の帷、憔悴する白雪姫(スノーホワイト)』
11.『夕闇に鳴動する衝動と幸福の在処』
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01.『それを僕は普遍と呼び、君はそれを不変と詠んだ』
(文・富岡 美都(Squeeze Spirits/One’s COSMOS)/写真・Reiko Arakawa(zoisite))