V系ロック業界のなかでも随一の肉好き、「焼肉コンシェルジュ検定」にも見事合格したというPENICILLINのギタリスト千聖が、肉をテーマに対談連載企画をスタート! 記念すべき第1回目のお相手は、その「焼肉コンシェルジュ検定」講師で千聖の“お肉の先生”でもある、肉マイスター・田辺晋太郎氏。元々アーティストとしてデビューし、音楽プロデューサーやラジオパーソナリティとして活動してきた田辺氏とアーティスト千聖ならではの内容となった今回。二人の肉にかける思い、音楽と肉の共通点とは――。

◆肉もアーティストも味付け一つ(千聖)

田辺:1回目のゲストが私でいいんでしょうか。

千聖:逆に田辺さんで本当に助かります(笑)。

田辺:29回目でもよかったんですけど(笑)。

千聖:そうですね! その時はまた来てください(笑)。僕のお肉の先生の一人で、第一人者なので。

田辺:恐縮です。僕は元々アーティストとして2001年にデビューして活動していて、その後ラジオや作曲家の仕事をやらせていただいていたんですけど、文化放送で帯のラジオをやっていた時にPENICILLINの皆さんにゲストで来ていただいているんですよね。そこから3年くらい経った頃に、偶然自分が仲良くさせていただいている方からご紹介を受けて。

千聖:中学の同級生と田辺さんが偶然知り合いで、去年久々に再会させていただいて「あれ?」と(笑)。

田辺:だから、最初は一方的にアーティストの先輩として拝見していて、その後、パーソナリティとゲストという立場、3回目にお会いした時には肉マイスターとアーティストという、私がコロコロ立場が変わってしまうんですけど、なにせユニット名がChangin’ My Lifeという名前だったので、その名のごとく色々と人生が変わってきているという(笑)。

千聖:そうですね(笑)。ヴォーカルの方は実はAcid Black Cherryのイベントで別バンド名義で一度ご一緒したことがあるんですよね。世間は狭いというか。でもまさか飲食関係で会うとは思わなかったです(笑)。何か縁があるのかなと。久々にお会いした頃に、ちょうどテレビで田辺さんが辰巳琢郎さんに肉の焼き方を教えていたので、あれ? 田辺さんなんで肉焼いてるの?ってちょっとビックリしたんですけど(笑)。肉の世界に入っていったきっかけは何だったんですか?

田辺:約3年前に、宝島社から『焼肉の教科書』という本をリリースするという話があって、お肉の勉強をし直さなきゃいけなくて、色々と勉強していくうちに知識も増えていって。プロモーションをする時に、知識系の本ってラジオからの引きが強くて、自分は元々ラジオ畑出身というのもあって、色々とお話させていただいていく中で、それまで音楽でもパーソナリティでも出られなかったJ-WAVEとかに、肉の本を書いた途端に出られたんです。結局その本がトータルで28万部ということになっていて、自分が書いてオリコン1位を取ったまゆゆ(AKB48渡辺麻友)の曲でさえ23万枚なんですけど、それをあっという間に超えていったという。

千聖:すごいですね。

田辺:ちょうど世の中の肉ブームがあって、僕がちょっとだけ早かったので、オンタイムで乗れたんですよね。でもそれも不思議なもので、アーティスト時代の東芝EMIの宣伝スタッフだった方が宝島社に移って、「肉に詳しかったよね? こういう本を書こうよ」みたいなところから始まったんです。だから色々と自分が今までやってきた布石が、今なんとか仕事になってきたというところなんですよね。そこから一気に「肉マイスター」という肉に詳しい人になったと。

千聖:なるほど。

田辺:僕より先にいる肉に詳しい人というと、寺門ジモンさんしかいないんです。そうすると、彼は肉だけではないし、肉に関しては大御所過ぎるので、まだまだ小兵の私がちょうどいいというのもあって、テレビ、ラジオ、雑誌とかをやらせていただいているというのが、ここ1~2年の話ですね。

千聖:僕も田辺さんがやっている「焼肉コンシェルジュ検定」を受けましたけど、最終的に歴史や経済まで話が多岐に渡るじゃないですか。色々な角度から見る食肉、食文化みたいなものに元々造詣が深かったんですか?

田辺:最初に買った漫画が『美味しんぼ』だったり、食べることが好きな小学生でしたね。両親が歌手で、地方でディナーショーをやるのに全部くっ付いて行っていたんです。もちろん夕食の時間にディナーショーをやっていますから、夕食は一人なんですよ。主催者の方から「ホテルのルームサービスを好きにとってください」と言われているので、小学生だから遠慮を知らなくて一人で1万円分くらいとって食べていたんです(笑)。

千聖:(笑)

田辺:そういうことで、地方のちゃんとしたホテルの味というのを小学生の時に覚えて、それから高校生になると一人で焼肉に行くようになったり。ちょうどアーティストデビューしたばかりの頃に、渋谷のタワレコの裏くらいに、屋台の焼肉屋さんがあったんですよ。その後、中目黒に移動してビッグママというお店になったんですけど。そこがレバ刺しからハラミ刺し、ミノ刺しとか、今まで食べたことがなかった肉の世界を教えてくれて、すごく美味しかったんですね。お肉ってこんなにまだ知らない世界があるんだなぁとハマって、その後、渋谷のゆうじという有名な焼肉屋さんに行きだして、そこもホルモンをすごく細かく勉強されていて。だからどちらかと言うと、きっかけはホルモン系でしたね。大してお金がない時代は、ホルモンと安いお肉から入っていきますから。居酒屋、串焼き屋、ホルモン焼き屋に行くようになって、奥が深いなぁと。肉の底知れぬ色々な世界を22~24歳の間にすごく見させてもらいました。がっつりハマっていったのは、そこからですかね。

千聖:肉というと牛、豚、鶏、ジビエ系も合わせると何十、下手すると何百種類もあるじゃないですか。豚もホルモンがあるし、焼き鳥という簡単な選択肢もある。でもどちらかと言うと、牛ですか?

田辺:牛ですね。豚のホルモンも同時に扱っているところが多いので、牛、豚の内臓から、ハラミも正式に言うと内臓なんですけど、そういうところから覚えていって。お肉って、調理の仕方、携わる人によって全然変わってくるんですよ。しかも、通えば通うほど、良いものを出してくれるんです。作る方も人間ですから、同じ一つのものだったら一番美味しい部分は仲の良い人にあげたいですよね。で、僕はお店の人と仲良くなるということを覚えたんです。きちんとお店の人とコミュニケーションを取るということが、さらに良いものを出してもらえるようになるために、すごく大事なことだと思います。そして今度は、お店の人から「こういうお店があるから一緒に行こうよ」って店外デートに誘ってもらえるようになるんですよ。で、さらに新しいお店を教わることができる。ロールプレイングじゃないけど、一つのお店をクリアしたら次のフィールドに行って、そこでまたレベルを上げて…という風に、あちこちのお店に行くよりも一つのお店に深く行ったほうが、結果的に確実にホップ・ステップ・ジャンプと上がって行けたんです。そのお陰で、ディープな世界、自分が知りたいものを答えてくれるような人との出会いが繋がっていったのかなという気がしますね。

千聖:食通の人って色々なお店を知っているから、あちこち行っているのかなと思っていたんですけど、そういう単純な話じゃないんですね。わらしべ長者のように広がっていくと。

田辺:色々なお店に行っちゃうと、どうしても間隔が空いちゃうので、お店の人とのコミュニケーションが薄くなるんですよね。アンジャッシュの渡部(建)さんがすごいなと思うのは、彼もあちこち行き倒しますけど、本当にいいなと思ったら3日以内にもう1回行くんですよ。1回目の時点で、お店の人も渡部さんという存在は覚えているじゃないですか。でも3日以内に「美味しかったから、また来ました」って言われたら、お店の人からしたら本当に気に入ってくれたんだなと思って、ちょっと優しくしてあげたくなるじゃないですか。

千聖:音楽業界でも、ご飯を食べて話でもしましょうということもありますよね。このお店雰囲気がいいからまた来ようとか、美味しいからまた来ようとか、色々なパターンがあると思うんですけど、コミュニケーションの場として飲食店というのは非常に良いですよね。ただ食べておしまいじゃなくて、お客同士や、ご主人と楽しんだりできる場として、良い場所を提供してもらっているというか。そこから広がりますよね。

田辺:どの仕事でもそうですけど、対人間との仕事ということを考えると、そこでどう自分が開拓していくかというのは常に必要になってくると思うんですよね。例えばラジオでゲストが来た時に、台本通り質問して「早く終わっちゃったな」じゃダメなわけで。そこで相手の何が爆発するのかなというのを探りつつ話をする。せっかくお金を払って食べるんだったら、その分そこで知識も得たいじゃないですか。なぜこういうお肉がここに並んで、こういう味が付いていて美味しいのかっていう。食べてみて美味しい不味いというのは、誰でもわかること。でもそこにまつわる情報というのは、自分でどうやって取っていくか、お店もどう与えるかで、味の印象も変わってくると思うんですよ。音楽でも、例えば元どこそこの誰々がギターを弾きましたと言われたら、全然わからなくても「そうか、すごいんだな」と思うじゃないですか。

千聖:アーティストも味付け一つですからね。例えば田辺さんが作った曲を色々な人が弾いたり歌ったりすることで、既に素材とは違ってくるじゃないですか。素材を活かした味付けもあるし、素材をさらに良くする味付けも色々とパターンがありますよね。

◆不味く食べようが美味しく食べようが、両方とも同じ命(田辺晋太郎)

千聖:肉に情報が詰まっているというのは面白いなと思って。僕は1年間くらい色々と食べたり、勉強もしたんですけど、「焼肉コンシェルジュ検定」の講義を受けているだけで全部の知識が綺麗に入ってきたので、自分で勉強しなくてもこの講義さえ受けとけばよかったなと後悔するくらい(笑)。

田辺:でも、あの場で聞いているだけだと、忘れるのも早いと思うんですよね。色々なことを勉強した上で受けると、またその情報とタグ付けされていくんだと思うんですよ。

千聖:確かに。でも、すんなり頭に入ってきたのは、教え方、喋り方が上手い、エンターテインメント色が綺麗に入ってくる喋り方だからですよね。難しくやろうと思えばいくらでも堅苦しくなっちゃうじゃないですか。

田辺:実際に肉を触っている人のほうが肉を知っているし、農学部で牛の生態を勉強している方とか、専門職の方には僕は元々勝つつもりもないし、到底勝てないと思うんですよ。じゃあそれをどうしていくかと言ったら、その情報を元に一つのエンターテインメントとしてお話をする。2時間の中でどう人の心の中に入っていくか、そこを大事にしていて。僕は教育というのは最高のエンターテインメントだと思っていて、学校の先生にしても本当に教え方一つで、生徒が全員ちゃんと話を聞くという先生もいれば、ただ教科書を右から左に写しているだけという先生もいる。毎回がライブだと思うんですよ。

千聖:その通りですね。

田辺:特に教鞭というのは1対40の真剣勝負で、ちょっとでも嘘や誤摩化しがあったら、子供たちはそこを突いてきますから。そこで先生がどう対峙しているのかというのが重要ですよね。人前で喋るというのはラジオの喋りともまたちょっと違って、ラジオは一人に対して話しかける意識で話すんですけど、講義は1対何十何百という中で話すので、ここが面白いんだよって言う時は自分で笑わないと相手も笑ってくれないし。とにかく、難しいことを難しく教えたら、人は聞かないんですよね。今までだいぶヤンチャをして過ごされてきた方が、「学校の授業なんて中学に入ってからほとんど聞いたことなかったけど、2時間あっという間で、すげー楽しかったです!」と言ってくださって。せっかくお金を払って受けに来るんだから、その情報を持って帰ってほしいんですよ。

千聖:田辺さんの講義って、ちゃんと活きているんですよね。学校の先生が田辺さんだったらよかったのになと思うくらい。

田辺:情報の取捨選択も色々あって。専門知識って人に喋ってもあんまり面白くないですけど、飲み会だったり焼肉を焼いている時に酒のアテになるような話が、皆が興味があることだと思うんですよね。

千聖:友だちから検定試験に誘われた時は、難しいことを説明するのかなとか、逆に一元的な、経済のみとか酪農的な話だけなのかなとか、正直あまりわかっていなかったんですけど、受けてみたら面白くて。全部網羅しているけどアカデミック過ぎないというか。

田辺:とにかくキャッチーさって大事だと思うんですよね。音楽も世の中に何万曲、何億曲とある中で、人が好きなコード進行ってそんなに変わらないじゃないですか。

千聖:うん、変わらないと思う。

田辺:そこでどうやって面白いものをというのもあるし、王道だから良いもの、耳に入っていくから興味を持ってもらえたり。マニアックなことはソロ活動とかそういう世界でやっていけばよくて、マスに向けている時は、キャッチーさだと思っていて。検定も特に並コースはマスに向けて。上コースでは焼きのテクニックとかも含めて、キャッチーさだけじゃないマニアックなものも入れつつ、二段構成でやっています。

千聖:田辺さんがさらにすごいなと思ったのは、最終的に懇親会で連れて行っていただいたところが、確実に美味しかったんです。こんな牛タン、本場の仙台でも食べたことないっていうくらい。音楽も一緒で、聴かせた時にどれだけ説得力があるかということじゃないですか。受け取る側は本能だから嘘をつけない。いい話だったのに食べたらあんまり美味しくないというのでは、味覚も人それぞれとは言え、ある程度のレベルってあるから。音楽も、この次元までいけば誰もがある程度納得するかっこよさってある。そこから先は好きか嫌いか分かれていくと思うんですけど。その説得力が半端なかったので、すごいなと。

田辺:牛タンとか、本当に焼き方一つで味が変わってくるんですよ。楽器もそうじゃないですか。どんなに良い楽器でも、弾く人によって出る音色が変わってくる。それと同じで、どんなに良い素材でも切る人、焼く人が間違えてしまうと、台無しになってしまうんですね。常々、僕が食文化に対して思っているのは、どんなに不味く食べようが美味しく食べようが、両方とも同じ命なんですよ。温かくて美味しいステーキが出てきたのに、くだらない話に夢中で冷めちゃって油も固まっちゃって、全然美味しくない状態で食べて「なんだこれ、美味しくねーな」というのは、その命に対して冒涜をしていることだと思うんですよ。食べられるために生まれてきたのが経済動物で、どこかで自由に解き放たれるために生まれてきたのではないので、その命をどう全うするかと言ったら、美味しく残さず食べることだと思うんですよ。人間って、不味かったら残しちゃうし、それに対して何の敬意もないですよね。それって無駄死になんですよ。だから自分が牛だったら、どういう風な切られ方をして、どんな調理をされ、どんな人に食べてもらいたいだろうと考えた時に、知識もありながら「美味しい、美味しい」と言って食べてもらえるほうが幸せだなと思うんですよ。例えば「焼肉コンシェルジュ検定」なら、皆がちょっとずつでも上手に肉を焼けるようになる。そうすると、今まで1/100しか成仏できていなかったとしたら、焼き方が上手になることによって5/100くらいが成仏できるようになる。その%が上がっていくといいなと思うんですよね。

千聖:大事な命と、命をかけて作っている人たちもたくさんいるわけで。音楽もBGMで流すものもありますけど、プレイとしては聴いてほしいというつもりでやっているし、ルノワールやゴッホとか芸術家の人たちが短命だったりするのも、命をかけて絵を描いていて、自分の人生よりも絵のほうに命を燃やしていたんだと思うんですよね。そういう気持ちじゃないと伝わらないものもあるんだと思う。牛や豚、食べられる側がどう思っているかはわからないですけど、ちゃんと味わってもらえれば気持ちがいいと思います。

田辺:牛や豚だって、どこかに詰め込まれて、糞尿垂れ流しで汚いところで、とりあえず体だけ大きくなるまで無理やり餌を食わされて生きていくのと、良い環境で、良い餌、良い水、優しい声をかけられながら大きくなっていった牛と、体に入った時にストレスって連鎖すると思うんですよ。ストレスのない肉をストレスのない料理法をして、「美味しいね」と話しながら食べられたら、その栄養価が50だとしても、100にも500にもなるはずなんですよ。

◆音楽的な比喩の表現の仕方で、ちゃんとカルチャーを橋渡しできる第一人者(千聖)

田辺:音楽もCDにするまでにどれだけの人が携わっているか見てきましたけど、食事も一緒なんですよね。その最後の形が盤であったり、料理であるだけの話で。よく人から「本業は音楽プロデュース業なのに、なんでお肉なの?」って言われるんですけど、お肉を勉強すればするほど、どんどん音楽に近づいていくというか、何か一つのものをやっていくと、その表現方法が違うだけであって実はすごく近いものがあるんだなと。自分が肉のイベントをやる時も、あれは言ってみればフェスなんですよね。それぞれのお店=アーティストがどういう表現をするか、それも優劣じゃなくて皆それぞれ好きな楽しみ方があって。

千聖:5月の田辺さん主催の東急百貨店でのイベント「肉グルメ博2016」の時なんだけど、お店がそれぞれ非常に楽しそうに精力を全部注ぎ込んで、お客さんに食べてもらいたいっていう雰囲気を感じました。一つ一つがものすごく美味しかったんですよね。イベントライブと同じようなものだからセットリストが短めなんですけど、その中でアピールできるものを凝縮したものが食べられる。田辺さんがすごくお店に対して敬意を払っているのがわかるのが、ちゃんと一つ一つお店を回ってちゃんとケアしていて。ちゃんと見て、ちゃんと声を掛けていて、丁寧にやってるなぁ、良い作品を作っているなぁと。

田辺:プロデューサーでもやるだけやって「じゃあ、よろしく!」って現場に来ない人いるじゃないですか。皆はその人のためにとか、その人がいるからやろうと思っていたのに「なんだ、現場にいないの?」って、すごく寂しいというか。僕は自分がお願いしたお店の方々が朝から晩までいるんだったら、自分もいなきゃいけないなという感覚ですね。

千聖:あのイベントの時、田辺さんは有名だしお忙しい方だから、不在かなと思っていたんですけど、ずっといて(笑)。知っている人たちが来ると挨拶しながら、あのスペースを行ったり来たり。すごいなぁと思って。

田辺:あれは天職だと思います。自分の結婚式をした時に、関係者がいっぱい集まってくれて「すごく楽しい!」と思ったんですよね。かと言って、普段誕生日会とかやったところで、そんなに集まるものでもない。どうやったら色々な人が来てくれるだろうと思った時に、一週間近くデパートの一つのフロアで自分のイベントをやっていれば、誰かしら来てくれるわけですよ。それが嬉しくて仕方がないんですよね。いつ来てくれるかわからなくても、自分がずっといて「来てくれてありがとう。ここのこれとこれを合わせると美味しいよ」とか、そういう楽しみ方を教えて、一緒に食べたり飲んだりできるのが、1日11時間とか立ちっぱなしで7日間やっていても楽しいんですよ。あと、準備まではプロデューサーの仕事だけど、ライブが始まってしまえばアーティストさんの勝負じゃないですか。唯一そこでできるのはお客さんを煽ることくらいなので、やっぱり現場にいないと。この先、どうしてもいられないこともあるかもしれないですけど、なるべく他の仕事は飛ばして現場にいるようにします。10月27日から始まる「GINZA 肉の祭典」は、ほぼフルでいますね。

千聖:「GINZA 肉の祭典」はなぜ松屋銀座でやることに?

田辺:去年、東急百貨店でのイベントが成功したので、結構色々な方からお声を掛けていただいていたんですけど、その中でやっぱり銀座という場所って日本の中心みたいな、一番華やかなエリアで、しかも自分の好きなお店も多いんです。そういうところで何か食のイベントができたらいいなと担当者の方とはずっと話をしていたんですけど、銀座らしい形ってどんなものだろうと色々考えて、むやみやたらに店を増やすということではなくて、他のイベントと一緒にやったほうが共存できるだろうということで、今回は「北海道物産展」というデパートの催事で言うと一番花形の催事の横でやるんです。

千聖:そうなんですね。

田辺:しかも、銀座で肉のお店で最高峰と言えるのが、マルディグラという肉好きにはたまらないお店なんですけど、そこのシェフ和知(徹)さんが、自分が牛だったら焼かれたい男ナンバーワンなので、なんとか頼み込んで、プロデュースみたいな形で入っていただいたんです。和知さん監修の美味しいハムカツが出ます。ハム自体も放牧豚という自由に解き放って育てて良いものを食べて育った豚を、無添加でハムにして、チーズと三層にしてミルフィーユハムカツとして出すんです。値段は800円くらいするんですけど、食べればその値段に納得します。レストランで食べたら、もうちょっと設えをよくして2,000円くらいする料理になっちゃうんですよ。

千聖:そう考えるとリーズナブルですよね。

田辺:ハムカツで800円とか肉寿司で2,500円とか、単価だけ聞くと高いと思うんですけど、それぞれがお店で食べたらもっとするんです。それを、音楽フェスで言うところのセットリストを4~5曲くらいに絞って、有名なヒット曲と自分たちが出したい曲で組むみたいな感じですね。

千聖:しかもいっぺんに聴ける=味わえるというのがいいですよね。

田辺:そこがいいんですよね。1店舗に行くと、やっぱりそこの世界しか味わえないから。フェスならではの、大御所と若い子がコラボしたりというのと同じように、マルディグラのハムカツと肉山のカレーを合わせてハムカツカレーにして食べたら、すっげー美味いし、「北海道物産展」の海鮮弁当とお肉を合わせてもいいですし。

千聖:確かに、光山(英明)さん(「肉山」オーナー。株式会社個人商店 代表取締役社長)も、東急東横に肉山カレーを出店した時「カツカレーが食べたい場合は(肉山の)カレーと隣のお店の豚カツを混ぜれば?」と言っていて、「あ、なるほど」と(笑)。

田辺:そうすると、そのフロアで盛り上がるじゃないですか。どっちかに来た人が横のものも買うというほうがいいですよね。まぁ動機は何でもいいんですよ。とにかく来て、買ってみる。あのお店行ったことなかったけど今度行ってみようかなと、それぞれの世界への一つの導入になるということが、こういう催事の面白さでもありますよね。

千聖:そう言われてみると、本当に良いイベントライブですよね。

田辺:そのフェスの名前で売れていくんじゃなくて、売れているアーティストをちゃんと呼んでくるというのが、たぶん他との違いなんですよね。そこのブッキングが毎回身も細る思いでやっています。

千聖:田辺さんのプロデュース能力がそこで問われるわけですね。

田辺:中には失敗もあって。例えると、このアーティストさんは本当はロックが得意なのにジャズフェスティバルに呼んじゃったみたいな。本気を出させてあげられなくて、申し訳ないことをしたなと。そういう経験をしてきて、まず何をしたいかをヒアリングして、でもそれだけじゃ目立たないからどうしていこうかと肉付けをしていくのが面白いですね。言うだけ言って、やってみたら全然美味しくないというのはよくある話ですけど、それがちゃんとハマった時、心の中で小さなガッツポーズです。その瞬間に僕は、またやりたいと思うのかもしれないですね。それこそ、このサイトを見ていらっしゃる方は肉が好きでというよりは、ロックが好きで見ている方が多いと思うんですけど、自分はポップス畑ではありますが音楽を作っている人間で、シンセが肉に変わっただけというつもりなんですよね。

千聖:田辺さんならではですよね。音楽的な比喩の表現の仕方で、ちゃんとカルチャーを橋渡しできる第一人者だと思っているので、料理人や食品会社の方とは全然違う切り口で話ができる。あと、いわゆる食通と言われている方たちとも少し違うラインなので、今回の対談企画の中で非常に良い要になると思っています。美味しいものを食べたいんだけど何をどう選んでいいかわからない、選択肢すらわからないという方も世の中にはいると思うんですけど、どうするのが一番いいんですかね。

田辺:自分の中で一つの基準を作っておくと、そこより好きか嫌いかで分けていけるのかなという気はしますね。例えば「食べログ」で、自分が好きなお店の評価が3.1くらいで「あれ? 自分の基準がおかしいのかな」と思ったとする。けど、そのお店に高得点を付けているレビュワーさんが他のどんなお店にレビューしているかというのは見られるので、その人が行っているお店の中に自分が行っているお店がもう一つあって、やっぱり自分と同じ評価だったとしたら、この人と自分は味覚が似ているということなんです。そうなったら、その人がお薦めしているお店に実際に行ってみるという手もあります。あと、自分の友人の中に、食べ物に詳しい人とか食べるのが好きな人っていると思うんですよね。そういう人に聞いてみて、そこに行くことがあったら誘ってくれと意思表示をする。行ってみて自分の嗜好と合わない場合もあるけど、ここはこういうものなんだなという相対評価をしていけばいいかなと。

千聖:なるほど。経験ができれば、ちょっとステップアップできますね。一番手っ取り早く言えば、「GINZA 肉の祭典」に行けば、いっぺんに色々なものを食べられますね(笑)。

田辺:相当クオリティの高いものを集めているつもりなので、ここで満足できないとなると、その方は本当にお財布がいくつあっても足りないかなと(笑)。

◆全部露になるのが、食べること(田辺晋太郎)

田辺:大学生くらいまでは一人あたり5,000円あれば足りる焼肉屋さんで満足できたけど、社会人になってちょっと美味しいものを食べたいという人が行く場所が、うしごろバンビーナとか、あの辺なんですよね。で、もうちょっとお洒落な店に行きたいとなると、KINTANとか。その辺の層が人数で言うと一番多いんですよね。もっと突き抜けたい人は、「食べログ」とかでも話題でマニアックだなと言われるような店に行ってみたり。ゆうじ、ジャンボ、よろにくとか、色々な選択肢がある。ご馳走してくれる人がいるから、炭火焼肉なかはらに行ってみよう、一人15,000円超えるけど美味しいという世界もある。そうなってくると、自分のお金では行けないけど行きたいお店、半年に一度の自分のご褒美とか、自分の中で使い分けができてくると思うので、そういう風にデイリー肉、ご褒美肉を分けていくといいのかなと思います。

千聖:すごく綺麗な方程式ですね。美味しいものって食べるとテンションが上がりますよね。食事というのは人間が生きている証だから、健康のバロメーターにもなるし。読者の方々には唸るようなご飯を食べてもらいたいなというのがあって。今は選択過多で何を選んだらいいかわからないという声を聞くので、田辺さんみたいな方々がいてくれるとね。そこからの応用ですね。

田辺:やっぱり入門編があって、そこから肉山系列の「わ」、たるたるホルモン、さとう、獅子丸にしても、塩ホルモンで安くて、十分クオリティは高いじゃないかとか。あとは女の子との距離の詰め方も、最初のデートで行く場合はここ(BLT STEAK ROPPONGI)みたいな内装のほうが間違いないわけですよね。でも、その彼女が結構本格的なものが好きだということであれば、そういうお店に連れて行ってみて、どういうリアクションをするかですね。煙が上がって、多少なりとも換気口から漏れるような店でも嫌な顔をしなければ、その子は付き合ってもいい子だと思うんですよ。でも「私お肉好きなの!」と言いながら、本格的な店に連れて行ってすごく嫌そうな顔をしたら、その人は外見しか見ない人なんですよ。そういうものが全部露になるのが、食べることなんです。

千聖:食事に行きましょうというのは、ある程度心を許している証拠でもあるから、その人の人生観が出ちゃうかもしれないですね。深いなぁ。素晴らしい。勉強になりました。

田辺:BLT STEAKは熟成肉のステーキのお店で、ハワイではトランプさんのホテルに入っているんですけど、ニューヨーク、アメリカを代表する大きなステーキ屋さんです。赤身のお肉で言うと和牛ももちろん美味しいけど、アメリカ牛は特に熟成の文化というのは日本よりも進んでいて。それを日本に広める宣教師的なポジションで来たのがウルフギャングとBLTだと思うんですけど、中でもBLTは分かりやすく噛み砕いて色々なものを作ってくれています。ランチメニューもすごく魅力的なものが多いし、夜も、Tボーンステーキとかはそれなりのお値段なので、ご褒美肉やおねだり肉でいいと思うんですけど、ハンガーステーキという牛のサガリの部分は、自分で食べるのにも十分コスパもいいと思います。ステーキとちょっとしたものを付けて、5,000円くらいで食べられるので。

千聖:サガリもあるんですね。それは美味しそう。

田辺:もちろん高級なお店なんですけど、取っ付きやすいものもあるのがBLTの魅力ですね。料理のバリエーションもきっちりあるので、お肉を焼いただけじゃないメニューもあります。失敗しないデート肉のお店かなと。

千聖:女子だけでも入りやすいし食べやすい。このお店なら、どんなシチュエーションでもOKですよね。

田辺:個人的に好きなのは、誰を連れて来ても間違いないというか。ガッツリお肉を食べたいという人にはお薦めですね。ホテルのレストランみたいな雰囲気もあるし、テラス席も個室もあります。アメリカ牛の熟成肉ならではのステーキハウスの取っ掛かりとして、ぜひ来ていただきたいなと思います。

千聖:90年代半ば~後半頃、結構あちこち行ったんですけど、あの時代よりも格段に一つ一つのお店のレベルが高い気がするんですよね。

田辺:お肉で言うと、当時はハラミがあるかどうかくらいでしたよね。どんどん進化、深化していますね。同じ素材でもカットの仕方で変わるとか、お店の人たちが勉強しているし、色々な部位が出てきて、どう味付けするのかも年々進化しているし。東京はすごい街になりましたよね。お店の数も半端ないし、ニューヨークやパリよりも三ツ星の数が多いんですよ。

千聖:へ~。検定を受けに行った時、なぜ焼肉屋に三ツ星が付かないかという話を最初にしていて、なるほどなと。

田辺:焼肉は最後の一番大事な焼くという部分を、お客さんに任せちゃうんですよ。だから永遠にミシュランの星は取れないんですよね。料理としては一番大事なところをお客さんに投げてしまうというのはすごく怖いことで、その人によって全く変わってきてしまう。だから焼きの技術を上げなきゃ、クオリティを保てないということです。

千聖:やっぱり検定を受けなきゃダメだなと(笑)。

田辺:これを読んで自分も受けたいという人がいたら、ぜひ。

千聖:僕、あそこで知り合った男性の方、今も会ったりしますよ。そんな繋がりができるとは思っていなかったので、素晴らしいコミュニティだなと。

田辺:一つのことを好きな人たちが集まっているので、わかり合えることが多いと思うんですよね。そういう場としても重要なのかなと。

千聖:面白い出会いです。とにかく田辺さんの講義は心が豊かになるので、ぜひ。

田辺:ところで、今回は「GINZA 肉の祭典」のトークショーも引き受けていただいて、ありがとうございます。(※10月27日~11月1日の期間中、松屋銀座1F特設スペースにて日替わりでゲストを迎えて行われるトークショー。千聖出演は10月28日)

千聖:こちらこそ、ありがとうございます。楽しみですね。

(文・金多賀歩美)

取材協力

プライム ハンガーステーキBLT STEAK ROPPONGI

〒106-6005 東京都港区六本木1丁目6-1 泉ガーデン5階
TEL:03-3589-4129
[Lunch]11:30-15:00(L.O.14:15)
[Dinner]17:00-23:00(L.O.22:00)
無休

■BLT STEAK オフィシャルサイト
http://bltsteak.jp/

プライム ハンガーステーキ ¥3,800(税別)

PENICILLIN千聖のお肉じゃーなる一覧へ

<INFORMATION>

GINZA 肉の祭典
会期:10月27日(木)~11月1日(火)10時~20時 ※最終日17時30分閉場
会場:松屋銀座8階 イベントスクエア

【出店店舗&おすすめ料理】
ミルフィーユチーズハムカツ
・銀座/マルディ グラ×松屋:ミルフィーユチーズハムカツ(1個)864円(数量限定)
・西麻布/霞町三○一ノ一:尾崎牛 炙り寿司(5貫)2,808円
・日本橋/肉友:ローストビーフ丼(1杯)1,944円
・麻布/旬熟成:旬熟成の極上ウニのタルタル(1皿)3,888円(各日15皿限り)
・銀座/銀座やまの辺 江戸中華:松茸と上海カニの焼き小龍包(2個)1,836円
・麻布/十番右京:トリュフのせ知床牛のすき焼きご飯(1杯)1,836円(数量限定)
・新宿/焼肉 大貫(※10月27日(木)~29日(土)限定出店):特選焼肉弁当(1折)2,700円
・東京/ELEZO・HOUSE:エゾ鹿 ロースとヒレのロースト 白モツと豆のトマト煮込み添え(1皿)2,376円
・吉祥寺/肉山:肉山特選カレー(1杯)864円
・銀座/焼肉 銀座コバウ(※10月30日(日)~11月1日(火)限定出店):コバウの焼肉弁当(1折)2,700円

■松屋銀座 オフィシャルサイト「GINZA 肉の祭典」ページ
http://www.matsuya.com/m_ginza/sp/20161027_hokkaidoubussanten_2f.html#niku

田辺晋太郎

<プロフィール>

音楽プロデューサー/ラジオパーソナリティ、MC/肉マイスター
音楽家やMC、ラジオパーソナリティが本業ながら、実践に基づく深い見識で肉の生産背景からベストな食べ方まで流暢に話すホスピタリティあふれる語り口から「肉マイスター」と呼ばれる。テレビ、ラジオの出演にとどまらず、飲食店コンサルやメニュー開発およびプロデュースを行う他、専門書や雑誌の監修を務め、著書『焼肉の教科書』(宝島社)は28万部(2016年10月現在)を超える。2014年10月、一般社団法人「食のコンシェルジュ協会」を立ち上げ、初代代表理事に就任。

■田辺晋太郎 オフィシャルブログ
http://ameblo.jp/shintaro-tanabe/
■食のコンシェルジュ協会 オフィシャルサイト
http://syoku-con.com/

【田辺晋太郎 リリース情報】

焼肉の教科書
2013年5月24日(金)発売(宝島社)


¥571+税

焼肉の教科書 決定版!
2014年10月7日(火)発売(宝島社)


¥580+税

ARTIST PROFILE

千聖

<プロフィール>

HAKUEI(Vo)、千聖(G)、O-JIRO(Dr)によるロックバンド・PENICILLINのギタリスト。1992年結成。96年にメジャーデビュー。98年には後に代表曲となる『ロマンス』をリリースし、90万枚を超える大ヒットを記録。CDリリース、ライブなど精力的に活動を行う。2015年3月には昭和歌謡をカバーしたアルバム『Memories ~Japanese Masterpieces~』をリリースし、話題に。2016年11月9日にはニューミニアルバム『Lunatic Lover』をリリース、11月20日より全国ツアーを行うことが決定している。また、1996年からソロでも活動しており、2016年で20周年を迎えた。現在ソロプロジェクトではCrack6として活動し2013年には活動10周年を迎え、2016年6月にニューアルバム『薔薇とピストル』をリリース。主催イベントライブ『Crazy Monsters』を開催し、ヴィジュアル系バンドとの交流や、オムニバスCDのプロデュース、参加など、PENICILLINの活動と並行し、精力的に活動を行っている。

■PENICILLIN オフィシャルサイト
http://www.penicillin.jp/
■Crack6 オフィシャルサイト
http://www.crack6.jp/