2025.10.14
geek sleep sheep@渋谷CLUB QUATTRO
「tour confusion bedroom 2025」

geek sleep sheep「tour confusion bedroom 2025」最終日。名古屋、大阪と回ってきた短期ツアーの最終日が東京・渋谷CLUB QUATTROで行われた。彼らのライヴは昨年12月以来で、筆者もそれ以来の参加となる。会場は満員の盛況で、その間新曲を出したわけでも、ニュー・アルバムを出したわけでも、派手な動きがあったわけでも、大きな話題があったわけでもないのに、このライヴ動員には驚かされるし、特に奇を衒ったわけでもない彼らのオーソドックスなロックが、ここまで待たれ、じわじわと支持を広げている状況は心強い。
全16曲。3曲演奏されたカヴァー以外の新曲はなし。これまでにリリースされた2枚のアルバムからの楽曲を中心にバランスよく配置された楽曲を、大事な宝物を扱うように、だが適度にラフな手つきで歌い、演奏していく。派手な照明も、特別なステージセットも、これといった演出もなく、ときおり自然体のMCが入るほかは、3人だけのプレイが淡々と続く。客を煽ることもなく、ステージ上で激しいアクションを見せるわけでもない。何の変哲もない、だがポップでキュートなメロディを持った楽曲が鳴らされる。とても優しく、繊細で、そして居心地のいいライヴだ。

2012年の結成以来13年目。yukihiro(Dr)、百々和宏(Vo&G)、345(Vo&B)という3人のメンバーは不動であり、その身にまとう雰囲気や音楽性の基本に変化はない。ギター、ベース、ドラムスという編成に、百々と345のツイン・リード・ヴォーカル(曲によってデュエットとなる)が乗る。曲によってトラックが使われるが、ベーシックなトリオ編成のバンド演奏は、デビューした時から変わらない。この日のライヴ前の出囃子にはジーザス&メリー・チェインが使われていたが、そうした80年代のニュー・ウエイヴや90年代のオルタナティヴ・ロックなどを共通基盤に置いた音楽をやり続けている。年齢も出自も音楽指向も違う、ひとかどのミュージシャンたち。それぞれを中心とした円が交わるスペースがgeekの音楽となる。そしてここがバンドというものの面白さだが、geekのロックは、メンバーがそれぞれ別に運営・参加しているバンドやプロジェクトとの音楽的共通点がありつつも、組む相手のメンバーによってここまで大きく変わるものかと驚かされる。

たとえばニュー・ウエイヴに影響されたロックという意味ではyukihiroのL’Arc-en-Cielとの共通項はあるが、L’Arc-en-Cielのような劇的で完成度の高い作り込んだエンタテイメントとはまったく異なる、素朴でストレートな歌心を感じさせるロックで、yukihiroのプレイも、ACID ANDROIDやPetit Brabanconで見せるクールだったりエモーショナルだったりエキサイティングだったりするプレイからは想像もつかないような穏やかなドラムが聴けたりする。

曲によって歪んだギターが激しくうなりをあげるようなかなりハードでノイジーな演奏も展開するが、同じトリオといっても百々のMO’SOME TONEBENDERのようには決してならない。たとえばこの日カヴァー演奏された「Just Like Heaven」など、モーサムがやればひたすら殺伐として、草木も生えないような荒涼としたロックになりそうだが、geekのロックはどんなにハードでノイジーな爆音でも、穏やかでポップで優しくてキュートですらある。モーサムの3人でやると限りなく狂気スレスレ、犯罪者ギリギリの危険な百々が出現するのに、geekではまったくそうはならない。それは345、yukihiroというメンバーが、百々の穏やかで優しい面を引き出すからだ。それはyukihiroにしても345にしても同じである。凜として時雨での345の性急でピリピリ切羽詰まった緊張感は、決してgeekには現れない。人間にはさまざまな一面があり、決して一定のイメージに押し込めることはできない。もしひとつのバンド、ひとつのアウトプットしかなければ、そうした多面性がすべて反映されるが、彼らはそれぞれいくつものアウトプットを持っていて、それぞれに違う自分を反映させる。だから同じ人間がやっていても、それぞれ違う音楽となる。geekはそのひとつなのだ。

彼らは本当に落ち着いて、心穏やかにgeek の演奏を楽しんでいるように見えた。お客の期待を感じつつも、しかしそこに縛られることなく、素直にやりたい音楽をやっている。この日演奏されたカヴァーはブラーの「Song 2」、キュアーの「Just Like A Heaven」(ただしダイナソーJrのカヴァー・ヴァージョンを参考)、そして忌野清志郎&坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」の3曲で、いずれもyukihiroの選曲。選曲の基準は「すぐにできるもの」ということだったが、要は誰でも知ってる定番曲ということだ。そこに深い意味はなく、ただ好きな曲を好きなようにやりたい、というだけ。ひねりのないストレートな演奏からは、まるでバンドを始めた中学生のような喜びと、初々しい初期衝動が感じられた。MCはさすがにフロントマン歴が長く手慣れた感じの百々を中心に345が絡み、なんともアットホームな感じ。yukihiroも楽しげに彼らと会話をかわすが、マイクを使わないので後ろの方じゃ全然聞こえないよ(笑)!

なんだかアッという間に終わった1時間40分。今年のライヴはこのツアーの3本だけ。次の予定もはっきり決まっているわけではなさそうで、気が向いたらやりますよ、ぐらいの、なんともゆるい感じ。でもスケジュールぎっしりでガチガチに決め込むような活動ほどgeekにふさわしくないものはないだろう。多忙な3人ゆえスケジュールを合わせるだけで大変そうだが、無理せず長く続けてほしいと心底思う。
◆セットリスト◆
01. Weekend Parade
02. SANPO
03. planet ghost
04. Teardrop
05. lost song
06. night cruising
07. Daydream
08. Song 2 (Blur cover)
09. Just Like Heaven (Dinosaur Jr. cover)
10. い・け・な・いルージュマジック(忌野清志郎 + 坂本龍一 cover)
11. kaleidoscope
12. feedback
13. Jesus wa gokigen naname
14. Strange Circus
15. Motorcycle
16. kakurenbo
17. hitsuji
(文・小野島大/写真・Susie)