2025.09.05
Petit Brabancon × 凛として時雨@Zepp DiverCity (TOKYO)
「Petit Brabancon CROSS COUNTER -02-」

Petit Brabancon

去る3月、名うてのライヴ・バンドたちとの対バン&ワンマン・シリーズ「CROSS COUNTER -01-」にて、その威力と狂気を多くのバンド・ファンに見せつけたPetit Brabancon(以降プチブラ)。それから約半年、早くもその第二弾となる「CROSS COUNTER -02-」をスタートさせた。本シリーズでも日頃よりライヴハウスを沸かせる強烈なバンドたちが名前を並べ、ワンマン・ショウとともに6公演が催される。

記録的な猛暑となった8月だったが、その陽射しは9月になっても衰えるところ知らず、日々日本列島を照らし続けている。が、その合間には集中的豪雨もあり、不安定な天候は常に頭上に居座っている。公演初日となった9月5日も、東京は雨に見舞われていたが、ライヴが始まる少し前に晴れ間が訪れ、会場となる台場エリアはきれいな夕焼けに包まれた。そしてZepp DiverCity前には、プチブラ、そして同日の共演バンドである凛として時雨のファンが、入場への列を作っている。

凛として時雨

重要な公演初日の相手である凛として時雨。彼らもアバンギャルドなサウンドを生み出す唯一無二のバンドではあるが、プチブラとは少々シーンが違うように思う人もいるだろう。ただyukihiro(Dr)と凛として時雨の345(B、Vo)はgeek sleep sheepにてボトムを担うコンビであるなど、縁浅からぬ2バンドなのだ。直球だけではない、ある意味変化球的なマッチアップで交錯する、まさに“クロス・カウンター”なのである。

凛として時雨

そんな2バンドの激突とあって、フロアは開演前からムンとした熱気で充満している。そしてデジタリックなSEに促され、TK(Vo、G)、345、ピエール中野(Dr)が登壇。大歓声にハジかれギター・アルペジオとともに始まったのが「abnormalize」だ。TKのほかにないハイ・トーン・ヴォーカルはフロア奥まで射抜くようで、一瞬にしてファンのボルテージを上げていく。また一聴するとノイジーな印象もあるギターも、そこここにペダル・フレーズを入れていくなど、実に歯切れよく繰り出されていく。ここに345の、これも高域に特徴のある歌声が混ざり合うことで、ヴォーカル・パートの層はひと際厚みを帯び、それをピエールのドラムがガッシリと支えるという、1曲目にして凛として時雨の骨頂が感じられる演奏を聴かせてくれた。

TK(凛として時雨)

そのままバンドは2曲目となる「竜巻いて鮮脳」をプレイ。音数の多いカオティックな曲で、TKの16分カッティングは攻撃的であり、ハイ・ポジション〜ロー・ポジションと幅広く行き来するベース・フレーズも強い存在感を示す。ダンサブルなアレンジも聴かせるコーラス・パートは、スネア位置はもとより、中野の緩急あるドラミングがよりいいグルーヴを出していると言えるだろう。アタマ2曲にして、ファンは彼らの演奏に前のめりだ!

345(凛として時雨)

TKの簡単な挨拶を挟み、そこからもバンドはエッジィな楽曲をどんどんとプレイしていく。ブーミィなベースにディレイを使ったギターが連なり始まる「DISCO FLIGHT」、カッティング・リフにすぐさまファンが反応していった「ハカイヨノユメ」などなど、いつものセットリストにくらべ、圧のある選曲&演奏だと言ってもいいのではないだろうか? 当然プチブラとの共演であることを念頭に置いたセットリストだろうが、こういった並びの曲が楽しめるのも対バン・イベントならでは。仮に片一方のバンドだけをお目当てにしていたとしても、“美味しい”のだ。

ピエール中野(凛として時雨)

後半もその選曲イメージは変わらずで、激しい曲群のなかでも同日特にアグレッシブだった「nakano kill you」では、クラウド・サーフも飛び出した。タイトルどおり中野のドラムが特にフィーチャーされ、炸裂するドラミングが圧巻だった。そしてラストは落ち着いた歌唱ナンバーで、アンサンブルのスペースを大きく使った「傍観」にてフィニッシュとなった。アウトロにてTKは絶叫し、中野は充実した表情を見せ、345はベースを感情的に鳴らしフロアに置きステージ袖へと去っていった。

凛として時雨

もともと個性的であり先鋭的な彼らではあるが、前述したように、本日は特に感情的な面も強く出ていたように感じられた。プチブラとはシーンを異にものの、凛として時雨が初見だったプチブラ・ファンも、かなり彼らに親和性・親近感を感じたのではないだろうか。そして凛として時雨が作り出したカオティックな空間は、そのままメイン・アクトとなるPetit Brabanconのステージに引き継がれていく。

Petit Brabancon

セット転換中も熱気を帯び続けていたフロアだったが、プチブラお馴染みのオープニング「move」が鳴り出すとファンは一気にステージ前へと密集していく。そしてyukihiro、高松浩史(B)、antz(G)、ミヤ(G)が順々に姿を現わすとフロアからは彼らの名前が叫ばれ、最後に京(Vo)が登場するや、より大きな歓声がかかる。そしてOPが終わりファンの声が止んだその一瞬の静寂を経て、antzのギター・リフがバンドの開幕を告げる! 1曲目は「dub driving」だ!

先の公演でも開演曲として選ばれた本曲。ファンもそのつもりだったのだろう、ドラムのフラムをきっかけに、のっけからモッシュにも近い勢いでステージに手を伸ばし、体を寄せていく。京も重心低くファンを煽り、それに対してファンはサーフで応えていく。ツイン・ギターは7弦ギターならではの重いドライブ音を炸裂させ、アクションも大きくステージにて存在感を放つ。逆に高松は1曲目ということもあり、実直なローにて弦楽器をひとつにまとめる。ヴァースではハネ感も加わり、フロアは縦に横にと早くも大賑わい!

京(Petit Brabancon)

ドラムンベースが鳴り響く…続く2曲目は「Don’t forget」だ。ファンもすぐさま反応し、「オ〜オ〜ッ」と声を上げていく。フロントマンの京はもちろんのこと、ギタリストふたりも立ち位置を入れ替わるなど、ここでもステージを大きく使い“魅せる”ことも忘れない。このあたりは、やはり普段のバンドでのキャリアがものを言うというところだろうか。音圧だけで攻め続けるというわけではない、プチブラの華のある面が生きてくるシーンと言えるだろう。

アンサンブルという面では、「Don’t forget」は常にめまぐるしく音が鳴っているタイプの曲なのだが(まぁ、ほかの曲も常に音がなっているが/笑)、大きいグルーヴを持っているのが特徴だ。これも他曲でも言えるのだが、符割り的にハネているわけではないのに、アッパーなアクセントが感じられるのも彼らの楽曲の特徴。剛腕ギター・リフを刻む曲であっても、どこか軽やかなビートを感じさせてくれる。このあたりは、yukihiroの個性であり手腕なのだろう。キックの4分打ちが特徴的な「a humble border」や2000年代モダン・ヘヴィロック的な要素も内包した「OBEY」などは、そのドラム・キャラクターがより顕著に出る。

yukihiro(Petit Brabancon)

ノンストップで進んでいくステージ。そのセット中盤にて、ある意味ではストレートなモダン・メタル的な曲がプレイされた。いまだ聴いたことのない本曲は、彼らの新曲にほかならない! 当然ながらロー・チューンのギター・フレーズが轟き、京の強烈なヴォーカルが唸りを上げる。ただ低音フレーズであってもミヤの単音オブリはピッチもハッキリと聴き取れて、“何をやっているかわからないけどスゴい”というタイプの演奏ではないところに、これも彼の練度がうかがえる。もちろんantz、高松のプレイもそうで、“バンドが聴かせたい音”が明瞭にあることがわかる。

ドラム・アクセントに遊びを入れるなど、ただヘヴィなリフで押し込むワケではない本チューン。彼らは曲を量産するタイプではないため、ある意味では貴重な新曲だ。今後はシングル/EPなどに収められるのかなとも想像するが、アートワークにもこだわりがあるバンドにつき、ひとつのパッケージとしてどのような世界観の曲となるのか、今後が楽しみである。きっとこののちのツアーでもプレイされる可能性は高いだろうし、そこでのブラッシュアップもなされるだろうから、複数のステージを体感して、その変化を見届けるというのもいいだろう!

ミヤ(Petit Brabancon)

そんな苛烈な新曲でも切迫感のあるスクリームを炸裂させた京だが、当然ながら彼の歌唱はそれだけではない。例えば「眼光」でのように、大きく歌えるのもこのシンガーの魅力であり強みだ。ときにはクワイアのようなアプローチを見せる曲もあり、そういったテクニックはその曲が持つホラー・テイストをより充満させてくれる。まぁ、彼はテクニック云々など気にせず、曲それぞれが必要としている音を、声を使って生み出しているのだろうが…。

これまでのステージと同様、必要以上の言葉を発しないメンバー(というか誰もMCマイクをとらない)。そのためセットは怒涛に進み、ファンも休むことができない。それでもどの曲でもバンドに負けず声と体を使い、5人に向けて熱狂をぶつけていく。そのハイライトのひとつの曲が、終盤にプレイされた「疑音」だろう。京の「男、女、もっと狂っちまえっ!」――その言葉にハジかれて曲が始まり、ヴァースではベースとドラムがグルーヴを引っ張っていく。前方に出てくることが多いわけではない高松だが、ゴツゴツしたピッキング・ベースは常に曲に推進力を加えていく、やはりプチブラに欠かすことのできない音なのだ。

antz(Petit Brabancon)

コーラスではギャング・ヴォーカルも入り、もちろんオーディエンスもそこにノッていく。一体感がピークに達した頃、いつのまにか京はステージからフロアへと足を踏み出し彼らのなかへ…無数の手が京に向かって伸びていくその様は、いつ観ても禍々しくもあり神々しくもある。

バンド&オーディエンスはひとつの塊となって、ラスト・ナンバーに突入する。京は本日最もガテラルなヴォーカルをとり、ハードコアの香りをプンプンに匂わせながらも以前よりも独自のカラーを強めた楽曲が、会場に最後の混沌を作り出したのだった。曲終わり後もバンドのサウンドは鳴り続け、ミヤはペダルを操りギターを発振させる。最後までカオティックなプチブラなのであった。

高松浩史(Petit Brabancon)

1曲目からラストまで、怒涛に進んだ本ステージ。対バンということもあり、当然ながらワンマン公演に比べ曲数は少ないわけだが、なんだろうこの疲労感は。

前述したように、凛として時雨はプチブラを意識した(であろう)選曲とパフォーマンスだった。きっとプチブラのなかにも、その逆の影響があったことだろう。本シリーズの次公演は今週末の名古屋ボトムライン2Days(9月13日・14日)で、2日目はSiMをゲストに迎えてのライヴだ。ワンマン/ツーマンともに良さがあるが、たった1日違いの両ステージでも、プチブラの違う顔が見られるような気がしている。参加するファンには、ぜひそのあたりも体感してもらいたい!

(文・岡見高秀/写真・Cazrow Aoki、尾形隆夫)


【ライブ情報】
●Petit Brabancon CROSS COUNTER -02-
9月13日(土)名古屋 THE BOTTOM LINE
open 16:45 / start 17:30 ※Petit Brabancon Only
9月14日(日)名古屋 THE BOTTOM LINE
open 16:45 / start 17:30 ※Guest:SiM
9月20日(土)大阪 GORILLA HALL OSAKA
open 16:45 / start 17:30 ※Petit Brabancon Only
9月21日(日)大阪 GORILLA HALL OSAKA
open 16:45 / start 17:30 ※Guest:Sable Hills
9月25日(木)東京 Spotify O-EAST
open 18:00 / start 19:00 ※Petit Brabancon Only

<チケット料金>
一般スタンディング:¥6,500(税込・整理番号付・D代別)
一般スタンディング(オリジナルTシャツ付):¥10,000(税込・整理番号付・D代別)
U-30スタンディング:¥5,000(税込・整理番号付・D代別)※U-30チケットは対バン公演のみ
チケット発売中

Petit Brabancon オフィシャルサイト
凛として時雨 オフィシャルサイト