2025.01.06
キズ@日本武道館
単独公演「焔」

40日ぶりの、そして2025年初めての雨が降った1月6日、キズは日本武道館で初の単独公演を行った。多くのバンドマンにとって憧れのステージであり、メンバー4人も数年前より明確に目標にしてきた舞台ではあったが、ことキズにとって、日本武道館という会場がそれ以上に重い意味を持つ場所であることを、彼らの活動を見てきた者なら知っているだろう。そこで『焔』という公演タイトルを掲げ、彼らが燃やしたのは己の命。先の時代を生き、命を燃やしたすべての人々へのリスペクトを込め、不要なものを焼き払いながらも、4人は令和の現在から未来へと歴史を“つなぐ”新たな扉を開いた。

歴代のMV映像を組み込みながら、雪山を往くオープニング映像が流れ、きょうのすけ(Dr)はドラム台から立ち上がって客席を煽動する。そしてオーバーチュアからそのまま続く形で始まった1曲目は、キズの歴史の中でもターニングポイントと言える曲「ストロベリー・ブルー」だ。従来の激しさのみならず、壮大なトラックで物語性のある空気感を押し出していくミドルチューンで、手を掲げて揺れるオーディエンスに向けて繰り返されるのは“さぁ、行こうあの場所へ”“さぁ、こっちへ”という文言。彼らにとっては、1つの約束の地でもある“この場所”へと招き、曲終わりには『焔』という公演タイトルが大きく赤文字で映し出されて、大舞台の幕は開いた。

そうして助走をつけ、すかさず「命燃やせるか⁉」という来夢(Vo/G)の問いから「傷痕」になだれ込めば、場内温度は一気にバースト。客席は一瞬にしてヘッドバンギングの海となり、楽器隊の分厚いプレイが場を牽引していく。相変わらず切れ味の鋭すぎる高音を轟かせる来夢は、続く「人間失格」でもオーディエンスの勢い十分な拳やクラップに「もっと!」と要求。きょうのすけが間奏で繰り広げるドラムプレイもすさまじく、そうして全精力を互いに吐き出していきながらも、LEDモニターに大写しになる仏の姿が、この曲が人を操る神の視点を持った一種残酷な作品であることも表していく。それを最も端的に表す“君の涙で遊んでいたい”というラストフレーズから繋がるように、“涙も憎しみも全て僕のせい”と歌う「蛙-Kawazu-」では、限界ギリギリまで引き絞られた激情を解放していくかのようなパフォーマンスが炸裂。弦楽器隊は広いステージを伸び伸びと動き回り、reiki(G)が自身の体を軸にしてギターをくるりと回転させれば、ユエ(B)はサビで“オイ!オイ!”とたくましいコーラスを聞かせ、拳を突き上げて暴れる客席にフッと微笑みかける。きょうのすけも立ち上がり、客席を見渡して舌をペロリ。激烈でありながら安定したプレイでオーディエンスを心地よく揺らし、強烈なメッセージ性を叩き込む――キズの真骨頂はそこにある。

雨音が聞こえ「アリーナ! スタンド! よく来たな!」と来夢が挨拶しての「銃声」からは、ファンにも人気のライブチューンを繋げて重厚な物語を紡ぎ、観る者を圧倒していった。モニターに映し出される「銃声」の歌詞と、ギターを抱えた来夢の真っ直ぐな歌声が訴えるのは、銃声の聞こえない国で人の心に空けられた風穴の虚しさ、陰湿さ。そしてモニターで雷鳴が轟くと「死ぬ気で来い!」と来夢が煽り立て、真っ赤に染まったステージで「おい、いくぞ、てめぇら!」と、YouTubeで121万回再生を記録している「地獄」を投下する。そこで描かれるのは、まさに銃声の聞こえない国での“地獄”。モニターには折り鶴や寺院など日本を象徴する意匠が現れ、日輪となった赤い脳が燃え血を流し、地獄と化した渋谷らしき街を亡霊が歩く。そこで来夢は叫ぶのだ。「ROCKなんかに乗んじゃねぇ! 俺の生きざまに乗れ!」と。さらに拳と頭を振るオーディエンスに「よぉ、楽しくなってきたじゃねぇか」と笑んだ彼は、ガンガンに上がるフレイムの特効が客席まで熱を届け、reikiがガリガリと歪んだ音を鳴らすなか、「命燃やすぞ!」と号令をかけて場内に凄まじい狂乱を生みだしていく。武道館だからこそのビックスケールな演出は、人の世の理を表すようなキズの世界観にピッタリとマッチして、最後に日の丸が大きく映し出されて炎が上がるフィニッシュは、まさしく圧巻の一言。武道館のシンボルとも言える日の丸の下で、日の丸を燃やすステージングは衝撃的だが、それが単なるセンセーショナリズムではなく必然であるのは、彼らが紡ぐ物語を見ればよくわかる。

そしてCO2が噴き出すなか、reikiとユエは花道の端まで駆けて客席の声と拳を煽り、きょうのすけが力の限りドラムを叩き上げるインストゥルメンタルを挟んで、ピアノの音から始まったのは最新シングル「鬼」。お立ち台に立ってアカペラで朗々と歌い始めた来夢は、バンドが入ると“怠い”とリフレインするBメロで「だりぃよな? 何もかもだりぃよな⁉」と叫び、ユエは硬いスラップベースを放って、reikiは音だけでなく自らも動き回って狂おしいギターソロをかき鳴らす。クラップを贈るオーディエンスに「もっと!」と求める来夢の後ろでは、まるで魂の巡りを表すかのように天上からブラックホール、海中へと時空を超える景色が映し出され、やがて先ほど地獄と化したはずの街へと帰還。そんな地獄にあってさえ来夢は“君といたいから 死にたくないな”と歌い上げ、「救われたい奴だけ……救われたい奴だけついてこい!」と高らかに言い放つのだ。どんな地獄にあっても、ついてきてくれる人々を救いたい、一緒に生きたいと歌う「鬼」は、真実の“愛”の歌である。さらに映像の中の風景は見覚えのある荒れた小さな和室へと帰着し、そこを舞台にMVが撮られた「平成」がギターを抱えた来夢のヒステリックな刻みから幕開ける。赤いレーザー光線が飛び交うなか「死ぬ気で来いよ!」と厳命した彼に“オイ!オイ!”と声があがるが、それでも「おい、聞こえてる? 俺の耳が悪いのか!?」と貪欲に求め、客席が明るくなると「ここがどこだとか、どうでもいい! もっと俺らとやり合おうぜ! もっと俺ら、お前らとやり合いてぇんだ!」と叱咤。最後は“ただ生きたいだけ”と歌って「鬼」で訴えたメッセージをダメ押しするのだ。そして訴えられる「一緒に生きてくれるか? 俺らと一緒に生きてくれ!」の一言こそ、彼らが伝えたいことなんだと、以降のステージでも強く実感させられることになる。

ここで白いレーザー光線が場内を照らし、やがて雨音から星空へと変わって、静かに届けられたのは「My Bitch」。2023年のNHKホール公演で初披露して以来、音源化が待ち望まれているバラードも、実は雨がモチーフになっているナンバーだ。後のMCでも語られた通り、40日ぶりの雨を降らせたほどの雨男・来夢にとって大事な曲であることは間違いなく、星空の中で紡がれるreikiのギターソロも美しい。しかし、歌い終えて告げられた「ありがとう」の言葉で、心安らぐような時間は終了。再びの雨音にreikiが物悲しいフレーズを奏で、来夢が“生まれなくてよかった”と「0」を歌い始めてからは、終わりまでフルスロットルで爆走する。モニターでは街が燃え上がり、オーディエンスは左右にモッシュして“何もなかった”と繰り返す救いのない歌詞とのギャップで驚かせるが、そこで飛び込んでくる「好きに生きろ!」という来夢の煽りにハッとさせられる。そもそも“何もない”とは“何でもあり”ということだと、偉大な先達も歌っていたはずだ。そして「まだ、やれんだろ、てめぇら!」と叩きつけた「リトルガールは病んでいる。」では、激しく行き交うレーザー光線の下、拳を振り上げるオーディエンスに「何度でも作ってみせる! お前らのこの記憶の中で、お前らの中で生き続けてやる。生き続けてやる!」と絶叫。曲が終わっても「死んでもお前らの中で歌い続けてやるからな生き続けてやる!」と念押しし、改めてキズの曲と存在を聴く者に刻みつけていくことを宣言する。事実、それが大げさには聞こえないほど、彼らの楽曲には、まるで傷痕のように人の心に残り続ける力があるのだ。

「ラスト!『おしまい』にしよう」という言葉から始まった本編ラストソングは、もちろん1stシングルの「おしまい」。両脇で桜が散るモニターではMVの4人とリアルタイム4人が交互に映し出され、その変化と成長を視覚でも表していく。1stシングルなのに「おしまい」なのか?と、シーンに大きな衝撃を与えたデビューから約8年。キズの誕生時からあった楽曲で熱狂するオーディエンスに、来夢は歌詞を歌い替えて特別なメッセージを贈った。

“鳴り止まない声の痛みに気付いた この命(こえ)でお前の全てを救いたい この声(いのち)を聞いてくれ ただ今を生きてくれ”

“お前を救うことなどできない”と歌っている原詞からの変化は、そのまま、この8年での彼自身の変化である。人が人を救うことなど本来できはしない。それがわかっていても尚“救いたい”“生きてほしい”という願いは、今、彼の中に確かに芽生えているのだ。

結成からの軌跡を記して終わった本編に続き、さっそくアンコールでは最新型のキズが提示され、登場するなり4月9日にリリースされる新曲「R/E/D/」を披露。ポエトリーリーディングにも似た低音ボーカルからエモーショナルに展開していくナンバーは、反抗的なリリックの中に、実は先達に対する強烈なリスペクトが詰め込まれているのが特筆すべき点だ。“蒼い血”からはX JAPAN、“あの丘”からはDIR EN GREY、“夢鳥”からはMUCC、“斬鉄剣”からはギルガメッシュ等、偉大な先輩方を彷彿させるワードと、そしてビジュアルが3面モニターをフルに使った映像には仕込まれていた。そんな仕掛けの上で“夢”や“憧れ”という“呪い”にとり憑かれ、もがき苦しみながらも“天国に行くのではなく、今、生きている此処を天国にしろ”と強く訴えかけるリリックは、まさにキズ節と言うほかない。まったくの初披露にもかかわらず、すぐに客席からクラップが湧いたのも印象的で、クライマックスではアグレッシブなプレイと共に“この命と燃えてる”と吐き出し、最後に「この命ある限り、燃え続ける!」と叫びあげれば拍手喝采。その瞬間、大きく映し出されたタイトルの「R/E/D/」には、3つのアルファベットそれぞれの中心にキズの三本線が入っており、自身の存在を強く主張するものになっていた。自分たちの音楽を聴いてくれる人たちを救いたいという、この8年で培われた“外側”に開かれた想い。では、そのためにどうすればいいのか?というところに立ち返り、再びバンドの“内側”へと向かった結果が、この「R/E/D」であるように思えなくもない。

MCでは、今日40日ぶりの雨が降ったことを伝え「ここまでくると怖いです! 雨男というか、雨に呪われてるんじゃないかって。いつも通りの雨で、今日はちょっとホッとしてます」と来夢が語る。そのままreikiのギターをバックに、メロウなバラード「鳩」を歌い出して、ゆっくりとステージを横断しながら「ありがとう!」と感謝を伝えると、一転アッパーに突き抜ける「豚」では歌詞が英語、中国語、アラビア語、スペイン語等々、多言語でモニターに映し出されるニクい演出も。フロント陣は左右に大きく伸びた花道を駆け回り、さらに「豚どもが! 豚ども!」と煽られてオーディエンスも沸き返る。そこに再び雨音が聞こえ、重々しいドラムと8つの篝火が灯って贈られたのは「雨男」。今日も完全無敵の雨男であることを証明した来夢が、壮大なオーケストレーションに乗せて歌う感謝の曲で、緑のレーザーが来夢の心臓を射すような照明効果も、この曲が彼自身の命を懸けて紡がれた歌であることを示していく。「愛してるぞ! お前ら、愛してるぞ!」と絶叫し、よろめきながらもステージを去った来夢ら4人の後ろではモニターに蛍火が。それは、これまで彼らに関わり、見守ってきたすべての人々の命の光のようにも見えた。

客電が上がってもやまない声に応え、ダブルアンコールに登場すると「やるんだろ!? アンコール、とことん付き合ってやる!」と「ミルク」をドロップ。そこでオーディエンス共々跳ね回り、存分に感情を発散させてから、来夢は厳かに語り始めた。

「今日、言いたいことはたった一つなんですけど……いろいろな人がいて、いろいろな人生があると思うんですけど、明日もしっかり生きて、俺らの歌を聴いてください。明日も、明後日も、その次も、生きて俺の歌を聴け!」

そして“愛してる君だけを”と始まる「黒い雨」をアカペラで1フレーズ歌い、声の限り「愛してるぞ!」と振り絞ると銀テープが発射され、柔らかな、むしろ幸福感さえ漂うミドルチューンに乗せてリリックがモニターに流れていく。先の大戦で日本が被った最も大きな悲劇を象徴する言葉を掲げた楽曲で歌われるのは、愛の名のもと人を殺め、どれだけ歴史の教訓があっても過ちを繰り返してしまう人間の愚かさ。その上に我々の平穏な生活は成り立っていることを改めて認識させる楽曲を、すぐ側に“英霊”と呼ばれる人々が眠り、終戦記念日には式典の行われる日本武道館という場所で、ライブの最後に日の丸の下で歌う――それこそ本当の意味での“ROCK”ではないだろうか。感極まった4人は想いの一つひとつを音に込め、声を詰まらせた来夢が「歌って!」と望めば、客席中が“君を守る為なら世界さえ滅びていい”と綴ったサビを歌い上げる。愛は時に凶器になり、そして時に人を救う。会場中が一つになって歌う“LaLaLa……”の合唱は、そんな“愛”に囚われる人間の救いのなさを嘆き、愛おしんでいるようにも聞こえた。

そこからモニターにエンドロールが流れ、来夢が「この先も俺に任せてくれ。ありがとう!」と告げると『焔』という公演タイトルと“Thank you”の文字が浮かぶ。拍手のなか、来夢は拳を掲げてステージを端から端まで渡り、きょうのすけは涙を拭って、reikiとユエは熱くハグ。いつものように“きょのす!”コールを求めてお立ち台にあがったきょうのすけとreiki、ユエが肩を組んで袖にはけると、一人残った来夢は「また、すぐやるよ、ここ。じゃあな!」と約束して、キズ初の日本武道館単独公演は幕を閉じた。そしてモニターに映し出されたメッセージは“この命でお前の全てを救いたい”というフレーズ。「おしまい」では“命”を“こえ”と歌っていたように、来夢にとって命とは声であり、声とは命である。その声を振るう次の舞台は、3月1・2日の日比谷野外大音楽堂2デイズであることも退場時のフライヤーで発表。3月1日は昨年末に同じく日本武道館で初ワンマンを行ったDEZERTとの初の2マン『This Is The “VISUAL”』で、互いにしのぎを削ってきた盟友とも言えるバンドといかなる化学変化を起こすのか注目が集まる。翌2日は単独公演の『雨男』。野外ということで誰もが晴れを願う会場だが、彼らは2022年の初日比谷野音でもしっかりと雨を降らせている。数々の雨男伝説を逆手に取った公演タイトルに、天が応えてくれるか乞うご期待だ。また、衝撃の新曲「R/E/D」のリリース詳細も後日発表ということである。

日本で活動するすべてのミュージシャン、アーティストの憧れの地と言っても過言ではない日本武道館の舞台にたどり着きながらも、公演中彼らは一度も“日本武道館”という単語を発することはなかった。それは彼らにとって、あくまでも此処は“はじまり”の場所であり、着火点であるからなのだろう。己と観客と、そして時代に火を点けて、彼らは燃え尽きることのない炎を上げ続けていく。

●セットリスト●
01.ストロベリー・ブルー
02.傷痕
03.人間失格
04.蛙-Kawazu-
05.銃声
06.地獄
07.鬼
08.平成
09.My Bitch
10.0
11.リトルガールは病んでいる。
12.おしまい
13.R/E/D/
14.鳩
15.豚
16.雨男
17.ミルク
18.黒い雨

(文/清水素子、撮影/浜野カズシ、岩佐篤樹)


【ライブ情報】
●キズ×DEZERT 「This Is The “VISUAL”」
3月1日(土)日比谷野外大音楽堂
開場16:00/開演17:00
指定席¥8,000

キズ ブログマガジン会員/DEZERTオフィシャルファンクラブ「ひまわり会」先行
※TicketTown
受付期間:1/6(月)21:00~1/13(月)23:59
入金期間:1/16(木)12:00~1/20(月)23:59
販売ページ

●キズ  単独公演「雨男」
3月2日(日)日比谷野外大音楽堂
開場16:30/開演17:30

チケット料金:
VIP席(前方エリア/VIP限定グッズ/先行物販優先レーン)¥15,000
通常指定席¥6,000

ブログマガジン会員先行 ※TicketTown
受付期間:1/6(月)21:00~1/13(月)23:59
入金期間:1/16(木)12:00~1/20(月)23:59
販売ページ

【リリース情報】
●「R/E/D/」
2025年4月9日(水)発売
※詳細後日発表

キズ オフィシャルサイト