2024.05.19
シド@河口湖ステラシアター
「SID LIVE 2024 -Star Forest-」

シドが5月18、19日に山梨・河口湖ステラシアターで、約3年ぶり2度目の「SID LIVE 2024 -Star Forest-」を開催した。

2021年の初公演はコロナ禍での初の有観客ライブとして感慨深いものだったが、“会場近辺の店舗とコラボして、地域全体を盛り上げたい”という、当時実現することができなかったメンバーの思惑は、今年になって実を結んだ。列車を利用するファンを迎えたのは、富士急行「大月駅」から「河口湖駅」間を走るシドポスタージャック列車。大月駅のホームにメンバーの写真を使ったオリジナルヘッドマークをつけた列車が入ってくると、「わぁっ」と喜びの声があがった。車内はシドのポスターで埋め尽くされていて、自ずとテンションが上がる。河口湖周辺にあるメンバーとのコラボ店舗では、オリジナルのメニューなどが提供され、どこも大盛況。最後のMCでマオが「いろんな意味で今日はリベンジライブだった」と語っていたように、メンバーが思い描いていた通りの形でリベンジを果たすことができた。その喜びはメンバーのパフォーマンスにも溢れ出ていて、こうしてレポートを書きながらもニマニマとしてしまうほど、多幸感に満ちたステージだった。まさに今、そんな余韻に浸っているという人も多いのではないだろうか。

マオ
Shinji

ステージの上にはスチールで出来た大きな滑車が4つ、グリーンのライトを受けながらゆっくりと回っていた。客電が落ちてSEが始まると、はやる気持ちを乗せた軽快なクラップがメンバーを迎え入れる。ゆうや(Dr)、明希(Ba)、Shinji(Gt)は黒を基調とした衣装、マオ(Vo)はワインレッドのスーツで登場すると、大きな歓声に包まれた。ゆうやのカウントから始まった「ほうき星」は、“ここに帰っておいで 君のホームへ”と、まるで河口湖の森のような大きな包容力で観客を包み込む。会場を見渡すメンバーの視線も柔らかで、なんて温かいオープニングだろうかとほのぼのしたのも束の間、「騙し愛」で駆け引きを仕掛け、情念が絡みつく変拍子の「大好きだから…」と、近年のシドのクセの強い恋愛ソングを投下。

そんなセットリストについて「(前日も)1、2、3曲目やった時は、“ああ、こんな感じか”となってたけど、期待しててよ」と笑っていたマオが、「久しぶりなんじゃないかな。『恋におちて』」とタイトルをコールすると、悲鳴のような歓声があがった。ピンク色のライトをあびて、Shinjiが8弦ギターでジャジーなイントロを奏でる。ムーディーなグルーヴと、哀愁を帯びたマオの歌声に合わせてフロアも揺れた。その空気を切り裂くようなゆうやのシャープなドラムと、明希の強靭なスラップベースが炸裂した「MUSIC」では、メンバーのパフォーマンスもよりアグレッシブになり、ついにはマオがステージを降りてフロアで歌う場面も。その勢いのままに「Blood Vessel」でさらに会場のテンションを高めると、ゆうや、明希、Shinjiのソロパフォーマンスへとなだれ込んだ。心を鼓舞するような力強いゆうやのドラミング、骨太でいてしなやかで指先の動きまで魅せる明希のベースプレイ、ゆうやと明希のリズムに乗せてShinjiの情熱的なギターソロが天井を駆け巡る。続いて披露したのは5月29日(水)にリリースする新曲「贖罪」。情景が浮かび上がるようなしっとりとしたミディアムチューンを、情感たっぷりに歌い上げた。

明希
ゆうや

中盤のMCタイムは明希から。「みんなもっともっといけるよね?もっと俺たち驚きたいな。ワクワクしたいな。俺たちよりドキドキしたいでしょ?やれるの?やってくれるの?」と煽った後、バトンを渡されたShinjiは「昨日の本編でおでこを蚊に刺されまして」と笑いを取りつつ、「改めて思い出しました、3年前のこの風景。声が出せないとか手拍子だけとか、規制のあったライブだったんですけど、改めて今日もライブができる喜びを噛み締めております」と思い出を語り、ゆうやは「お天道さま、こんばんは。今のうちに機嫌を取っておきましょう」「みんなの祈りは届くと思います。スカッと気持ちよい空にみんなでしましょう」と、雨模様の空に願いを届け、「夢心地」へ。この曲は3年前のこの場所でも響かせた、せつないバラードナンバー。徐々に熱を帯びていくアンサンブルが心に響いた。ミラーボールが会場に光を放つ中、演奏された「面影」では、伸びやかなマオのヴォーカルに重なるShinjiのギターのメロディがなんともエモーショナルな響きだった。

シドの成長と共に進化したのだなと感じたのが「モノクロのキス」。Shinjiの巧みなギターソロ明けで、マオと明希が1本のマイクで歌う姿が目に入ったのだが、どうやって寄って行こうかと考えているうちに「対面になっちゃった」と言うマオに、「チューするのかと思った」と明希。照れ隠しなのか、「エモくない?」と言う2人に大喜びの会場。「まだ汗かいてないんだけど」と物足りなさげなマオの、「じゃあいっちゃおうか、後半戦!」という掛け声を合図に、「隣人」から怒涛のアップチューンを展開。シャウトと巻き舌で煽ったり、スタンドエリアの階段をのぼり、観客のすぐそばで歌うマオ。途中のブレイクで「今年一番のでっかい声で!」と叫ぶと、メンバーを呼ぶ声がより一層大きく響いた。

マオ
Shinji

「oi!oi!」と力強く拳を振り上げたのは「スロウ」。この曲なんてインディーズツアーぶりぐらいだろうか。折り畳みヘドバンで揺れる「ドラマ」で、会場のボルテージもさらにぶち上がる。曲中、そんな会場の様子を、楽しそうにマオは眺めていた。本編ラストは「Dear Tokyo」。中盤のShinji、明希、ゆうやがコーラスするパートを観客で大合唱すると、それを聴いたマオが「エモっ!」と嬉しそうに言った。演奏を終えたメンバーは、イヤモニを外して大歓声を噛み締める。まるでアンコールを終えた後のように、会場を見渡してステージから離れようとしない4人と、それを見てどんどん大きくなっていく歓声。メンバーとシドギャの心が溢れていたその光景が、何よりもエモかった。

揃いのライブTシャツを着て出てきた4人が、アンコール1曲目に披露したのはこの公演のテーマソングである「Star Forest」。背面の壁がゆっくりと開くと、緑の中に輝く“Star Forest”の電飾文字。ライトに照らされて見えてきた雨の銀糸に、開演時より雨足が強くなっていることを知った。確か3年前も曇天で星は見えなかった。同時に思い出したのは、喉の不調で思うように歌えず、悔しさを滲ませていた3年前のマオの姿。冒頭で書いたように、まさにマオにとってリベンジのステージだった。この場所で、楽しそうにはしゃぐ4人の姿を見ることができてよかった。そんなことを思いながら、丁寧に言葉を届けるマオの歌に耳を傾けた。

明希
ゆうや

一転してライブ鉄板曲の「循環」が始まると、マオがまたスタンドの階段を駆け上がった。上手側から下手側の方へとぐるりと会場を練り歩くマオを見て、Shinjiも下手側から上がってマオとすれ違う。その間、ステージのフロントはしっかりと明希が守るという名コンビネーション。そして「one way」でさらに一体感を高め、ラストナンバーの「夏恋」へ。その時、天井も少し開いたのでステージ後方に雨が吹き込む。ゆうやが雨に打たれながらビートを繰り出す中、マオは雨を避けるようにフロアに降りて楽しそうに歌い続ける。忘れ難いシチュエーションをさらに印象付けるように、後方で花火が盛大に打ち上がった。2日間の全メニューを終えたメンバーは、充実した笑顔をフロアに向けて一言ずつ言葉を残し、ステージを降りていった。

明希「楽しかったですか?最高でした。みんなのおかげで全部やれたよ。今日のはただの雨じゃないと思います。祝福の雨だと思います。みんなどうもありがとう。また会おうな」

Shinji「今日の雨も君たちの笑顔も、これは死んでも忘れないね。本当に最高の思い出になりました。ありがとうございます。いつになるかわかんないけどまた絶対やりたいね」

ゆうや「おーい!伝説の横浜スタジアム。あのとき僕だけが濡れなかった。今日は21年目。僕だけが濡れた。ありがとう!最高の思い出になりました」

最後に一人残ったマオは、「3年前のStar Forestから、いろんな意味で今日はリベンジライブだったので、しっかりリベンジできました。ありがとう。辛い時とかトンネルの中に入ってる時は、いつ終わるんだろうって終わりが見えないと不安だし、必ず終わりがあることはわかってるんだけど、それが見えなくてどんどんどんどん一人の世界に入っちゃうような、そういう時期もあったんですけど、そういう時期を助けてくれたのがファンのみんなの声でした。だからこうやって帰ってくることができました」と、3年前の苦しかった思いを吐露し、リベンジできた喜びを語った。そして今秋にホールツアーを開催することを発表した。

鼻先に届いた微かな花火の火薬の匂いと、雨によって一層濃くなった新緑の匂いと共に、この日得た幸福感を忘れることはないだろう。そしていつかこの場所で、みんなと一緒にキラキラ眩い星空を見上げることができますように。心から再演を願う。

◆セットリスト◆
01. ほうき星
02. 騙し愛
03. 大好きだから…
04. 恋におちて
05. MUSIC
06. Blood Vessel
07. 贖罪
08. 夢心地
09. 面影
10. モノクロのキス
11. 隣人
12. スロウ
13. ドラマ
14. Dear Tokyo

En
01. Star Forest
02. 循環
03. one way
04. 夏恋

(文・大窪由香/写真・今元秀明)


【ライブ情報】
●SID HALL TOUR 2024
10月13日(日)大宮ソニックシティ
10月20日(日)神奈川県民ホール
11月3日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
11月9日(土)岡谷鋼機名古屋市公会堂
11月10日(日)オリックス劇場
11月29日(金)昭和女子大学 人見記念講堂
※詳細は後日発表

<ID-S BASIC優先予約>
受付期間:6月27日(木)12:00~7月9日(火)23:00
※2024年6月25日(火)時点でID-S BASIC会員の方が対象となります。

シド オフィシャルサイト