2023.11.11
ν[NEU]×mitsu@渋谷REX
ν[NEU]×mitsu 2MAN『With』
まさに“待望”と言うべきν[NEU]とmitsuの2マンライブが、11月11日に渋谷REXにて行われた。かつて、一度は企画されたこの2マンが中止となってしまったのが、コロナウイルスが猛威を振るっていた2020年7月のこと。あれから約3年の時を経て、遂に実現した両者1対1の共演は、『With』というタイトルが掲げられていた。
「両方良いよね、一緒だよね」
これは本公演のν[NEU]のライブ中、mitsuがタイトルについて触れた時の言葉であり、ν[NEU]とソロヴォーカリストとしても活動しているmitsuとの関係性を示していることを物語っていた。約3年前を振り返ると、ν[NEU]は解散から時を経てメンバーが再び集結したことをきっかけに復活を試みた時でもあり、一方音楽活動を続けていたmitsuはソロ活動5周年というタイミングでもあった。双方でヴォーカルを務めるのはmitsuという同じ人間でありながらも当然気持ちのベクトルは違っただろうし、当時重きを置きがちだったのは“どちらがより優れているか”という点だったように思う。だからこそ、前回の2マンライブのタイトルは「mitsu VS ν[NEU]『果たし合い』」だった。しかしここ数年で、そこには確実な変化があった。お互いを尊重し、認め合える仲間と音楽を楽しむという非常にシンプルなことに加え、向上心は高まるばかり。こうして遂に実現したν[NEU]とmitsuとの2マンライブは、“VS”から“With”へと進化してきたドラマのハイライトであった。
ライブは、mitsuのステージからスタート。幕が開いたそこには凛としたメンバーの姿があり、「エトリア」の優しくも情熱がほとばしる歌が会場を包み込む。RENAのベースからアダルティに乗せた「MIDNIGHT LOVER」や、大熊けいと邦夫が叩き出すビートに徐々に拳があがった「Live Your Life」。生楽器のアンサンブルを全身で感じ、葛藤や憧れといった人間味あふれる感情を熱のこもった歌に乗せるmitsuを筆頭にしたメンバーの呼吸が感じられるロックサウンドが実に心地よい。これぞmitsuがソロシンガーとして試行錯誤の末に構築してきた音楽の魅力だと言わんばかりの堂々たるアプローチだ。さらに「鼓動」の力強さに観客の爆発力が大いに高まったかと思えば、「キンモクセイは君と」の秋を感じさせるせつない表情へと、心を動かしながら魅了していく。
「ちゃんと届いていますか?」と切り出し、mitsu自身が自信を持って歌に向き合えている思いを伝えた上で披露したν[NEU]のカバー曲「APOLLON」。これまでもソロのステージでカバーした際に耳にすることはあったが、この日のクリアな歌声は格別だった。制作当時には想像し得なかったほど、困難に打ち勝ってきた彼の生き方がより楽曲を引き立てる結果となった。穏やかな笑顔を浮かべながら歌うmitsuの姿は、内面の進化を映し出していたようにも思う。音楽に必死に向き合いながら遠回りをしたかもしれない。けれど今は、音楽を心から楽しむことができる。その“楽しい”を爆発させた灼熱な「蜃気楼」を皮切りに、情熱を滾らせながら「Crazy Crazy」で生み出した一体感や、よりロックンロールに乗せた「Into DEEP」。そして、戦う者を後押しするようなエッジのきいたサウンドに拳を突き上げた「ラストヒーロー」。そして、mitsuが現在のスタイルを見出す原点ともなった「For Myself」で締めくくられた。
ν[NEU]を失った当時、音楽すらも楽しいと思えなかった状況で書いた「For Myself」を、自分自身の名前を背負って歌っている。その現在の姿で、「環境が変わっても、繋ぐものは音楽だった」と語りながら、ありのままの言葉を連ねたこの曲をこの2マンライブで披露することこそ、mitsuが待ち望んだ瞬間だったのかもしれない。
続いては、ν[NEU]が登場。幕が開くと同時に「starting over」から見事にスタートダッシュを決め、前進するまっすぐな想いと音をメンバーがアイコンタクトを取りながら届けた。「The 25th Century Love」でもタオルが旋回するフロアの熱量を感じながら、楽し気に絡みながら演奏するメンバーの様子から“バンド”をひしひしと感じさせるオープニング。そんなハートフルな空気を引き締めるように、ブレることのないバンドや音楽に対するひたむきな誠実さを内包した「LIMIT」が一際グッと胸を打つ。
以降も、ν[NEU]が持つ“強み”を存分に活かせる楽曲が並んでいた。「恋模様」や「YES≒NO」といった一瞬で観客に火をつける楽曲はもちろん、その間に披露した「最愛と渇望の日々」では、タクミと夢時のギターアンサンブルをはじめ生楽器の多彩なアプローチとデジタルサウンドとの融合によって生み出される大人びた表情。こうした良質な楽曲と高い音楽レベルのアプローチも、間違いなく彼らの強さである。
ここでメンバーの誕生日には恒例となった、ヒィロが腹痛を訴えてバックステージへ下がるというお決まりの展開から、mitsuの誕生日祝いへ。この日はなんと、ケーキを持った大熊けいと邦夫とRENAも登場し、この日mitsuに関わるすべての人間がステージへと大集合! これには本人も「嬉しい!」と大喜びで、ヒィロに“35歳の抱負”を促されると、「楽しくやりますわ!」と語る場面もあった。
続いて用意されていたのは、mitsuのターンでも披露されていた「Into DEEP」のカバー。ЯeIは普段、同期を聞くためのイヤフォンが欠かせないのだが、ここでは初めてそれを外しての演奏となった。ν[NEU]による、完全なるバンドサウンドのみのプレイは実に新鮮で、こうした場面もこの2マンならではである。ただし、ラストスパートはお馴染みのデジタルサウンドとよりパワーを増したバンドサウンドが繰り広げる「cube」や「LAB」をいったエネルギッシュな展開に続き、一瞬にしてダンスホールと化した「ピンクマーブル」といったキラーチューンを畳みかけていった。“どんなに楽しくとも終わりがある”。終わりがあることを身をもって経験したからこそ、悔いのないように今を楽しむ大切さを知っている……それは、ニューフリーク(ファン)だけでなくメンバーもそうだろう。ラストの「エンドロール」では、その想いをもとに誰もが全力で“楽しい”を掴み取りに行きながら、絶えず笑顔が溢れかえっていた。
ν[NEU]は、2024年1月~3月と東京・大阪・名古屋にて「タイムカプセル」と題した主催ツアーを開催する。ここでもまた、盟友たちと共にν[NEU]とmitsuの共演を目にすることができる。最良の“ゴール”を目指して復活したν[NEU]というバンドと、歌うことを辞めなかったボーカリストmitsuの活動が今、同じ世界線に共存している。mitsuの誕生日を祝う場面でステージに双方のメンバーが集結した時に「愉快な仲間たち」と笑い合えたのはお互いを認め合えたからで、そんな今では「For Myself」で歌う“白黒”だった景色が極彩色に思えるだろうし、たくさんの事象の積み重ねで成り立っている今こそが「starting over」の中の一節で言うならばν[NEU]にしかない“世界中でたったひとつの物語”なのだと思う。誰もが自分にとっての音楽における正義を抱いていて、そこには優越のない魅力がある。『With』という名のもとに集った絆で見せたライブステージは、1人1人の軌跡によって形になった1つの勲章のようでもあった。
◆セットリスト◆
【mitsu】
01. エトリア
02. MIDNIGHT LOVER
03. Live Your Life
04. 鼓動
05. キンモクセイは君と
06. APOLLON(ν[NEU]カバー)
07. 蜃気楼
08. Crazy Crazy
09. Into DEEP
10. ラストヒーロー
11. For Myself
【ν[NEU] 】
01. starting over
02. The 25th Century Love
03. LIMIT
04. 恋模様
05. 最愛と渇望の日々
06. YES≒NO
07. Into DEEP(mitsuカバー)
08. cube
09. LAB
10. ピンクマーブル
11. エンドロール
(文・平井綾子/写真・Intetsu)