メトロノームが、待望のライブベスト+新曲をリリース! メジャー5周年を迎えた彼らの魅力を余すところなく詰め込んだ最新作に迫る
5年前の2016年、7年に渡る無期限停止から再起動を遂げ、同時にメジャーシーンへと躍り出たメトロノーム。この度、その記念すべき5周年ライブ「5th狂逸インパクト」の模様を収めたライブベストアルバム+2曲の新曲という異色の最新音源が完成した。コロナ禍故、無観客という形で行われた周年ライブ。その中から選りすぐりの16曲を収めたライブベストは、クリアな音でありながらライブの息遣いが感じられ、彼らの音楽の魅力を再確認させてくれる中毒性の高い1枚に仕上がった。待望のリリースに加えて有観客ライブも決定し、めでたい事連発で5周年を駆け抜けるメトロノームのインタビューをお届けする。
ギターやベースもアンプを鳴らさず、より一層クリアに(フクスケ)
前回お会いしたのは、2年前のアルバム『確率論≠paradox』リリース時でした。当時はコロナ禍直前でしたが、この2年はメトロノームにとって、またそれぞれにとってどんな期間でしたか?
シャラク:2年間、特に変わらず生きてきました。もちろん、ライブの方法なんかはガラッと変わりましたけど、何かがなくなったということもなく、変わらずぼんやり過ごしていましたね。
フクスケ:僕はこういう状況になった当初、不安とまではいきませんけど、「どうしようかな…」という感じだったんです。でも配信が好きで、この2年すごく楽しめました。あと、メトロノーム以外の活動でDJをやったりしているんですけど、コロナ禍になってからは、以前のように人がたくさんいるところで、朝までDJをやるようなことが一切なくなって、代わりに早寝早起きになりましたね。食べるものは以前と変わらないし、不摂生をしてはいるんですけど、夜に寝て昼間に起きているという、人間本来の生体リズムで生活ができています(笑)。もちろん、DJや他の活動が制限されたことは大変でしたけど、原点に戻れた感じなので、それに関しては良かったなと。
リウ:僕は、メトロノームのツアーがなくなった分、スケジュールに少し余裕ができて、今までできなかったことにチャレンジできたというのが大きな変化ですね。これまでスケジュールの都合で参加できなかった、サポートやその他の仕事に参加できるようになったりもしたので、そういう意味では良いこともあったなと思います。
リウさんは、コロナ禍に入ってから、メトロノームと他の活動の割合が大きく変化しましたよね。
リウ:そうなんです。いろんなことがやれて、幅が広がったなと思います。
メトロノームは、昨年6月に行われた初の配信ライブ「リウが生まれた日」以降、2ヵ月に1度くらいのペースでコンスタントに配信を行っていますが、始めた当初は有観客ライブとの違いを感じたりしましたか?
フクスケ:僕らは、最初の配信が勝手知ったる箱(ART POP ENTERTAINMENTが運営するMusic Lab.濱書房)だったので、やりやすくて配信する音にまで気を配ることができたんです。もしこれが知らない箱で、知らない人たちに配信してもらっていたら、また違ったんだろうなと思います。ART POPの人たちにやってもらって、PAさんたちも昔からやってくれている人たちだったので、より一層やりやすかったのかなと。
とても恵まれた環境でスタートしたんですね。
シャラク:でも、オイラは最初すごくやりづらかったです。ライブなのに撮影や収録をしているような感じで、MCでも気持ちが切り替わらず何を喋っていいのか…という感じでした。途中から「配信は配信だ!」という感覚が掴めたので、そこからは慣れてきましたけど。でも、配信回数を重ねると今度はカメラの台数が増えていって、どれに映っているのかわからなくて。未だにその正解が見つけられないので、多分カメラ目線ができていたことがないと思います。
フクスケさんとリウさんは、ちゃんとカメラ目線ができているんですか?
フクスケ:僕らもわからないんですよ。テレビ局みたいに、映しているカメラにライトが点くわけではないので。当てずっぽうです(笑)。
シャラク:予想と全然違う角度のカメラから抜かれている可能性もあるんだよね。
リウ:たまにすごい勢いで近づいて撮ってくれるカメラマンさんがいるけど、その映像は全然配信されていなかったりするしね(笑)。もちろんカメラマンさんは、この映像が使われていると思って撮ってくれているんですけど、どのカメラの映像が使われるかはスイッチャーさんの匙加減なので、残念ながら使われていないということも多々あるんです。
配信ならではの難しさですね。それにしても、ハロウィンやバレンタインなど本当にこまめに配信をしてくれたことで、ファンの皆さんはコロナ禍であっても同じ時間を共有できていると感じられたのではないでしょうか。
フクスケ:そうですね。だとしたら嬉しいです!
さて、2年ぶりのアルバムがリリースとなりますが、ライブベスト+新曲という特殊な形態にした理由をお聞かせください。
フクスケ:2016年9月の再起動、そこからのメジャーデビュー…と色々なことが重なって、記念すべきメジャーデビュー5周年を祝うライブをキングレコードさんの箱(Club Mixa)でやらせてもらうことになったんです。それで、「じゃあキングレコードさんから出した曲のライブバージョンを、一つにまとめて出そうじゃないか!」ということになりまして。そうしたらこのようなライブベストという形になり、僕らも2年ほどCDを出していなかったので、新曲を入れたらどうだろうか、ということで2枚組になりましたぞと。
なるほど、そんな経緯が。それにしても、今回ライブバージョンが収録されたDISC1の音がとてもクリアで驚きました。この時代ならではの作品かもしれませんね。
フクスケ:確かにそうですよね。声援も入っていないですし。
リウ:最近はそういうソフトが進化していて、綺麗にパラ(個別の素材)で録れるんです。とはいえ、お客さんの声はなくても、多少は外の音が入っているのかなと思っていたんですけど、それもなくて予想外の仕上がりでした。
あまりにクリアな音だったので、普通のCDを聴いている気持ちになりました。
フクスケ:そうなんですよ。特にSEに歓声が入っていないライブ音源というのは、かつてないなと。この時代だからできた音源です。
そんな中でも、通常のCDとはやはり違う、ライブならではの魅力が感じられました。
リウ:ライブバージョンだと生ドラムなので、それだけでも結構アレンジが変わっていますからね。
フクスケ:特に今回収録した「まだ見ぬ世界」は、通常のCDではギターやベースが入っていない曲なんですよ。それもあって、この曲は特にライブバージョン感がすごくあるなと思いますね。
シャラク:オイラは、2年ぶりの音源がライブベストって、外タレみたいでカッコいいなと思いました。
大物の外タレっぽいですよね。
シャラク:そうそう、大物っぽい(笑)。それに新曲がちょっとだけあるのも外タレっぽいです。
この日のライブは、このアルバムの収録と配信が同時に行われたわけですが、シャラクさんはどんな気持ちで挑みましたか?
シャラク:とにかく間違えないようにというのを心がけ、ライブ配信はあるんですけど、ベストのことも考えながらやりました。
間違えませんでした?
シャラク:まぁ概ね(笑)。多少間違えても、そこはまぁライブだし!ということで。
リウ:ライブベストって、僕が学生の時はそれこそ海外のアーティストがよく出していたと思うんですけど、最近はあまり聞かないから逆に新しいなと思いました。しかも、これだけ打ち込みがたくさんあって、しかも潰れた感じじゃなく綺麗に聴こえるのもいいですよね。
フクスケ:ギターやベースもアンプを鳴らさずに録っているので、より一層クリアに聴こえるんですよ。被ってくるのがドラムの音だけですからね。メトロノームは配信向きなんじゃないかと言っていただいたりもして、やっぱり未来からやってきた僕らは素晴らしいなと改めて思いました。
何しろ「2005年からやって来た」バンドですからね!
フクスケ:もうとっくに追い越しちゃいましたけどね(笑)!
全員:(笑)
アルバムとは違った曲順で聴く、ライブならではの高揚感(リウ)
DISC1の聴きどころを教えてください。
リウ:全体の流れなんですけど、実際のライブは22曲くらいあって、そこから良い曲を16曲選んでいるんです。でも、セットリストの前後は変えていないので、ライブの流れがそのままギュッと詰まっている。そういう意味では、クリアな音源で、アルバムとはまた違った曲順で聴けて、ライブならではの高揚感があってすごく良いんじゃないかと思います。
シャラク:オイラは、「Catch me if you can?」を作るとき、打ち込みの段階で、手数の多いドラマーさんが生ドラムで叩いたらこんな感じ、というのを想定して作ったんです。この日はHIROSHIさん(CASCADE)が叩いてくれたんですけど、実際HIROSHIさんに一番叩いてほしい曲だったので、そこが聴きどころですね。めちゃくちゃ手数が多くて楽しいですよ。
思い描いていた通りの生ドラムになったんですね。そういう楽しみ方もあったとは。
フクスケ:あとはライブならではのコーラスの元気さですね。動きながら弾いているので、音から元気さや勢い、良い意味での粗さが伝わってくるんじゃないかなと思います。
ワンテイクの美学のような刹那的な勢いがあります。個人的に「強くてNEW GAME」の間奏のキレッキレな感じが再認識できて、改めて元のCDを聴くきっかけにもなりました。そして、「脳内消去」のシャラクさんの声がちょっと意外で、とても新鮮です。
シャラク:そうなんですよ。ライブだと好き勝手に歌えるので、こういうオートチューンがかかっていない曲は自由にやっているんです。さすがにライブ中、オイラがフクスケの曲でフクスケが想定していない歌い方をしても、いきなりギターをバーンとやって「シャラク! 違うだろ!」って怒られることはないだろうと思って(笑)。歌い逃げできますからね。
ライブ後にバーンとやられる心配はないんですか?
シャラク:あ…しまった。それは想定していなかったです…。
フクスケ:いやいや、バーンとはならないですよ! そうじゃなきゃこんなに長いことやっていないです。…今ちょっとオードリーみたいな話の流れになりましたね。今、目を見合わせて「へへへ」って笑うところでしたよ。
全員:(笑)
ところで、以前のインタビューで、「メトロノームはアルバムもシングルも方向性はあまり決めず、各自が思い思いの“メトロノーム”を持ち寄って、そこから始めることが多い」と話していましたが、今回は何曲くらいの“メトロノーム”が持ち寄られたんでしょう?
フクスケ:今回は制作が始まるまで時間がなかったので、決め打ちでしたね。「これとこれとこれでどうだー!」「じゃあこの曲とこの曲!」「よし、行ってみよー!」という感じです。
今回、一見対照的な2曲が選ばれましたが、この2曲にしたのはなぜだったのでしょうか。
リウ:僕は当初、選曲会に持っていくつもりで書いていた曲があったんです。でも、今回のアルバムはあくまでライブ盤のほうがメインだから、ちょっと冒険してもいいんじゃないという話が出て。だったら、ライブ盤のほうは勢いがある曲が多いので、新曲はちょっと聴かせる感じにしようと思ったんです。さっきシャラク君が「ライブでオートチューンがかかっていない曲は、歌いまわしを自由に変えている」と言っていましたけど、そういうことも、配信ライブをチェックする中で詳しくわかるようになっていました。なので、今回オートチューンはかけないで、歌いまわしが自由にきく曲にしたいなと思ったんです。
01.華胥之夢(作詞・作曲:リウ)
この曲はリウさんが作詞作曲ですね。てっきり、漢字四文字のタイトルが好きなフクスケさんの曲かと思っていました。
リウ:実は、そう思ってもらえたらなと思っていたんですよ(笑)。引っかけ問題でした。この言葉は、僕は初めて知った言葉なんです。一生懸命、難しい故事を調べて決めました。最初は「Diss World」ってタイトルを考えていて、歌詞もほぼできていたんです。
タイトルが変わると、受ける印象がガラリと変わりますね。
リウ:そうなんです。タイトルを変えたことで、歌詞が柔らかく聞こえるようになって良かったなと思います。この世の嫌なことを素直に歌詞にして、そこに「華胥之夢」というタイトルにしたことで、フワッと優しい感じになりました。
淡い色合いの薄絹のような柔らかいイメージです。それにしても、サビの〈言葉が足りないだけ〉〈願いが合わないだけ〉、Bメロの〈生きるよ 生きるよ〉という言葉は真理ですね。
リウ:割と素直な感情というか、誰にでも当てはまるものだと思うんですよね。ちなみに今回、初めて〈すべからく〉という言葉を使いました。〈全てが〉という言葉が浮かんだので、それに韻が踏める言葉を探していたらこれが出てきて、「お、いいな!」と。
リウさんは「千年世界」(アルバム『CONTINUE』収録曲)でも〈然りとて〉という言葉を使ったりしていますよね。
リウ:確かに。そういう言葉が好きなんでしょうね。そして今回「すべからく」は「べし」とセットで使わないといけないんだということもわかりました(笑)。
新たな知識が激増しましたね(笑)。シャラクさんは今回の新曲2曲を歌ってみて、どんな印象でしたか?
シャラク:「華胥之夢」のサビのメロディー感が、アレンジじゃなくてメロディーなんですけど、リウさんが他のアーティストさんに提供する曲のような感じがして、オイラは個人的に懐かしい気持ちになりました。
いつもお二人の曲のブレスで苦労していますが今回は?
シャラク:どちらかというと、フクスケ君の曲のほうが難しかったですね。オイラ、譜割りが全く覚えられない人間なんですよ。だから、自分で作る曲は譜割りが凄くシンプルなんです。他の人に、「シャラクが曲を覚えるのが遅いのは、カラオケに行っていないからじゃないか。カラオケで歌うために、曲をいっぱい聴いて覚えるということをしてこなかったからじゃないか」って言われました。譜割りは毎回大変なんです。今回も例に漏れず苦労しました。
大変だったんですね…。ところでこの曲は、前半はギターは登場しないのでしょうか?
フクスケ:いや、実はクリーンで静か~に鳴っているんです。でもかなり聴こえづらいんですよ。これは自分でも探すのが大変なので、皆さんぜひ探してみてください。
ギターが前面に出るのは2:37からですが、あのギターソロは耳に残りました。
フクスケ:あの枯れたような歪んだ音色は、これまでもやりたかったんです。でも、他に入れられる曲がなくて。そうしたら、リウが持って来たデモがまさにこういう音だったので、やりたかったそのままの音を目指せました。
良いタイミングで良い曲がきたんですね。確かにこういう音色を入れられる曲は、これまでのメトロノームにはなかった気がします。
フクスケ:そうなんです。こういう静かな感じで、でもただ静か、ただゆっくりなだけじゃない曲はなかったですからね。
リウ:結構冒険したというか、今までメトロノームになかった曲になったなと思います。