「KISAKIという現象をどう記録し、どう語り継ぐか」──

混沌と熱狂の只中にあった90年代。ヴィジュアル・シーンに、ひとりの男がいた。KISAKI。

彼が関わったすべてのバンドは、単なる音楽ユニットではなかった。La:Sadie’s、MIRAGE、Syndrome、Phantasmagoria、凛-the end of corruption world-、──そのすべてが、”現象”として時代を突き動かした。音を鳴らすことは、抗うことだった。ステージに立つことは、宣戦布告だった。

レーベルオーナーとして、作詞、作曲、プロデューサーとして、そして一人のベーシストとして。表舞台に立つ時もあれば、あえて身を引くような沈黙の時期もあった。KISAKIは、そんな沈黙すらも武器にしてきた。

その静けさの奥では、彼は静かに牙を研いでいた。2022年──その”沈黙の果て”に、彼の伝説的バンド・MIRAGEが第三期として再始動を果たす。

かつて自らを定義したバンドが、22年の沈黙を破って再び動き出す。新旧メンバーを交えた編成、キャリア初のフルアルバム『BIOGRAPH』の発表、期間限定のライブ開催。かつての”美しくも過剰な衝動”が、令和の時代に再び息を吹き返した。それはノスタルジーではない。凄まじく現在的な現象だった。

2023年、KISAKIはバンドキャリア30周年という節目を迎え、三部作のアルバムを世に放つ。『Providence』『Afterglow』『Preuve d’etre』──これは単なる周年企画などではなかった。かつて彼とともに時代を駆け抜けた戦友たち、あるいはその意思を継ぐ表現者たちとのコラボレーションは、KISAKIの軌跡そのものを立体的に浮かび上がらせた。

SYU(GALNERYUS)、苑(摩天楼オペラ)、HIZAKI(Versailles・Jupiter)、SAKI(Mary’s Blood・NEMOPHILAl) 、団長& Iyoda Kohei(NoGoD)、樹威(ヴィドール・GOTCHAROCKA)、DAISHI(Psycho le Cému) 、みく(アンティック-珈琲店-)、TAKA&MASATO(defspiral)、椎名ひかり、HAL(FEST VAINQUEUR)、JUN(Phantasmagoria・GOTCHAROCKA)、Sena(JILUKA)、 ryo(HOLLOWGRAM)、Ruiza(Syndrome・D)、AKIRA(MIRAGE)他多数──いま改めて日本のヴィジュアル系の血脈をたどるならば、KISAKIという存在に行き着かずにはいられない。その証明が、この三部作には確かに刻まれていた。

その静かな祝祭の終盤には、感情の振り幅を極限まで引き上げたふたつの”終末”が放たれる。ラストアルバム『Eternally』と、ラストシングル『破戒』。永遠を語りながら、禁を破る。静けさの中に宿る怒り、そして優しくも確かな諦め。それは、KISAKIという人間が音楽に託してきた美学の、ひとつの結実であった。

KISAKIはなぜ何度も幕を引き、また幕を上げるのか──その理由を、彼は語らない。だがその音楽は、確かに”終わり方の美学”を奏で続けている。

30周年最終日となる12月31日に公開されたMV『Re_REQUIEM~FINAL MIX~』では、KISAKI自身がまるで光の中へと消えていくような演出がなされ、”これは本当に最後なのではないか”という静かな衝撃がファンの間に広がっていった。

イメージモデルとして選出されたLILLY(Little Lilith)の名演にも息を呑むほどの緊張感を感じさせた。

2024年~2025年、KISAKIは表立った活動を控える。わずかなテレビ出演&雑誌出演のみ。しかし、彼を知る者ならば理解していた。この沈黙こそが、次なる”激震”の前兆であることを。

迎える2026年。KISAKIは、自らの生誕半世紀=50歳という人生の節目に、ふたたび”音”を鳴らす。

メモリアルアルバム『Voice in Sadness』。新曲3曲を含む全10曲は、どこか静謐で、悲しみを抱えた美しさに満ちている。苑(摩天楼オペラ)、櫻井有紀(Raphael)、HIZAKI(Versailles・Jupiter)、AKIRA(MIRAGE)、 Iyoda Kohei(NoGoD)、SHIORI(Little Lilith)など、シーンのDNAを分かち合う同志たちが参加し、作品の深度を限界まで押し上げている。

表題曲「Voice in Sadness」は、KISAKIがこれまで歩んできた”音で語る哀しみ”の集大成とも言える一曲だ。苑の繊細で深みある声が、悲しみを静かに抱きしめ、HIZAKIのギターがその余韻を淡く伸ばす。

《こんな世界を狂おしいほど愛して》と歌うその一節には、音楽にすべてを懸けてきたKISAKIの”祈り”がある。決して激情に頼ることなく、感情の内奥をそっと撫でるように構成されたこの楽曲は、「終わりではない。だが、もう帰れない」──そんな優しい絶望を音にした、静かで強い傑作だ。

また、2026年の幕開けとともに、2023年発表の三部作と『Eternally』の計36曲が、遂にサブスクリプションで解禁される。かつて”フィジカルにこだわることでしか伝えられなかった熱”が、デジタルの時代を通じて再び拡張されていく。これもまた、彼が未来へ託す新たな”継承”のかたちなのだろう。

さらに3月15日に大阪BIG CATでKISAKI生誕、半生誕記念祭「BEYOND THE KINGDOM -Fest of Excellence-」が開催される。出演はPsycho le Cému、SEX MACHINEGUNS、摩天楼オペラ、GOTCHAROCKA、NoGoD、FEST VAINQUEUR、椎名ひかり、Little Lilith…ヘッドライナーはもちろんKISAKI、苑、HIZAKI、CERO、HIROKIらによる当日限定バンド「THE LOCUS」。これはもはやライブではなく、”儀式”であり”歴史の結晶”である。

誰もがそれぞれの時代にKISAKIと交錯し、今なおそこに共鳴していることの証明に他ならない。

KISAKIは、終わらなかった。終焉すらも演出に昇華し、美学として刻み込んだのだ。

いま鳴らされる音は、懐古ではない。

それは、幾多の終焉をくぐり抜けてなお、前を向いて鳴らされる”生の証明”だ。

沈黙の果てに、再び衝撃が始まる。

(文・柳本 剛(元FOOL’S MATE編集部))


【リリース情報】

●MEMORIAL ALBUM『Voice in Sadness』
2026年3月10日発売
※一般店頭発売は2026年3月10日。

LCD-014 ¥5,500(税込)24P写真集付き特殊仕様
新曲3曲+リミックス、リマスタリング等計12曲入り

[GUEST PLAYER]
苑(摩天楼オペラ)/櫻井有紀(Raphael)/AKIRA(MIRAGE・RENAME)/蟹江敬子(Sheglapes)/HIZAKI(Versailles、Jupiter)/Iyoda Kohei(NoGoD)/SHIORI(Little Lilith)/森谷亮太 他多数

通信販売で購入の方には未発表CD「forgotten」プレゼント

【ライブ情報】

●KISAKI 生誕半世紀記念祭「BEYOND THE KINGDOM -Fest of Excellence-」
2026年3月15日(日)大阪BIG CAT
開場13:45/開演14:30
前売り¥7,300(D代別)
[問]BIGCAT 06-6258-5008

[出演バンド]
・THE LOCUS -当日限定バンド-
B.KISAKI
Vo.苑(摩天楼オペラ)
G.HIZAKI(Versailles / Jupiter)
G.CERO(凛 / Jupiter)
Dr.HIROKI(D)
・Psycho le Cému
・SEX MACHINEGUNS
・摩天楼オペラ
・GOTCHAROCKA
・NoGoD
・FEST VAINQUEUR
・椎名ひかり
・Little Lilith
(順不同)
※ラストに出演者による「神歌」大セッション有り
※MC : 浅井博章

【配信情報】

●2023年(バンド活動30周年)にリリースしたアルバム「Providence」「Afterglow」「Preuve d’etre」「Eternally」全36曲を2026年2月14日~各音楽配信サービスにてサブスクリプション解禁

KISAKI オフィシャルTwitter