WING WORKS

RYO:SUKE×Cazqui(NOCTURNAL BLOODLUST)

RYO:SUKE×Cazqui(NOCTURNAL BLOODLUST)

◆自分から人にお誘いやお願いをすることは多いけど、Cazqui君はレス早かったランキング歴代1位(RYO:SUKE)

――まずはRYO:SUKEさんとCazquiさんの出会いから聞かせていただけますか?

RYO:SUKE:2014年にNOCTURNAL BLOODLUST(以下、ノクブラ)主催のツーマンシリーズにWING WORKSを呼んでいただいたことがあって、それがバンド同士の初めましてです。そして、今年に入って再会するまでお互い音沙汰が無くて。

Cazqui:強いて言うならRYO:SUKEさんの許可を得ずに、僕がチェキで「命を燃やすポーズ」をしていたくらいですね(笑)。

RYO:SUKE:あのポーズは「著作権フリー」って言ってるから全然OK(笑)。ところで、なぜあのツーマンシリーズにWING WORKSを呼んでくれたの?

Cazqui:当時、WING WORKSというかRYO:SUKEさんの音楽性は、あの業界の中で我々にすごく近しいところにいたと思うんです。メタルハードコア、ポストハードコア、エレクトロコアというところで、音楽性がマッチするというところが理由でした。そもそも僕は後期の少女-ロリヰタ-23区(以下、ロリヰタ)の音楽性がとても好きだったし、その中心人物であるRYO:SUKEさんがソロプロジェクトを始めたということで、まさに自分がイメージしていた音楽の発展系がそこにあったんです。

RYO:SUKE:嬉しいな。俺が当時そういう風に評価されたいと思っていたことを正しくキャッチしてくれていて光栄だよ。

Cazqui:確かに、キャッチーなメロディーが軸になっている当時のロリヰタの音楽性から、メタルハードコアを連想した人は少ないかもしれませんね。でも、そっちの音楽を作る人間には、ギターリフとバスドラのユニゾン感など、一聴しただけでモダンなラウドミュージックを意識している事が伝わるサウンドでした。

RYO:SUKE:まさしくご名答で、今回Cazqui君と関係性が近くなったタイミングでも話したんだけど、昔ロリヰタが結成間もない頃のノクブラと2回くらい対バンしていて、そのときにCazqui君が当時ロリヰタの活休寸前にリリースした曲を「ポストハードコアやー!って思いました!」って声をかけてくれたんだよね。

Cazqui:主に「―HIKARI―」ですね(笑)。

RYO:SUKE:そうそう! 当時やっぱり元々のバンドのイメージがあったから、ラウドコアやメタルの音楽性に寄せてたっていうのがファンやシーン全体にキャッチされづらかった中で、そのアンテナを持った人にようやく出会えたと思って。あの出来事がきっかけで、俺にとってCazqui君は同じ世代にいる周りのアーティストの中でも特別な存在だったんだよ。

Cazqui:光栄です。

――そこから、どのように今回のレコーディング参加へと繋がったのでしょうか?

RYO:SUKE:「未完成サファイア」のレコーディングの経緯としては、6月にCazqui君とベーシスト・リョヲ丞としての自分が、WING WORKSの高田馬場AREA主催ライブで「未完成サファイア」をセッションバンドで一緒に演奏したことがきっかけですね。

――そうだったんですね。

RYO:SUKE:同じ日に「WING WORKS・RYO:SUKE」と「ex.-少女-ロリヰタ-23区・リョヲ丞」の両方の自分としてステージに立ちたいと思ったんです。その頃には「未完成サファイア」をWING WORKSとしてリビルドしようということを決めていた中で、あえて対比として「未完成サファイア」をセッションでもやりたいというのが最初にあって。じゃあ誰と一緒に演奏したら正しいというか、バンドを終えたことを受けて誰と演奏して、その流れを引き継いでWING WORKSとして同じステージで歌うのが正しいのかと考えた時に、浮かんだメンバーの一人がCazqui君だった。ただ、ツーマン以来ご縁がなかったし、話した覚えもあまりなくて。

Cazqui:そうですよね。ずっと話したかったんですけど機会がなくて。

RYO:SUKE:今でも覚えているんだけど、Cazqui君にセッションのオファーをしたら、マジで2秒後に「やります!」って返事がきて(笑)。俺、自分から人にお誘いやお願いをすることは多いけど、その中でもレス早かったランキング歴代1位だし、この記録が破られる日は確実に来ないと思う。

Cazqui:あれは早かったですね。手が勝手に動いて、その後に冷静に確認をしていくという。フリーランスのミュージシャンとしてダメですね、完全に順序が逆です(笑)。でもそれくらい乗り気でした。

RYO:SUKE:すごく前のめりに話を受けてくれたことに本当に熱量を感じました。当時「―HIKARI―」をポストハードコアと表現したのも相まってインパクトがあって。

Cazqui:タイミングもすごく良くて、自分のバンドの今後が不透明で、前に進めていないような感覚だったので、いろんな方々と音を交えたいという気持ちがすごく強い時期だったのと、やっぱりメンバーですよね。MiA君(MEJIBRAY)と僕のツインギターっていう(笑)。ちょうどその頃、MiA君も以前のようにフライングVを使っていて、つまり二人で一緒に弾くとVが並ぶわけじゃないですか。そのカオスな絵面も笑えるだろうなって思ったし…凄く失礼な話ですけどRYO:SUKEさんの頭がおかしいからこういう組み合わせなんだろうなって(笑)。

RYO:SUKE:そうそう! 頭おかしいセッションにしたかったの(笑)!

Cazqui:普通こういう属性の人が上手側にいたら、反対側は違う属性の人にすると思うんですけど、何というか、とっても味つけ濃いめの高カロリーなセッションだなって(笑)。

RYO:SUKE:Cazqui君がギタープレイもパフォーマンスも間違いない人であることは確信を持った上でお誘いしたんだけど、それと同時に「未完成サファイア」のリビルドの作業も進めていた中で、Cazqui君から「『未完成サファイア』こういう解釈はどうですか?」というデータのやりとりがあって。そこでの発想というかマインドが、WING WORKSとしてリビルドしたいと思っていたものとすごく近かったんです。そしてセッションの本番を経たことで、ますますその思いが確信に変わって、俺からオファーをしました。

◆RYO:SUKEさんって「ならず者感」があるんですよね(Cazqui)

――その共演まで、RYO:SUKEさんには違うギタリストのイメージがあったということですか?

RYO:SUKE:当初は俺とアレンジャーの二人で完結させようと思っていました。というのも、もちろん「未完成サファイア」はロリヰタのファンにとっても大事な曲だし、ここで他の表に立ってるアーティストの名前が連ねられるのは違うなと思っていて、自分でギターを弾くか、アレンジャーが弾くかで考えていたんですね。ただ、その考えを覆すくらい、俺の頭の中で鳴っている音とCazqui君のギターがあまりに近くて、彼ならきっとロリヰタのファンも納得してくれるんじゃないかと。同時にこの話は、ある種「俺と一緒に矢面に立ってくれ」というオファーでもある訳じゃないですか。もちろんそれはCazqui君もわかっていたはずで、それにも関わらずこの話を受けてくれたことに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

Cazqui:そこまで言っていただけて凄く光栄です。やはり再録は出来の良し悪しそのものだけでなく、ファンの方が抱くノスタルジーとどう向き合うかが大切だと思っていて。自分もノクブラで再録を何度かやっていましたけど…やっぱり演奏技術面やサウンドプロダクション面に関して、ミュージシャン目線では再録版の方が理想に近いわけじゃないですか。けれど「自分にとってそれがリアルタイムだったから」という理由から、過去の音源を忘れられない人も多いわけです。楽曲への思い入れが強ければ強いほど、過去に縋りたくなる。リスナーとしての自分にも、そういう大切な楽曲はあるので、過去音源を推す方の気持ちも凄くわかるんですよね。なので今回は、楽曲に忠実かつ、真摯に向き合う事、RYO:SUKEさんの意図を汲み取る事を心掛けました。それに加えて、ロリヰタが止まってしまうタイミングで「過去を大切にしつつも前に進みたい。ファンに未来を見せたい」という強い意志をRYO:SUKEさんから感じたので、「今」そして「これから」を感じさせる現代的なリードプレイを意識しました。

RYO:SUKE:まずは自分のリビルドのイメージを伝えたかったから、それには言葉よりも音だと思って、作り込んだデモをCazqui君に投げたじゃない? それはどういう印象だった?

Cazqui:各フレーズなど、何が主役なのかが明確になって、ぼんやりしていたものがはっきりとしたな意思を持った、という印象を受けました。自分も作曲をするので、どうしてもクリエイター目線になってしまうんですけど、やっぱりRYO:SUKEさんという、作詞作曲を手掛けた人間の脳内にあるものが、その楽曲の本来の姿だと思うんですよね。言うなれば、それはエゴの具現化ではなく、本質の具現化であると。だからこれが2018年における「未完成サファイア」の、本来の姿なんだろうなという印象でした。それを自分が弾くとこうなるというか。自分の持ち味は、アンプに直でギターを繋いだ王道メタルのような音ではなく、ウエット感の強いリキッドな音色だと思っていて。その要素はRYO:SUKEさん特有のエレクトロ要素と相性がいいので、いつも通り弾くだけでハマるだろうなと思いました。

RYO:SUKE:Cazqui君のリキッドな音色と言えば、一緒に出演したニコ生の番組の楽屋でいろんな話をしたんだけど、あの日にすごくお互いの理解が深まったよね。

Cazqui:語弊があるかもしれないですけど、RYO:SUKEさんって「ならず者感」があるんですよね。あんまり行き場のないタイプの思考というか、なぜヴィジュアル系という音楽的自由度の高いカテゴリにいるのかが、わかりやすい人というか。

RYO:SUKE:「ならず者感」って、面白い表現だね。それは具体的にどこらへんに感じるの?

Cazqui:音楽性は多種多様ですし、何者でもあるというか、本質的な意味でのミクスチャーというか。だから、一つのジャンルに執着の強い人からすると、何がやりたいんだろうって言われてしまったり、もっと振り切ればいいのにって言われてしまうけど、その振り切れてないところに色気を感じてしまうというか。自分もそうなんですけど。

RYO:SUKE:そうだね。もっとわかりやすいものを作らなきゃって自分にプレッシャーをかけていた時期もあったんだけど、今では外から見た時に「これは何だろう?」って感じるような謎のポジションに、自分のアイデンティティがあるんだろうなとは自覚してるよ。

Cazqui:そうなんですね。

RYO:SUKE:逆に、俺はCazqui君のパブリックイメージを、「エクストリームメタルの申し子」みたいに感じていたんだけど、あの日色々話したことで、Cazqui君のそれだけじゃないプラスアルファの「ならず者」の部分というか、メタラーと真逆のエッセンスに気付けたのは本当に大きくて。でもその感覚を持ってるからこそ安心して任せられるというか。WING WORKSもこれまでいろんな人と仕事をしてきて、もっとメタルで、もっとエクストリームで、もっとエレクトロでなきゃって思って、その筋の専門家と音の仕事をしたりしたけど納得いかなかった経験が過去にあって。そういう時に自分が何者でもないという感覚があったんだけど、あの日お互いの音楽の嗜好とかをガッツリ語れたことで、Cazqui君なら大丈夫だって確信があったんだよね。

Cazqui:ありがとうございます。なかなかそういう部分をご理解いただけた上でのオファーって少ないんです。公にしてないものも含め、「これぞメタル!」なギタープレイを求められる事の方が多いので。もちろん激辛なものを提示するメタルギタリストっていうイメージから、自分を求めていただけるのはありがたいんですけど、実際のところ僕はノクブラというバンドから連想される音楽性に関しても激辛だなぁと思っていて、どちらかというとその手のラウドミュージックを、ギリギリ旨辛のバランスに調整してる人って感じです。自分でも食べられるように。ほら、カレーの辛さを抑えるための牛乳と同じで、衣装も白いですし。音楽も、激辛より旨辛が好きなんです。

RYO:SUKE:そこから派生させると、Cazqui君が激辛のギタリストとしてノクブラの立ち位置にいて、世の中からそう見られている自覚はあるでしょ? でも本当は旨辛でありたい、と。そういう旨辛な自分を今後出していきたいの?

Cazqui:そうですね。自分が心から美味しいと思えるものを作ったら、それは旨辛になってしまうだろうし、やはり自分自身が単なる激辛を美味しいと思えないので、例え激辛が一部の方へのファンサービスになるとしても、ちょっとツラいところはありますね。全く自分で食べられないとお腹が空いて、いつか餓死してしまいますから。出来れば自分が美味しく食べられるものが作りたいですし、日々の食に拘るギタリストでありたいなと思っています。いっそ今後はギタリストではなく、シェフを目指そうと思いますよ。ん? それはなんだか違いますな。

RYO:SUKE:(笑)。そういう話になると、改めてCazqui君のギタリストとしてのメンターって誰なの?

Cazqui:絞り切れないんですけど、絶対に外せないのは、初期…YAMAHA使用時代のB’zの松本孝弘さんですね。あとはEvery Little Thingの伊藤一朗さんとか、J-POPの世界に紛れ込んで完全にハードロックなギターを弾いている方が根源にあります。そして、筋肉少女帯/X.Y.Z.→Aの橘高文彦さんに強いシンパシーを感じます。

RYO:SUKE:なるほどね! メタラーとしては?

Cazqui:ライブで大きな感動をもたらしてくれるのはやはりイングヴェイ・マルムスティーンですね。自分の場合は、彼のクラシカルな速弾きとか、そういう要素じゃなくて、とにかく「ロックギタリスト」だよなぁって思わせてくれるライブパフォーマンスや、ギタープレイから生き様が見えてくるところに魅力を感じます。とはいえ、僕の元々のルーツはエリック・クラプトンなんですよ。クラプトンの「Layla」を聴いてギターを始めて、そのあとB’zにハマって、そこからハードロックにいって、コアなラウドミュージックにいったんです。だから、元はきっと「産業ロック」なんですよね。どこかしらに大衆志向というか、ニッチな界隈で憎まれがちな「売れ線」という言葉がついて回る音楽が好きで、その中に尖った要素があるものが好きです。ただメインストリームに逆行して、ニッチなリスナー層に「擦り寄った」だけのものを自分は「尖ったもの」だと思えないので。それより、あらゆるリスナーに対する「歩み寄り」を感じられるものが基本的に好きですね。

RYO:SUKE:とすると、あえて聞くけど、今エクストリームメタルの最先鋒として見られてる現状を苦しく感じることはある?

Cazqui:最近は、フォロワー的な立ち位置のバンドが増えてきたおかげで比較対象ができて、自分のバンドがどのくらいのバランスで激しさを演出してきたのかがわかりやすくなってきたので、後輩の子たちには感謝してますね。以前は、彼らと表面上のプロレスでもやった方がシーンが盛り上がるのかな?なんて考えてたんですけど、みんな話すと良い子なのでやめました。なんにせよこれまでは、他に近いラインのバンドがいなかったので、激辛センセーショナルってイメージが強かったかもしれませんね。

RYO:SUKE:今なおパブリックイメージはそこに振り切られてると思うよ。だってこうして出会うまではCazqui君のこういう部分を俺はキャッチできなかったわけだし。

Cazqui:その立ち位置もそれはそれで美味しかったんですけど、葛藤はありましたね。いや、そういう事じゃないんだよなぁって感覚が常にあって。でも最新作の「WHITEOUT」(2018年3月リリースのシングルタイトル曲)は自分らしさを少しは出せているかなぁと思います。

RYO:SUKE:あの曲ももちろんエクストリームだけど、めちゃめちゃ抒情的だもんね。

◆今ノクブラが難しい状況にいるからこそ出会えて一緒に仕事が出来ている(Cazqui)

RYO:SUKE:Cazqui君は勉強熱心でリサーチャーだと思うんだけど、4年前にツーマンしてから今までの間にWING WORKSは結構変わった、その変化をどう見てた?

Cazqui:RYO:SUKEさんって、いつもちょっと早すぎるんですよね。界隈におけるメインストリームの一歩先を拾った結果、なんだか物珍しい扱いになってしまう。けれど、あとから周りも気付いて、追い付いてくる。その頃にはもう、RYO:SUKEさん自身は次に向かっている。少しばかり損な立ち位置なのかもかなぁと。『FIXXTION BOY』(2014.年10月リリースのシングル)のあたりでそう思いました。

RYO:SUKE:お、さすがだね。

Cazqui:アー写も含めてなんですけど、あのときのアー写って今がちょうどいいと思うんですよね。個人的にめっちゃ好きです。

RYO:SUKE:この言い方が正しいかわからないけど、当時日本人であそこまでやってたのは、まだEXILE好きな人にしか見つかってなかった頃の三代目J Soul Brothersくらいだよね。

Cazqui:あの後くらいに「ロックは死んでいて、時代はエレクトロなんだ」って風潮が日本のリスナーの間でも共有された気がするんですよね。

RYO:SUKE:同感だよ。でも今また全く同じことをやろうとは思わないんだよね。

Cazqui:もうやっちゃってますし、焼き増しになっちゃいますもんね。

――Cazquiさんは先程も、スケジュールが不明確なタイミングでRYO:SUKEさんからオファーがあって今回のレコーディング参加が実現したと言っていましたし、おそらく多くの人が気になっているであろうNOCTURNAL BLOODLUSTの現在についてお聞きしてもいいですか?

Cazqui:活動は沈静化していますね。今、自分の口から語れる事はあまりないです。バンド活動というのは、一個人の感情やモチベーションでどうにかなるものではないですし、それこそバンドメンバーだけではなく、連携をとるスタッフ、会社組織などとの兼ね合いもあるわけです。例えば、Cazquiというメンバー個人の意思が、活動に対し前向きであろうと、はたまた後ろ向きであろうと、今バンドが正しく機能するかどうかとは、完全に別問題なので。ただ最近、ファンの方がとても寂しそうなので、個人的に関係のあるイベンターと相談して、2018年12月16日に自分主導のイベントを渋谷ストリームホールにて開催する事になりました。そこにNOCTURNAL BLOODLUSTも出演するんですが、その詳細はまた追って。ラウドなバンドがたくさん出演する予定です。

――その沈静化は復活を前提とした前向きなものなのか、それとも後ろ向きなものなのでしょうか?

Cazqui:自分の知る限りでは「具体的にまだ何も決まってない・、決まらない」というのが実情です。なので、そういった状況下において、自分が高いモチベーションを感じさせてバンドへの期待値を上げるのは…無責任な行為だと思うので遠慮しています。もしも結果として悲しい結末を迎えた場合、結婚詐欺のような深い傷をファンの方に負わせてしまう恐れがあるからです。自分は、その責任を負いかねます。ただ、今ファンの皆さんにお伝えしたい事は、2009年の結成当初からオリジナルメンバーとして携わり、数多くの作編曲を手がけ、己の半身と認識しているNOCTURNAL BLOODLUST・、そしてそのファンの方々、メンバーである尋、Daichi、Masa、Natsu、彼らと共に紡いできた楽曲に対する自分の感情は「安易に口に出来るほど安く、単純なものではない」という事です。その上で、今自分が明言出来るのは「ミュージシャンとして歩みを止めるつもりはない」という事。今回RYO:SUKEさんと「未完成サファイア」をセッションさせていただいて、「俺は思い出にならねぇぞ」という、未来に向かう強いエネルギーを感じて、自分も同じような気持ちでいなければと思いました。RYO:SUKEさんのように、コンポーザーだとか、そういうポジションの人間は、環境がどうなろうとミュージシャンで在り続けると思うんですよ。

RYO:SUKE : そうだね。「もう無理かも」とはこれまでに何度も思ったけど、一つひとつ乗り越えて来た今となっては、これからもずっと音楽を続けていこうって思っているよ。

Cazqui:俺、そもそもガキの頃、今の自分の力じゃどうにもならないものを変えたくてギターを手に取ったんですよ。そしてそれによって、俺の目に映る世界は確かに変わりました。だから、言えない事情だとか、外的な要因によって悩まされたり、立ち止まらざるを得なかったり、他人に何かを期待したり、押し付けたりする1分1秒は、人生の無駄であり、浪費だと思ってます。待っているだけじゃ誰も幸せに出来ない。外的要因に阻まれて前に進めないなんて、俺がかつて憧れたロックギタリストって職業は、そんなダサいもんじゃなかったんですよ。当事者たるアーティストの心が死ななければ、その音楽は決して絶えないはずなんです。誰にもそれを止める権利なんてないんです。なので、立場は違えど、ロリヰタが止まってもWING WORKSでソロアーティストとして活動し続けるRYO:SUKEさんはとても逞しく、輝いて見えますね。

RYO:SUKE:ありがとう。今ノクブラが難しい状況にいるからこそ出会えて一緒に仕事が出来ているわけで、俺もかつてバンドが難しい状況っていうのを経験して、今一度バンドを終わらせるという選択をした立場として響くものがあったのね。ノクブラのCazquiであると同時に、いちミュージシャンCazquiでもあるし、俺もロリヰタしか知らなくていろんな人と一緒に音を出すとか、ステージに立つとか、メンバーじゃない人と物を作るっていう、それぞれが独立しているミュージシャンの輪みたいなものの外にロリヰタはいた。だから、ソロアーティストとしてやるとなったときにそれぞれが独立したインデペンデントのミュージシャンの輪の中に入るとすごく刺激的で楽しいなって気付けたの。だけど、ヴィジュアル系のミュージシャンってそういう音楽の喜びを知らない人が多いと思っていて、そういう場にCazqui君も自分から飛び込んでいくタイプだとは思うんだけど、その中の一つにWING WORKSも加われたらそんな嬉しいことはないなって思っているし、その輪にCazqui君を巻き込みたいと思ったから今回お願いしたんだよね。

Cazqui:光栄です。自分は、全てのミュージシャンは独立しているべきだと思っていて。それは結局のところ、やるかやらないか、それだけの話だと思うんです。いちアーティストとして独立しているミュージシャンの集まりが、自分の理想とするロックバンドです。なので、ミュージシャンのこなすべきライフワークの一つとして、WING WORKSの制作に従事し、今RYO:SUKEさんと対談をやらせていただいています。

RYO:SUKE:改めて、本当にありがとう。ここまで音楽をやってきて、変な意味じゃ無くて他人に期待しちゃいけないって学ぶじゃない。でも、「バンド」という集団は自分以外の誰かに期待するところからスタートするから、人間が大人になって到達するはずのマインドとどういうわけか矛盾してるんだよね。俺が諦めずにソロアーティストを続けているのはそこに理由があるのかもしれないけど、ノクブラは今、矛盾と戦ってるのかもしれない。でも、もちろん一人では出来ないこともある。その答え探しってずっと続くのかなと思っていて。

Cazqui:バンドに対して多大な歳月と労力を捧げてきたつもりなので、それを深く愛してくれるファンがいるのは本当にありがたい話です。けれど…これは昔から近い事を言ってるんですが、死ぬまで変わらぬ形態で終身雇用、副業禁止、というスタイルも、あまり音楽的にピュアな形でないなと。多くの方は、それを言い渡された時の気持ちを、ご自身の立場・環境と置き換えてみればご理解いただけるかと思うんですけれども、ミュージシャンの人生にだって、リスナーの人生にだって、あらゆる「if」が存在するわけじゃないですか。俺は、人間いくつになっても、何かを始めるのに、遅いなんて事はないと思ってます。自ら上限や、在るべき居場所を決めてしまったり、自分自身に見切りをつけるのは、死ぬ時で良いのではないかと思っています。お互いに未来を縛らず、音楽を楽しんでいける方が、幸せでいられるように思います。

RYO:SUKE:わかるよ。その方が音楽そのものに対して誠実だよね。

Cazqui:これは、あまり共感してもらえないでしょうね。けれど…俺は、掲げている看板のハクじゃなくて、自分自身が信じられる事、信じられるものに重きを置きたい。そうやって、他のあらゆる全てを犠牲にして、これまでのミュージシャン人生における全てを捧げたものの一つを、結果的に人々はカタカナ4文字の愛称で覚えてくれています。

RYO:SUKE:それでもCazqui君達はこんなにたくさんのバンドがある中、外野の声を「音」で黙らせてきたバンドだと思う。ロリヰタだってもちろん信念をもって音を作ってきたし、表現してきた世界観とか歌詞とかアートとして培ってきた部分はかなり大きかったと自負しているけど、そうじゃないアイドル的な要素が世に受け入れられがちな世代のバンドとして評価されたことも自覚していなくてはならないと思っているから、ある種の「責任」を感じなければいけないと思っているんだよね。

――何に対する「責任」なのでしょうか?

RYO:SUKE:自分は、アーティストのファンが音じゃない部分を楽しむあまり、音のことを蔑ろにする風潮を作ってしまったバンドや世代の一つだと思っていて、WING WORKSを始めてしばらくして、その十字架を背負わなくてはならないと感じるようになって。もちろんどんな形でも愛してくれたファンへは最大限の感謝を持っている上で、俺は音そのものが好きだし、音に乗せた思いそのものっていう内側の部分を、これからはもっともっと伝えたいんだよっていうのを、今後の人生を賭けてやっていきたいと思うんです。

Cazqui:逆に自分は、音じゃない部分に固執せず音だけで勝負しろ、っていう高尚そうな目線が、苦手だったりします。例えばの話なんですけど、さっき名前を挙げたイングヴェイだって、とにかく死ぬほどステージアクションが派手で、ライブを観ているだけで楽しいわけですよ。そこに全く着目せずに速弾きが、ネオクラシカルが、と言っている人達が、ブラインドテストにおいてイングヴェイと、その影響下にあるネオクラシカル系ギタリストのギターを聴き分け出来るかどうか…正直怪しいというか。楽しみ方は人それぞれですが、それはあまり演者側の提供しているエンターテイメントに対し、誠実でないという印象を受けるんですよね。自分がずっと好きで、愛してやまなかったジャンルは、そういったスタンスが正しいとされる、変に敷居の高いものとして根付いてしまい、せっかく俺より下の世代の若い子が興味を持っても、飛び込みづらい世界になってしまった印象があります。俺はそれを、心から悲しく思っています。でも最近は、昔から自分の立ち位置と絡めて訴えてきたジャンル論とか、価値観の壁とか、もうどうでもよくなって。不毛な訴えだったなと。そこに区切りをつけ、新たにやらなければならない事、そして、そのための手段を見つけました。今は準備をしているところです。

RYO:SUKE:そこから話を広げると、音楽にお金を払う人が減ってるだとか、CDが売れないとか言われて久しいけど、音楽ビジネスに関しては何か考えてる?

Cazqui:今はいろんなものを見ていて中学生の頃みたいにワクワクしなくなっちゃったので、そのワクワクを自分で探したり、周りの人の手を借りて、自分で作ろうとしています。

RYO:SUKE:なるほどね。俺は見落としてはならないと思うことがあって、淘汰されて消滅してしまったシーンと、マスとは切り離されたところで脈々と受け継がれているシーンとがあるじゃない。例えば歌舞伎とか宝塚ってテレビに毎日出てるわけじゃないけど、そこにちゃんと人がいるよね。それはそこに揺るぎないクオリティとか、精神的な部分でブレないメッセージ性とか、長い歴史の中で強固な文化が積み上がっているからなのであって。ただ反面、フォークソングって呼ばれるシーンは今の日本にはもう無い。そして、ヴィジュアル系も「このままじゃ終わりだ!」とか言われていて、それはフォークソングが日本からなくなってしまったようなことでもあるのかもしれないけど、一方で、歌舞伎や宝塚のように一つの文化として残り続けることが可能なジャンルだとも思う。俺もヴィジュアル系全体を背負いたいとか、次を作りたいって意気込んでいたマインドシップの時もあったけど、今はそんなことよりも、WING WORKSそのものがどうすれば宝塚や歌舞伎のような揺ぎないアイデンティティを確立できるかってすごく考えてるし、それは結果として必ずシーンの活性化に貢献することに繋がるはずだからね。

Cazqui:結局は「一個人がどう己を確立していくか」じゃないかなって思うんです。個々が本気で揺るぎない唯一無二性を追求していれば、ジャンルだとかシーンといった区分は、きっとアーティストを縛る鎖にならないはずなんです。

RYO:SUKE:そうだね。似たことをやっているから混ざるわけだからね。

Cazqui:括りの中にいる、ある種の安心感ってあるじゃないですか。でもそれを捨てて、一歩出た時に「個」を発揮出来なければ、それに本質的な価値はないと思うんです。それはシーンだけでなく、バンドという小さな括りでも同じかなと。「個」を発揮出来る者同士が交わって、二乗のパワーを発揮するのが、理想のコラボレーション。そして、本来あるべきバンドの姿なのだと思います。

RYO:SUKE:うん。足して100になるんじゃなくて、100の五乗じゃないといけないんだよね。

Cazqui:ですね。なのでこれからも僕は、今回の「未完成サファイア」のように、RYO:SUKEさんをはじめとする熱いスピリットを抱くミュージシャンの方々と交わって、ギタリストCazquiとしての己を磨きつつ、クリエイターCazquiの有する母体でそれを全面的に活かしていければいいなと思っています。

RYO:SUKE:お互いバンドで何かを成したからこそ辿りつけてるマインドだし、そこで身に沁みてきた価値観の先にこれから一緒に行けたら俺は嬉しいよ。

(文・小崎恒平)

ARTIST PROFILE

WING WORKS

<プロフィール>

少女-ロリヰタ-23区のベーシスト、リョヲ丞のソロプロジェクト。2012年 9月18日に始動し、同年12月に1stフルアルバム『STAR GAZER MEMORY』を発売。翌2013年1月には、池袋EDGEにてFIRST SOLO ONEMAN「THE MYBRID COSMO WORK」が開催された。以降、渋谷WWW、新宿ReNY等でのワンマンを含むライブ、リリース共に精力的に活動を展開し、国内のみならず多数の海外公演も成功に収める。2018年8月リリースの最新シングル『ACID CASTLE / 未完成サファイア』を引っ提げ、10月26日の新宿Wildside Tokyo公演を皮切りに3ヵ月連続主催イベントの開催、そして12月26日に2nd Album『ENTITY』のリリースが決定している(※詳細は後日発表)。

■WING WORKS「ACID CASTLE / 未完成サファイア」特設サイト
http://wingworks-official.com/special_01/

【リリース情報】

ACID CASTLE / 未完成サファイア
2018年8月29日(水)発売
(発売元:G2TD records/一般流通盤販売元:ONG DISTRIBUTION)

ACID CASTLE / 未完成サファイア
【完全限定盤(CD+写真集)】
WGWK-10010
¥6,800(Tax in)
ACID CASTLE / 未完成サファイア
一般流通盤
WGWK-10010
¥1,280(Tax in)
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

【完全限定盤(CD+写真集)】
01. ACID CASTLE
02. 未完成サファイア
[写真集]
WING WORKSヒストリー写真集第二弾『WINGRAPHY II』

一般流通盤
01. ACID CASTLE
02. 未完成サファイア

【ライブ情報】

●WING WORKS主催EVENT「ACID CASTLE-赤の城-」
10月26日(金)新宿Wildside Tokyo
<出演>WING WORKS/K/DIMLIM/Rides In ReVellion

●WING WORKS主催EVENT「ACID CASTLE-黒の城-」
11月15日(木)新宿Wildside Tokyo
<出演>WING WORKS/ユナイト/ベル(SOLD OUT)

●WING WORKS主催EVENT「ACID CASTLE-銀の城-」
12月14日(金)新宿Wildside Tokyo
<出演>WING WORKS/COMING SOON

●OTHER SCHEDULE
9月28日(金)高田馬場AREA
10月10日(水)巣鴨獅子王

ARTIST PROFILE

YUCHI(sukekiyo)

<プロフィール>

ベーシスト。DIR EN GREYのヴォーカリスト・京のサイドプロジェクト「sukekiyo」に参加中。2017年に7年ぶり復活した怜(Vo/BAROQUE)、圭(G/BAROQUE)とのスリーピースバンド・kannivalismのメンバーであると同時にアーティストのレコーディングやサポートをメインに活動中。これまでに、WING WORKSの他、MIYAVI、GOTCHAROCKA、Ricky、AKIRA等、多くのアーティストのサポートを務める。

■sukekiyoオフィシャルサイト
http://sukekiyo-official.jp

【ライブ情報】

●sukekiyo 二〇一八年公演「マニアの詩姦」-漆黒の儀-
11月6日(火)日本青年館
11月8日(木)京都劇場
11月9日(金)京都劇場
11月15日(木)東京国際フォーラム・ホールC

●メトロノーム主催フェス「メトロノーム 廿th FEST.黒の日-ウィスヌ- [ 05→98→18迄-7=20 ]」
11月4日(日)豊洲PIT

ARTIST PROFILE

Cazqui(NOCTURNAL BLOODLUST)

<プロフィール>

尋(Vo)、Cazqui(7-strings)、Daichi(G)、Masa(B)、Natsu(Dr)の5人からなるロックバンド・NOCTURNAL BLOODLUSTのギタリスト。過去にドイツの重鎮HEAVEN SHALL BURNや、「激ロックFES」にてイタリアのDESTRAGE、スペインのRISE TO FALLらとも共演。2ndミニアルバム『OMEGA』でオリコンインディーズチャート1位を獲得するなど快進撃を続け、2018年3月にシングル『WHITEOUT』をリリースした。

■NOCTURNAL BLOODLUSTオフィシャルサイト
http://www.nocturnalbloodlust.com/

【ライブ情報】

●Halloween Night of DEADMAN’s QUINTET
10月31日(水)新宿LOFT
Vo.mitsu/G.Cazqui(NOCTURNAL BLOODLUST)/G.タクミ(ex.ν[NEU])/B.Ivy(ex.ラッコ)/Dr.風弥〜Kazami〜(DaizyStripper)

●Chapter of Paradosis Vol.3
11月9日(金)大阪BEYOND
11月11日(日)今池GROW
11月17日(土)池袋EDGE
Cazqui/Daichi(NOCTURNAL BLOODLUST)