インタビュー

塩原康孝

塩原康孝

バンドを卒業し、ソロアーティストとして本格的に活動をスタートさせた塩原康孝。彼が自分の好きな物だけを集めて作り上げた1stミニアルバムで描くものとは――。

昨年12月、“SCREWのベーシスト・ルイ”であることを卒業し、自分の目指す道へと舵を切った塩原康孝。彼がこの度、ソロアーティストとして初の作品『overture』を完成させた。6曲入りの今作は、「自分のしたいこと、好きな音楽、雰囲気だけを作って並べた」という究極の1枚。作詞、作曲、楽器、歌…全てを自らの手で作り上げたこのミニアルバムについて、そして今の心境、さらにはこの先に見据えるものを、たっぷり語ってもらった。

◆素の自分でやってみようと思った

――卒業してから今まではどんな時間でしたか?

塩原:アパレルをやって、その後に世間の方々から見たら謎チャレンジだった舞台をやったりしていました。

――音楽に関してはどの程度ヴィジョンがあったんですか?

塩原:自分が表に出て音楽をやるという考えは全くなかったんです。アパレルや舞台をやっている時に、曲提供とか、プロデュースという形で、裏方として音楽に関わっていたんですけど、その時の監督さんや制作の人たちに「お前は裏方じゃない。表に出ないとだめだ」って言われて。でも去年末でバンドというものに対する自分の気持ちを整理していたから、もう1回バンドを組みたいかと言われるとちょっと違うなと。

――何がきっかけになったんでしょう。

塩原:今まで“ルイさん”としていっぱい曲を作ってCDも出してきたけど、“塩原君”としては何もしたことがないなと思ったんです。10数年バンドをやってきて、本名で動いたことがなかった。じゃあ、1回、素の自分でやってみようと思ってソロでの稼働を決めたんです。バンドだと、雰囲気も歌のキーもバンドに合わせたものにせざるを得ないんですけど、自分のしたいこと、好きな音楽、雰囲気だけを作って並べてみたいと思って。

――実際作り始めてみていかがでした?

塩原:段取りがわからないことが多すぎて、良くここまでたどり着けたなと思います(笑)。バンドをやっていた頃は何かしようと思うと段取りはスタッフさんがしてくれて、俺は最後の自分がやりたいところだけやればよかったんですけど、今、何かやろうと思ったら当然ですけど1から10まで自分でやらないといけないんです。CDを出そうと思ったら、音を作ってリリースするだけじゃなくて、その間の工程も全部やらないといけない。

――バンドを卒業したことでかなり大きく環境が変わったんですね。

塩原:SCREWは好きだったし、周りのスタッフさんたちのおかげでバンドができていたので、卒業はかなり悩みました。でも、俺にはやりたいことがたくさんあって、段々窮屈になってきちゃったんです。それに、元々、もてはやされすぎる環境がちょっと苦手だったからかもしれないですね。

――意外な発言ですね。

塩原:もちろんそういうのが嬉しい時期もあったんですけど、途中から「これは自分のしたいことではないかもしれない」と気づき始めて冷静になってしまって。元々俺は音楽の世界に入ったのがヴィジュアル系からではなかったからかもしれませんね。LUNA SEAが大好きでバンドを始めたんですけど、その後ハイスタ(Hi-STANDARD)とかの方にいったので。

――それはまた振り切りましたね(笑)。

塩原:でしょう(笑)? だからヴィジュアル系独特の感覚というのが自分にはあんまりなくて、段々冷静になってしまったのかもしれないですね。

――卒業して心境の変化はありましたか?

塩原:色々なことに対する感覚がかなり変わりました。それまでヴィジュアル系のバンドマンとして何年間もやってきた実績や経歴、看板、守ってくれるものが、全部なくなって、その中でも昔と変わらず自分に接してくれる人のありがたみを痛感させられましたね。それに、バンドを卒業するときに変なプライドはなくなった気がします。昔の自分がどう見られていたかを引きずっていたら、あれこれ気にしていたかもしれないんですけど、そういうのも全部自分でリセットしてしまったので。リセットしなかったらきっと今もヴィジュアル系のバンドで活動していたと思いますよ。多分自分でやらなきゃいけないっていう環境に立たされないとわからないこととか、人のありがたみとか、すごく良い経験をさせてもらっていると思います。

◆「自由すぎるな俺」って自分で思うくらい好き勝手にやれた

――今回の制作は、どのように行ったんですか?

塩原:バンドをやっていた頃は、作ったものにいろんな人の手が加わって完成していったんですけど、今回は自分で曲を作って、ベースを弾いて、ギターを弾いて、シンセを弾いて、歌って、ミックスして…という感じでした。ミックスの作業は表題曲だけは人にお願いして、それ以外の曲は自分でやっています。ただ、やったことがなかったから人に聞きまくりました。録るより編集の方が時間がかかりましたね。

――ご自分が手がける楽器が増えていますが、レコーディングはいかがでしたか?

塩原:録りは、ベースは早かったし、ギターは元々デモで弾いたりしていたのでそこまで大変ではなかったんですよ。突出しているギターソロの部分だけ、ニコ動とかで活動しているギタリストの友達にお願いしたくらいで、あんまり人の手が加わっていないんです。

――今回、「-overture-」のMVも撮影されていますが、その中でギターを持っていましたよね。ギターヴォーカルに転向されたんですか?

塩原:そうなんです。ソロでやろうと思った時に最初はベースを持とうと思ったんですけど、元々がベーシストなのでフレーズが細かいんですよ。こだわりをちょいちょい入れてしまいたくなるので、これを弾きながら歌って、どっちつかずになったら嫌だなと。あと、イメチェンをしたかったのかもしれませんね。ギターを持っている姿が映像に残るってあんまりないですし。

――とても新鮮でした。

塩原:それに、元々俺が好きなアーティストにギターヴォーカルの人が多かったというのも一因かもしれませんね。ヴィジュアル系だったらPlastic Treeの有村竜太朗さんとか。今でこそご飯に連れて行っていただいたりしていますけど、元々CDを買ったりするくらい好きだったんです。本人には恥ずかしいので絶対言わないんですけど(笑)。あと細美武士さん(ELLEGARDEN、the HIATUS)とか、初期のDragon Ashとか。ギターヴォーカルはいいなと思って、自然とこの形になった気がします。

――そういう意味でも今回の作品でやりたいことができたんですね。

塩原:そうですね。とりあえず何も気にせず無心で作りました。昔だったらライブがあるからこういう構成はダメだとか、これだとドラマーが可哀想だなとか色々考えたんですけど、塩原君として初めてCDを作って「自由すぎるな俺」って自分で思うくらい好き勝手にやれてよかったです。

◆ありのままの自分を出せるようになった

――最初の段階でミニアルバムの完成形は予想していましたか?

塩原:表題曲だけは最初からこれだなっていうのを自分の中で決めていたんです。表題曲って映像にもなるし、すごく印象が強いじゃないですか。そこで自分がこれから進んでいきたい、ちょっとポップス寄りのものが出せれば、あとは好きなことを、と思っていました。表題曲を決めてからカップリングを選んだので。表題曲をメインに組み立てました。

――1曲目の「0.00001」は生活音のみが入っていますが、6曲のミニアルバムで1曲目にああいう曲を入れるというのは新鮮でした。

塩原:最初はバリバリに打ち込んだSEを作ったんです。でも俺は自分のありのままでCDを作ろうと思ったのに、なんでこんなカッコつけたもの作ったんだろう?と思って、急遽リセットして。その時、思いつきで昔のiPhoneで家の中でずっと録音して、2日半くらい録り続けてみたんです。これが、曲とは言わないけど1個のものにならないかなと。

――生っぽい音で、究極にありのままですよね。

塩原:そうですね。昔だったらこういうのは嫌だったけど、ああいうありのままの自分を出せるようになったんだろうなと。音を加工しすぎると聴こえ方が変わっちゃうのであんまりフィルターとかもかけていないんです。よくあんなことをやったなと思います(笑)。

――そして、曲名が意味深です。

塩原:実は、1曲としてカウントするのも申し訳ないので“「0.00001」くらいの気持ちで聴いてください”という意味です(笑)。そこから2曲目の「-overture-」に行くんですけど、普通は曲間を2~3秒空けるんですけど、ここは0秒にしようと思って。CDで聴くとそのままつながっているような作りになっているんです。

――なるほど! それにしても、今回はバリエーションに富んだ6曲でした。

塩原:好きな物だけ作って並べたので、曲のジャンルも整えていないんです。でも、曲の並びは自分なりに聴き心地の良い順番にしました。最初「-overture-」を最後にする、という謎の案もあったんですけど、最後を気持ち悪い終わらせ方にしたくて「みらいドロップ」にして。しかも、曲の最後くらい綺麗に終わらせればいいのに、スパーンと切るっていう(笑)。

――「みらいドロップ」は、とても浮遊感がある曲ですよね。なのに最後で「え!?」と(笑)。

塩原:この曲のイメージは、ふわふわした風船だったんです。でも風船て、いつか破裂してなくなっちゃうじゃないですか。だから綺麗にフェードアウトじゃなくて、破壊してやろうと。

――段々空気が抜けていくのではない、というところに塩原さんのロックを感じました。

塩原:「終わりじゃ!」っていうね(笑)。そして、この曲はこれまでほとんどやったことがない楽器なしの曲です。他の曲は、作っていく上でどうしようか悩むとギターソロをずらしたりイントロを持って来たりして、楽器の力でクリアできるんですけど、そういう楽器パワーが効かないから構成をミスったらすごく聴こえが悪くなるリスクがありました。そういう制約の中で、ふわふわしている感じをいかに消さないかが課題でしたね。最終的にシンセの音が増えて終わるようになったんですけど、アウトロだけ生にしてみたりもしましたし。

――結構実験した結果こうなったんですね。

塩原:そうです。リリースすることを発表した時点でまだカップリングはできていなくて、この曲はどう整えようかなと思っていたんですけど、歌声を聴いた人から「お前の声って、ふわっとしてるね」って言われることが多かったので、そこからヒントを得て。

――塩原さんの声はかなり高いですよね。

塩原:いや、実は声が細いから高く聴こえるだけで、実際のキーは低いんです。鋲ちゃんは太目で低く聴こえる声なだけで、多分SCREWの方がキーは高いと思いますよ。俺の声は、ナヨいなって言われます(笑)。でも、これまで歌声を人に聴かれることがほとんどなかったので、意外って言われることが多かったですね(笑)。

――「-overture-」「innocent star」などの日本語詞は特に歌詞が聴き取りやすかったので、しっかり世界観が伝わりました。

塩原:本当ですか! 俺、滑舌が悪くて、仮歌なんか何を言っているかわからなくてすごく気にしていたんです。声優の友達にどうやったらいいか聞いたりして。でも、そう言ってもらえてよかったです(笑)。

◆勝負するときには何かを捨てないといけない

――歌詞を書くという作業はいかがでしたか?

塩原:SCREWに入る前は、作曲者が歌詞も書くというスタイルのバンドだったので自分で歌詞を書いていたんです。ちなみに、今回の歌詞はファミレスで書きました。そこで気持ちを切り替えて書いて、家で整えるんですけど、結構早く書けたんですよ。その時の自分の気持ちとか、伝えたいこともはっきりしていたからかもしれません。

――歌詞では「自由」や「未来」が歌われていますよね。

塩原:俺、終始ネガティブの曲があんまり好きじゃなくて。上手い人ってすごくネガティブに聴こえてもどこかに一つ太陽みたいな歌詞が入っていたりするじゃないですか。そういうのを書ける人ってすごいなと。昔はあまり歌詞を意識したことがなかったんですけど、自分で改めて書くにあたって、いろんな人の詞の作り方を見て、やっぱり俺はネガティブで始まって終わるのは全然好きじゃないなという考えに至りまして。

――とてもポジティブな気持ちになる歌詞でした。

塩原:春に舞台をやっていた時に、「今の姿も良い」って言ってくれる人と、「昔やってきたことを捨てちゃうんですか?」って言う人がいたんです。その時に、過去に築いたものにすがる人がすごく多いんだなと思って。俺は、自分の中で、終わったものは終わったものだと思っていたし、勝負するときには何かを捨てないといけないと思うんです。捨てるくらいじゃないと新しいことを始める意味がない。何かにすがる気持ちもないし、いろんな方向に目を向けている…ということを曲にしたいと思ったからかもしれないですね。

――では、自分の好きなものを詰め込んだ今回の作品で、一番のお気に入りは?

塩原:やっぱり「-overture-」ですね。ここから始まったので。初作品がこれで良かったなと思います。良いタイミングでこういうものが下りてきてくれました。

――「-overture-」は「始まり」という意味ですよね。

塩原:タイトルは後からなんです。曲ができて、歌詞がない時に、始まりっぽいなと思って。

――なるほど。ところで先ほど「声優の友達」について触れられていましたが、塩原さんは交友関係が広いですよね。

塩原:いろんなところに顔を出すのが好きなんです。でもヴィジュアル系のバンドマンでプライベートで会うのは、海か団長(NoGoD)か逹瑯さん(MUCC)くらいですよ。逹瑯さんには、今回、曲や歌詞で色々アドバイスをもらいました。ずっと歌詞を書いている人なので、教えてもらった話はかなり貴重でした。例えば「-overture-」のBメロは、メロが切れているのに詞が繋がっていたんですけど、「変なところで途切れると次の詞は頭に入って来にくいよ」って教えてくれたり。「お前はこの曲以外にもそういうのが多いね」って言ってくれて。そんなとこまで考えたことなかったし、長年歌詞を書き続けている人じゃないと出てこない意見だなと思いました。

――親身になって教えてくれるなんて、優しいですね。

塩原:優しいですよ。そういう人が周りにいるってありがたいことです。あと、アパレルを始めるときに相談したのは大きな会社をやっている友達でした。その人が「とにかくやってみろ。経営はやってれば覚える」って言ってくれたんです。

――何かやるために何かを捨てる覚悟がある塩原さんだからこそ、背中を押したのかもしれませんね。さて、今回1stミニアルバムもできて、ついにライブも決まったわけですが、今のお気持ちは?

塩原:それが一番の計算外でした(笑)。話をいただいて、やろう!と思ったんですけど、そういえば曲作りの時にライブのことを何も考えてなかったなと今更焦って。曲数も足りないから、次の音源に入れようと思っていた1コーラスだけ作った曲を急いでフルコーラスにしたり。でも、自由にやろうと思っています。

――次回作はライブも見据えた作りになりそうですか?

塩原:そうですね。ライブをやるんだったらサークルモッシュできる曲を入れればよかったなと思いましたし、次はライブのことを頭に入れて作るかもしれません。でも、今回つくづく、人が作品を良いって言ってくれて、聴いてくれるというのはすごいことだと思いました。今まではライブをやったら普通にお客さんが来てくれると思っていたけど、人に時間とお金を使って動いてもらうのはこんなに大変なことなんだと。変わらず来てくれるファンの子たちに、すごく感謝しないといけないと思いました。

――今後の展望を教えてください。

塩原:音楽もアパレルも自分で考えて行動して、どうしても手の行き届かないところは人の手を借りる。今の自分にはこれが合っていると思うし、こういう環境を大事にしたいなと思います。やっぱり自分の作品に自信を持てないと「聴いてくれ」とは言えないんですけど、そんな中で『overture』ができて、自分でもすごく好きになれたんです。大変だと思うけど、まずは自分が好きになれる曲を作ることを課題にして、作り続けていこうと思います。

(文・後藤るつ子)

ARTIST PROFILE

塩原康孝

<プロフィール>

2014年末に所属していたバンドからの脱退を経て、2015年1月に自身の目標としていたアパレルブランド「RIOT PRESIDENT」を始動。アパレルブランドのオーナー兼デザイナーとしてだけではなく、楽曲提供やベーシストとして活動を行いながら、4月には舞台「黒き憑人」で役者デビュー。1stミニアルバムを引っ提げ、9月20日に下北沢LIVEHOLICで行われる「LIVEHOLIC presents CROSS OVER vol.1」に出演することが決定している。


■オフィシャルブログ
http://ameblo.jp/shiobara-yasutaka/


【CDデータ】

『overture』
2015年9月16日発売
RIOT PRESIDENT
TOWER RECORDS限定でリリースされる塩原康孝の記念すべき1stミニアルバム。

overture
RIPR-001
¥2,000+税


【収録曲】
[CD]
01. 0.00001
02. -overture-
03. Don’t let me down
04. innocent star
05. unhurt
06. みらいドロップ