清春

◆好きな音楽を恥じるということは、自分を否定すること

清春

――「眠れる天使」の〈未来は迷える孤独だって 愛を持って終われる〉という部分は「アロン」(2011年発売の黒夢のシングル)で言っている、最後は独り、でも誰かを思うことで独りではないということにも通じるなと。

清春:確かに、言っていることは近いですね。でも、これもこういう清春であってほしいという理想なんです。良いアルバムを作っておきたいという覚悟があるんですよね。それが10枚目で出来たらいいなというところで、幸運にもオリジナルアルバムとしては今作が9枚目なのであれば、次ですよね(笑)。レコーディングの仕方も少し考えようかという話をマネージャーとしていて。

――具体的に言うと?

清春:1ヵ月に1曲、自分のベストな状態の時に録るというスタンスで10ヵ月、最後の2ヵ月で微調整というやり方にすれば、今の清春をパッケージ出来るんじゃないかなと。今までの一遍に録るやり方だと、レコーディングって模試みたいな感じがするんですよ。ここでベストな力を出せるのかと。決まった時間の中でパッケージした音がリアルなんだと思っていた時期もあったんですけど、模試で出来なくても、家で勉強している時は解ける問題ってあるじゃないですか。だから、ベストな状態の時に作っておくということをしたいなと。今回入れられなかった曲と、実はさらに他にも数曲あるので、次のアルバムにはそれが入って、もう既に次作もさらに納得できるものになると思っています。それをより良い環境で作りたいですね。ゆっくりマイペースで納得するまで悩んで、出来たら出すというふうにしたいです。

――清春さんの場合、ライブで先に披露することが多いですが、その順番は変えないですか?

清春:『SOLOIST』『UNDER THE SUN』(2012年11月発売のアルバム)はライブ先行でやってきたんですけど、50歳を皮切りに、それももうしなくてもいいかなと思っていて。ツアーが5月3日までありますけど、それ以降はソロはしばらくないので、このツアーは『夜、カルメンの詩集』収録曲以外の新曲はまだやらないですし、演奏時間も前ほど長くはやらないと思います。今年それ以降はsadsになって、誕生日(10月30日)辺りにまたひょっこりソロに戻ってくるんですけど。まぁでも、今回のツアーの青森、長崎とか、他にもこの先多分もう行かないんですよ。ソロでは札幌でさえ10年ぶりですから。そう考えると、今まで行っていなかったところに行っておくという感覚なんですよね。今後は東京、大阪、名古屋以外は、バンドでさえもなかなかやらないんだと思います。

――後悔しないように足を運んでいただきたいですね。アルバムの話に戻り、「TWILIGHT」はまさにプラグレスライブの画が思い浮かぶ歌詞の内容です。

清春:良い曲でしょ? 僕のライブの後にヴァネッサ・パラディの「ナチュラル・ハイ」が必ず流れるんですけど、その曲へのオマージュなんですよね。ファンの人はこれを聴いて「あ!」と思うと思います。「TWILIGHT」と「三日月」、特に「TWILIGHT」は大好きです。

――「TWILIGHT」からの「三日月」での一節〈僕らは誓って屈しない〉からの「美学」という流れが、ものすごく素晴らしいです。

清春:素敵ですよね。出来過ぎでしょ(笑)? 歌詞を書いていて繋がったんですよね。曲も素晴らしいですね。

――「美学」にある〈変わるなんてないね〉の部分は、つい半日前に清春さんがツイートしていたことにも繋がるんだろうなと思いました。

清春:一般の方のツイートで「苦手な人もいるかもしれないけど、僕は昔から清春さんが好きです」というのを見つけて、嬉しかったんですよね。きっと死ぬ前に聴きたい大好きな音楽って、結局一つか二つなんですよ。それを自信を持って言える人生は素晴らしいなと、ふと夜中に思ったの。

――実は批判することよりも「好き」と言うほうが難しいですよね。

清春:難しいです。僕らの世代は、デビューすることの大変さは多分今よりも大きくあって。雑誌の表紙になって、幸運にもヒット曲が何曲かあって、オリコンの上位に行けたらホールツアーができて、武道館やアリーナができるというストーリーが描ければ、音楽で生活できるというのを立証できた世代なんですよ。LUNA SEA、L’Arc~en~Ciel、GLAY、あとは黒夢もね。音楽バブル時代でシングルが30万枚くらい売れているのに、「いやー、売れてないなー」って悩む時代でした。今はそこから変わって、若い子たちはもうCDの売り上げとかまるで注目していないし、音楽番組に出ることの魔法も昔ほどないでしょ。そもそもシングルを出さなくなりましたしね。

――確かに。

清春:今はフェスに出ることのほうがすごいと思われる時代になってきて。デビューして3年くらいしたら「FUJI ROCK FESTIVAL」が始まって、あれから20年以上経っているんですよ。音楽バブル時代があって、ロックもバンドも市民権を得て、ヴィジュアル系も認知され、今度はフェスの時代になって、多分この次はそうじゃないことをする若者が絶対に出てくるんです。そうすると、フェス世代が古くなって、僕らは二世代古くなるんですよね。でも、それを恥じちゃいけないんですよ。好きな音楽を恥じるということは、自分の人生を否定することになる。僕らも時代の流れに負けないでサバイブして、若者から見た時にダサかろうがダサくなかろうが、文化として存在できればいい。情報に流されて流行りのものを聴いたりするのって、本当に好きなの?って疑問に思っちゃうんですよね。

――そこが、清春さんが重要視しているところですよね。

清春:sadsのライブで僕がウォール・オブ・デスやサークルモッシュに否定的なのは、若い子たちの文化を僕のファンがわざわざ真似しなくていいじゃんと思うから。先日、coldrainを観に行ったんですけど、お客さんの多くは10代~20代ですよ。うちのファンはその子たちの親くらいの歳ですからね。ノッてくれるのは嬉しいけど、我々のノリ方があるじゃんと。海外だって、フェスに大御所のバンドが出た時に若い子がウォール・オブ・デスとかをやっていても、ワンマンでそんなノリは絶対に起きないんですよ。つまりそういうことですよね。sadsのワンマンであれをやられると、ミスマッチだなぁと、こっちが恥ずかしくなっちゃうんですよ。俺は貫いているのに、なんで君らは感化されちゃうの?って。プライドを持とうぜと。だって君らと一緒に作ってきた歴史でしょ? 今の世代に合わせたようなノリとかすんなよって思うんです。時間の積み重ね方が違うんだから、その分、崇高なものになってほしい。それに、若い子たちみたいに慣れてないしね。

――慣れてないと危険ですよね。

清春:特に前の方の女性が危ないです。だからsadsのライブやるの悩むんですよね。元気な自分も見せたいけど、若い子のノリをやりたくてやっているわけじゃない。1991年に黒夢を結成して、1994年にデビューして、約25年経過しているミュージシャンなので、やってきたことが全てなんです。sadsのライブって、本当に音楽を聴いているというよりも、暴れたいという気持ちが先行している人も多いと思うんです。そうじゃないじゃん、我々はこの音楽を共有することによって、ダメな時も良い時もやって来られた、そういう関係じゃんって思うんですよね。

――清春さんは、周りは関係ないという意思が特に強いですよね。そういう部分が孤高のロックアーティストたる所以でもあると思います。

清春:他人が何をやろうとまるで関係ないでしょ。他人がやりたいことを、僕らのところに持って来ないでほしいっていう。「sadsもフェスに出たら、俺たちの清春は絶対に通用するのに」と思っているファンもいるかもしれないですよ。でも、俺はそれはいらないんです。通用したから何?っていう。ファンの人には誇りを持ってほしいと思うんだよなぁ。

――清春さんにはちゃんと芯の通った美学というものがあるから、アーティストとして長年続けて来られているんだと思います。

清春:うん。それにしても、「美学」は本当に良く出来ている曲。これでMVを撮りたいくらいです。

――そしてラストナンバー「貴方になって」は、プラグレスライブの日々を思い出します。既にファンの方々にとっての大切な1曲になっているんじゃないかなと。ちなみに49歳のバースデーライブのラストはこの曲でした。

清春:新しいのに既にファンの人たちが大好きって、すごくない? もはや古い曲みたいになっていますよね(笑)。こういう曲なのに、意外とツアースタッフにも人気が高いんですよ。ツェッペリンぽいって言われます。僕はよくわかんないけど(笑)。

――本当に名曲です。実際、これはファンの方々に向けたものですよね?

清春:そうです。若い時にも出来そうな曲なんだけど、今になってこういうのが出来て、恥ずかしくなく歌えて、とても良いです。曲は単純なんですけどね。

◆清春には綺麗な終わり方をしてほしい

――ところで、清春さんの中で、ここ数年スパニッシュ系サウンドがトレンドでしたよね。

清春:そうですね。ただ今作は、前半はそういう雰囲気なんですけど、「シャレード」以降の後半は『SOLOIST』や『UNDER THE SUN』に近いと思います。前編が現在で、後編がまた本線であり、未来に行こうとしている感じはありますね。

――ライブの曲順を意識した部分は大きいですか?

清春:ちょうど昨日、曲順を考えていたんですけど、割とこの並びでいこうと。「悲歌」が1曲目ということはないんですけど。

――レコーディングミュージシャンには、清春さんが絶大な信頼を置いている是永巧一さん(G)と沖山優司さん(B)、近年参加している大橋さん(G)とKatsumaさん(Dr/coldrain)、新たに智詠さん(G)、DURANさん(G)が参加しています。

清春:是永さんは絶対的な安心感で、一流ミュージシャン。何でも素敵に弾いてくれるし、色々なアイディアを盛り込んでくれます。基本的には三代さんがアレンジしているんだけど、是永さんの場合はその場のプラスアルファが結構多いですね。何回やっても「わ、すごい」と思わせてもらえます。智詠くんは我々とは全く歩み方が違うけど、たまたま今回一緒にやれて、素晴らしい風を吹かせてくれました。Katsumaは『SOLOIST』でも数曲叩いていますけど、今作で前に出した曲以外全曲叩いているのは、僕らの中で、彼のドラマーとしての株が相当上がっているからです。若い血が欲しいとかじゃなくて、普通に断然上手いんですよ。あとは録り終わるのが早い。coldrainでやらないような曲に対しての果敢なアプローチ、理解力がすごい。

――coldrainとは違うタイプの音楽なので、意外です。

清春:そうですよね。Katsumaには次もやってほしいなと思います。ギターのDURANは皆さんが欲しがる理由がわかりましたね。え、こんなにカッコいいんだなと。Katsuma、DURANという、若手の血が結局入っているんだけど、決して若くなく渋いことをやっているというのが良い。

――『light』『shade』に参加していた土屋玲子さん(Vn)とRobin Dupuyさん(Vc)が、10年後に再び参加しているというのも美しい形です。

清春:そうですねぇ。そう思うと、ソロらしいアルバムですね。

――そして遂に今年、「一つのボーダーラインにしている」と言っていた50歳を迎えますが、清春さんはここ10年くらい、最後をどう終えるべきかというのを常に考えていますよね。「夜を、想う」にも〈どうやって生きるべきかを迷う〉という直球の歌詞があります。

清春:毎日考えていますよ。必ずその時がやってくるから、悩んでも仕方ないんですけどね。旅は永遠に終わらないんだけど、旅の仕方が変わっていくという感じはするね。

――アーティストの50歳は、一般の人の60歳に近い感覚なのかなと。

清春:近いと思います。若く見られてありがたいんですけど、写真で言うと奇跡の1枚を使っているわけです(笑)。何をしても大丈夫で、さらにカッコいいパフォーマンスをしようということじゃなくて、大丈夫なものを使おうとなってきちゃってる。決して守りではなく、この歳なりのサバイブで、それをしなくてよかった過去は懐かしいですけど、しなければいけないということは、まだやれているということなので、ありがたくもあるんですよね。ただ、ファンの人からのツイートを見ていると、「出来るだけ長くやってほしいです」「今回は行けないけど、次は行きたいです」とかあって、すごく切ない気持ちになります。前ほどは「大丈夫。また次来てね」と目を合わせて言えない。

――次を確約できないと。

清春:できないですね。いわゆる同期の中では、何気に僕が一番年上なんですよね。しかも僕は長くソロアーティストであるという。バンド出身のソロシンガーが35歳でデビューして、あと5年で20年、バンドの活動歴の倍やるというのは、結果的にチャレンジになると思うんだけど、今までとは違う活動の仕方になってくるのかなと予感できるようなことがいっぱい起きてる。歌詞の話と同様に、清春には綺麗な終わり方をしてほしいと思う。今まで大好きでいてくれている人たちも、納得できるようなエンディングになってほしい。映画で例えるなら「え、part2があるの? わけわかんない」というものではなく、「名作だったね。寂しいけど、ここで終わるのわかる。最後のシーン、すごく印象的だった」という物語にしたいなと漠然と思っています。

――記憶に美しい終わり方を。

清春:数年後、カッコいいまま歌い続けているかもしれないですし、たまに歌うのでもいいと思うんですけど、今までのように全力で走るということではないのかなと思いますね。5年…、早いけど長いなぁ。我ながら、よくやったと思います。これまでの活動は、この音楽シーンに貢献したんだと思う。でも僕よりMORRIEさんの貢献度が高い。LUNA SEA、L’Arc~en~Ciel、黒夢のヴォーカリスト3人は影響下にあるわけだから。すごいことですよ。でもそれが何も形にならない国なのが、切ないよね。こんなに影響を与えて、シーンを長く続けさせた栄誉なのに。ヴィジュアル系の意味というか、彼の美学に憧れて真似して、僕らのようなものが何組か生まれて、その人たちがある時、時代をリードして、それを見てまた若い世代が出てきてさ。何とかしたいなぁと思いますね。野球で言う名球会みたいな。本当にすごいことをした人が評価されて、表彰されるべき。そういうことを考えてしまうなぁ。

――清春さんに憧れて音楽を始めたミュージシャンもたくさんいますよね。

清春:最早、そういうのもどうでもよくなっちゃっているんだよね。葉月(lynch.)がTwitterとかでそういうことを言ってくれると、それが普通なんだけどな、なきゃいけない部分だよと思うんですよ。なかったら僕も生まれていないし、彼らを好きで活動をしている子たちも生まれていないですからね。

(文・金多賀歩美)


プレミアMelodiX!
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テレビ東京「プレミアMelodiX!」の収録現場に潜入! MCを務める南海キャンディーズとのトーク&『夜、カルメンの詩集』収録曲「赤の永遠」を披露! 放送をお楽しみに!

【放送日時】
2018年2月26日(月)26時50分(テレビ東京)
2018年3月14日(水)25時35分(テレビ北海道)
※都合により放送日時が変更になる場合もございます。
番組オフィシャルサイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/melodix_premium/

ARTIST PROFILE

清春

<プロフィール>

1994年、黒夢のヴォーカリストとしてデビュー。1999年に無期限の活動休止。同年、sadsを結成しデビュー。2003年に活動を休止。同年、ソロデビュー。2010年には黒夢とsadsの活動を再開し、3つの活動を並行して行ってきた。また、2012年から定期的に開催してきた「MONTHLY PLUGLESS」と冠したライブは清春のライフワークとなり、2015年、2017年は年間各66公演にも及んだ。2017年12月、「MONTHLY PLUGLESS」の世界観をスタジオレコーディングで再構築した『エレジー』をリリース。さらに2018年2月28日、オリジナルアルバムとしては前作『SOLOIST』以来約2年ぶりとなる『夜、カルメンの詩集』をリリース。2月23日より全国ツアーがスタートしている。

■オフィシャルサイト
https://www.kiyoharu.tokyo/pre
https://kiyoharu-ownd.themedia.jp/

【リリース情報】

『夜、カルメンの詩集』
2018年2月28日(水)発売
(TRIAD)

夜、カルメンの詩集
[初回盤]
COZP-1411-1413
(2CD+DVD)
¥5,000+税
(完全初回生産限定)
amazon.co.jpで買う
夜、カルメンの詩集
[通常盤]
COCP-40251
(CDのみ)
¥3,000+税
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

[DISC 1](初回限定盤、通常盤共通)“夜、カルメンの詩集”
01. 悲歌
02. 赤の永遠
03. 夜を、想う(Album ver.)
04. アモーレ
05. シャレード(Album ver.)
06. 眠れる天使
07. TWILIGHT
08. 三日月
09. 美学
10. 貴方になって

[DISC 2](初回限定盤のみ)“夜、カルメンの詩集” poetry reading
01. 悲歌
02. 赤の永遠
03. 夜を、想う
04. アモーレ
05. シャレード
06. 眠れる天使
07. TWILIGHT
08. 三日月
09. 美学
10. 貴方になって
11. 罪滅ぼし野ばら

[DISC 3](DVD、初回限定盤のみ) “夜、カルメンの詩集” video
赤の永遠
眠れる天使
夜を、想う

【ライブ情報】

KIYOHARU TOUR 天使の詩2018『LYRIC IN SCARLET』
2月23日(金)大阪BIGCAT
2月24日(土)金沢EIGHT HALL
3月2日(金)仙台Rensa
3月16日(金)KYOTO MUSE
3月17日(土)KYOTO MUSE
3月21日(水・祝)柏PALOOZA
3月24日(土)長野CLUB JUNK BOX
3月31日(土)札幌PENNY LANE24
4月7日(土)青森Quarter
4月8日(日)盛岡Club Change Wave
4月13日(金)名古屋 BOTTOM LINE
4月14日(土)Live House 浜松窓枠
4月28日(土)鹿児島CAPARVO HALL
4月29日(日)長崎DRUM Be-7
5月3日(木・祝)EX THEATER ROPPONGI