PENICILLIN

PENICILLIN

最新作『九龍頭 -KOWLOON HEAD-』が完成。刺激的でカオスな作品が示すPENICILLINの今。

前作から1年ぶりとなるPENICILLINの最新作『九龍頭 -KOWLOON HEAD-』が遂に産み落とされた。タイトル、ヴィジュアルから既に凄まじいインパクトを放つ今作だが、それは楽曲においても同様で、三者三様のソングライティングの個性が色濃く出た刺激的かつ強烈なサウンドに仕上がっている。このカオスな作品誕生の裏には、過去3作のミニアルバムの存在が関わっているという。元来PENICILLINというバンドが持つ要素と27年のキャリアをもって、新たな扉が開かれた。

◆また違うベクトルのPENICILLINの持ち味を再スタートする(HAKUEI)

HAKUEI

――今作『九龍頭 -KOWLOON HEAD-』は、まずタイトルとヴィジュアルがインパクト大ですね。

HAKUEI:曲を作りながらヴィジュアルイメージの話も同時進行していました。楽曲に関しては、それぞれから出た衝動的なものを形にしたような作り方だったので、ちょっとエキゾチックでエッジのある感じにまとまった気はします。

――過去3年間のミニアルバム『Lunatic Lover』(2016年11月)、『Lover’s Melancholy』(2017年9月)、『メガロマニアの翼』(2018年11月)は、よりニュアンス、ムードに重きを置いていましたが、今回の『九龍頭 -KOWLOON HEAD-』の作風は結果的なものなのか、話し合った上でのものなのか、どちらでしょうか?

千聖:今回曲を作る時に、シゲさん(プロデューサーの重盛美晴)から「いろんな曲調を作ろうとしなくていい」と言われたんですよ。この人がこういう曲調を持ってきたから、自分はそれとは違う曲調にしようとか、そういうことを考えなくていいと。だから、各自、自由に作ってみたって感じかな。作っていくうちにジャケット写真の撮影が入ってきて中華風の場所だったので、こういうのもいいなと。そこからタイトルが決まり始めてきたので、曲よりもジャケ写にある「九龍」とかのネオンの字面の影響が相当デカいかも(笑)。衣装は中華とは全く関係なく、やりたいことをやっているだけですけど、背景に合わせてカオス感を出したのが、エッジが効いた感じに見えるのかもしれないですね。

――衣装も三者三様ですもんね。

千聖:統一があるのかないのか。

HAKUEI:こうやって見ると…ないよね(笑)!

O-JIRO:ゴチャゴチャしてる(笑)。

千聖:細かく言えば、同じ生地を使っている箇所があったりするんだけど、パッと見はバラバラですよね。

HAKUEI:ジャンルがわからないようなものにしたかったんですよね。これはゴシック、パンクというものではなく、ごちゃ混ぜ感みたいなものを狙いたくて。曲も衝動的に出てきたものを形にする方向性だったので、あまり何かに捕われるよりはごちゃっと混ざった無国籍感という感じ。時代背景も特定せず、未来なのか過去なのかわからないみたいな。

千聖:曲で影響を受けているのは「九龍頭」くらいです。でも中華ではない。琴を使っているので日本だし、ただ、そういう感じの音色は中国にもあるから、オリエンタルというか。でも、俺に関しては格好はほぼ欧米だし…やっぱりごちゃ混ぜ感、カオスだよね。それにしても、漢字だけの作品タイトルは珍しいんですよね。

HAKUEI:なかったね。『赫赫』(2003年10月発売のアルバム)くらいか。

――この作品タイトルは九頭龍伝説に関係しているのでしょうか?

HAKUEI:関係ないです。最初は『龍頭』でリュウズと読むのを提案したんですよ。それを『九龍』とくっ付けたら合うじゃんという話になって、クーロンヘッドという読み方の造語にしました。

O-JIRO:◯◯ヘッドって、『ドラゴンヘッド』や『ガンヘッド』とか、何かちょっとカオスやサイコ、近未来というイメージを僕はすごく受けて。例えば『ブレードランナー』って、ドライヤーは頭に壺みたいなものを被って温かいものが出ているみたいな、この未来はちょっと間違っちゃっているんじゃないかなというものが劇中に出てくるんですけど、そういう自由な発想の未来というか、和洋折衷ゴチャゴチャと間違っていても関係なく、それがカッコよくなっちゃったみたいな感じが良いよねという話はした気がしますね。

千聖:モトリー・クルーの「Too Young To Fall In Love」のMVが、メンバーはメタルの格好をしているのに、舞台が完全に中華風なんですよ。そういう意味不明な感じがいいなと。

――色々なものが合わさったカオスな感じというのは、PENICILLINらしいですね。

HAKUEI:そういえば結成当初の頃とか、そんな感じだったかもしれないですね。

千聖:『ブレードランナー』とかに色々な音楽のジャンル、文化が混ざったようなイメージ。よくわからないけどね(笑)。でも、中華っぽいからチャイナを着ているとか、そういう説明っぽいものじゃないところが面白いんじゃないかな。

O-JIRO:これでチャイナだったら、ベタベタ過ぎるよね(笑)。

HAKUEI:袖に両手つっこんで「ニーハオ」になっちゃう(笑)。

千聖:そうじゃないところがPENICILLINだよね。

――歌詞の世界観で見ると、1曲1曲に物語があって、短編小説集のような作品だなと感じました。

HAKUEI:おー。各曲違う世界観ですからね。

O-JIRO:ここまで3作品を構築してきて、前作『メガロマニアの翼』で何か一つ完成したかなと思うんですよ。そこから今回はリスタートじゃないんだけど、もう一度線を引いて、新しいカッコいいものに飛び付いてみようかという感じが、画的にも曲的にもあるかなという気はしますね。

HAKUEI:あぁ、そうかも。『メガロマニアの翼』のリード曲「Lucifer ~光をもたらす者~」は、この経験年数がないと表現できない難しい曲だと思っていて、自分にとってすごく自信がある作品になったので、この路線は今の僕たちとしては来るところまで来たなという感覚があるんですよね。なので、何かまたそれとは違うベクトルのPENICILLINの持ち味を再スタートするというか、一回内部から破壊するみたいな、そういう作業があってもいいのかなと思いました。

――エンジニアやディレクターのような役割を担っているO-JIROさんとしては、今回のレコーディングはいかがでしたか?

O-JIRO:1個のトラックにものすごい時間をかけたりして良いものを作っていくというのは、メジャーデビューしてからたくさんやってきたことなんですけど、今回は集中して、カッコいいと思うものが録れたらすぐ先に進んで、そのカッコいいカッコいいが集結したものが1枚の作品という感じ。瞬発力のあるトラックが多いので、そういうギザギザした感じも良いのかなと終わってみて思いましたね。何度も熱して冷ましてを繰り返して作ったものではなく、その時だからこそ出てくるような感じが良い形になりました。

◆俺の中にはない要素だから面白い(千聖)

千聖

――過去3作品と同様に、オープニングSE的な楽曲「九龍頭」が1曲目に収録されています。

千聖:オープニングSE曲に関して、最近はジローさんに任せっきりだったので、今回は俺が作ってみたんですけど、意外と難しかったですね。歌モノのほうが作り慣れちゃっている分、楽だなと。大体いつも、作ったら満足して皆にすぐ渡しちゃうんだけど、これはちょっと自信がなくて大丈夫かな…と思っていたら、良かったらしくて。この曲だけヴィジュアルをイメージして作っているので、カオス感が出ていると思います。

HAKUEI:1曲目のこういうタイプの曲って、導入的な役割なので、世界観が色濃く鮮やかに出ているものが相応しくて、そういう意味では映像作品の劇伴として使われるような雰囲気のものが似合うと思うんです。この曲も、前作での「鬼百合」も、前々作での「黙示録」もそういう雰囲気なんですけど、やっぱり作る人の個性は出るんだなと。ギタリストが作るものと、ジローさんのどちらかと言うと打ち込みとかで作るような人の世界観の違いは面白かったですね。

千聖:リズムの感じと、琴を入れるということは狙い通り作れたんですけど、オリエンタルな感じを出したくて色々と中華っぽいものも参考に聴いてみたんですよ。でも、ド中華はちょっと違うなと。何かちょっと可愛くなっちゃって、ふんわりしちゃうんですよね。エッジが効かない方向になるので、違うかなと。でも「九龍頭」の映画があったら、そのオープニングみたいなイメージで作りました。

――「SEX」は収録曲のタイトルが発表された時に驚きがありました。

HAKUEI:性別ですよ。パスポートにも書いてある言葉なので、何の問題もないはずです。

――曲調も歌詞もパンチ力があります。

HAKUEI:何か叫びたかった(笑)。スキルアップして構築していっている今のPENICILLINに、どシンプルなパンクノリの曲をぶち込んだらどんな反応が起こるのかなと自分でも興味があって、僕が原曲を書きました。この曲はリハでやっていて既に音源よりカッコいいんですよ。こういうのはやっぱりライブで活きる曲なんだなと実感しています。

O-JIRO:これはもうイメージのまま、迷いなくレコーディングしましたね。シンプルになり過ぎないようには意識しました。

千聖:HAKUEI君らしい曲で、ザ・ダムドとGASTUNKがくっ付いたみたいな。

HAKUEI:そうだね(笑)。

千聖:この手のやつは考えるよりは勢いでやったほうが良いので、ブルース・リーの言葉で言うと「Don’t think, feel.」(考えるな、感じろ)という感じですね。「SEX」というタイトルが、俺は性別じゃないほうで捉えてたけど(笑)。

――(笑)。「The pain song of the beast」はシンプルな構成の歌ものですが、イントロのギターリフのハードさがPENICILLIN節だなと。

千聖:さっきリハで、Chiyuちゃんに「これこそPENICILLINですね!」と言われて、「そうなの? 俺にはわからない」って言ったんだけど(笑)。HAKUEI君の歌の雰囲気と色気、ジローさんのヘヴィメタルなドラム、そしてうねるギターがカッコいいですよね。

O-JIRO:何となくちょっと明るい感じって、この曲くらいじゃない? キャッチーな雰囲気の曲が1曲しかないって、珍しいですよね。

千聖:いやいや、「切り落とされた翼」もキャッチーだよ?

O-JIRO:でも、ちょっとジメッとしてたり…何て言うのかな。

千聖:「The pain song of the beast」は歌メロとコードの関係だけ見るとオシャレなイメージはあるけどね。

HAKUEI:ギターはヘヴィーだよね。「ズカズカズカズカズカッギャーン」って。

千聖:あえてそうさせたのはあるね。他の人だったらもっと綺麗にできちゃうんだろうけど、そうしないという。「SEX」がパンクなら、こっちはメタルなんですよ。

O-JIRO:ドラムは割と打ち込みっぽいんですよね。変わっているというか。Bメロとかこんなのはあまりないんじゃないかな。ビートを刻んでいない変なドラムが入っているというか。

千聖:リフに合わせているよね。

――ちなみに、落ちサビの部分に入るデジタル要素はPENICILLINにしては珍しいなと。

HAKUEI:あれはあんまりないよね。

O-JIRO:ちょっと懐かしい系ですけどね。90年代な感じ。

千聖:マハラジャ的な?

HAKUEI:そっちじゃない(笑)。

O-JIRO:ディスコ的な感じ。

HAKUEI:ユーロビート。

千聖:そう、それが言いたかった(笑)。この部分はピアノでも全然ありなんですけど、こういう音色にしちゃうというのも良いかなと。「99番目の夜」のAメロの裏や、「ロマンス」のサビの裏とかに使っているよね。

HAKUEI:あーー、あるな。

O-JIRO:これはバンドっぽいところから急にそれに移行するから、すごく耳に残るんでしょうね。

千聖:急に世界観が変わって面白いよね。それまでギターソロがハードでヘヴィーなのに。

――そうですよね。この楽曲の歌詞は、最後のブロックだけ“私”目線で、“獣”は届いていないと思っていたメロディーが“私”には届いていたということですよね?

HAKUEI:そうですね。最後がアンサーになっています。今作は「SEX」以外はどの曲も物語の主人公がいて、その世界観をイメージして主人公の言葉として書いています。

――「砂漠のバシリスク」はイントロのベースがかなり目立っていますね。

O-JIRO:ベーシストがいないバンドなので、ベースから始まる曲がなくなるのが嫌だなと思ったんですよね。「ベーシストいないけど、ベースかっこいいじゃん」と言われるようなものにしたいなと。

千聖:この曲はデモをジローさんからもらった時に、どう料理するか悩んだんですよ。HAKUEI君の曲はこういうことがしたいんだろうなというのがすぐわかるんですけど、ジローさんの場合は変幻自在で来るから(笑)。これ、元々イントロあったっけ?

O-JIRO:リフは全然違うけど、イントロ自体はあったよ。

HAKUEI:単音っぽい、もっと速いリフだったよね。

千聖:この曲は結構いろんなことをやっちゃったんですよね。これはDTMの恐ろしさで、もしバンドでせーので合わせたら、流れと雰囲気を読んじゃうから、こういう構成にはならないと思うんですよ。何で突然このパターンになるの?っていうほど、各ブロックで弾いていることが違うんです。寿司の話をしていたのに、急にBBQの話になるくらい変わり過ぎちゃっていて。Aメロはイントロのリフに合わせた感じで、Bメロはジローさんはこういう感じが好きだろうなと。

O-JIRO:サビが元々は違ったんですけど、作り直そうということになった時に、突然ジブリみたいになったら面白いなと思ったんですよ。この歌メロをフルートだと思って聴いてもらえると、僕の中では久石譲さんが作りそうなメロディーのイメージなんです。「君が代」みたいな、苔の生えた石があるような景色が見えていたんですよ。だから唐突にそこで世界観が変わるような感じにしたくて。

千聖:だからギターもA、Bメロと全然違って、サビで昔のポジパンとかUK、民族音楽風な感じに変わっちゃうんです。俺の中では最終的に草原を感じるようなイメージでした。これは各ブロックを切り取って考えたからできたアレンジで、ある意味カオス感が出ているよね。イントロだけで四つパターンがあるんですよ。もっとシンプルにしたほうが良いと言おうと思ったんだけど、結局流れでこのままになりました。それと、最後がフェードアウトで終わっていくというのが珍しくて。

――そうですよね。

O-JIRO:本当はエンディングも作ってあって、エンディングまで聴けてしまうフェードアウトだったんですよ(笑)。これだと意味がないなと思って、もうちょっと前に着陸するようにしました。ギターソロで終わっていく感じが欲しかったんですけど、ソロで完結するよりは、もっと皆にイメージを膨らませてほしくて、この形が良いなと思いました。ミスター(千聖)だったらもっと熱く弾くかなと思っていたんですけど、平熱でずっと行くという。これはこれでカッコいいですね。またリズムが難解なんですけど、これが超地味で誰も気付いてくれないんです。

――(笑)。ところで、歌詞には出てこない“バシリスク”をタイトルに用いたのはなぜですか?

HAKUEI:バシリスクという伝説の生き物の話で。メデューサは目が合うと石になるというギリシア神話に登場する最強の怪物ですけど、それをペルセウスが倒して、メデューサの首を持って飛んでいる時に砂漠に滴り落ちた血から生まれたと言われるのがバシリスクです。メデューサの力を受け継いでいるから、最強なんですよ。その最強の能力を持っているがゆえに、他と交われなくて孤独だったり、そういうものをモチーフに描いています。だから、〈砂漠に咲いた薔薇〉というのは、砂漠に落ちたメデューサの血を薔薇に見立てて書きました。

――先ほど完成したばかりのMVを拝見しましたが、「Too young to die!」が今作のリード曲に当たるわけですよね。楽曲単体で考えると意外ですが、作品全体で考えると納得です。

O-JIRO:リードはちょっと悩んだんですよね。「切り落とされた翼」も良いし、変な話「SEX」も良いんじゃないかと。

HAKUEI:PENICILLIN「SEX」だったら、何だこれ?って検索してくれるんじゃないかなって(笑)。

O-JIRO:今回はアクの強い部分をリードで出してみたら良いんじゃないかなという話で、「Too young to die!」になりました。「切り落とされた翼」だと今までの流れに沿った感じになるので、ちょっと変えていこうと。

HAKUEI:シングルカット的な感じだと「切り落とされた翼」かなと僕も思っていたんですけど、ヴィジュアルイメージや今回の作風を考えると、ちょっとエッジの効いたもののほうが良いなと。作品を象徴する雰囲気の映像が撮れそうな、似合いそうな曲ということですね。

――歌詞に出てくる『ドグラ・マグラ』は夢野久作の小説タイトルですが、nano(2006年に活動したHAKUEI&千聖による期間限定ユニット)で映像化したことがあるんですよね。

HAKUEI:そう! あれは本当にヤバい小説だなと思って。まず、この曲のモチーフは「Too young to die!」という言葉です。パンクのファッションとかでこの言葉が結構使われていたり、パンクのスピリッツを象徴する言葉の一つで、それと日本の侍の潔さ、生き様がリンクする部分があると思ったんです。それって結局、中二病的なものと共通点があると思って、その象徴として『ドグラ・マグラ』を絡めて侍の物語を書きました。

――全体的な音色の面白さは、どなたの発案でこのような形になったんですか?

O-JIRO:これは僕が作っていったものが、ほぼそのまま採用になりましたね。自分がやりたいなと思ったことはできました。これ、最後のブロックの歌詞〈サムライが夢見たのは こんな世界なのか 幾千の屍の上に 立っている貴様は 何の為に生きるのか 何の為に戦うのか〉が良いなぁと思って。

HAKUEI:あざっす。

O-JIRO:虚しい感じ、切ない感じというか。この主人公にとって、お前は本当にそれで合っていたのか?ということじゃないですか。良いと思ってやってきたことが、実は良いのかどうなのかわからなかったという切なさがあるなと。あまりバッドエンドは好きじゃないんですけど、これは好きですねぇ。

――この楽曲は面白い要素が色々と入っていつつ、サビのメロはキャッチーですよね。

O-JIRO:歌のギミックとかミスターが良いねと言ってくれたので、調子に乗ってガンガン切り刻んで(笑)。HAKUEIさんがデモで歌ってくれたテイクがあまりにも良くて、本チャンも録ったんですけど、結局デモのほうを使いました。三声でハモってみたり、いろんなパターンを同じメロディーに当ててみたり、本当に色々なことが実現できたので面白かったです。

HAKUEI:ちょっとの気持ち悪さ、何か嫌な感じが良いんだよね。

O-JIRO:ちょっと嫌な、ジメッとした、不安定な感じね。

千聖:この曲は俺だけだったら絶対に作らない曲ですね。リズムは好きなんだけど、Bメロのこのフレーズとか絶対に作らない。俺の中にはない要素だから面白いなと思いました。ジローさんのマニアックさが出てる。

HAKUEI:Bメロ変だよねー。Aメロも変だけどね(笑)。

O-JIRO:最近、割と明るい曲を書くことが多かったから、ドッシリとした気持ち悪い曲が書きたいなと思ったんですよね。

千聖:ソングライティングやアレンジに関しては、ジローさんの世界観は俺にはまるでないので、この曲の中の俺の要素としては、ギタリストとしての部分だけですね。

HAKUEI:オープニングのリフとかは得意そうな感じだけどね。

千聖:こういうのは聴いてきたけど意外と作らないんだよね。

HAKUEI:そうか(笑)。好きそうだし、聴いているイメージはあるけど。

千聖:すごく好きだけどね。「The pain song of the beast」のザック・ワイルドっぽいのはやるんだけど、こういうモトリー・クルーっぽいのはあまりやらないんだよ。やっぱりジローさんはドラムの人なんだなと。リズムから入ってくるんだよね。

O-JIRO:でもね、これリフから作ったんですよ。

千聖:リフから作ったとしても、リズムを意識しているんだよ。俺はフレーズやメロディー、コードとかの方向になるんだけど、ジローさんの場合はそこじゃないんだなと。Bメロのジャイアンが来るような感じとか、俺の中にはないっす(笑)。

O-JIRO:普段自然に出てこないようなものを考えて作りましたからね。

千聖:考えても、俺には出ない(笑)。だからすごいなと思って。強烈過ぎて面白い。カオスだよね。でも、サビは切なくてキャッチーですよね。

HAKUEI:このサビはキャッチーに聴こえるんだけど、メロディーは難しいんですよ。俺、なかなかできなかったもん。Bメロのメロディーって、テンポ10くらい落としてエレピとかにしたら、ホラー映画に出てきそう(笑)。

O-JIRO:このBメロを思い付いた時は、HAKUEIさんがイメージ通りに歌ってくれるだろうなと思いましたよ。

HAKUEI:ムードのある、普通はなかなか歌メロでは使わないような音階。だから『ドグラ・マグラ』みたいな言葉がハマったんでしょうね。呼ばれたような感じ。

――Aメロやギターソロに入っているキンキン音は刀のイメージですか?

O-JIRO:あれは元々入れていました。メタルヒット的な音が欲しいなと思って。僕の中では、小人が宝石を採掘するのに岩を打っているイメージです。

千聖:歌詞はあとだったので、刀とリンクしたのは偶然ですね。

◆まだまだ変な感じに行けると思う(O-JIRO)

O-JIRO

――「切り落とされた翼」は切ないミディアムナンバーです。

HAKUEI:デモを聴いた時から、もう完成形に近かったと思うんですけど、これは間違いなく良い曲だなと。でも、仮歌でサビメロをちょっとだけアレンジしたんですよ。流れで聴いて自分の中で歌のイメージをしていたら、違うメロディーが鳴ったというか。それでちょっと変えてみない?と相談しました。あまりそういうパターンはないんですけどね。

O-JIRO:珍しくサビのセンテンスが長いんですよね。繰り返さずに16小節で一つのサビという。だからたっぷりと聴けるけど、散漫にならない。

――ギターソロが泣きのソロですよね。

千聖:ソロに関しては、前半はグイグイとパワーで弾いていて、後半、急に切ない泣きのメロに変わるんですよね。例えて言うなら、今まで積極的な女性だったのに、急に綺麗に奥ゆかしくなっちゃってどうしたんだろうっていう。でも、この前半があるからこそ後半の切なさが出るんだよね。押し引きが上手く出せたかなと思います。

HAKUEI:リフに乗っている単音のメロがAメロに繋がるんだよね。急に変わるんだけど、そこまで違和感がないというか。

千聖:俺的には、最初はもっと押し押しでリフとかでガンガン行くぜというつもりで作曲に着手したんですけど、作っていくうちにサビがすごくメロディアスで切なくなっちゃったから、「おや? これは多分違う方向だ…」と思って路線変更したんですよ。ちなみにレコーディングではソロを録っていた時、後半の切ないメロディーの1本フレーズを録った後に「ハモリをもう1本」と言ったら、シゲさんとジローさんが疲れた顔をしていたから、早く終わらせないとと思いつつ大人の会話をしました(笑)。

HAKUEI:その雰囲気、すげーわかる(笑)。

O-JIRO:お疲れだったんだね(笑)。

――(笑)。歌詞も含めて余韻が残る曲の終わり方ですね。

千聖:Aメロに戻るパターンですね。HAKUEI君は好きだろうなと思って、勝手にそういうイメージでアレンジしました。

HAKUEI:うん、こういうの好きだよ(笑)。

O-JIRO:それと、サビの後にBメロに行くのが珍しいよね。普通Dメロに行ったりするけど。

千聖:押し押し押しで来て、急にBメロでリズムがなくなるというか、あまりゴリゴリ行かないのが、さっきのソロの話と同じように押し引きですよね。

HAKUEI:間奏後のBメロのフレーズって、サビの後と共通しているじゃん。だから、かなり肝なんだよね。

――「人間失格」(通常盤ボーナストラック)はPENICILLINらしい速いテンポ感で、O-JIROさんは大変だろうなと思いつつ、ライブで盛り上がりそうですね。

HAKUEI:楽勝でしょ(笑)?

O-JIRO:大振りではなく小振りな感じで攻めていかないと、間に合わない(笑)。

HAKUEI:シンプルにこういうのをライブでやろうという衝動がそのまま音になる曲として、最初は「SEX」を作って、もう1曲浮かんだのがこれです。全然違う曲ではあるんですけど、テンポ感や空気感が共通しているので、こっちはボーナストラックかなと。勢いで押し切る曲ですね。

千聖:俺の分析だと「SEX」はHAKUEI君が影響を受けた好きなパターン、「人間失格」は誰かの影響ではなくてHAKUEI君らしい。だってAメロ、「ダダダダ ダダダダ」って普通合わせないよ(笑)。

HAKUEI:そこを思い付いた時、自分でもちょっとウケるくらいだった(笑)。

O-JIRO:サビ前にギターが入っているんですけど、そこは元々ピアノだったんですよ。でも、自分的にはこの三人+ベースで構成できるものって良いなと思うので、ギターで埋まったことは良かったですね。

千聖:バンドで弾ける部分はバンドのほうがカッコいいですからね。

O-JIRO:ギターが3本重なっていて、ちょっと面白いハモリになっているので、普通じゃない感じが良いなと思います。それと、元々サビ前に入れていたピアノ部分が最後に使われたので、ちょっと嬉しかったです(笑)。

――リハの感触はいかがですか?

O-JIRO:やっぱりライブでやってみて、お客さんがどうノッてくれるのかとか、そこで初めて手応えを感じるのかなと思いますね。

千聖:今作はソングライティングの個性がものすごく色濃く出ていて、二人が作ったものに俺の味が入って融合すると面白い形になるし、逆も然りで。HAKUEI君の音楽的バックボーンは何となく理解できているんですけど、ジローさんは俺のバックボーンのパターンにはなさ過ぎて面白い。この人はどうやって攻めるんだろうって考えるのが好きなんですよ。融合して、フュージョンが起こるから面白いですよね。今作はそれがすごく強いと思います。

HAKUEI:きっとクオリティーを追及するポイントが違うんでしょうね。

O-JIRO:まだまだ変な感じに行けると思うんですよ。こんな曲たちが集まって、もっと変な感じにギザギザするのかなと思っていたら、意外とPENICILLINとしてちゃんとまとまったという。でも、まだ伸びしろがあるんじゃないかなと。

――さすがPENICILLINです。そして、恒例の年内にやり遂げたいことシリーズですが、前回から“年内”ではなく1年間にしましょうという話になりました。HAKUEIさんが昨年挙げたのは断捨離です。

HAKUEI:うーん、ちょっとは(苦笑)。あ、漫画は処分したからほとんど家にない。ということで、断捨離できました! あっ、千聖君から借りている本は処分してないよ!

全員:(笑)

――千聖さんは、作曲用のPCがかなり古いので良い環境にしたいと。

千聖:いつも言っているような気がする(笑)。良い環境には全然なってない(笑)。挙げ句の果てに最近チューナーまでなくなっちゃって。

――O-JIROさんは、2017年に挙げたことが2018年11月時点で達成されていなかったので繰り越して、「今度こそHAKUEIさんの携帯ストラップを作る」と。

O-JIRO:作ってないやー!

HAKUEI:多分、すげーカッコいいものが出来上がってくると思いますよ(笑)。

――では、今回はどうしましょうか。

O-JIRO:今度は作りますよ。携帯ストラップね。

HAKUEI:80cmくらいのがいいな。

千聖:あ、チューナーを買わないと。

全員:(笑)

O-JIRO:それ楽そうじゃない(笑)?

千聖:1年後、音叉でやってたりして(笑)。

HAKUEI:自炊は昔からしているんですけど、タンタンタンタンッて速切りが意外とできないんですよ。怖くて(笑)&うちの包丁がよく切れないので、買うか研ぐかして、タンタンタンタンッて切れるようになります!

(文・金多賀歩美)

ARTIST PROFILE

PENICILLIN

<プロフィール>

HAKUEI(Vo)、千聖(G)、O-JIRO(Dr)によるロックバンド。1992年結成。96年メジャーデビュー。98年にリリースした『ロマンス』は、90万枚を超える大ヒットを記録。その後もリリース、ライブなど精力的に活動を行う。近年では2015年、昭和歌謡をカバーしたアルバム『Memories ~Japanese Masterpieces~』や、2016年、富士急ハイランドの「戦慄迷宮」とコラボしたミニアルバム『Lunatic Lover』も話題に。2017年に結成25周年を迎え、9月にミニアルバム『Lover’s Melancholy』をリリース。2018年11月、ミニアルバム『メガロマニアの翼』をリリース。2019年11月16日より全国ツアー開催、2020年2月には28周年記念公演が決定している。

■オフィシャルサイト
https://www.penicillin.jp/

【リリース情報】

Mini Album『九龍頭 -KOWLOON HEAD-
2019年11月6日(水)発売
(発売元:Hysteria/販売元:Sony Music Solutions)

九龍頭 -KOWLOON HEAD-
[初回盤]
(CD+多頁ブックレット+ミュージックカード)
PHY-19001
¥3,000+税
amazon.co.jpで買う
九龍頭 -KOWLOON HEAD-
[通常盤]
(CD)
PHY-19002
¥2,500+税
amazon.co.jpで買う

【収録曲】

01. 九龍頭
02. SEX
03. The pain song of the beast
04. 砂漠のバシリスク
05. Too young to die!
06. 切り落とされた翼
ボーナストラック. 人間失格(※通常盤のみ)

【ライブ情報】

●「PENICILLIN TOUR 2019 九龍頭 -KOWLOON HEAD-」
11月16日(土)HEAVEN’S ROCKさいたま新都心
11月17日(日)柏PALOOZA
11月23日(土)仙台HOOK
12月1日(日)INSA福岡
12月7日(土)江坂MUSE
12月8日(日)名古屋SPADE BOX

●HAKUEI BIRTHDAY LIVE 「SUPER HEART CORE ’19」
12月15日(日)TSUTAYA O-EAST

●「28th ANNIVERSARY HAPPY BIRTHDAY & VALENTINE’S DAY LIVE SPECIAL」
2020年
2月8日(土)新宿ReNY
2月9日(日)新宿ReNY
2月15日(土)梅田Shangri-La
2月16日(日)梅田Shangri-La