2014.12.31

Over The Edge ’14@渋谷公会堂

 

OTE 2014 B

 

2007年のスタート以来、ヴィジュアルシーンの人気バンドが集まる一大イベントとして年末の風物詩となりつつある年越しイベント“Over The Edge”。毎年会場となっていた渋谷公会堂が2015年中に取り壊されるため、現状での開催は2014年が最後となる。そんな一つの節目とも言える今回は、初めてタイムテーブルを事前公開する等の試みも為されて、よりクオリティの高いステージが展開。新人からベテランまで総勢13バンドが鎬を削り、さらに2組のスペシャルセッションが真摯な情熱と想いを傾けて、8年の歴史を重ねてきた“Over The Edge”の真髄を刻みつけた。

 

トップバッターは今回が二度目の参戦となるDIAURA。物々しいSEと真っ赤なライトの中、お馴染みの「赤い虚像」がイベントの火蓋を切って落とすと、客席では“愚民”と呼ばれるファンたちによるヘッドバンギングの嵐が吹き荒れる。「最後の渋谷公会堂、盛大に狂っていくぞ!」と発破をかけるyo-ka(vo)を筆頭に、ヘヴィな&ダークに攻める4人の佇まいは、昨年に比べて一回りも二回りも大きくなった印象。どこか懐かしい風情を漂わせながら妖しくうねる「Menace」、佳衣(G)のギターソロがエモーショナルに駆け上がる「新世界」と、最新アルバム『Triangle』収録曲で前世紀より受け継がれてきたヴィジュアル系の濃厚なエッセンスを放出するのも頼もしい。最新シングル「blind message」でアグレッシブに弾けた後は、1年越しで完成させた思い入れ深き曲「自壊」で「この場所に独裁を!」とフィニッシュ。「この渋谷公会堂ある限り、必ずここでワンマンぶちかまします」という力強い宣言も飛び出し、2015年に向けての期待を煽ってくれた。

 

二番手のカメレオは初出場ながら、シーンにおける特異な立ち位置を如何なく発揮。登場時のSEはなんと「笑点」のオープニング曲、しかもカラフルな羽織袴姿で人気曲「新宿」を放つという始まりで、ド頭からオーディエンスの度肝を抜く。続く「で?」もシーンへの皮肉を自身への鼓舞に繋げた実にデンジャラスなポップチューンで、こんな楽曲を最新アルバム『ハイカラ』のリード曲に据えるあたり、彼らの肝の太さが窺えるというもの。さらに「今から変なおじさんダンスをするので、皆さんも良かったら踊ってみて」と、いきなり楽器を置いて5人全員がマイクを握り、ステージで一列になって「関係ナイ」とタイトルを繰り返す様もかなりのインパクトだ。ラストの「ニート姫」に到っては、曲中で現金1万円を客席の2名に抽選でプレゼントする“カメレオ年末ジャンボ宝くじ”なるものまで実施。ライブ中に「お金が欲しいかー!」と煽るバンドなど前代未聞だが、この掟破りっぷりこそが来る1月17日、渋公ワンマンを敢行するまでにバンドを押し上げた推進力の源に違いない。

 

フラッシュリングが場内を煌びやかに彩る光景はカメレオと同一ながら、まるで異なる世界観を創造してみせたのはMoran。荘厳なSEから繋いだ最新シングル「堕落へと続く偏愛の感触」ではSizna(G)のかき鳴らすアコギが情熱と哀愁をふんだんに醸す一方、「but Beautiful」では「飛べ、飛べ!」と客席を煽動して、対照的な表情で場を彩る。繊細な空気感と攻撃的なパフォーマンスは、今のMoranを動かす大きな両輪。統制の取れた演奏のみならずカウントアップする振りでもオカルティックな世界を演出した「秒魔」、Ivy(B)が身体を激しく二つ折りにする「Vegaの花」、ライブならではの一体感にvivi(G)も微笑みを絶やさぬ「Break the silence」と、どの曲も計算と衝動が絶妙なバランスで成り立ち、伸びを増したHitomi(Vo)のヴォーカルと共に切れ味鋭く斬り込んでくる。最後は「誰もが希望だと言うものの中に少しの絶望が紛れ込んでいることを教えたい。例えば華が散っていくように……それでも1年後には、同じ景色がそこにあるから」と、珠玉のバラード「春の夜の、ひと雫」をプレイ。作曲者Soan(Ds)の想いの籠った大きなアクションと熱いドラミングに、このバンドの持つ真の強さが感じられた。

 

満場のクラップと歓声に迎えられたSadieは、さすが“Over The Edge”皆勤賞の貫録で登場時の堂々たる佇まいから場を圧倒。最新アルバム『GANGSTA』のリード曲「DEAD END」で爆発力満点の幕開けを飾ると、その暴力的な轟音に客席も激しくうねる。しかし、どんなに低音利かせたヘヴィサウンドであっても、際立つキャッチーなメロディラインこそが彼らの最大の武器。美月(G)も盛んに「声!」と煽って、オーディエンスの心と身体を揺さぶることを忘れない。だからこそ「サイレントイヴ」でも真緒(Vo)の悲鳴にも似た歌声が、しっくり胸に沁みるのだ。悲しみを原動力に観る者へ何かを刻もうという気持ちの凄まじさは、誰もが知る人気曲「迷彩」になると、よりいっそう明らかに。「生きてるか東京!」「俺たちの声が届いてるか!」という真緒の声に籠る真実の響きに、完全に一体となって拳をあげる客席に向かって、結成10周年を迎える2015年、4月11日に地元の大阪城野外音楽堂でアニバーサリーライブを行うことを報告。「遠いかもしれませんが集まってください!」と頭を下げた真緒に、場内から熱い拍手と歓声が沸いた。

 

5番手・DaizyStripperの幕が開くと、センターのお立ち台には「喜びの歌」をギター独奏するまゆ(G)の姿が。昨年末と同じオープニングは、その日を最後に活動休止に入り、11月のワンマンツアーから復活を果たした彼の帰還を祝う、まさに喜びの証と言えるだろう。「5人で帰ってきたぜ!」という夕霧(Vo)の威勢良い号令から「G.Z.S.K.K.」で頭を振りたくる5人の勢いは、その後もフルスロットル。「5人で同じステージに立てているのは奇跡的なことだと思う。本当にありがとう」と謝意を述べると、夕霧いわく「心停止していたDaizyStripperが蘇生して復活するという意味を籠めた」と語る1月発売のニューシングル「ARREST」を披露する。風弥(Ds)の激烈ビートを軸に猛烈な勢いで襲い来るサウンドが、1年前より厚みを増していることは一聴瞭然。まゆが下手に、なお(G)が上手にポジションチェンジした事実が語る通り、これは全く新しいDaizyStripperなのだ。さらに「トレゾア」でバンドの絆を高らかに歌うと、勿論ラストは「decade」で左右にモッシュ。間奏のギターソロをハモらせ、拳をぶつけ合うまゆとなおの姿に、思わず涙腺が緩んでしまったのは筆者だけではないだろう。

 

「2014年、最後のBugLug行くぞ!」と幕が開く前から威勢良く煽り、いつにも増して気合の入ったパフォーマンスを繰り広げたのはBugLug。ゴマスリジャンプの「BUKIMI」、ゾンビダンスの「THE DEAD MAN’S WALKING」と、もはや彼らの代名詞とも言えるヘンテコなフリ付き曲を次々に繰り出し、客席に異様な空間を創り出す。だが“楽しい”“激しい”だけが彼らの魅力ではない。「これだけ多くのバンドが出てると、きっと忘れるバンドや曲も出てくる。それは悲しいから自分たちのやってること一つひとつに意味を持たせて、それが皆の明日に繋がったらいいなと思って作った曲です」と「JUGEMU」を贈った一聖(vo)の歌声は、震えるほどの切実さを持って聴く者の胸を深くえぐった。そこから真実の愛を求める「骨」へと繋ぎ、ラストは「ギロチン」「HEISEI OUTSIDER’S」と去りゆく年を振り切るような激烈チューンで鮮烈な幕切れを。技術、個性、メッセージと三拍子揃ったライブでオーディエンスを盛り上げまくり、日比谷野外音楽堂等でのワンマンを成功させて“ぶっちぎり”という年間スローガン通りの飛躍を遂げた2014年を華々しく締め括った。

 

続いて、おどろおどろしいピアノ音から軋んだ扉の音と共に姿を現したのは“Over The Edge”皆勤賞ながら、現体制では初お目見えとなるMix Speaker’s,Inc.だ。12月にNIKA(Vo)が加入してツインヴォーカル体制を復活させたばかりの彼らだが、持ち前のホラー感漂う世界観は健在で、高すぎる上げ底ブーツで骨の化け物と化したseek(B)を筆頭に、相変わらずの奇抜すぎるキャラクター&衣装でコチラの目を釘付けにする。そこで上演される演目“Ghost House”から、2015年にリリースされるシングル/ミニアルバムの楽曲も惜しみなく披露。中でも鍵となりそうな「Ghost gate」はシリアスな響きの中に高揚感を併せ持つメロディックなナンバーで、白い軍服を王子然と身にまとったNIKAの滑らかな歌声も、MIKIのヴォーカルと既にピタリとフィット。「PINKY ADVENTURE」でのコミカルなダンスも堂に入ったもので、まったく加入1ヶ月とは思えぬ馴染みっぷりである。「SCREAM go AROUND」で前に出る弦楽器隊、そしてラストの「Shiny tale」で見つめ合って歌い上げるNIKA&MIKIからは新たな展開への希望があふれ、今後への期待を高めずにはおかない清々しいステージに、場内からは温かい拍手が贈られた。

 

前半戦最後のアーティストは、毎年トークでも貴重な存在感を示しているシーンの重鎮・藤田幸也。だが、今年は椎名林檎の名曲「ギブス」のカバーで冒頭から朗々たる歌声を響かせるや、「Inlandempire#2」では自らギターをかき鳴らし、「無の底」では艶やかな低音で迫るという音楽に特化したストイックなメニューで、見事に予想を裏切ってみせる。しかもバックで支える楽器隊はツインギターにキーボード、さらに上手にSakura、下手にATSUSHIを擁したツインドラムという素晴らしくゴージャスな編成。ようやく挟まれたトークによると「渋公も無くなっちゃうし、これが最後かもしれないんでやりたかったことをやった」とのことで、カバーは「去年ここにいたチェロの子が今日は隣(のNHKホール)で椎名林檎さんのバックで弾いてるんで、気持ちだけでも同じになろうと」組み入れたものらしい。お年玉として希望者にCDを無料配布することを告知しての最後の曲は「TRUTH-真実の詩-」。いわく「いつもあったものが無くなることに対する寂しい気持ちを歌った曲」は、一つの節目を迎える今年の“Over The Edge”にはあまりにも相応しく、ダイナミックな演奏に負けぬ芯を備えた情感豊かな歌声で喝采を呼び起こす。

 

30分の大休憩を挟んでは、この“Over The Edge”の首謀者ともいえる逹瑯がヴォーカルを務めるMUCCが遂に登場。トランシーなSEに逹瑯の咆哮が続き、「ENDER ENDER」をラウドにブッ放すミヤ(G)とYUKKE(B)を交えた3人でステージ前方ギリギリまで迫り出すと、今までに無かった熱気と声が満ちて、あっという間に観客がバンドの一部となる。逹瑯の容赦ないシャウトヴォーカルとエッヂ利きまくりのプレイが大地を揺るがす「CONQUEST」、オーディエンスが飛び跳ねながらコーラス合唱する「G.G.」とメタリックに攻めながら、「もうちょっとであけおめだね。“Over The Edge”へようこそ!」と気安く挨拶するそのギャップは、さすがの余裕と言うべきか。逹瑯が客席に向けたマイクに迷いない合唱が返ったポジティブ一色の「前へ」を挟み、「Mr.Liar」では多彩な曲展開に強靭なパフォーマンス、そしてミヤの絶妙なコーラスと、彼らの洗練されたアーティストセンスが全開になる。ミヤがイントロフレーズを奏でるや凄まじい歓声が沸いた「蘭鋳」は、“Over The Edge”常連者にとって、もはや年を越すための必需品。着席からの壮観な二千人ジャンプをかまして、「MERRYやvistlipで暴れ収めはさせねーぜ!」という言葉を現実のものとした。

 

対するMERRYも全く動じることなく、自らの持てる力と個性を存分に引き出してみせることに。「渋谷に絶望を!」と鳴らした冒頭の「絶望」には満場の“絶望!”コールが沸き、その光景に裸足のガラ(Vo)も柄杓で水を撒きながら「いいですね」とニヤリ。続く「ジャパニーズモダニスト」でも凄まじい大合唱が自然発生して、彼らの人気の高さを知らしめる。健一のカッティングから雪崩れ込み、ステッキを振り回すガラがフリーキーに蠢く「千代田線デモクラシー」といい、アコースティックな幕開けから、哀愁のMERRY節を心ゆくまで味あわせるタイトル曲といい、12月24日に発売されたばかりのニューアルバム『NOnsenSe Market』収録の新曲に対するオーディエンスの適応の早さには驚くばかり。その熱い声援は怪我のため1年余り休養しているテツ(B)も参加して制作された3年5ヶ月ぶりのアルバムが、MERRYらしい煩悶に満ち、5人での復活を待ち侘びるファンの心をガッチリ捉えたからに他ならない。そんな彼らに向け、ネロ(Ds)は「どんな逆境でもMERRYを追いかけてくれてありがとう!」と礼を述べ、ガラはラスト曲「不均衡キネマ」の最後に机上で三転倒立になり足拍手。2015年に遂げるであろう彼らの飛躍が、今から待ち遠しい。

 

バンドとして2014年最後のステージを務めたのはvistlip。智(Vo)が囁くように穏やかな歌声で紡ぐ「Dr.Teddy」から爽やかな「Making Of Day 1」と、繊細で緻密なオープニングにはただ勢いで押し切るのではなく、2014年のエンディングを幸福な気持ちの中で迎えようという想いが覗く。それゆえかクリスマスイブに発売した最新バラード「夜」、TVアニメ「幕末Rock」の主題歌「Jack」といった2014年のシングル曲は、あえてメニューに組み込まれず。「最後まで幸せになろうぜ。もっと楽しんでいこう!」(智)と、Yuh(G)がテクニカルなソロをキメてラストをファンの合唱が締める「Recipe」に、海(G)がAメロのヴォーカルを入れる「Dead Cherry」と、ハッピーな成分の高い人気曲を並べて客席の笑顔を誘う。が、最後の最後には「やっぱりひと暴れしたいですか?」と、「LION HEART」を投下。お立ち台に立つ海のラップをTohya(Ds)の激烈ドラムが煽り、瑠伊(B)もアンニュイな風情をアグレッションに変えて、2014年のバンドステージを優美な熱情のうちに幕閉めた。

 

さぁ、ここからは遂にカウントダウンのスペシャルセッションの時間だ。セッションメンバーと曲目だけは事前発表されておらず、何が飛び出すのかと期待に胸を膨らませて人々が待ち構えるなか、「WORLD ANTHEM」の音色と共に降りてきたのは生ける伝説・Xのフラッグに、なぜかSUGINAMIの文字!? そして「We Are X! SUGINAMI!」と現れたのは、なんと1990年頃のTOSHIを完璧に模したNoGoD・団長(Vo)である。「2014年、最後までかかってこい!」と噴き上がったスモーク柱の後ろで「Silent Jealousy」を奏でる楽器隊も、よくよく見れば全員がXの完コスで、そのメンツは上手ギター・HIDEにMERRYの結生、下手ギター・PATAにMUCCのミヤ、ベース・TAIJIに元THE SCANTYのAKANE、ドラム・YOSHIKIにROACHのDaisukeという布陣。続く「X」ではDaizyStripperの夕霧とvistlipのYuhも呼び込まれたが、当然二人もTOSHIとHIDEに扮していた。X節とも言えるスラッシーなヘヴィビートが叩き込まれ、巧緻極まる長尺のギターソロをダブル“ユウ”とミヤで見事に弾き切ると、シーン屈指のハイトーンヴォーカリストが喉を鳴らす夢の共演に場内は沸騰。中でも団長のシャウト&ヴォーカルは、さすが学生時代にカラオケでXを歌い込んでいたというだけあって、完成度が異常に高い。「We Are X!」の叫びに、まるで東京ドームにいるかのような錯覚に襲われたほどで、ミヤも「ヤベェよ! ブチ上がった!」と興奮を露わにする。

 

そして演奏が終わると、ステージに団長いわく「“Over The Edge”の怖い先輩」という藤田幸也、MUCCの逹瑯、Mix Speaker’s,Inc.のseekが登場。「なんでお前が仕切るの?」と団長に突っ込みまくり、その他の出演者を呼び込んで、カウントダウンを待ちながら様々なバンドのメンバーにマイクを向ける。「イケメンって、どんな気分?」と聞かれたMoranのHitomiは「甘酸っぱい感じ」とサラリと交わして、まさにイケメンな回答を。「世の中がとても回っています!」とフラフラのBugLug・燕(B)は、なぜか「妖怪ウォッチ」のジバニャン風メイクを施され、「飲み過ぎだよ!」と総突っ込みを受ける。傍らでは藤田幸也のバックを務めていたaieのジャケットを団長が無理やり着ようとして、チャックを壊す謎のパフォーマンスも。そんなドタバタの中でカウントがゼロになり、新年を祝して銀テープが飛ぶ例年通りの光景が、今年も実に微笑ましい。

 

ここで「セッション続けていいかい?」とステージに残ったのは、MERRYのネロ(Ds)、seek(B)、aie(G)、DaizyStripperのなお(G)、そして逹瑯(Vo)。「このメンツでやる曲と言ったら、これしかないだろう!」と披露されたゴールデンボンバーの「女々しくて」にはMUCCのYUKKEやvistlip・Tohya(Ds)、カメレオの面々まで乱入して、客席と共にお馴染みのダンスを繰り広げる。そこにBugLugの一聖(Vo)、vistlip(Vo)の智が加わっての2曲目はlynch.の「ADORE」。初々しい歌声を聴かせる後輩ヴォーカリストたちに逹瑯がじゃれつく一方で、seekのコーラスは完璧だ。最後に「渋谷公会堂でやれる“Over The Edge”はこれが最後かもしれないということで、この曲をやって大いに盛り上がりたい」と演奏されたのは蜉蝣の「夕暮れの謝罪」。蜉蝣のkazu(B)とMERRYのガラ(Vo)が登場して、逹瑯の「蜉蝣しなさい!」の号令のもと、狂乱の宴を展開する。それが“Over The Edge”に何度も出演しながら2010年に急逝した蜉蝣のヴォーカリスト・大佑への一つの餞であることは、彼の親友であった逹瑯とガラが声を揃えて歌う様、そして去り際に「とてもいいセッションでした。見てるか?」と空に呼びかけたネロの言葉からも明らか。それだけ“彼”の存在は、“Over The Edge”の中で大きなものだったのだ。

 

感慨深い空気から一転、「新年一発目、アルルカン行かせていただきます」というアナウンスが流れた次の瞬間、突如投下された激爆チューン「墓穴」で衝撃のデビューを飾ったのは、今回が初参加となるアルルカン。結成は2013年10月と活動歴は1年と少しながら、今年4月にはTSUTAYA O-Eastでのワンマンを敢行予定と、破竹の勢いでシーンを駆け上ってきた有望株だ。その進撃を牽引してきたのは、まともな感性の持ち主では到底発しえない気狂いじみた発声と、理性をかなぐり捨てた動きで観る者の目を奪わずにはおかないフロントマン・暁(Vo)の凄まじい存在感。それを支える楽器陣も堅実な、けれど狂おしい演奏で、暁が抱える苦悶の捌け口を作ってやる。対照的にMCの口調は謙虚で至極ノーマルながら、「好き勝手やるんで好き勝手してくれたらと思います」という言葉の裏には救いようのない孤独がチラリ。11月に発売された1stアルバム『ニア・イコール』からのナンバーをエモーショナルに放ち、ラストの「像」に到ってはもはや何を言っているのか聴き取れない狂人の叫びと、狂ったようなヘッドバンギングをかまして客席からの拝礼を受ける暁の姿には、明らかに近寄ってはいけない危険信号が点っている。しかし、だからこそ惹かれてしまう不思議な人間心理こそ、彼らの人気の秘密なのだろう。

 

遂に12時間に及ぶビッグイベントもクライマックス。そこで初の大トリを飾ったのは“Over The Edge”皆勤賞のheidi.だ。「新年あけましておめでとうございます。最後の力を振り絞って、ジャンプ!」と、まずは5月に発売した最新アルバム『ヒューマン』から「ブライト」をドロップ。そのタイトなリズムが、続く結成初期からの鉄板曲「泡沫」で奔放に弾けるスムーズなライブ展開はさすがの手腕で、既に真夜中なのも忘れて跳ねる客席に、義彦(Vo)も「最後だけどお前ら元気いいな!」と驚きを隠せない。持ち味であるメロディックな哀愁チューンに熱いエモーションを混ぜた「流星ダイヴ」、客席にタオルが舞う「幻想囃子」、すっかり板についた義彦のデスヴォイスとステージを駆ける弦楽器隊にアガるしかない「おまえさん」とトリに相応しい一体感のなか、義彦は「今だけはみんな義彦ファン。“せーの!”と言ったら“義彦!”と呼んでください」とオーダー。満場の“義彦!”コールに満面の笑みで「大好き!」と応えてみせる。ラストは「最後まで残ってくれた皆さんに」と「グライド」を贈って、晴れやかにエンディングを迎えた……かと思いきや、なぜかYUKKEが乱入してメンバー4人と手を繋ぎ、「最後に一つになろう!」とジャンプ! それは普段MUCCでもheidi.でも経験することのない締め括りだったが、ここで感じさせてくれた素晴らしく爽快な達成感は出演したバンド、そして訪れたファンの中で来る2015年、より良いシーンに向けての起爆剤となることだろう。その先に新たなる“Over The Edge”が待ち受けていることを願ってやまない。

 

OTE 2014 A

 

 

(文・清水素子/写真・釘野孝宏)

 

Over The Edge ’14 オフィシャルサイト

http://www.overtheedge.jp/